ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

メインキャラクターズ
日時: 2017/07/20 14:44
名前: 詩ノン (ID: YE2jAy65)

 拳を突き合わせて笑いあった。それから肩を組んで、誓いを立てた。
 「俺達だってやればできるんだ。聖、お前は親をあっと言わせるし、弘也は先生にあっと言わせる。見返してやろうぜ」 
 巫山戯てたけど、でも、本気だった。皆、同じ未来が見えてた。……そう思ってたのに。
 「……もう、終わりにしようぜ。大翔。お前は確かに歌はうまい。だが、カラオケにいるレベルなんだよ。聖も、俺も、もうやめるんだし。いい機会じゃないか。遊びは終わりだ。現実見て受験勉強でも始めな」
 そう言って、弘也は基地から出ていった。
 なにも……言えなかった。ただ、どこかで、こうなるんだろうなとは思ってた。いつまでも続くわけがない、と。でも、夢がなかったわけじゃない。三人なら何かができると思ってた。
 俺、聖、弘也は幼馴染で去年バンドを組んだ。
 人学年上の弘也は今年受験でバンドを抜ける。
 聖は親のあとを継ぐためにバンドを抜ける。
 俺は……。絶対にやめない。キーボードを失っても、ベースを失っても、俺には声とギターがある。一人でだってやっていける。
 呆然と、弘也の出ていったドアを見つめていると聖が、肩に手をおいた。
 「ゴメンな。大翔。俺、来週から留学なんだ。だから、いたくてもここにはいることができない」 
 愛用のベースを担いだまま、目に少しの涙を浮かべて聖も基地を出た。三人のすべての思い出がこもったこの基地を振り返ることなく。涙のわけを言うこともなく。
 いつもの家に帰るのとは違う、もう、戻ってこない。三人で……、三人で頑張ったのに……。悲しさに似た後悔が、とぐろを巻く蛇となって頭をもたげた。
 「……俺も帰るか」
 重い腰を上げて基地である、父のBARのドアを開ける。雨が降ってた。
(天気予報では雨なんてなかったのに……)
 BARの奥に入って傘を取ってこようとして父に呼び止められた。
 「なあ、ひろ。お前は何がしたかったんだ?」
 質問の意味がわからない。何がしたかったか?当たり前だ、歌いたかった。それだけ。
 「バンドを組んで、ありきたりな言葉並べて、お前は何がしたかった?」
 「何が言いたいんだよ?」
 ありきたりな言葉。そんなんじゃない。あれは、ありきたりだからこそ、みんなに当てはまるんじゃないか。
 「あの二人は、最後の楽しみだと思ってバンドをしていたんだろ?お前の目的はなんだ?何になりたかった?」
 俺は……、何になりたかった?
 歌手か?そんなに歌うことが好きなわけじゃない。
 なんでバンドにしたんだっけ?
 「…………ないよ」
 「なんだ?」
 「わかるわけ無いだろ!」
 そう言って傘も持たずに飛び出した。ただ、わからないということがとてつもなく怒りを湧き上がらせる。全身の血が油を注がれた炎のように暴れている。なんで、急に父はあんなことを言い出したのか。何のためにバンドを始めたのか。何を自分は目的としていたのか。
 わかるのは、もう、俺達は戻ることはないということだけだ。
 七月のぬるい雨が降る中、突如として訪れた真っ暗な未来にただ、ただ呆然とするしかなかった。
 
 *  *  *
 
 父は家に帰ってくるとリビングに俺を呼んだ。
 母がいなくて、男手一つで俺を育ててくれた。だから、家の仕事は俺の担当分野だ。全部、父一人に任せきりになるのは流石に悪いから。
 リビングに行くと、父が黒い仕事服のまま、ソファに座っていた。
 「何?」
 さっき、怒鳴ってしまったせいもあって少し気まずかった。
 「さっきの質問答えれそうか?」
 またか。もう、わからないって言ったのに。
 「ただ、みんなで一緒にいたかっただけじゃないよ。家でのプレッシャーに押しつぶされそうな聖を助けたかった。見た目で先生に煙たがれる弘也を元気づけたかった。ただそれだけなんだよ。親父が口を挟むことじゃないだろ?」
 しばらく、父は俺を見上げて口を開いた。
 「それは、ただの自己満足。エゴじゃないのか?」
 なぜか、一瞬目の前が暗くなった。
 「どういうこと?」
 「あの二人がそう望んだのか?今あの二人が進んでいるのは自分で選んだ道だろ?二人はお前が及ぼした影響で、その道を選んだのか?」
 そう言って、胸ポケットからタバコを取り出して咥えると、火をつけることなくまた口を開いた。
 「お前は主人公じゃないんだ。数多くいる人の中の一人でしかないんだよ。周りからしたら。誰だって自分が主人公だと思ってる。だから、他人のことなんて気にしちゃいないんだ。
 現実を見ろ。見たくなくてもそこにあるんだ。聞きたくないって言っても現実を突きつけてくる大人はいるんだ。俺みたいに。バンドはもうやめて、きちんと勉強でもしたらどうだ?」
 黙って聞いてれば、わかったようなことばっかり言いやがって……
 「そんなん俺に言われたってわかんないよ。それぞれみんな自分が主人公だと思ってんだろ?主人公なんだろ?いつだって主人公は特別な何かを持ってるじゃないか。俺だって、誰かの、何かの特別になったっていいじゃないか。特別な、友達を持っていたいじゃないか。
 俺には何もないんだよ。母親も、兄弟も、学力も、見た目も、なにも!才能なんてなんにもないし、自分じゃ特別になれないから、周りに期待したんだよ。俺の特別なものになってくれるんじゃないかって。俺を主人公にしてくれるんじゃないかって。そんなこと、思うのもだめなのかよ」
 最後は涙が出てきて声もかすれて、父に聞こえたかすらわからない。でも、自分で言葉にしてしまった。自覚してしまった。俺は……ただのモブなんだって。
 「そうか……」
 父はそう言うと結局火をつけなかったタバコを箱に戻した。
 「悪かったな、大翔」
 俺の横を通りながら誤って、リビングを出ていった。
 しばらくして、ガチャっと玄関のドアが相手閉まる音がした。きっと外に行ったんだろう。
自分も部屋に戻りただぼーっとベッドの上で体育座りをしていた。
「主人公ってなんなんだよ……」
 次の日は学校を休むことにした。


小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。