ダーク・ファンタジー小説
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- 京洛奇譚
- 日時: 2018/07/31 11:22
- 名前: 綾野美桜 (ID: .Ksjqplx)
あらすじ
「死が死を呼び、それは都市全体に連鎖する———」
人間と、“異能”と呼ばれる特殊能力を持った者たちが住む都市、京洛(きょうらく)。その中の「本町」の中心部に位置する探偵社、「表推理(ミステリ)探偵社」に、一人の青年がやって来た。彼の名は稲宮探苳(いなみやさぐふき)といい、興味本位で探偵社に入ることを決意する。探偵社社長である綾咲幸人(あやさきゆきと)から、一年の「仮入社期間」を命じられた稲宮だが、現実は全くと云って良い程甘くなく…。そんな中、猩猩裨益(しょうじょうひえき)という男性から、“異能者”とはどんな者なのかということを聞かされた稲宮。それを聞いた彼は、驚きと恐怖と絶望に、言葉を失う———。
そして探偵社に忍び寄る、異形の影———。それを機に、都市全体で次々と、恐ろしい程凄惨な事件が発生し始める。
事件の裏に潜むのは、いったい何者なのか。そして、その目的とは————?
- Re: 京洛奇譚 ( No.1 )
- 日時: 2017/12/04 15:04
- 名前: 綾野美桜 (ID: XAuc/Noz)
初めまして。綾野美桜(あやのみさ)です。
遅筆で内容が伝わりにくいかもしれませんが、次回から連載を開始する予定なので、読んでいただければ幸いです。
- Re: 京洛奇譚 ( No.2 )
- 日時: 2017/12/04 15:13
- 名前: 綾野美桜 (ID: XAuc/Noz)
第一話 探偵社と研究会
1
2017年1月6日。
稲宮探苳(いなみやさぐふき)は大学からの帰り道、今までにないくらい憂鬱(ゆううつ)な気分だった。別に嫌なことがあった訳ではない。ただ、家に帰ってもすることがない、要は暇なのである。
だからといって出かける用事もないし、出かける友達もいない。本と読む気にもなれない。
(僕って、友達ができない体質なのかな……)
友達ができないことに体質が関係するのかなどと思いつつ、稲宮が路地の前を通り過ぎようとした、そのとき。
稲宮に向かって一羽の鴉が「カア、カア」と鳴いた。それに応えるようにして、一匹の黒柴が「ワンッ! ワンッ!」と吠え、何処(どこ)から来たのだろうか、一匹の黒猫が鴉と黒柴の仲裁に入るかのように、威嚇した。
その異様すぎる光景に、稲宮はその場に立ちすくんでしまった。——と。
路地の方から「ニャーオ」と猫の声がした。とたん、三匹の声がピタリと止んだ。稲宮はおそるおそる路地に近づき、中をのぞいてみた。そこには黒猫と鴉と犬——おそらくは雑種だろう——が、それぞれ一匹ずつ、行儀よく坐(すわ)ってこちらを見ていた。黒猫が路地の奥へと歩みを進め、やがて見えなくなった。鴉と雑種犬が後に続き、外にいた三匹もそれに続いた。
「何なんだ」
そう呟くと同時に、無意識に体が動いていた。あの猫たちが行った、路地の奥へと。そこには何があるのか、何故(なぜ)だか無性に気になった。
薄暗い路地を、ゆっくりと歩を進めていく。やがて、一気に視界が開けた。そして目の前にあったのは、レンガ造りの六階建てのビルヂングだった。
建物に近づき、ドアの取っ手に手をかけ、押した。入ってみると、中は驚くほど殺風景だった。右横に階段があるだけで、あとはひたすら廊下が伸びているだけなのだ。
このまま帰るのはなんだか味気なく感じたので、稲宮は試しに二階へ上がってみた。階段を上りきると、正面にドアがあり、そこに取りつけられているプレートにこう書いてあった。
『表推理探偵社』
「…探偵社?」
不思議な気分にとらわれながらも、稲宮は興味本意でドアを開けた。
- Re: 京洛奇譚 ( No.3 )
- 日時: 2018/07/31 11:29
- 名前: 綾野美桜 (ID: .Ksjqplx)
2
中は意外と広々としており、そこに八人の男女がいた。その内の三人はおそらく高校生くらいだろう。
そういえば——と、稲宮は思う。
ここに来る前に路地で見た、あの動物たちがいない。もしや、ここじゃなかったのだろうか。
「おや、何か用かい?」
室内にいた男性に、突然声をかけられ、稲宮はドキリとした。
茶髪を首の後ろで少し束ね、フレームの薄い眼鏡をかけた男性が、右奥にある机に坐って声をかけたのだった。その男性の声に、室内にいた残りの七人が一斉に稲宮の方を見た。——と。
「あっ!!」
少し高めの少女の声が、室内に反響した。
「先刻の人だ!」
入り口付近にいた三人の少女の内、一番左にいたポニーテールの少女が稲宮のことを指さしてそう云った。それを聞いた稲宮は不思議に思った。この少女と何処かで会ったことがあっただろうか。
すると、先程稲宮に話しかけた男性が、此方まで聞こえる程の大きな咳払いを一つした。
「君、名前は?」
そう云った男性の眼には、鋭い光が宿っていた。
その眼光にただならぬ気を感じ、稲宮は思わず「え…僕、ですか?」と問い返した。
男性はクスリと笑い、「他に誰がいるんだい?」と云った。
「えっと、稲宮、探苳ですけど…」
「稲宮君か。丁度いい、ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかい?」
「頼みたいこと…ですか? …いいですけど」
「あら、断らないのね。どんな頼まれごとかも分からないのに。もしかしたら、とても危険なものかもしれないわよ」
と、男性の隣にいた女性が、冷たい口調でそう云った。男性は女性の頭をポンと叩き、「少し云い過ぎだよ」と云った。それを聞いて、女性はそっぽを向く。
「じゃあ、行こうか。詳しいことは着いてから説明するよ」
男性に促され、稲宮は探偵社を後にした。そして思った。
——此処は、何処か奇怪しい。
- Re: 京洛奇譚 ( No.4 )
- 日時: 2018/07/31 11:30
- 名前: 綾野美桜 (ID: .Ksjqplx)
3
何処に向かっているのか訊こうとして、稲宮は少し戸惑った。
「あ、あの…えっと…」
「ん? 何?」
男性に尋ねられ、稲宮はおずおずと「まだ…名前を聞いていないんですけど、何て呼べばいいですか?」と問うた。
それを聞いた男性は「うーん」と云って暫く考え込んだ後、「何でもいいよ」と云った。
「え…何でもいいんですか…?」
「うん。君が思う僕のイメージ通りの呼び名で呼んでくれればいい」
突然そんなことを云われても…と稲宮は思ったが、その直後、誰かの、女性の声が稲宮の頭の中で響いた。(……ト……キト……ユキト)
「…じゃあ、ユキトさん」
「何?」
「あの…何か僕たちの後をついてきてるみたいなんですけど……」
そう云って、稲宮は右斜め後ろの方を指差した。そこには、一匹の狼が稲宮たちの後をついてきていた。
「ああ、それなら気にしなくていいよ。ただついてきてるだけだから、安心して」
「…はあ」
とりあえず頷いた稲宮だったが、実のところ、狼がついてきているという時点でものすごく不安なのだが——。
「ところで、稲宮君」
唐突に声をかけられ、稲宮は「はい?」と云った。
「君、それが見えるのかい?」
「……え?」
一体何を云っているのだろうか、この人は。ここにいる狼は、〝見える〟ものではないのだろうか…と、そんな疑問が稲宮の頭をよぎった。
「…あの、それって、どういう……」
「うーん、そうだなあ。あえて云うなら、それは普通の人間には〝見えない〟ものだ、ということくらいかな」
「普通の人間には、見えないもの……」
——この狼が。
銀色がかった白い毛並みをして、金色の瞳を持った、息をのむほど美しいこの狼が——。
——普通の人には、見えないのか。
「ほら、着いたよ」
男性(仮にユキトとする)の声で、稲宮は我に返った。
そうして、目の前に広がっている光景に、稲宮は目を疑った。
今時珍しい木造の二階建ての建物。その周囲にはりめぐらされた、「KEEP OUT」の文字が入ったバリケードテープ。その手前には、数台のパトカーと警察官。これは——。
「——事件、現場?」
稲宮の言葉に、ユキトは頷く。
「じゃあ、説明するね」
そこでユキトは一呼吸おいて、云った。
「君には、これからあの建物で起きた殺人事件を解決してもらう。誰の手も借りず、君一人でね」
「えっ!?」
あまりに突然のことに、稲宮は驚きの声を上げた。
「そ…そんな! 無理ですよ! 警察関係者や探偵ならともかく、僕みたいな全くの素人が事件を解決するだなんて!」
稲宮がそう云うと、ユキトは「じゃあ、一つ君にアドバイスをしてあげよう」と云った。
「何事にも、既に経験しているから有利というわけじゃない。未経験なら未経験なりに、どうすれば達成できるのかを考えてみることだ」
ユキトはそう云ってにこりと笑い、稲宮を現場へ送り出した。
- Re: 京洛奇譚 ( No.5 )
- 日時: 2018/07/31 11:31
- 名前: 綾野美桜 (ID: .Ksjqplx)
4
「妙な雰囲気の奴だな」
ユキトは声のする方を見た。そこには、先程自分たちの後をついてきていた白狼がいた。
「やっぱり君もそう思う?」
「ああ。探偵社に来た時から感じていたから、気になってついてくれば…」
そう云って白狼はユキトをギロリと睨む。
「お前、俺のことを『それ』と云ったな?」
その言葉を聞いたユキトは「何だ、そんなことで怒るなんて、随分と短気だね」と云った。
怒りのあまり、白狼はユキトに飛びかかろうとして両前足を上げたが、あっさりとユキトに頭を押さえられた。その手を振り解こうと、白狼は前足をバタバタと動かす。
「それに、妙な奴を探偵社に入れようとするなんてな。俺は断固反対だ」
「何故?」
ユキトの力が緩んだ隙を突いて、白狼はユキトの手から漸く逃れた。「『何故』って、君は自分がどんな立場にいるのか解っているのか?」
白狼の問いに、ユキトは何も答えない。そして白狼は、静かに一言、こう云った。
「アイツを入れたら君、すぐさま殺されるぞ?」
白狼の言葉に、ユキトは口の端を上げてニヤリと嗤った。
「それはそれで良いじゃないか。つまらない人生を送っているより、よっぽど楽しいだろうね。それに、彼がそうしてくれる人物か今確かめているじゃないか。何事もスリルがなくては面白くない。そうだろう?」
それを聞いた白狼は、ユキトに向かってただ低く、唸っていた。
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