ダーク・ファンタジー小説

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午後6時の神隠し1
日時: 2017/12/04 20:49
名前: yukine (ID: mM51WarG)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

第1章〔神隠シ、ソノ先ニ出会イト別レ〕

第1話〈世界に溶け堕ちる身〉

『ザー…ザー…』

赤、白、青、緑、黒…

色とりどりの傘を差し、忙しげに
駅前通りを歩いていく人々。

ビルやマンションなどの高層建築物が
立ち並ぶこの場所は意外と治安が良く、
警察官がよく巡回しているおかげか
私も安心して学校へ行けている。


私は屋根の下のベンチに座り、
傘を閉じてスマホの画面を見つめていた。

「………」

画面には『さよなら』という
四文字が並んでいる。

私がこれをあの時見なかったから、
あの子は死んだ。


雨足が強くなる。


「おいで」

「…え?」

何処からか聞こえた声。

優しい女性の声。

誰だろうか。

その声の主は見えない。

(…一体、何だったんだろう)

腕時計の針は真下の六時を指した。

午後6時。


体に走る寒気。

ベンチの固く冷たい感覚はやがて
冷たく湿った赤黄の何かに変わった。

「う…冷たい…」

起き上がるとそこにはベンチも
バスも人も居ない、木々の並びの中。

雨の音しか聴こえない。いや、
雨の音しかないんだ。

赤黄の何かは結局ただ湿っただけの落葉だった。

それにしても、制服も濡れて汚れてしまった。

何処へ行けばいいのだろうか。

そもそも此処が何処なのかもわからない。

「………あれ?」

視線の先には僅かな灯り。

それも不気味なことにチカチカ
点いたり消えたりしている。

「…行くしか、無いね」

立ち上がってその方向へ行く。

街頭のようだ。

それに沿って歩いていくと大きな灯り。

屋敷だろうか。

「すみませーん…」

その屋敷であろう建物の戸にノックをする。


「夏鶴希…玄関先に出てらっしゃい。」

「はい、…どちら様ですか?」

中から女性二人の声。

出てきたのは私と同じくらいの女性。

「あ…ええと、その…ここら辺で迷ってまして」

私は俯いてそう小さく言った。

すると出てきた方の女性…夏鶴希さんは微笑んで

「上がっちゃってください!どうぞどうぞ!」

と、私にバスタオルを渡して入れてくれた。

「ありがとうございます…!」

そして、私の目に映ったのは、誰だろう。

夏鶴希さんでもなく、それは見たことのある女性。

赤と黒の着物で、綺麗な顔立ちで…

どこかで見たような、そんな雰囲気を漂わせる人だ。

「…いらっしゃい、風呂に入ってきなさい。」

紅い蝶を周りで飛ばせるその姿は、
とても幻想的で…この世のものではないと
すぐに悟った。

私は脱衣場へ行き服を脱ぐと
大きな桶の浴槽に浸かった。

(あたたかい…。)

私が持っていた服に着替え風呂から出るころには
机には晩御飯が三つ、綺麗に置かれていた。

「どうして、私のまで…!」

私がそう驚いて夏鶴希さんに言うと、
夏鶴希さんはこう言った。

「ええと、ほら…ここから街までは
遠くてとても行けないし、それに…
私、紅燐様とだけじゃ寂しくって…。」

と。私はその言葉に一瞬思考奪われた。

「私は、此処で御飯を食べていいんですか…?」

そう、言うと後ろから

「?ええ。良いわよね、夏鶴希。」

「はいっ!」

その瞬間、私の目からは生暖かい滴が頬を伝った。

「ありがとう…ございます…!」


「そういえば…貴女、名前は?」

「あ…ええと、神崎結衣(カンザキ ユイ)です!」

「ふーん…学生みたいね。明日、送ってってあげる。」

(そんな、送ってもらうなんていいのかな)

「…で、でも、送ってもらうのは…!」

「………」

紅燐さんは、私を厳しい目で見た。

「な、なんです…か…?」

いつの間に居たのか私の後ろから夏鶴希さんが

「天憑喪は、元は妖達の住処だったんです。
だから、此所もそう。天憑喪で危険なんです。」

とそう静かに言った。

「天憑喪…?」

私は目を点にして紅燐さんに聞く。

天憑喪アマヅクモは…妖の世界、神の世界のこと。
自然を創り出し守り続けられてきたのよ。
つまり、貴女は…神隠しでここに来たって事。」

私は、紅燐さんの言っている殆どが理解出来なかった。

(こんなの、全く現実的じゃない。夢みたいだ。)


「天憑喪、かぁ」

私は案内された部屋の布団の中で
言われたことをまだ考えていた。

やけに大きな三日月が照らし続ける中で。


「ありがとうございました!」

私は世界の外への鳥居で紅燐さんに礼をする。

「良いのよ。また、いらっしゃい。」

「はい!!」

私は半スキップで駅へと向かった。

昨日の雨の滴が木からは滴っている。

「今日も、頑張ろう!」



第2話〈勉強という名の逃げ場〉

私は学校に着くと一番にノートを取り出した。

ノートには小説の文章がびっしりだった。

夢は、小説家。

周りは保育士やウェディングプランナーや
色々の職業を夢見ているが、私は小説家である。

だって、それが楽しみだから。

小説を書くのが生きる楽しみになるから。

誰かに嘲笑われたって、夢を見続ける。

ノートに話を書き込んでいく。


「何してるの?」


「ぅあ!?あ、ええと…」

話しかけてきたのはクラスの男の子。

そこそこ頭が良くて、K大を目指してるみたい。

そんな子が私なんかのノートを手に取り、
目を輝かせて文章を読んだ。

「そ、その…」

「面白いじゃん。ねぇ、もしかして小説家志望?」

私は小さくコクリト頷いた。

「そっか。本当になったら愛読するかも。」

「え!?そ、そんな、え…!?」

私は男の子にノートを返されると、
ボーっとしてそこに立ち尽くしていた。

「…?どうしたの?」

「い、いや!何でもないけど、
褒めてくれてありがとうございます。」

私がそう言うと男の子はクスッと笑って去っていった。

(待って待って、まだ状況整理が…)

褒められたんだ。それも、小説の事で。

私は少し嬉しかった。


あの子が生きてたら、

「どうしたの?」

なんて言って一緒に喜んでくれたのかな。

私は頬を伝う滴を着ているブレザーの袖で拭った。

スマホのメール欄の中には
まだあのメールが残っている。

消せないんだ。

『さよなら』

の一言が心に刺さったままで。

「今度、お墓参りしなきゃ」

そう呟いて、私は次の授業の教室へと向かった。


第3話〔白昼の茶会〕

「結衣さん結衣さん!」

「はい!」

私の横に居るのは夜也子ちゃんと黄泉子ちゃん。

また天憑喪に来たんだけどここで知り合った。

どうやら2人も妖で、
夜也子ちゃんは天使、
黄泉子ちゃんが悪魔のようだ。

私よりも年上で、一見子供に見えても
400歳ぐらいらしい。

「おーい、お前らー。…あ、こんにちは…」

「こんにちは。」

私と同じくらいの背か?男性が来た。

「あー、晋也!遅い!!」

「悪かった悪かった。で、その人は?」

晋也さんが夜也子ちゃんに聞くと、
夜也子ちゃんは

「結衣さんだよ!ね、黄泉子。」

「…うん。」

どうやら黄泉子ちゃんはあまり話さない子のようだ。

…悪魔だからかな。

私はあまりこの子と話したくはない。

そう考えると三人と別れ、家へ帰った。


第4話〔悪夢〕

ここはどこ?

ただ悲しい。

手は紅く濡れて、右手には
ナイフが握られている。

誰かの呻き声。

私がしたのか?


わからない。


ただ自問自答を繰り返しながら
私は立ち尽くしている。

今にも潰れてしまいそうなくらい心臓が痛い。

鼓動も速く、死にそうだ。

でも、涙は出ない。

どうして?

どウしテ?

ドウシテ?

ねえ、どうしてなの。

ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ



ねえ








ねえ、ねえってば。

どうして泣けない?

このままじゃただ悲しく辛いだけなのに


第5話〈電車に揺られあの場所へ〉

『ガタンゴトン』

結衣以外誰も居ない車内。

背中に橙色の光が当たる。

(着くのは日没か…)

ふぅ、と溜息をつきそう考える。

都会駅から2時間。

ただ、小説に話を書き込んでいく。

ふいに笑みが零れる。

こうしている時が一番楽しい。

「まもなく、水鳥駅ー。水鳥駅ー。」

私はその駅で降り、目的地を目指し歩いた。

私は妖系の小説を書いていて、
ここには幻妖祭があるとして来たのだ。

それもただの都市伝説。

辺りはただの街なのだ。

私は夕暮れ道を山に
向かって歩いていった。


「人は喰えども妖喰わぬ〜
あたしゃそんなの気にしちゃいない〜
そんでも宴じゃ酒飲め肉食え、
いそがしいもん〜だぁ〜ねぇ〜♪」

「………」

どういう歌なのかはわからないが、
とりあえずヤバイ事はわかる。

赤い着物を着た少女が歌った。

私はそれをそっと見ている。


妖は居る。

私は実際に見たのだ。

紅燐さんだって、夜也子ちゃんだって
妖だったのだ。間違いない。


『ガシャンガシャン』


私は食器の擦れ合う、
当たる音を確かに聞いた。


─続く─


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