ダーク・ファンタジー小説
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- そうだ、つまらない話をしてあげよう【完結】
- 日時: 2018/01/06 16:31
- 名前: 雪姫 (ID: AnKpKfSC)
そう公園で一人優雅にお昼ご飯を食べていた私に話かけてきたのはホームレスのお爺さんでした。
「どうかな? つまらなさそうな顔をしているお嬢さん」
お嬢さん誰のことかしら。公園にはまばらに人がいるわ。
でもベンチ座った私を真っ直ぐに見つめて話かけるお爺さんは一人しかいないわ。
一メートル先で地面に新聞紙を引いては座禅を組んで酒缶を片手にニタニタと話かけるお爺さんは一人しかいないわ。
「もしかして私に話しかけているのかしら」
「そうだよ。つまらなそうな顔をしたお嬢さん。君以外に誰がいるのかな?」
変な問いね。そう思いながら辺りを見渡してみたけどお爺さんの言う、つまらなそうな顔をしたお嬢さんとやらはいなかったわ。
いるのは公園で楽しくピクニックをしている小さい子供連れの家族とジョギングを楽しむ若い男性とその他通行人と私とお爺さん。
「確かにそうね。それで? つまらない話というのは貴方のそのだらしなく伸ばした髭の話かしら」
語尾を少々強めに蔑むような目で言ってあげるわ、ホームレスのお爺さん。
着ている衣服は当然ボロボロ。継ぎはぎだらけであっちこっち破れているわ。伸ばした白髪の頭もボサボサ、長い自慢のお髭も自然に任せて伸ばしたせいでボサボサ。
あぁ……なんてみすぼらしくてつまらないお爺さんなのかしら。
「面白い事を言うねお爺さん」
このお爺さんには皮肉というものがないのかしら。
「残念だけどわたしの髭の話ではないよ」
「そう。それは残念ね。じゃあお話はこれで終わりかしら、つまらないお爺さん」
お爺さんとのつまらない会話を終了させて、また一人優雅に昼飯を食べようとしたのだけど、
「まあまあ、そんなに慌てなさんな。つまらなそうな顔のお嬢さん」
お爺さんがまた話しかけてきたわ。
「一つだけでいい、つまらない休日の数分だけでいい、爺の戯れだと思って付き合ってくれないかな」
チラッと公園に備え付けられている大きな時計の針をみると丁度正午、十二の所で長針と短針が重なり合っていたわ。
迎えが来るまでにはまだ数時間と猶予があるわね。
「……確かにつまらない長い休日のほんの数分、つまらないお爺さんのつまらないお話に付き合ってあげるのもいいかもしれないわね」
お年寄りは大事にするものだと、お母様も言ってらしたからね。
そう私が言うとお爺さんはパァァアと満開の花が咲いたような満面の笑みを浮かべ、腕を大きく広げて公園にいる誰もに聞こえる大きな声で、
「じゃあ最高につまらない話をしてあげよう! これはとある男の話なんだけどね——」
つまらないお爺さんの口から最高につまらない話が始まったわ。
聞いている観客たちは私だけ。喋っているのはお爺さんだけ。私とお爺さんの二人だけの舞台が今——完成したわ。
- Re: そうだ、つまらない話をしてあげよう ( No.1 )
- 日時: 2017/10/19 08:05
- 名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: niONRc09)
そう公園で一人優雅にお昼ご飯を食べていた私に話かけてきたのはホームレスのお爺さんでした。
「どうかな? つまらなさそうな顔をしているお嬢さん」
お嬢さん誰のことかしら。公園にはまばらに人がいるわ。
でもベンチ座った私を真っ直ぐに見つめて話かけるお爺さんは一人しかいないわ。
一メートル先で地面に新聞紙を引いては座禅を組んで酒缶を片手にニタニタと話かけるお爺さんは一人しかいないわ。
「もしかして私に話しかけているのかしら」
「そうだよ。つまらなそうな顔をしたお嬢さん。君以外に誰がいるのかな?」
変な問いね。そう思いながら辺りを見渡してみたけどお爺さんの言うつまらなそうな顔をしたお嬢さんとやらはいなかったわ。
いるのは公園で楽しくピクニックをしている小さい子供連れの家族とジョギングを楽しむ若い男性とその他通行人と私とお爺さん。
「確かにそうね。それで? つまらない話というのは貴方のそのだらしなく伸ばした髭の話かしら」
語尾を少々強めに蔑むような目で言ってあげるわ、ホームレスのお爺さん。
着ている衣服は当然ボロボロ。継ぎはぎだらけであっちこっち破れているわ。伸ばした白髪の頭もボサボサ、長い自慢のお髭の自然に任せて伸ばしたせいでボサボサ。
あぁ……なんてみすぼらしくてつまらないお爺さんなのかしら。
「面白い事を言うねお爺さん」
このお爺さんには皮肉というものがないのかしら。
「残念だけどわたしの髭の話ではないよ」
「そう。それは残念ね。じゃあお話はこれで終わりかしら、つまらないお爺さん」
お爺さんとのつまらない会話を終了させて、また一人優雅に昼飯を食べようとしたのだけど、
「まあまあ、そんなに慌てなさんなつまらない顔のお嬢さん」
お爺さんがまた話しかけてきたわ。
「一つだけでいい、つまらない休日の数分だけでいい、爺の戯れだと思って付き合ってくれないかな」
チラッと公園に備え付けられている大きな時計の針をみると丁度正午、十二の所で長針と短針が重なり合っていたわ。
迎えが来るまでにはまだ数時間と猶予があるわね。
「……確かにつまらない長い休日のほんの数分、つまらないお爺さんのつまらないお話に付き合ってあげるのもいいかもしれないわね」
お年寄りは大事にするものだと、お母様も言ってらしたからね。
そう私が言うとお爺さんはパァァアと満開の花が咲いたような満面の笑みを浮かべ、腕を大きく広げて公園にいる誰もに聞こえる大きな声で、
「じゃあ最高につまらない話をしてあげよう! これはとある男の話なんだけどね——」
つまらないお爺さんの口から最高につまらない話が始まったわ。
聞いている観客たちは私だけ。喋っているのはお爺さんだけ。私とお爺さんの二人だけの舞台が今——完成したわ。
- とある男のお話 ( No.2 )
- 日時: 2017/10/20 09:16
- 名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: PGYIXEPS)
昔々——といってもそこまで昔ではない昔のお話さ。日本ではないどこか遠くの国のお話さ。
その国にはとある家族が住んでいたのさ。
歳はそうだな……三十代くらいにしておこうか、三十代くらいの夫婦とまだ生まれたばかりの可愛い女の赤子の三人家族さ。
「ほらほら早く早くー」
「待ってくれマリアンナ、少し休憩させてくれないかっ」
「駄目よ。こうしてアナタと呑気に喋っている間に特売のハムが売り切れてしまったらどうしてくれるのかしらねぇー?」
「キャッキャッ」
「……もぅ。アンナまでマリアンナの味方か」
「そうよねぇ。アンナはお母さんの味方だものねぇ」
「「あはははっ」」
いつも元気一杯の姉さん女房のマリアンナと尻に敷かれた男。正反対の性格の二人だったが、だからこそ惹かれ合うものがあったそうだよ。
裕福とは言えない家庭だったけど、三人はとても幸せだった。金はないけど愛だけはあるってね。
贅沢な暮らしが出来なくても家族三人が仲良く平和に暮らせているなら——それでよかったのに、
「………ッ」
「どうしたっマリアンナッ!?」
ある日男の妻が倒れてしまったんだ。不治の流行病だそうだよ。しかも、
「……どうして私をおいて先に逝ってしまうんだい。……君はどうしていつも私の先を行くんだい。……マリアンナ」
まだ若かったのに、生まれたばかりの幼い赤子がいたのに、男を残して先に逝ってしまったんだよ。天国にへとね。
妻を早くに亡くした男は妻の忘れ形見の娘と二人で仲良く暮らし始めたんだ。
「先生っ急患です」
「わかったすぐに行く」
不幸か幸いか男は医者だったんだ。
患者がいると聞けば、国境だって山だって越えて治療しに行ってしまうお人好しな医者。
「すまいねぇ……」
「いいんですよ。払うお金がないんじゃ仕方ないですよ」
貧しい人からお金をとらずに治療してしまうどうしようもなくお人好しな医者。
「……今月も赤字か」
そのせいでいつも経営は赤字。でも医者は、
「先生、ちょっと腹の調子が悪くて……」
「わしは腰の調子が……」
「せんせー、指切ったぁ」
多くの人に親まれ診療所は毎日にぎやかだったそうだよ。
診療所が赤字経営でも、家が貧しくてその日食べるのもやっとの生活でも、
「……ただいま」
「おかえりなさいっおとうさん」
使えれて帰ってきた自分を温かく向か入れてくれる、娘の笑顔を見ると疲れなんてどこ吹く風、どこか遠くに吹っ飛んでいって男は幸せな気持ちになるんだ。
この娘さえいてくれればそれでよかった。あとはなにもいらなかった。それは真実であり真意だったのにね。
「…………ッ」
「アンナ!?」
神という存在がもし本当にいるのだとしたら相当な曲者だね。もしくは相当な悪戯好きなのかもしれない。
ある時娘が倒れてしまったんだ。皮肉なことにも男から妻を奪った同じ流行病でね。
あれから月日が流れていた。医療も進化して治せなかった病も治せるようになっていたんだ、娘がかかってしまった流行病もしかりだね。
でも治す為に必要な新薬は、
「こ、こんなにですか……」
「それはそうでしょう。だって不治の病だと言われていた病が治せる薬ですからね」
目玉が飛び出してしまいそうな金額だったんだ。当然その日暮らしの貧しい医者にそんな高価なものを買うお金なんて逆立ちしても出てこないさ。
「頼みます!! どうか娘を! アンナを救うためにお願いっ」
「……ごめんなさい」
「……悪いけどうちにお金がないのはあんたも知っているだろう」
「……アンナちゃんのことは本当にお気の毒だけどねぇ」
国中頭を下げてまわったけど彼が助けた人々はみんな彼と同じく貧しい人たち、他人に施せる程生活に余裕はなかったんだ。
「……わたしは……だいじょうぶだから……しんぱいしないで……ね?」
男は日に日に弱っていく娘のただ黙って見ていることしかできなかった。
貧しくともぬくもりがあればいいと思ってた
だが 思い知らされた
金がなくては愛する者すら救えないのだと
いうことに気がついてしまった男はその後変わってしまったんだ。別人へとね。
「金を持ってこい。金がないのなら話ならない」
稼ぐために手段を選ばない拝金主義者なってしまったんだ。
やがて彼は巨万の富を手に入れた——土地を 財宝を 豪邸を 欲しい物はなんだって買える。
どんな高価な医療品だって買える。もうあんな悲しい思いをしないですむ。
「マリアンナ、アンナ。お前たちを治す為に必要だった新薬を持って来たよ。
ほら見てくれ、一つ、二つ、とケチなことを言わず何十個もあるぞ。これだけあればまた誰がかかったってもう……誰も……」
だけどね。男にもう守りたい人はいなかったんだよ。
愛する妻と娘が眠る墓前であの時買えなかった薬を握りしめ、ただ ただ立ち尽くすしていた……
大金を手に入れても、男は本当に欲しい物を手にすることはできなかったんだ。
命は——愛はお金では買えないのだから。
とある男のお話-fan-
- どうだったかな? ( No.3 )
- 日時: 2017/11/01 11:43
- 名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: 7hzPD9qX)
そう、自信満々のどや顔で聞いてくるお爺さんに私は
「ええ。とってもつまらない話をありがとう。つまらなすぎてあくびが出てしまったわ」
ふぁと見せつけるようにあくびを一つしてあげるわ。だって本当に眠くなるようなつまらない話だったのだもの。
「そうかい。楽しんでいただけたようでなによりだ」
……本当。このお爺さんには皮肉というものが通じないのかしら。
「そうね。一つアドバイスをいいかしら」
「おや、なにかな?」
「助けた人たちに見捨てられた医者が狂気に狂い、人間の臓器を抜き取り売買する死の外科医となったお話だったら少しは楽しめたかもしれないわね」
「お嬢さんはそうゆう話が好みなのかい? じゃあ次はそうゆう話にしようか」
次のつまらない話を話し出そうとするお爺さんに私はちょっとまってと声をかけた。
「お話は一つだけと言っていなかったかしら?」
「ああ、そう言ったよ」
お爺さんは平然と答えたわ。じゃあどうしてまたお話を放そうとしているのかしら。
「もうわたしのつまらない話を聞きたくないのなら、話の途中でも、今この瞬間でも、君はここから立ち去るはずだよ」
……確かにそうね。聞きたくないのならここから立ち去るのが一番……ってちょっとまって、
「どうして私が立ち去るのかしら、貴方が立ち去ればいいじゃない、お爺さん」
「それこそどうしてだよ、お嬢さん」
意味が分からないわ。首を傾げているとお爺さんは、
「わたしは君がそのベンチ座る前からここに座っているからだよ」
「どうしてそんなことが言えるの。証拠でもあるのかしら?」
「証拠なら君の中にあるよ、つまらなそうな顔をしたお嬢さん」
私の中に証拠があるですって?
「お嬢さん。わたしが声をかけるまで君はわたしを認識していたかな?
公園にいる人たちを認識していたかな?」
言われてみて初めて気が付いたわ。私は無意識にここの公園を選び来て、このベンチに座ったの。周りに人がいるなんて、こんな変なお爺さんがいるなんて全然気がつかなかったわ。
「人間は見たいものだけを見て、信じたい真実だけを信じると言うだろ? つまりはそうゆうことさ」
えっへんと胸を張っていうお爺さんに少々苛立ちを感じるわ。
「確かに私は貴方がいたことに気がつかなかった。でもそれは後からやって来た貴方のことが、かもしれないわよ? お爺さん」
どちらが先に来ていたなんて証拠はない。だからこの勝負に勝敗はない。なら少しでも私の有利に進める方がいいわ。
「はっはっ。勝ち誇っているところ悪いけど、わたしの方が先に来ていたという証拠はあるんだよ」
「はい?」
「それはこのつまらない話を聞いてくれれば理解してもらえるはずだよ」
——次にお爺さんが話し始めたつまらない話はレールの上に立った男の人達のお話でした。