ダーク・ファンタジー小説
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- 現と異界の交天運命
- 日時: 2017/08/02 18:05
- 名前: 芥 (ID: .5OC3uJw)
人は誰しもが何かを願い、求め、夢見る。
突如として現代都市を囲うように現れた森、そして『外の異世界』。
既に『夢現』を果たしてから数十年の月日が流れ、1人の少年と1人の姫騎士が契約を果たす……−−
- Re: 現と異界の交天運命 ( No.1 )
- 日時: 2017/08/02 20:37
- 名前: 芥 (ID: .5OC3uJw)
【夢現、そして今】
人々は物語を読む時、必ずや自分ならああする、自分ならこうする、と思うものだ。
人は誰しもが何かを夢見て生きる幻想を追い求めるロマンチストだ。
故に人々は願った。 この世の改革を。
故に人々は願った。 己が生きる為の理由を。
夢を、理想を、忘れ去れようとしたあの物語を。
故に世界は答えた。 先ずは森が生まれた。
故に世界は答えた。 異世界より来たれし住民を。
故に世界は答えた。 この世の改革を。
人々は手を叩き喜んだ、己があの夢見た世界に行けた事を!
世界は喜んだ、死人同然に影を落としていた人々の喜びを!
これを人々は『夢現』と呼び、異世界の住民達と共に暮らす事にしたのだ。
しかし、弱肉強食の理があるように弱者は虐げられた。 現代の生物は魔物に食われた。
故に異世界の住民達は現代の人々へ戦う術を教えた。
……それは、今から数十年前の出来事である。
……現在ではそれが当たり前となり、今や誰しもが外の世界へ森を抜けて遊び感覚で行くものだ。
今こうして学友と共にしている青年もそうだ。 笑いながら学園へと歩を進め、そして卒業式を迎えるのだ。 齢18である。
「遂に卒業、か……」
「長いようで、短い学園生活だったな〜」
青年と共に歩く女子は青年の学友にして幼馴染。 名は『伊崎 美優(いざき みゆ)』。 青い瞳と金の長髪が美しい学園内一の人気者である。 ……いや、人気者だったか? 卒業した身分であるが為、どう表現すれば悩ましいものだ。
青年は美優の言葉に簡単に返し、「まあ本格的に外の世界へ行けるじゃないか」、と腰に差している長剣の鞘を撫でた。
青年は『葉山 義彦(はやま よしひこ)』、美優の意中の人にしてこの物語の主人公である……が、まあ鈍いのか美優の好意に気づいていない。
それでも良いのか微笑む美優は義彦の手を取り、「明日北の門前で十時に待ち合わせしよう!」と元気良く言った。
「いいね、それじゃ明日十時北の門前で集合だね。 他に誰か呼ぶ?」
「んー……じゃあ、アルテイシアさんや柚乃葉さんも呼ぼう!」
「うん、そのメンバーなら遠出しても大丈夫そうだしね。 じゃあ明日十時、北の門前で!」
手を振り美優と別れ帰路へ着く義彦。 ……その近くでは黒い帽子を被った男が怪しげに笑ったのは気付かなかった……−−
- Re: 現と異界の交天運命 ( No.2 )
- 日時: 2017/08/02 23:31
- 名前: 芥 (ID: .5OC3uJw)
【荒れ狂う獣】
美優と義彦が約束をした翌日、5分前に北の門前に到着した義彦は美優達を待っていた。
「遅いな……如何したんだろう?」
何時もなら同じタイミングで来る美優が、幾ら柚乃葉がいるとはいえ今いないのは不思議で仕方がなかった。
仕方がないので端末に連絡でもしようかと思うと、「お待たせ!」という声と共に慌ただしく駆けてくる『4人』の影が見えた。
「遅いぞ美優、柚乃葉がまた我儘言い出したのか?」
「……私、我儘言ってない……」
義彦の言葉に柚乃葉……『柚乃葉 雫(ゆのは しずく)』……と呼ばれた黒髪ボブに紅い瞳の少女はフルフル、と首を横に振って抗議した。
「今日は柚乃葉ちゃんの事ではなく、其処の御仁の一件で少し遅くなりまして……」
尖った耳とウェーブかかったピンクの長髪と翡翠の瞳を持つ大人の女性アルテイシア……『アルテイシア・ユーバナック』……は今し方隣にいる黒い帽子を被った男を見た。
アルテイシアはこの世界の者ではなく、『夢現』によってこの世界に来た異世界の住民の1人であり、この地に住む事にしたエルフである。
……男はアルテイシアの視線に気付くとフン、と息を吐き話をし始めた。
「……俺が北の門に行く為の道を聞いたんでな、そしたら一緒に行こうと言う話になったんで遠慮していたんだが、無理矢理押し通らされてな。 話してるうちに俺も途中までアンタ等の手伝いをするって話をされたんだわ」
「迷惑ってんなら大丈夫だぜ」と義彦に言うと義彦は男の腰の刀を見て「いや、人手が多い方が助かるよ」と微笑みながら言った。
「ハン……そう言うなら手伝うか。 見ての通り刀を扱うが、正攻法なんてしねえから期待しないでくれや」
へらりとした笑顔を見せ、義彦は変な男だなと思いながらメンバーが揃った事を確認すると、全員で外の世界へと赴いた。 −−
−−さて、外の世界には魔物がいる。
それこそ数が多いが、スライムやオーク等の有名な魔物から果てはドラゴン等も存在する。
この北の門付近は其処まで強い魔物は出ないが、数は多い為複数人での行動が好ましい。 ……好ましいのだが……。
「オラァッ!」ズガァッ! 「シャラァッ!」ドゴッ! 「ゥオドリャアッ!」メキャッ!
「「「「……」」」」
まさかこの帽子を被った男が複数体のオーク相手に刀で袈裟斬りをし、殴り、蹴りを入れて蹴散らす程の実力があるとは思ってなかった。
お陰で大分楽に先へ先へと進むことが出来た。
「(あの男、服装とかからして此方の世界の人間だよね……?)」
「(ええ、名前こそ聞いてないけど確かに私達と同じ世界の人間だって言ってたよ)」
義彦と美優は小声で暴れる男の事を言い合い、柚乃葉は水晶で撃ち漏らした魔物を蹴散らし、アルテイシアは男をサポートしていた。
それでもやはり此方に来る魔物は幾らかいるので義彦の長剣と美優の大剣で蹴散らしていた。
暫く歩き一度休憩を取る事を提案すると全員腰を下ろし、義彦は男の方へと歩み寄った。
「お疲れ様、随分と強いですね」
「ん? ああ……このぐらい出来なきゃやってられねえからな」
影を落とした笑みを浮かべた男に義彦はどういう事か聞こうとした、すると柚乃葉が何かを感じ取ったか「来る!」と突如叫んだ。
その場にいた全員は素早く立ち上がり、男に対する疑問があやふやになったが一先ずやるべき事をやる為に長剣を抜き、辺りを見渡した。
周りは鬱蒼と生い茂る森である。 その森にドシン、ドシンと何か巨大な存在が来るのが感じ取れた。
「何が来る……この威圧感は、尋常じゃない……」
「ええ……森が慌ただしくなっております。 明らかにこれは異常です……」
アルテイシアは耳を澄まし森の声を聞き入れ、異常と断言した。
美優は陣形を組む事を指示し、5人はアルテイシアと柚乃葉を中心に三方向を向いて陣形を展開した。
……そして、其奴は現れた。
『Brrrrrr!』
「「「「此奴は……ッ!?」
「『スカーブル』だ! 散れ!」
男の声と同時に突撃してきたスカーブル……巨大な猪の魔物……の突進を受けないよう各自その場から散って避けると、スカーブルは美優へ標的を捉えて突進した。
突進を真正面から受け止めるつもりか、大剣を盾の様に構えた美優へアルテイシアは耐久上昇の魔術を施す。 ……しかし。
ドゴァッ! 「きゃっ!? 重い……ッ!?」
「「「美優!?」」」
まるで紙屑の様に美優は高く打ち上げられ、急いで義彦は抱えて救助しスカーブルへ向き合った。
スカーブルは男の拳を何度も受けているが、それにいも介さず、寧ろ鬱陶しい虫を払うかのように頭を振っていた。
「俺が抑える! さっさと撤退しろ!」
「すみません! ……アルテイシアさん! 柚乃葉!」
「「はい!」」
男の言葉を聞き入れ、美優を抱えた義彦は急ぎ撤退をし始めた。 −−
「−−んで? このゴミは片した方が良いかよ? 旦那ァ」
「……いや、そのままあの都市に突撃させろ」
男がスカーブルから距離を置き虚空へ聞けば、何処からかローブを着た男が現れまさか都市へ突撃させろと言い出した。
それを聞けば男は懐から投げナイフ取り出すと、スカーブルの眉間へ投擲。
スカーブルの眉間に投げナイフが刺さると、突如スカーブルは叫び声を上げて興奮状態へ陥り、都市の方へと駆け走っていった。
「さあ……俺達を楽しませてくれや」−−
- Re: 現と異界の交天運命 ( No.3 )
- 日時: 2017/08/05 10:53
- 名前: 芥 (ID: 0YLhVMcO)
【侵撃の帝国軍】
「本当に彼の方1人に任せても大丈夫なのでしょうか……」
美優を背負った義彦達は走りながらも、アルテイシアはスカーブルと戦っている男の事を心配に思った。
「大丈夫じゃないかな……魔物の群れを蹴散らせるぐらい、強いし……」
柚乃葉はポツポツとそう言いながらも、スカーブルは北ではなく危険区域の南にいる魔物である。 ……内心ではもうやられているのではないかと思っていた。
「……ん……」
「美優!? 目が覚めたか!」
義彦の背中に背負っていた美優は義彦の背中に顔を赤くし、慌てて「降ろして!?」と言い、義彦は美優の慌てぶりに困惑しながらも降ろした。
「あの人は、さっきの男の人は如何したの?」
「抑えるから撤退しろって言われて……」
「スカーブル相手に1人で立ち向かうって……急いで都市に行って応援を頼もう!」
義彦達がアルテイシアの魔法の補助を受けて更に速く走り、北の門が見えてくると門番が居ない事に気付いた。
「門番が居ない!?」
「何で!? いつもなら居るはずなのに!」
門番が居なければ門は開けられない。 故に美優は大剣を引き抜くと門へ思いっきり振り下ろした。
一部が粉砕されると「うわあ……」と義彦達に白い目で見られるが美優が睨むとさっと目を背けた。
「非常事態だから仕方ないでしょ! 行くよ!」
「「「は、ハイ!」」」
破壊された門から都市へ入ると……都市は一帯が燃えていた。
「う、嘘……」
「酷い……誰がこんな事を……」
茫然とした顔でその場で立ち尽くしていると全身鎧の者達が義彦達の前に立ちはだかった。
「我々は南の地にあるゼムスル帝国軍である。 これより此処は帝国の支配下に置き、住民は兵として連行させてもらう」
「なっ、何を言っているんだ!? これは帝国のお前達がやった事なのか!?」
「そうだ、我々は帝の命により行ったのだ」
それを聞いた義彦は歯軋りし、長剣を引き抜くと帝国軍の兵士に飛びかかった。
帝国軍は冷静に腰の片手剣を引き抜くと長剣を受け止めて弾き、背後で控えていた兵士が銃を構えた。
それに気付いた柚乃葉は風の魔法で兵士を遠くへ吹き飛ばし、他の兵士が怯んだ隙に美優が大剣で薙ぎ払って撃退し、義彦と剣を切り結んでいた兵士も片手剣を弾かれ片腕を斬られた。
「ぐっ!? つ、強い……」
「もう馬鹿な事は止める様に帝に伝えろ!」
義彦は倒れた兵士の喉元に長剣の先を突きつけ、怒鳴るようにそう言った。
「ふっ、木っ端の兵士の事なぞ帝が聞くはずもないし、そんな事をしようとすれば『四天王』の連中が……ッ!?」
四天王、と言った兵士の言葉に訝しむ義彦を兵士はいきなり突き飛ばし、義彦が「何をするんだ!」と言って立ち上がると炎が兵士を飲み込んだ。
「な、何が……」
「ベラベラベラベラ……二流に負けた三流が口先だけは一人前に動かしやがる」
「「「「!?」」」」
声のする方に振り向くと、其処にはスカーブルの足止めをしているはずの男が刀を抜いて肩に添えたまま此方を見ていた−−
- Re: 現と異界の交天運命 ( No.4 )
- 日時: 2017/08/06 18:37
- 名前: 芥 (ID: BdM.OEZp)
【炎魔神を服従させし者】
「なんで貴方が此処に居るんだ!? スカーブルを倒したのか!?」
義彦は男を指差しながら言い、男は「指差すな馬鹿野郎」と言いながら瓦礫の山から飛び降りて歩み寄って来た。
「あのなあ、確かにその気になればあの豚殺すなんざ可能だよ」
未だ息がある焼け焦げた兵士の方へ歩み寄るとしゃがみ込み「よお」と声をかけた。
「な、何故だ……何故お前が……裏切ったのか……?」
「はっ? テメェがつまんねえから焼いただけだぜ? 勘違いすんなよ、これは裏切りじゃねえんだよ」
頭を踏みつけ力を入れ、メキメキと頭が軋む音が聞こえる。
男がやろうとした事を察したか、柚乃葉は短い悲鳴を上げてアルテイシアはその柚乃葉の前に立ち見えないようにし、義彦は「止めろ!」と叫んで美優と共に男の行動を止めようとした。 ……だが。
「黙れ有象無象の雑魚共」
男が左腕を振るうと突如として炎の壁がゴウッ! と巻き起こり、義彦と美優はその場で立ち止まってしまった。
「熱っ!? ……魔法で炎の壁を作ったのか!?」
「違う、それにしては炎の勢いが強過ぎるわ!?」
「まさか……炎を操る何かと【契約】を交わしているのですか!?」
アルテイシアが【契約】の事を言うと、兵士の頭を踏みつけ体重をかけるのをやめ、今度はくくく、と笑い始めた。
「【契約】、【契約】ねえ……? ……誰がそこら辺のと対等に立つかよォ!」
「アギャッ」
グシャッ! と兵士の頭を踏み砕き、不機嫌な顔を浮かべて義彦達を睨み付けた。
「俺のは【契約】じゃねえ……ぶっ殺して【服従】させてんだよ!」
顔を上げ、帽子のつばで見えなかった瞳。 日系人の顔立ちで右の瞳は茶色の瞳であったが、左の瞳は瞳孔は金、そして白い部分は黒で染まっていた。
「俺が【服従】させたのは炎魔神『イフリート』! 炎を操る存在の最上位種だ!」
「なっ……【服従】、それにイフリートですって!? 貴方何をしてしまったか分かっているのですか!?」
「アルテイシア、【服従】だと何か都合が悪いのか?」
義彦がアルテイシアに問いかけると、アルテイシアは頷いて説明を始めた。
「……この世界の住民ではほんの一握りにしか与えられていない契約の権利を使い、契約した者の力を借り受けるのが【契約】です。 ……ですが、【服従】は『対象に成り代わってその力を振るう事が』出来るのです」
「じゃあ……今のあの人は……」
「ま、想像通りで俺はイフリートと人間の間……半神霊にあたるな」
男は煙草を咥え左指を擦り合わせると煙草に火がつき、紫煙を燻らせて黒い笑みを浮かべていた。
「ま、取り敢えず此奴を寄越してやったから俺を楽しませてくれや」
そう言うと同時、背後の壁が突如として粉砕され、スカーブルが勢い良く駆け走ってきた−−
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