ダーク・ファンタジー小説
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- The world of cards
- 日時: 2017/09/01 08:31
- 名前: 浅葱 游 ◆jRIrZoOLik (ID: 9AGFDH0G)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13157
僕らはそこに光を見た。
□初めまして、浅葱です。
他作品の合間に更新していきます。
□当作品は2012年から執筆していた作品のリメイクとなります。
過去作につきましては、URLからとぶことができます。
□キャラ募集に参加してくださった皆様ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。
■目次
Prolog:Dance in twilight
>>001
□since 2017.9.1
□その他
何かありましたら雑談スレのほうにご連絡ください。
- Re: The world of cards ( No.1 )
- 日時: 2017/09/01 07:25
- 名前: 浅葱 游 ◆jRIrZoOLik (ID: 9AGFDH0G)
Prolog:Dance in twilight
夜を共にする相手が女であればと、奴は自嘲して笑った。それはこっちの台詞だ。何が悲しくて、男同士で酒を飲み交わしているのか。
「どうだった」
「変わりないよ。それに、もう全部済ませたんだ」
だから後戻りはできない。薄暗い店内にはジャズが流れる。グラスがカランと高く鳴いた。
ジョーカーは死んだ。だが、死んだというにはあまりにもお粗末だった。正確には自分達の手で殺した、というべきかもしれない。不定期に開催されるゲームショウが、ジョーカーの死に場所だった。
現在の日本は衰退した日本人の代わりとして、日本国外からの移民を手厚く保護している。全盛期の半数ほどまで減少した日本国民は、長く暮らしていた場が奪われるという感覚が強くなり、敵対意識や縄張り意識が強くなっているというデータもある。
そんな中、ある番組が誕生した。誰も行き方が分からないような場所でロケを行い、規制なしの戦闘を撮影する『ゲームショウ』という番組だ。
「今後の事を話し合おう」
ジョーカーは殺された。ここにいる自分達の手で、息の根を止められている。過去の英雄と同じ道を進む事は出来ない。
「まず、誰を選定しようか」
優勝したことで手に入れたカードケースを、カウンターに置く。奴は中からカードを取り出し、マジシャンさながらの手つきでカードを広げた。一つも新品のものはなく、血で汚れていたり折れた跡が残っていたりと、劣化が激しいものも中にはある。
次はあなた方の番です、と撮影が終わった後に伝えられた。その意味を知るのには時間を必要としたが、今はもう、次に何をするべきかが分かっている。カードを二枚抜き取った奴が、自分に一枚を手渡した。受け取ったカードには腹が立つような笑顔を浮かべる道化師が描かれ、三日月型の瞳が自分を挑戦的に見つめているように見える。
二枚だけ抜いたカードをケースにしまい、奴はグラスに入った酒を飲み干した。カウンターに置かれた空のグラスをマスターが下げ、新たな酒を差し出す。奴は酒に強いらしい。先程から飲み続けているが顔色も言動も変わらない。
「今までは右と左で殺し合いをしていたが、くだらないと思わねえか」
カードをしまい終わった奴が、そう語り始める。
「今じゃ生粋の日本国民の方がハーフより少なくなってるっつーデータもあるらしいじゃねえか。外の文化を排斥してた野郎どもが、今じゃ排斥の対象になってやがる。そんならよ、ただ自分のためだけに動く駒になることを見据えて選定すべきじゃねえか?」
「排斥するもされるも、自分の力で決めればいいってことかな」
「おう。国籍も宗教も関係なく、生きたければ殺せ、だ」
「すごい脳筋発想。面白そうだけど」
今までのゲームショウの中身と合わせて考えるなら、同じようにジョーカーが殺されて終わりになるだろうなと思う。
「死ぬ気は?」
「殺す気の間違いじゃねえのか。俺は生きる理由は特にないけどな、まだ死ねねえから生きるつもりだ」
「なるほど」
それならばきっと奴と自分の目指すところは少し違う。次のゲームショウまでにこの計画を詰めなくてはいけない。円滑に、そして自分と奴が問題なく生き残るように。前回のゲームショウの生存者は、何十人と参加者がいた中二人しかいなかった。生き残った二人は非難されることの方が多かった。罵倒の言葉には何も感じなくなる程度には、様々なことを言われている。
非難される理由は深く考えずとも分かることで、特に参加者の家族よりも外野が多かった。ワイドショーやニュース番組のコメンテーターが、悲しみと怒りを混ぜたような表情でゲームショウを否定する。どんなに高い視聴率を取っていても、ゲームショウはやめるべきだと口を揃えた。亡くなった参加者の遺族はどうなるのか、最後に生き残った人間だけでも逮捕するべきだ、と。
それでもゲームショウが定期的に放送されるのは、視聴率の稼ぎ頭だからだと分析している。人の生死に興味のある人間が、唯一公式にその性癖を表に出せる舞台。普通の生活では逮捕という罰が待っているが、何故かゲームショウで生き残った人間は逮捕されることがない。仕組みは分からないが、ジョーカーがいなくなると必然としてゲームショウのルールが崩壊するからかもしれない。
「もうすぐ会見の時間だね。行こう」
「おう。やっとお前の名前が知れんのか」
「対戦中は番号だったから、そうなるね」
ゲームショウの出演者は一度と名前を呼ばれない。視聴者も家族や知り合い以外、出演者の名前を知ることは出来ない。そのため自分と奴は互いの素性を知らなかった。今晩の会見はゲームショウを企画する会社が主催となり、次回ゲームショウの開催予定日の開示、新たなジョーカーを紹介する。台本通りのセリフを話し、記者からの質問にはアドリブで答えなくてはいけない。
すっかり汗をかいたグラスに注がれていた、薄くなったウィスキーを一息に飲む。喉がアルコールに負けている感覚がするけれど、少し酔いがまわっていた方が話しをしやすいだろう。先に店を出ていた奴を追い、暗い路地裏から街灯やネオンが光る活気のある通りへと出た。少し歩いた先にある大通りの大きなモニターには、この後未明にゲームショウの会見が始まると映っている。
「大胆」
「なんやかんや、局もゲームショウを望んでんだろうな。うちに金を落としてくださいー、ってよ」
陽気に笑いながら、指定された公園へと向かった。昼間よりは涼しい風が肌をなでていく。
「——続いて、前回の優勝者であり次回の開催ではジョーカーとなる二人を紹介します。お座りください」
アナウンスに促されるまま、用意されたパイプ椅子に座る。間隙なくフラッシュが自分達を照らしていた。満足に目を開けられないほどの光に、思わず涙が落ちそうになる。
「今回のジョーカーは二名です。日頃からゲームショウを楽しみにしてくださっていた皆様にとっては、この結果に不満があった人が多かったことを、存じております」
涙をこらえ、長机に置かれた台本通り読んでいく。その間もフラッシュは目を刺激し、不要な涙を拭わなくてはいけなかった。一通り台本を読み終えると、アナウンスが質問を受ける旨を説明する。すぐにこの場にいるほとんどの記者から手が上がった。改めて、注目度が高い番組だということを実感する。
「前回はプレイヤーとしてでしたが、今回ジョーカーでの参戦となることに、どのような思いがありますか?」
「特に何も。ただ自分達は生きるために、前回と同じことをします」
「右に同じだ」
一言話す度にフラッシュがたかれる。横に座る奴もそろそろ嫌になってきたのか、座っている姿勢が崩れてきた。
「前回は五十人近いプレイヤーを殺害していましたが、心が痛むことはなかったのですか?」
「無いな。黙っていれば殺されるのに、心を痛めてる暇なんかないだろ」
「残された遺族の方に申し訳ないとは思わないのですか!?」
語気を荒くしたというより、奴の言葉を信じられないと言いたげに記者が言った。奴は嘲笑うように鼻を鳴らす。答える気はないようで、自分の方を向いた。
「遺族の事は知りません。相手の素性を知らないので。人はどうしようもない脅威が起きた時、抵抗せずに従う事で身を守ることが多いです。が、それは従えば命が助かるという保証があるからだと思います。自分と隣の奴はそんな甘い幻想を信じていません」
普通に生活していたら機会のない場に、浮き足立っているのかもしれない。フラッシュも記者の表情も気にならず、誰かに操られているかのように口が動く。
「殺す、もしくは戦闘ができない状態にしない限り試合は終わりません。それなら今後の脅威を減らすため、殺すのがいいという事にだんだん気付いていきます。自分と奴はそれが早かった。ただそれだけです」
そこまで話すと、会見場にいる記者達からは非難の声が上がる。ただ自分と奴だけは、堂々とその場にいた。最後の締めだと奴が言う。立ち上がった奴に続いて、自分もその場に立った。
「面白おかしく報道すればいい。俺達と同じ穴の狢はこの社会に多くいる。そんな奴らが、参加すればいいだけだ」
行くぞ、と声をかけられ、奴に続く。背中越しに視界が強く光る。もうこのビルに用はない。たった二人の靴音が廊下を支配する感覚。自分達の望む物語の姿を、遠くに感じた気がする。
エレベーターを降りエントランスへ向かうと、どこから聞きつけてきたのか、マイクを持った記者が回転扉とぶつかる寸前の位置を陣取っていた。
「ふん。肉に群がる蛆みてえだな」
「その表現最高だね」
二人で笑う姿もきっと外のマスコミに撮られているんだろう。ひとしきり笑い終えた後で、チンとエレベーターの音が響いた。何かと思い見れば、先程の会見場にいたはずの記者達が我先にとこちらに向かって走ってきていた。マイクを向けながら、何かを必死に叫んでいる。
それを無視して回転扉へと歩く。外からも中からもフラッシュが自分達を照らす。奴はうるさいのが嫌なのか、不機嫌になっていた。小さな舌打ちを二回。瞬間視界が赤く広がり、現状を理解したホテルマン達が大きな悲鳴をあげる。
「調整できるようになったんだね、さすが」
「おう」
歩く度に跳ね上がる液体が、靴とスラックスを染めていく。手動の回転扉の先、たった一人だけ残った記者が守るカメラが自分達を捉えていた。
「今晩はゲームショウのお誘いをしにきました。自分は箕島、奴は會田、ゲームマスターとして君たちの参加を待っています」
カメラに向かってにっこりと微笑み、その場を後にする。會田は残った記者と遊んでいるようだったから、無視をした。人を痛めつける時に使うのは自分の手ではない。けれど、必要時には最低限の力で最高のパフォーマンスを見せる必要がある。
久しぶりに楽しい日々が戻ってくることに、胸がざわついて仕方ない。會田より早く暗い路地へと逃げ込む。遠くからサイレンの音が鳴っているから、きっとホテルマン達が呼んだのだろう。自然と上がる口角を手で隠し、また、例の店へと戻った。
数ヶ月後滞りなくゲームショウは開催され、第一夜の視聴率は歴代最高の値をたたき出した。
- Re: The world of cards ( No.2 )
- 日時: 2017/10/29 22:44
- 名前: 浅葱 游 ◆jRIrZoOLik (ID: FpNTyiBw)
Chapter1 : 臆病者
「では、ルールの説明を行います」
ああどうして、俺はこんなところにいるのか。仮面をつけた、異様な司会者が淡々と今回のルールを説明していく。隣に立つ男性は楽しそうに笑顔を浮かべていた。腰に提げられた刀が収められているだろう鞘が、この後起こるであろう事態を嫌でも想像させる。どうしてこんな強そうな人が相手なのかと、ため息が出た。俺は別に争いがしたいわけではないのに。
「フィールドはこの森の中全てとなります。不戦勝とという扱いはない為、何らかの理由で戦闘が行われない場合には、後日再試合を行います」
司会者が手元のカンペを見ながら、ただ説明を続けている。横目で隣の男を見ると、運悪く目が合ってしまった。
「楽しみだな」
「え……全然」
何に楽しさを見出すことができるのか、疑問でしかない。今までは視聴者だった。だが、今はプレイヤーとしてここに立っている。テレビの前を陣取る視聴者達は、期待を胸に抱いているのだろう。かつての自分がそうだったように、どちらが勝つかを楽しみにしているはずだ。俺だって本来は視聴者側にいるべき人間のはずなのに。
「——では、霧島梓。所持カードはクラブの5。前原遥、所持カードはスペードのA。これより三十秒間の猶予を与える」
そう言われ、きりしまあずさと呼ばれた男が森の中へと走っていく。呆然と立ち尽くした俺も、司会者の「残り、十五秒、十四、十三」という言葉から急いで森へと入る。少しでも時間を稼ぐ必要がある。極相だ。背の高い木々は昼間の明るい日差しを遮り、表しがたい気味悪さを滲ませる。もし昼間ではなく夜であったら、方向感覚を失ってしまうだろう。
「これより記念すべき初戦を開始する!」
司会者の声が森を震わせた。振動で木が揺れ、鳥が怯えたように鳴きながら飛び去る。森の中は薄暗いだけでなく、地面が湿り、その上に被さる木の葉に足を取られそうになる場だった。産まれてから一度も登山をした事がない俺には、不利な状況だろうと考えがまとまる。
出来ることは隠れる、逃げる、闘うしかない。湿り気を帯びた風が頬を撫でていた。きりしまは刀を持っていた。動き続けても体力を失うだけだと考え、イタドリが生い茂る中に身を隠す。切られて死んでしまうことが一番に浮かぶ。こんなひ弱で臆病な人間がAのカードを持っているだなんて、視聴者もきりしまも呆れるだろうな。けれど動くことはできず、足を地に縫い付けられているような感覚さえする。
「まじでほんとに来ませんように……」
小さく膝を立てて座り、イタドリが生える地面に呟いた。湿った土を手で掘る。泥団子を作ろうと思ったが粘度の低い土では上手くいかなかった。地面につけた尻が湿っていく感覚がジャージ越しに伝わる。それが不快で、しゃがんでは座るを繰り返した。グレーのスウェットだったら猿みたいな形で濡れていたんだろうか、想像すると少し情けない気持ちになった。
濡れた尻を、最低限しか動いていない身体を、風が撫でていく。最初こそ心地がよかったが、それは徐々に身体を冷たくしている。
「……頑張れ俺」
このままで冷えきってしまう。今頼りになるのは自分の考えではなく、数日前に合流した仲間の意見かもしれない。けれど仲間と自分の意見は、重きを置くものが違いすぎた。少し風が強く吹き始めた。可能ならば今すぐにでも力を使って、この状況から脱したい。風に煽られた木々が擦れ合い、厚みのある音を奏でる。不安を掻き立てられる音色。
薄気味悪い。そう思いながら、仕方なくイタドリの檻から抜け出した。微かに指先が震えていた。
「開始から二十分が経過しましたので只今より、エリア縮小を行います」
司会者の声が森中に響き渡る。風がぴたりと吹かなくなり、また湿っぽさが溜まり始めた。じっとりとジャージの下の素肌が汗をまとっていく感覚。気持ち悪さと、きりしまあすざと遭遇する恐怖。
「展開」
言葉と同時に、至る所から轟音と巻き上げられた土埃が襲ってくる。咄嗟に目を閉じたが、それでも砂粒が入り、閉じた目が痛んだ。息もしにくいほど砂埃、きりしまあずさは無事だったのかと考えてしまう。いっそ今の壁より外にいてくれたら、いぅそ壁に潰されてくれていたら。それなら俺が勝つことになるのではないか。
どうせ誰にも期待されていないだろうな。仲間にも、家族にも。そうだとしても、死んではいけない理由がある。砂と土とで薄汚れたジャージを無視して、壁を目指し走る。森の中でサンダルはだめだな。今後参考になるかも分からないことを考えながら、息を切らして走った。ひきこもっていたせいで衰えた心肺機能が悲鳴をあげる。口を大きく開き、少しでも多くの酸素を得ようと必死だ。気を抜けば膝から崩れ落ちてしまいそうなほど。小さい頃に戻れたなら、なんて考えが浮かぶより早く、壁が見える。
走るのをやめると、呼吸するたびに喉の奥が痛くなった。わずかに口の中に残ったつばを飲み、乾いた喉を潤す。サンダルを履いてこなければ良かった。無理に走ったからか、足は所々赤くなっている。
「いやー、不用心すぎじゃん?」
「——え」
突風に壁へ吹き飛ばされる。抗いようのないほどの力だった。生まれて一度も経験したことがない痛みに、意識が途切れた。
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