ダーク・ファンタジー小説
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- 幻想クライシス
- 日時: 2017/07/30 12:26
- 名前: なかりん (ID: uw8.zgie)
幻想クライシス
【序章】
自分の未来を知りたいと思う人は、そう少なくはないだろう。
私はどちらかといえばあまり知りたくはない。
見てしまった、決まった未来を進みたくないから。それが、幸せな未来だったとしても残酷な未来だったとしても。
私には恨んでる人がいる。その人は我儘で、人のことなんて考えなくて、人の死を理解してなくて。
ーーーーーーーそれは、とても
ーーーーーこの王宮が崩れる前に
- Re: 幻想クライシス ( No.1 )
- 日時: 2017/07/30 12:27
- 名前: なかりん (ID: uw8.zgie)
【第一章】姫と庶民
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カルトラ、この国はそう呼ばれている。そして国にはカルトラという宮、王宮があるのだ。そこでは我儘な姫がいると有名だったが、我儘を言われても文句は言えないほど、やはり国一番の麗しい顔立ちだった。
そんな姫が住む、カルトラ王宮では…
「カティア姫様、いけません!」
その怒りに混じった呆れた男の声が王宮に響き渡る。
「はあ?なんでダメなのよ」
カティア姫と呼ばれた少女は、自慢の二つにくくった薄い水色髪をふわりと揺らし、腕組みをしながらビシッと両足を軽く広げ立ってその男を上から見下す。
「ダメに決まっていますでしょう、宇宙を買う、などと。出来るはずもございませんし出来たとしてもおやめください」
カティアに見下されたその男はどこか弱々しく、自信のなさそうにだんだんと声が小さくなる。
「だって、欲しいじゃない。…おもしろそうだし」
ふん、とそっぽを向きながらブツブツと付け足すように理由を呟く。それはまるで小さい子供が駄々をこねるような仕草と少しの可愛さだった。その男は、我儘にも程がありすぎる、と王宮を出ていった。
「ちょ、ちょっと!勝手に!」
男はきっと、カティア姫の召使いのようなものだったのだろう。付き合いきれないと勝手に出ていったその男を慌てて止めるようだったが、遅かった。
「な…なによ、勝手に出ていって。いいわよ!あの男はクビよクビ」
ぷんぷんと怒るカティアをこっそり見ていたのか、両親たちがスッと王宮の間に出てきた。
「カティア、また召使いに無理を言ったのか。これで出ていくのは何人めだ…」
カティアの父、ポルドが呆れたように話す。
「ふふ、カティアったら本当に我儘ね」
その父ポルドの横でクスッと笑ったのがカティアの母、ベルリアだ。
親子だけ合ってやはり母の美しい綺麗な顔立ちはカティアと似ている。
「んもう、別にカティアは我儘じゃないわ!」
と、親子で笑いあっていたそのとき、ギィと王宮の出入口の扉が開く音がした。
「あっ、きっとプリシラね!」
カティアは、王座の椅子を蹴り下り、待っていたかのように声を高くさせて扉へ走る。
母ベルリアと父ポルドは走るカティアの喜びに溢れた後ろ姿を、微笑ましく笑っていた。
「プリシラァ!」
「あ、カティア姫」
カティアはぎゅう、とプリシラと呼ばれる女に抱きついた。
「待ってたのよう、プリシラ。この国に帰るのは久々じゃない?」
そうですね、とカティアの喜びに答える。
プリシラはカティアの唯一の親友だ。小さい頃からとても仲が良く、姫と庶民という関係だったがそんなの気にしていなかった。
「ねえ、プリシラ」
「なんですか?カティア姫」
「…へへぇ、呼んでみただけ」
「まあ」
少し照れたようにいうカティアに、プリシラはニコリと笑ってみせた。
腰まである先を少し巻いた綺麗な金髪に、青いドレス風ワンピース。姫のカティアに合うように庶民の自分なりに着飾ってみたのだろう。
「あっねえねえプリシラ!今日はプリシラのお母様とお父様の命日じゃなかった?」
「…ええ、そうですね」
「じゃあ、お墓参りカティアもついてく!お母様、お父様いいでしょ?」
カティアの言葉にプリシラは一度、えっと思ったがそのまま黙って行く末を聞いていた。
「そうね、プリシラちゃんがいるなら心配ないわね」
「プリシラに迷惑かけるんじゃないぞ、カティア」
カティアとその両親たちは明るく笑いながら言った。プリシラはその態度に苛立ちしかなかった。プリシラの両親の死など全く興味がない、どうでもいい、と言うように聞こえてくる会話だと、プリシラは表情を曇らせた。
- [ ]
「それにしても、プリシラ元気ないみたいだけどどうしたの?」
カルトラ王宮を出たあと、カティアはプリシラの曇った表情に気づき、心配そうに顔を覗き込む。
「え、…あ、なんでもないですよ」
顔を急に覗き込まれたプリシラは、少しビクッとしながら言葉を返した。
「そっか、ならよかった…ってよくないよね。プリシラ、ごめん。さっき…プリシラの前で非常識にあんなこと…」
「え!?」
急に謝るカティアに、プリシラはさぞ驚いた。あのカティアが謝った、と少し疑いつつも、ここまでずっと一緒に進んできた親友だ。プリシラはクスッと笑った。
「ふふっいいですよ、カティア姫。私の気持ち分かってくれたんでしょ?」
「うん…もちろんだよ。プリシラを傷つけてたよね、本当にごめん」
「いいですって」
反省してくれたカティアに対してプリシラにもやっと表情が戻り、二人で笑いながら、山道にあるプリシラの両親の墓へと足を運ぶ。
ーーーーーだが、空気はなぜか重くなっていった。心臓の音も聞こえる。プリシラは辺りを小さく見渡す。やはり山道は静かで森の音が聞こえるだけだった。だがこの空気は止まず、隣で小さくトク、トクと心臓の音がする。これは…
「…あ、あのさ、ごめんついでに…カティアね、プリシラにずっと秘密にしてたことがあるの」
カティアだ。
カティアの心臓の音だった。それは緊張しているのか何かの赦しをもらいたいのかわからないが不安な鼓動に聞こえた。
「なんですか、カティア姫。秘密にしてきたことって…」
ごくん、と喉を小さく鳴らし飲み込んだ。
「えっと…プリシラのお母様とお父様ってなんで死んじゃったか、知ってる?」
「え…まぁ、知っていますけれど。私の父と母は、四年前に大事な用事でこのカルトラ国を出て隣のランバル国へ行く途中に山賊に捕まり殺されたと…」
プリシラは長々と四年前の両親の死の話をカティアに話した。
「それ、違う」
カティアの言う意味が分からなくプリシラは、え?と声を漏らした。
「本当は…本当はね、いつか言わなきゃって思ってたんだけど…もう四年も経っちゃってて、やっぱり言わなきゃって思ったんだけど、嫌いにならないで、プリシラ、ね、ね」
「ちょ、ちょっと待ってください、カティア姫どういうこと?落ち着いて。嫌いにならないですから、ね?」
プリシラはカティアの頭を撫で、ゆっくりと落ち着かせた。
「じゃあ、言うよ…」
何かを決心したかのように、カティアは震えて、拳をギュッと強く握りしめながら、目を力強く瞑り口を少しずつ開いた。
「プリシラのお父様とお母様を殺したのは、カティアなんだよ…!」
その真実は、苦いものだった。
- Re: 幻想クライシス ( No.2 )
- 日時: 2017/07/30 13:04
- 名前: なかりん (ID: uw8.zgie)
【第二章】本性
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「プリシラのお父様とお母様を殺したのは、カティアなんだよ…!」
カティアがそう思い切り告げた。だがそんなのは知らず、プリシラは固まる。
「……ぁ、は?」
声が掠れて出ないくらい驚愕した。
「でも、でもね。カティアもやりたくてやったわけじゃないんだよ?プリシラ、ちょっと長くなるけど聞いてくれる?」
「…………」
カティアのその芯の通った呼びかけの声に、プリシラは答えなかった。絶望しているのだろう。カティアに。この真実に。
「プリシラってば!聞いてよ、ね?」
「早く、話してっ…ください…」
プリシラは苛立っているのか我慢出来なさそうに拳を握る。その重く暗い空気に、ふわりと冷たい風が、プリシラの綺麗な金髪を靡かせる。
「うん、じゃ話すね!実はカティア、カティアじゃないの」
語彙力のないその言葉に、は?と答えるプリシラをニコニコと笑い見ながら話を続ける。
「カティア本当はお姫様なんかじゃないんだ。名前だってカティアじゃないよ。カティアの本当の名前はルミア」
「…はぁ?どういうことですか…さっきから冗談ばっかり…カティア姫…」
「冗談じゃないよ。私はルミアだよ」
「じゃあ、カティア姫は…?本物のカティア姫は!?私はカティア姫とずっと親友で!!」
プリシラの焦りがルミアと言われる女に伝わる。
「本物のお姫様は殺したよ、ルミアが」
「は……ぁ?」
「だぁから、ゆっくり説明するからまってよ」
プリシラはもう気が気ではない。この嘘みたいな馬鹿らしい真実。
この能天気さは小さい頃から変わりないはずだったのに。全く性格も外見も一緒だ。カティアがカティアじゃないなんてありえない。
と、プリシラの考えを遮るようにカティアが喋り出した。
「おほん。じゃ、続きね。四年前、プリシラの両親がランバル国に用事があってこのカルトラ国から出てその国に向かったんでしょ?」
「…ええ」
「実はルミアはランバル国育ちなの。もちろんルミアはお姫様なんかじゃないからプリシラと同じ庶民だったよ。あ、でも働いてたよ。まだ子どもけど」
ぷっと吹き出すように笑う笑顔はやはりカティアにそっくりなものだった。
「ちなみにルミアの職業は殺し屋〜ね♪」
「はっ、殺し屋…!?」
あまりのことに驚きの声をあげたプリシラは急いで口を両手で塞いだ。
「そう。殺し屋。ケッコー儲かってたんだけど、隣の国のカルトラ国ってとこのほうが収入高いらしくてさ〜ルミアもランバル国をでてカルトラ国に向かったわけよ」
楽しそうに思い出話をするうに右手を上にあげてペラペラと喋る。
「そうしたらあーら偶然?さっそくカルトラ国から出てきた庶民AとBがいるじゃなぁい。ってあれ〜?プリシラのお父様とお母様じゃな〜いって!」
ビクッと体を震わせながらプリシラは自分を自分で落ち着かせる。その嫌味たらしいルミアの喋り方は、自信を無くさせるようなものだった。
「ねぇ、わかるこれがどんな意味か?プリシラの両親は山賊にやられたんじゃなくて、ルミアって殺し屋に殺られたんだよっくぅ、決まった」
面白可笑しそうにルミアは嘲笑った。
「…お母さ……おと…ぇぁあ…??」
絶望し切ったその表情は孤独を味わうもので、声にならない叫びをし続けた。
そんなプリシラの肩をポンとルミアは優しく叩く。
「大丈夫よプリシラ。あなたの両親のおかげで、ルミアはカルトラ国の姫を殺して大儲け。そしてこの国はルミアのものとなったのよ。あなたの両親と会わなかったら、ルミアは幸せになれなかったよ、ありがとうプリシラァァ」
三日月のように口をぐっと細め嘲笑う。それは悪魔の微笑みにしかみえなかった。
「どういうことか、意味わからないです……」
絶望し切ったプリシラだが最後まで聞きたいと、カティア姫はなんだったのかと知りたいことを知りたくて言葉を絞り出した。
「え、わかんないの?これでも?プリシラは困った子だねぇ」
ぷぷ、と口を抑えて困ったように笑う。
「まぁ簡単に言うと、ルミアは殺し屋であんたの両親を殺した。そんでカルトラ国に入るとまぁ不思議なことに、ルミアそっくりのカティア姫。そいつを殺して殺し屋のルミアは大儲け。でもカティア姫がいなくなるのはまずい。なら、外見も性格もそっくりなルミアがカティア姫の代わりになればいい。そうしたら、誰にも気づかれなかった。もちろんカティア姫の両親にもね」
淡々と切ったルミア。入る余地などないくらいに説明した。
「そしてプリシラ、あんた散々親友親友って言ってきたくせに、ルミアとカティア姫の入れ替わりに気づかなかったんだようっぷぷっ」
べーとしたを出して右手の人差し指を頬の少し上にビッと引っ張り、あっかんべーと楽しそうにやった。
「…そういうこと…」
乾いた声でプリシラは答えた。
「そう、あなたはカティア姫じゃないの。しかも人を殺すなんて最低ですね。ずっと一緒にいて楽しいって思ってた人がこんな人だったなんて。知らない人だったなんて…!!」
「…うん。でもね、プリシラ!でもね…」
プリシラはルミアの言いかけを無視し、墓参りなどもういいと、山道を走って下った。気持ちが安定しないまま、走りながら風を切り、風がプリシラの涙を運ぶように流れた。
そこで山道に一人になったカティア姫だったルミアは、その場で立ち尽くした。
「…プリシラ…でもね、ルミアはカティア姫じゃなかったけど、でもずっと一緒に居たんだよ。それはすごく楽しかったのに…な」
森のざわめきも止み、しーんとした辺りには可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえてくる。ルミアは静かに山道を下った。
- Re: 幻想クライシス ( No.3 )
- 日時: 2017/07/30 13:54
- 名前: なかりん (ID: uw8.zgie)
【第三章】午後五時丁度を指す針
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プリシラは、山道を走って下ったため、疲れながら息を整えゆっくりと歩き出した。その先には、カティア姫のカルトラ王宮が聳え立っていた。
「あ……カティア姫の王宮…」
そう、一人で呟いた。
「…ルミアって子…なんだったんでしょうか。最低な人…だったけど少し言いすぎたかもしれません…」
プリシラはカルトラ王宮を目の前にぼうっと立っていた。
すると、目の前には一人怪しげなローブを着ている女が歩いてるのが見えた。その怪しげな女はこちらへ歩いてくると、プリシラにスッと耳打ちをした。
「今日、時計の針が午後五時丁度を指したとき、このカルトラ王宮は崩壊する」
「え!?」
振り向くとローブフードをとって瞳を合わせてきた。
「あ、あの…あなたは?」
「…死神予言者。私はタナトス」
「し、死神予言者…」
「はい。本当ですよ。王宮にいる皆、カルトラ国の人々に知らせてはどうでしょう?午後五時丁度を指したとき、このカルトラ王宮は崩壊するので傍に近づくな、と」
無表情のまま、黒い瞳に薄らと光が見える。ショートカットの紫色の髪は、毛先がさらさらと風に揺れる。
「…あなたは本当に死神予言者なの?」
死神予言者タナトスは、細め切れた瞳でプリシラを見てくる。
「そうですよ」
「だったら、あなたが国の人々や王宮にいる人々に伝えればいいのではないですか?なぜ私だけに伝えたんですか?」
そのプリシラの質問を待っていたかのように少し笑ってみせた。
「あなたが危機を伝えなければ皆死ぬ。あなたが危機を伝え避難させれば皆助かる。まぁ信じられないって方も出てくると思いますが」
「な、何が言いたいんですか…?」
「ですから…」
と言いかけたそのとき、タナトスはプリシラの顔に勢いよく迫った。
鼻がつくかつかないかぐらいの至近距離だった。そしてそのまま無表情のままスラスラと話し始めた。
「恨んでいる人がいるのではないですか」
「…ぇ…ぁっ」
不意をつかれ、図星なプリシラは何も言えなく、ブルっと震えた。
「カティア姫様の偽物でしたっけ。この危機を伝えなければ皆死ぬ。そのカティア姫の偽物を置いて、自分だけこの国から逃げればよいのですよ、プリシラ。そうしたら国の人々は兎も角、あなただけは助かりますよ」
目が笑っていなかった。その瞳はダークホールみたいな、全て飲み込んでしまいそうな渦を巻いていた。
「そんなこと…できるわけ」
「できますよ。あなたの意思があるならば」
「!……私の…意思」
「伝えましたからね。予言は絶対なのですよ」
あ…と口を開いたプリシラは、予言について考えた。
「いや、予言…って、おかしいですよね。あるわけないですよ…ね」
でも…もし予言が本当なら早く逃げなければならない。今は、もう午後四時。あと一時間。
「もし本当なら…私だけ逃げれば…って、だめですよ、そんなの。私は…私はちゃんと国の人々に言います!!」
そう決心したプリシラは急いで国の人々の元へ一から行った。
〇
「みなさん…信じてください!本当なんです!」
大声で叫ぶ少女の声に人々は耳を傾けなかった。傾けたとしても嘘つき呼ばわりをするのだ。
「おいおいプリシラちゃん。嘘でもそれはだめだぜ」
「そうよ、カルトラ王宮が崩壊するなんて嘘…」
「う、嘘じゃないんですよ!多分…絶対!」
付き合ってらんないぜーと漏らした男はその場で立ち去り、自分の仕事に戻り、プリシラの話など皆全く信じなかった。
「どうしよう、早くしないと。でも、本当かどうかもわからない予言ですし…」
と、悩みながらウロウロ辺りを歩いているとドンッと肩がぶつかった。
「ぁ、ごめんなさっ…あ…」
プリシラが謝りかけるとぶつかった相手に気づき言葉が濁る。
「……プリシラ…」
ルミアだった。国の人々はカティア姫と思っているから、お姫様が市場を歩いているのに驚いて皆が寄ってきた。
「おっ、カティア姫さんじゃねえか!どうだ、この魚!買っていくかい」
「えっ…あぁ、いらないわ!」
「あらカティア姫様だわ。今日も可愛いわねえ」
「う、ありがとう…」
ニコッと営業スマイルをするカティア姫と慕われたルミア。
それをみたプリシラは、「…ぶつかってごめんなさいね、ルミアさん」と心無くそっと謝って王宮のほうへ歩いていった。
「あ、ちょっとまって!プリシラ!」
ルミアはなんとか人々を振り払ってプリシラを追いかけた。
〇
「はぁ、待ってって。プリシラ」
息を切らしながらルミアはプリシラの肩にポンと手を置いた。
「…なんですか?カティア姫の偽物のルミアさん」
「うっ…ごめん。さっきは酷いこと…言った。ごめん」
少しむくれたように目を合わせず声を小さくしてプリシラに謝る。
やはりこういうところはカティア姫とそっくりだった。
「…私も悪かったですよ。最低とか、私も酷いことを言いました。でも、私はあなたを許していないです」
「うん、知ってる。もう、殺し屋はやめようと思うんだ」
「っ、あたりまえです!!」
カッとなったプリシラはぷい、と顔をそっぽ向かせた。
「で、なにしてんの?プリシラは。なんか庶民たちに嘘つき呼ばわりされてたけど」
「そ、それは…」
プリシラが理由を言いかけたとき、死神予言者タナトスの言葉を思い出した。
『この危機を伝えなければ皆死ぬ。そのカティア姫の偽物を置いて、自分だけこの国から逃げればよいのですよ、プリシラ。そうしたら国の人々は兎も角、あなただけは助かりますよ』
「………」
「それは…なにさ?プリシラ」
「…私にはそんなことできない」
プリシラは死神予言者タナトスの誘う言葉を無視し、一人だけ自分だけ逃げよう誘惑を捨て、決心した。
「聞いてください、ルミアさん。さっき死神予言者タナトスという人と会いました。その人はこう言いました。時計の針が午後五時丁度を指すとき、カルトラ王宮は崩壊する、と。カルトラ国は大丈夫なのですけれどなぜかカルトラ王宮だけが崩壊するみたいなんです!お願い、信じてください…」
少し涙混じりになりながらも、伝えきった。これでルミアが信じてくれるなら…という思い胸に小さく抱いた。我ながら自分勝手な話だと思っていた。さっきまで言い合って最低と言い放った相手に弱々しくお願いするなどと。
「それって…」
ルミアが口を開く。
「それって、超やばいじゃん!王宮にいこう。王宮のカティアの部屋から叫べば皆聞いてくれる!皆ルミアのことをカティアって思ってるから、姫の言うことなら聞いてくれるはずだよ。行こう!」
「…っ、はい!!」
ルミアはプリシラの言葉を信じ、二人で王宮へ走った。
- Re: 幻想クライシス ( No.4 )
- 日時: 2017/07/30 16:31
- 名前: なかりん (ID: uw8.zgie)
【第四章】それは、とても
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タッタッタッと重く苦しい急音で王宮のカティア姫の部屋へと続く階段を駆け上がる。
「はあっ、着いた!プリシラ今何時?」
「は、はい。えっと…」
ルミアとプリシラは息を切らしながらハアハアと腰を少し曲げてバランスをとっている。
「…あ、よ、午後四時三十五分です…」
「わかった!時間ないね!」
急いでルミアはメガホンを持ち口の前へ素早く運び叫んだ。
「おおおおおおおおおおおおいいいいい」
国中に響き渡った甲高い声。
一番近くにいたプリシラには物凄く聞こえただろう。耳を痛そうに塞いでいる。
王宮のすぐ真下では人々が集まってきて、「また我儘姫がなんか言うつもりだぜー」と楽しそうに期待して集まってきた。
「みんな!聞いて!これはガチ!あのね、時計の針が午後五時丁度を指すとき、この王宮は崩壊するの!だから、王宮から離れて!市場は近すぎる、もっと奥にあっちにいって!危ないから!!!」
大きく叫んだその声には皆驚きの声をあげている。
「いいから!死にたくない奴は、カティア姫の言う通りにしろおおおおお!!!!」
キィィィィンとメガホンが嫌な音を出す。
皆は「本当だ!」「嘘じゃない」「逃げるぞ」などと叫びながら王宮から離れるため身支度やらをした。
「よし、これでオーケーだね」
ニカッと笑うその顔はやはりカティア姫と同じもので。
「…カティア…姫」
「は?だからルミアだし」
「あっ、ああ、そうですね」
「しっかりしてよね」
ルミアはカティア姫の部屋からバタンと音を立て出ていった。
プリシラはルミアのことで考えた。何故あんなに酷いことを言ったのに信じてくれるのか、ここまで助けてくれるのか疑問に思ったが、その場を後にした。
ーーーーーー今は午後四時四十五分。あと十五分でこの王宮は崩壊。
プリシラは最後に気になることがあり、王宮の間の小さな小部屋の書庫へ向かった。
向かう途中に王宮内や王宮近く辺りを見渡すと、やはり皆避難している。よかった、と一声漏らした。みると、ルミアとカティアの入れ替わりに気づいていないカティアの両親もいなかった。きっと逃げたのだろう。
プリシラは崩れる前には逃げようと考えながら書庫へ調べ物をしにササッと入った。
歴史などの書物を何冊かとってパラパラとめくる。
「ないですね…」
それには、ギリシャ神話なども詳しく書かれた書物だった。死神や予言者、悪魔や天使、などといった類いのものが書かれているページをめくっていた。
そしてあるページを開くと、そこに挟んでおいたのかハラリと一枚の新聞のようなものが落ちてきた。床に落ちた新聞のようなものを拾い上げ見ると、それは死亡者の名前などが書かれているものだった。
「こ、これは…!!」
〇
午後四時五十五分。残り五分で崩壊する王宮。そこの王宮の間の椅子に座っていたのはルミアだった。
「お父様とお母様…自分の娘を置いて逃げやがってえ〜。んもう!」
広い王宮の間に一人楽しそうにぷんぷんしている。
そこにガラガラと扉の開く音がした。
「え……プリシラ…なにしてんの?」
プリシラが何故間もなく崩壊王宮にいるのかわからずルミアは顔をポカンとさせた。
「書庫にいたんです。ちょっと調べ物を」
「はっ!?調べ物?馬鹿でしょ!そんなことしてる暇ないから。早く逃げなよ!あと三分で予言通り崩れるんだよ?」
慌てながら椅子の上でパタパタと足を揺らしてみせる。
「…そういうルミアさんは?」
プリシラはルミアに問い質した。
「あー…ルミアは、ここに残るよ。罪滅ぼしってやつ?」
あはは、と笑うルミアに、プリシラは近づいていく。
「だからプリシラは早く逃げなよ。わかった?」
ほらあと二分二分、と指で二を作ってプリシラに急ぐように見せる。
だがプリシラはそれを無視し、ルミアの椅子の隣に歩いてきた。
「は…?なにしてんの?あんた」
「私も一緒にいますよ」
予想外のことにルミアは驚きを隠せなかった。
「なんで…ルミアと死ぬ必要があんのよ!ルミアはあんたの両親殺したし、カティア姫も殺してみんなを騙してるんだよ!?」
「それ、嘘ですよね」
「…は?」
ルミアはだんだんと苛立ってきてプリシラを怒鳴った。
「だから…っもう!ルミアはプリシラの言う親友カティア姫じゃないんだってば!!」
思い切って言ってやったその言葉を見透かすように、プリシラはルミアの座っている椅子の隣から動かない。
「でも、親友になったのはあなたですから」
その、柔らかい笑顔はグッと胸に突き刺さった。
「…っ、そんなので…」
天井からピキピキと罅が入る。王宮の床にコツンと小さく音を立てて建物の瓦礫が落ちてくる。
それと同時に、ゴーンゴーンと鐘の音が聴こえる。
「五時の鐘…」
この鐘の音と共に瓦礫がドンドン床に叩きつけられていく。王宮の崩壊。
「ねえ、ルミアさん。聞いてもいいですか?」
「なに?」
「あなたは、やっぱりカティア姫ですよね」
「…違うって言ってるじゃん」
「だって似すぎですもん。声も顔も性格も」
「世の中には似てる人が何人もいるんだよ」
「そうですか」
「そうだし」
他愛もない会話をしながら王宮の崩壊を待つ。この時間はすごく長くて死にたくなくなる思いが大きくなっていく。
「カティア姫、もうその嘘はいいですよ。最期まで騙せると思ってましたか?」
ふふっと笑うプリシラに対し、ギクッと少し肩を上げるカティア姫と呼ばれるルミア。
「…さあね」
そのまま眠るように二人は瞳を閉じた。死神予言者タナトスの予言通り、カルトラ王宮は崩れ、その周辺にも少し被害が及んだ。
〇
自分の未来を知りたいと思う人は、そう少なくはないだろう。
私はどちらかといえばあまり知りたくはない。
見てしまった、決まった未来を進みたくないから。それが、幸せな未来だったとしても残酷な未来だったとしても。
私には恨んでる人がいる。その人は我儘で、人のことなんて考えなくて、人の死を理解してなくて。
ーーーーーーーそれは、とても
優しいひとで。
- Re: 幻想クライシス ( No.5 )
- 日時: 2017/07/30 16:32
- 名前: なかりん (ID: uw8.zgie)
【終章】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カルトラ王宮が崩壊したその後、王宮から離れて避難していた国の人々が王宮へ戻ってきた。そこには、瓦礫の下敷きとなった二人の少女の亡骸があった。
「ああ、カティア姫様とプリシラちゃん…アーメン」
「さあ皆さん、予言してくださったこの二人を天に、神に祈りを」
寂しそうに悲しそうに泣く国の人々の中から一人、怪しいローブを着た女らしきものが亡骸の元へと歩いてきた。
「私はきちんとあなたに伝えたのに、あなたはこの結末を選ぶのですね、プリシラ」
そう言うと、そのローブの女はしゃがみ、プリシラの亡骸の手元に落ちている紙を拾った。それは新聞のようなもので、死亡者の名前が書かれているものだった。随分昔のようだった。
* ランバル国ルミア・サーシャ(10)
* カルトラ国へ行く途中、殺し屋と遭遇で殺され死亡
「…こういうことね、カティア姫」
ローブの女は瞳を細め、全てを理解したように新聞をポケットの中に入れ、二人を拝みその場を去った。
〇
「あわわ、本当にあの大きい建物崩壊しちゃってるよお」
少女は持っている杖をグッと握りしめながらどこかあどけないように喋る。
「やっぱりこの杖、すごいんだなぁ。これがあればあたし…無敵だよねぇ♪」
自分の杖の力に感心したその少女はくるりと後ろを向いて、次は何をしようかなぁと呑気に歩いていった。
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