ダーク・ファンタジー小説

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第二の人々【完結】
日時: 2017/08/26 00:08
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

檻の中で飼われる虎は、虎ではあるが、虎的ではない。

ならばきっと、箱庭に閉じ込められた僕たちは、人間ではあるが、人間的ではない。

箱庭の中の幸せに満足して、それを受け入れる人もいるだろう。

でも、僕は、理不尽なこの世界に、抵抗してみせる。

***

初めましての方は初めまして。ももたです。普段は複ファにいます。
こちらで書かせていただく小説は、思いつきで書くものなので、分かりづらい・拙い・中途半端の三拍子そろってます!一応結末も考えているんですが、多分「それで?」って言いたくなります。設定もガバガバです。
グロい表現はないと思いますが、胸糞悪くなるお話です。苦手な方はブラウザバック。

【目次】

第1章:幸福……>>1-3
第2章:疑念……>>4-7
第3章:真実……>>8-9
第4章:脱出……>>10-12
あとがき……>>13

【登場人物】

アイザック・バリスター(16)
エリア9に住む少年。出身はイギリス。白人。穏やかな性格で、頭はキレる方。幼なじみの2人と何不自由なく育ってきた。

シノヅカ・ノゾミ(17)
エリア9に住む少女。出身は日本。東洋人。常にクールで、幼なじみ3人のうちのまとめ役。謎めいた部分がある。

ダン・ベルマン(19)
エリア9に住む少年。出身はアメリカ。黒人。明るく、病気とは無縁そうなほどの筋肉バカ。年上のくせに頼りない。

ワン・シンリー(享年10)
エリア9で3人と共に育った少女。6年前に病死している。出身は中国。東洋人。無口な少女だった。

Re: 第二の人々 ( No.4 )
日時: 2017/07/17 17:20
名前: ももた (ID: IWueDQqG)

第2章:疑念

無事に寮にたどり着いた3人は、アイザック達の部屋で、難しい顔をしながらベッドに腰を下ろした。
「どうなってんだよ……」
ダンは頭を抱える。未だに状況が掴みきれていない。
「もう一度、あの子のことを思い出してみましょう……」
ノゾミの提案に、3人はあの衝撃的な昼下がりのことを思い出した。

***

シンリーにそっくりな少女は、アイザックの顔を見て、残念そうに、そして恥ずかしそうにうつむいた。そして、そっとアイザックのシャツを放す。
「どうしたの?お友達とはぐれたの?」
ノゾミが優しく問いかけた。少女はコクリと頷く。
「まちがえました……ごめんなさい……」
少女は謝罪を述べ、ワンピースの裾をクシャッと握る。3人はその様子を見て、さらに仰天する。その声も、その癖も、シンリーと全く同じなのだ。
「……君、名前は?」
今度はアイザックが問いかけた。嫌な予感がする。間違いであっても、無くても、きっと自分たちはショックを受けるだろう。少女が次の言葉を紡ぐまでの時間が、異様に長く感じる。
「シンリー……ワン・シンリーです……」

***

「あのシンリーは、アイザックを友達と間違えたのね。送っていくという口実で、うまいこと住所も聞き出せたのは良しとして……」
「なんでエリア1にシンリーがいるのか……問題はそこだね」
アイザックは考え込む。
「他人の空似じゃねえか?」
「でも、あの子はシンリーと名乗っている。見た目も声も癖も同じで、他人とは考えられないわ」
ダンの考察をノゾミが切り捨てる。ただの空似だと思えたら、こんなに悩む必要もなかっただろうに……
「考えたくもないけど……可能性は一つだね」
アイザックが言う。ダンは今ひとつ分かっていない様子だ。
「今日、万博で見てきたでしょう?……クローンよ」
ダンの顔がサッと青ざめた。当たり前だ。人間にあんな技術を適用するなんて、映画の中だけだと思っていたからだ。
「シンリーは6歳だと言っていたわ……前のシンリーが死んだのは6年前……」
「なっ……死んだら、クローンが補充されるって言うのか!?でも、何のために……?」
3人はさらに深く考える。しかし、答えが見つからず、諦めた。
「……確かめるしかなさそうね」
ダンのベッドから立ち上がり、ノゾミは呟いた。
「何を?」
ドアの前で立ち止まり、ノゾミは振り返る。そして、アイザックの方を向いた。
「カルテを見るの。シンリーの分が保管されていたら、そこから何かわかるかもしれないわ」
なるほど、と2人はうなずく。しかし、アイザックの脳裏に、また嫌な予感が沸き起こった。
「まさか……」
「忍び込むわよ、今度は病院に」

Re: 第二の人々 ( No.5 )
日時: 2017/07/19 02:50
名前: ももた (ID: IWueDQqG)

二日後、3人は食堂で夕食をとる。ノゾミは先に済ませたい用があったらしく、2人にいつもより遅い時間を指定した。そのため食堂に入る頃には混み合う時間となってしまい、コックの前には列ができている。
「ダン、注文を決めたら、先に席をとっておいてちょうだい」
「了解!アラビアータで!」
ダンは即答すると奥の方は消えて行った。しばらくして順番が周り、ノゾミは3人分の注文を告げる。
「ダンの分は、私が運んでおくわ。アイザックは、水を汲んできてくれる?」
「分かった」
言われた通りアイザックは給水機に向かう。3つのコップにそれぞれ水を注ぎ、盆にのせて帰ってくると、すでにダンとノゾミは席についていた。
「お待たせ。それじゃ、食べようか」
アイザックとダンが食事に手をつけ始めると、ノゾミはレポート用紙を取り出した。
「病院の一階の地図よ。ここが入り口ロビー、ここが夜間診察室、多目的トイレ、カルテ保管室、この四箇所を覚えて?」
病院は口の字型をしており、そのうち一つの突き当たりに入り口がある。入り口からまっすぐ廊下を進んでいくと、右手に診察室、左手に多目的トイレ、右手にカルテ保管室の順に並んでいる。
「夜間、病院に配置してあるAIは、ドクター1体、ナース2体。ナースの片方は巡回用で、28分周期で廊下を回ってくるわ。ドクターと残りのナースは診察室にいる」
ノゾミはペンでAIの位置、巡回ナースの動きを説明する。
「1人は診察してもらってドクターとナースの気を引いてちょうだい。その間に、残りの2人でカルテを探すの。1回目の巡回は、多目的トイレの電気を点けたままにしてやり過ごしましょう。そして、2回目の巡回がくる前に診察室前のベンチに戻る」
赤いインクで、移動手順を示す。アイザックとダンは一通り理解すると、うなずいた。
「探索時間は最長で56分。30分以内に帰ってこれたら上出来ね」
「でも、このドクター達の気をひくのは誰がやるんだ?」
ダンが問いかける。ノゾミはその質問にニコリと笑顔を返した。
「それは……ダン、貴方にお願いするわ」
ダンの心に雲がかかる。ノゾミがいい笑顔を浮かべているときは、大抵とんでも無いことを考えているからだ……

Re: 第二の人々 ( No.6 )
日時: 2017/07/19 09:28
名前: ももた (ID: IWueDQqG)

3人は食事を終えると、まっすぐに病院へ向かった。
「つまり、俺は病気のふりをしていればいいんだよな?」
アイザックが不安そうな顔をする。
「大丈夫かな?すぐにバレたらどうしよう……」
アイザックの心配をよそに、ノゾミは涼しい顔をしている。アイザックがそんな彼女の様子を観察していると……
「う……あれ……?」
ダンがアイザックの肩に倒れこむ。心なしか息が荒く、様子がおかしい。
「どうしたんだよ、ダン?」
「いや、急に……目眩が……」
まさか初期症状かと思ってあせる2人をよそに、ノゾミはダンを病院へと引っ張っていく。病院へたどり着くと、待っていましたと言わんばかりに、ドクターとナースが出迎えてくれた。
『どうなさいました?』
アイザックが説明しようとするよりも早く、ノゾミが答える。
「夜遅くにごめんなさい……彼が、私の部屋にあった下痢止めを、ドロップと間違えて過剰摂取してしまったらしいの……」
申し訳なさそうな演技をするノゾミを見て、2人は卒倒しそうになる。道理でダンの膳を運んでくれたわけだ。
((コイツ、一杯盛りやがった……))
そしてノゾミはダンを運んできて疲れ果てたかのように、倒れかかる。すかさず、片方のナースが支えてくれた。
『お疲れですか?』
「ええ、ありがとう。少しそこのベンチで休ませてもらうわ」
その間にダンは診察室に運び込まれる。残されたアイザックとノゾミは診察室前のベンチに腰掛け、巡回用ナースの姿が見えなくなるまで様子を見計らった。
さあ、作戦開始だ。

***

トイレの電灯を灯し、2人は保管室の扉に近づく。扉には鍵がかかっているらしい。ノゾミは懐からスティック状のものを取り出し、壁の穴に差し込んだ。
「それは?」
「合鍵よ。作ったの」
用意周到だ。半ば呆れながら侵入する。そこには部屋一面に本棚があり、ファイルがぎっしりと詰まっていた。
「驚いた……電子カルテじゃ無いんだね……」
「そうだったら最初から、ハッキングしているわ。紙の方が安全なのよ」
こんな泥棒まがいのことをされても……とアイザックは思う。カルテはアルファベット順に並んでいるらしく、アイザックはWの所を探しに行こうとする。
「無駄よ。シンリーの分は恐らくもう無いわ。カルテは5年までしか保存されないから……あったとしても、エリア1の病院よ」
「え?それなら、何のためにここに来たんだい?」
アイザックが問いかける間に、ゴロゴロとキャスターの音が聞こえた。ナースが近づいて来ている。通り過ぎてから十分に時間を取り、ノゾミは動き出した。彼女は、Iのコーナーに近寄る。
「見てごらんなさい、貴方の分よ」
そして、一つのカルテを差し出した。中身はドイツ語で書かれていて読めないが、名前にはアイザック・バリスターと書かれている。ふと、アイザックはその後ろに更に3つのカルテがあることに気がついた。2つは『死亡』と表記されたカルテ。享年は両方20歳だ。最後の1つは、56歳の男性のもの。
それらのカルテを見て、アイザックは驚愕する。
「どういうこと?全部、僕のだ……」
それらのカルテの名前には全て、アイザック・バリスターと表記されていたのだ。

Re: 第二の人々 ( No.7 )
日時: 2017/07/21 01:56
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

ナースは、3人が来てから二周目の巡回に入っていた。通路を進み、診察室のある廊下へと曲がる。すると、多目的トイレの電気が灯っていることが分かる。記録では、一周目にも電気が灯っていた。ナースは急発進し、診察室の前のベンチを確認する。案の定、ベンチに付き添いの姿はない。2人を見つけるため、ナースが来た道を戻ろうとしたとき……
ドンッ
「ごめんなさい、ナース」
女の方の付き添いとぶつかった。男の方は、ハンカチで手を拭いている。
『シノヅカ・ノゾミ様、アイザック・バリスター様、どちらにおいででしたか?』
「お手洗いよ。彼が怖いからついて来てって……」
「ノゾミ!?」
アイザックは、思いも寄らない言葉に怒鳴る。しかし、素で出たその言葉は、アイザックの演技をより本物っぽく見せていた。ナースにはアイザックのことが、情けない面を暴露されて怒っている少年に見えていることだろう。思えばノゾミは、アイザックたちが無理に演技をしなくてもいいように、今までも上手く立ち回っていた。
『左様でございましたか……先ほどもどなたかがお手洗いを利用されていたようですが……?』
「それは私ね」
『その時、お連れ様は?』
「入り口の自販機に、コーヒーを買いに行ってもらっていたわ」
そう言って、ノゾミはポケットから缶コーヒーを取り出す。辻褄が合ったので、ナースはあっさり引き下がってくれた。ナースの尋問が終わると同時に、診察室の扉が開く。
『処置は終わりましたよ。今後は間違えて薬を飲まないでくださいね。お体に触ります』
「ありがとう、ドクター。気をつけるよ」
腹をさするダンを受け取ると、3人は帰路に着いた。

***

3人はアイザックたちの部屋に集まる。
「……で、どうだった?」
ここに至るまで、無言だった。沈黙を破ったのは、何も知らされていないダンだった。
「シンリーのカルテは見つからなかったわ」
ノゾミが答える。期待を裏切るその返事に、ダンは一瞬顔を曇らせた。
「でも、分かったことはある」
ノゾミの言葉をアイザックが引き継いだ。
「クローンだったのは、シンリーだけじゃない。僕たちも……この箱庭の住人は、みんな誰かのクローンなんだ」
「え?」
ダンは驚嘆の声をあげた。手のひらを開いて見る。ちゃんと血が通っている。夜の冷たい空気も、冷たいと感じている。紛れもなく生きている。これが、人為的に作られたというのか。
「そんな……何のために……?」
「それは……」
答えようとしたノゾミに、アイザックは制止をかける。
「待って、その前にはっきりさせておかなければならないことがある」
「何?」
ノゾミは怪訝な顔をしてみせた。
(あくまで、しらをきるつもりか)
アイザックは、一つ、深い呼吸をした。そして、ノゾミの目を見て問いかける。
「ノゾミ、何でこんな回りくどいことをするんだ?君は最初から、この箱庭のすべてを知っていたんだろう?」

Re: 第二の人々 ( No.8 )
日時: 2017/08/25 23:57
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

第3章:疑念

「よいしょっと……」
少女は、器用に木に登った。
友人が入院を余儀なくされたのは、ほんの2日前のこと。その日までは、申し分ないほど彼女は健康体だった。
面会謝絶と言っても、まだ話はできるだろう。最後の望みをかけて、少女は木に登った。しかし……
「何……これ……?」
少女がそこで見たものはーー

***

「君は最初から、この箱庭のすべてを知っていたんだろう?」
アイザックは真っすぐにノゾミを見つめている。しばらく2人がにらみ合った後……
「ふっ……あははっ」
ノゾミは唐突に笑い出した。
「そうよ、バレてないと思ったのに……よく気がついたわね」
「いくらなんでも、準備が良すぎだ。合鍵なんて、そう簡単に用意できるものじゃない。いつから知っていたの?」
「シンリーが死んだ時。あの頃から薄々気がついていたわ……」
ノゾミは思い出す。あの日、ノゾミが木登りをして見たものは『何もなかった』。二階より上に、病室なんてものはない。あの病院はハリボテだった。入院は嘘だった。シンリーはすでに、どこにもいなかったのだ。
どんどん話が進む2人を前に、ダンは面食らった顔をしている。
「えっとつまり……ノゾミは俺たちが何のためにここにいるのか知っているってこと?」
「そうよ、ダン。本当は、いつかはすべて話すつもりだったわ。シンリーが出てくるから、予定が狂ってしまったけれど……」
ノゾミはダンのベッドに腰を下ろした。
「まずは、私たちが造られた目的ね。でも、それはアイザックも気がついているんじゃない?」
頷くアイザック。隣でダンは、置いてけぼりを食らっている。
「ダン、クローンって何に使われると思う?」
アイザックが問いかける。
「えっと……兵士にして、戦争する?」
「それは、貴方たちの観たSF映画の話よ」
ノゾミが呆れながら言った。アイザックは苦笑しながら説明する。
「医療目的だ。クローンは、オリジナルと全く同じ遺伝子情報を持っているから、リスクなく臓器移植をできるんだ」
ノゾミはそれを補足するように言った。
「感染症を持っているからと私たちを閉じ込めれば、健康診断を怪しまれずに行える。あれは、さしずめ品質管理ね。異常が見つかれば、新しいクローンに代替される。私たちのように、以前のドナーと出くわして混乱しないように、区画を分けて移動を制限していたのね。そうやって、常にオリジナルのドナーが存在できるようにしていた……AIたちは箱庭のことを『第二世界』と呼んでいたわ」
ダンは驚いた顔をしている。自分は今確かにここにいるのに、同じ人間が塀の外のどこかに生きている。そんな事実を飲み込むには時間がかかった。
「じゃ、なんでノゾミは逃げなかったんだよ?」
「前に、貨物庫に泥棒が入った事件があったでしょ?あの人はおそらく、貨物用飛行機に紛れ込んで逃げようとしていたのよ。でも、AIたちは、それを簡単に見過ごすほど馬鹿じゃない」
ノゾミはそう言って、ポケットからシールのようなものを取り出した。
「発信機が私たちの体には取り付けられている。今日はこのジャミング装置でごまかしたけど、発信機の場所が分からないのよ」
ノゾミはそう言ってうつむく。思えば、昨日のAIたちは、アイザックたちの姿が見えないうちから、入り口で待っていた。発信機があるのなら、合点がいく。
「何だよ……だったら、言ってくれりゃいいじゃねえか!」
ダンがノゾミの肩を叩く。
「一緒に考えよう、発信機がどこにあるか」
アイザックも優しく微笑んだ。


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