ダーク・ファンタジー小説

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Linker Game
日時: 2018/02/02 16:53
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

はじめましてこんにちは。
北風です。

気まぐれ更新になるかもですが、全力で書きますので読んで頂ければ幸いです。
感想、アドバイスどんどんください!!

Twitterは@kitakaze_kitune です。
気が向いたらで良いのでフォローしてください。

Re: Linker Game ( No.1 )
日時: 2017/12/05 00:52
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

《9月4日 土曜日 11:24》
《都内某住宅街 一般住宅》
《加薪(KAMAKI)巡(MEGURU)自室》



「巡ゥ、ピンチだよピンチ。私の人生始まって以来11回目のピンチだよ」
「割と訪れてるじゃねえか」
「毎年訪れるんだよ、不思議なことに」
「小学校入学してから毎年、か?」

キャスター付きの椅子の上で、加薪巡はフローリングの床に座り込んだ少女を見下ろした。
長い黒髪を左右で二つに結った小柄なこの少女の名は、木藤とおる。
その幼い髪形に違和感を覚えないほどの低身長かつ童顔だが、巡と同い年の高校二年生である。

深刻そうな面持ちで巡を見つめるとおるの小さな腕には、何冊かの冊子と何枚かのプリントが抱え込まれていた。

「……そうだよ、夏休みの宿題だよ——うっ! この単語口にしたくない!!」

「重症だな……」

苦そうな顔をするとおるに、心底呆れたような目を向ける巡。

今日は9月の4日。
昨日までに宿題の大半は回収されたはずだ。
それなのにも関わらず、とおるの腕の中には、全教科の宿題が配布された時のままの姿で鎮座している。
これが何を意味するか、付き合いの長い巡でなくとも分からないはずが無かった。

「お願いします……手伝ってください……」
「はぁ……」

彼がこの言葉を聞くのも、これで11回目になる。
それに対してのため息を吐くのも、また11回目だ。

巡にとってのこのやり取りは、9月の訪れを告げる季節の便りのようなものだ。

今年もまた9月が始まる。

部屋の窓から、まだ夏の名残りを感じさせる入道雲を仰いだ。

Re: Linker Game ( No.2 )
日時: 2017/12/05 01:27
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

《9月4日 土曜日 16:56》
《都内某住宅街 一般住宅》
《加薪(KAMAKI)巡(MEGURU)自室》


小さなちゃぶ台を挟んで向かい合う二人。
その上には巡の母が持ってきてくれたお握りがあるが、それを除けば勉強道具しか乗っていなかった。
4、5畳の部屋の中には、シャー芯を紙が削り取っていく音だけが響いていた。

数学の冊子を前にして、巡は苦戦していた。
自分の宿題は終わっているのだから間違いなく一回は解いたはずなのだが、何時間も続けて問題に取り組んだせいか、上手く頭が回らない。

このまま考え続けるよりも、一度脳を休ませた方が良いと判断し、巡はシャーペンを机に置いた。

「とおる、そろそろ休憩するか。疲れただろ」

そう言いながら、とおるの取り組んでいた作文の用紙を覗き込む。
そして巡は言葉を失った。

2時間前からとおるが向き合っている400字詰め原稿用紙。
その冒頭2行に『夏休みの思い出』『2年D組 14番 木藤 とおる』と書いてある。
いや、書いていない。
それしか、書いていない。
それ以外のスペースには、原稿用紙のアイデンティティを真っ向から否定するようなイラストの数々。
自分をモチーフにしているのか、大体どのイラストでも黒髪ツインテールの少女が銃を手に立っている。

「………………とぉる…………」

数十秒の沈黙の後、漸く絞り出した巡の声に、とおるがビクンと反応する。
どうやらイラスト制作に夢中になりすぎて先の巡の言葉は耳に届いていなかったようだ。

「め、巡? 何?」

今更ながら両手でささっと用紙を覆い隠すとおるだったが、誤魔化しきれていないことは自分でも分かっているようで、目が盛大に泳いでいる。

「何じゃねぇよ……むしろこっちが何だよ……なんだよその絵……」
「あ、はい。今話題のゲーム『Linker×Gunner』のキャラメイク案で——」
「いや全然分かんない」
「そ、そんな食い気味で……」

おどおどと視線を彷徨わせるとおるとは反対に、巡は呆れの余り無表情だった。

「えっと……え? この2時間俺は他人の宿題に至極真剣に取り組んでいたというのに、当のとおるさんはゲームのキャラメイクについて考えてたということでよろしいですか?」
「そ、そういうことに……なりますね、はい……」

巡はしばらく怯えきったとおるの顔を睨み付けていたが、不意に脱力すると、ちゃぶ台に突っ伏した。
これ以上、この少女に労力を使いたくない。
怒りよりもそんな考えが勝ってしまった結果だった。

「ご、ごめんね……つい夢中になっちゃったんだよ……」
「……いやもう良いわ……ていうかどうやったら2時間もキャラメイクについて考えられるんだ……」
「り、『Linker×Gunner』は奥の深いゲームなんだよ! キャラメイクのバリエーションだけでもなんと」
「ああああもう黙れ! リンカーなんとかについての魅力は語らなくて良いから!! お前は宿題をやれ!!」
「う、うう……はい……」

巡の迫力に気圧されてとおるはシャーペンを握り直す。
だが、好きなゲームを語れなかったことに対しての不満感は抱いているようで、どこか不貞腐れたような表情だ。

とおるは生粋のゲーマーなのである。

「お前は本当にゲームオタクだよなぁ。夏休み中もどうせゲームばっかりしてたんだろ」

巡はちゃぶ台に顎を乗せてそう言った。
図星を突かれたとおるは、聞こえないふりをしながら新しい原稿用紙を取り出している。
せっかく描いたイラストを消すのは忍びないらしい。

「なんでそんな生産性ゼロのものにハマっちゃったのかねぇ」

とおるがピタリと動きを止めた。
だが巡はそれに気付かず、さらに言葉を繋げた。

「ゲームなんて出来たところで何にもならねぇだろ。そんなものに時間
を使うのって勿体なくねぇ? そもそも——」


バァン!! と。


突然響いた音が何なのか、巡は一瞬理解出来なかった。
が、次の瞬間。
ちゃぶ台に乗せていた顎の痺れと、ブレる視界の中で勢いよく立ち上がったとおるの姿で、とおるが思い切り両手でちゃぶ台を叩いたのだと分かった。

「と、とおる……?」
「謝ってよ」

先程までの態度とは一転、とおるは大きい瞳を鋭く細めて、低い声でそう言った。

「私をはじめとする全世界のゲーマーに謝ってよ!!」
「え、えええ……?」
「早く!!!」

再びちゃぶ台を叩かれ、部屋の外から母が「どうしたのー?」と問いかけてくる。

「な、なんでもないよ母さーん! わ、わかったとおる。謝る。謝るから落ち着いてくれ」

すいませんでした、と頭を下げながら、巡は心の中でさっきの言動を悔いた。

とおるは普段は穏やかすぎて困るくらい穏やかな性格だが、ことゲームが絡むと話は違ってくる。
ゲームを前にしたときのとおるの集中力は尋常では無いものがあるし、今のようにゲームやゲーマーを邪険にされたときは鬼のように怒り狂う。

今までの経験だと、今回も恐らく謝っただけでは許されないだろう。

「謝っただけで許されると思ってるの?」

ほら来た、と巡は口の中で呟いた。

「何を……すれば許してくれるんだ?」

現金だろうか、サンドバッグだろうか。
はたまたチャリで市中引き回しの刑だろうか。
巡は過去の過ちとその際のとおるを思い返し、思わず身震いした。

だが、次の瞬間耳に飛び込んできた言葉に、巡は拍子抜けした気分になった。

「そうだなぁ……『Linker×Gunner』を一緒にやってくれたら、許してあげるよ」

Re: Linker Game ( No.3 )
日時: 2017/12/05 01:39
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

《日時不明》
《場所不明》



「うわあああああああああああああああ!!!!」

灰色の空に、絶叫が轟いた。
泣き叫ぶまだ若い女は、小さな肉塊を強く強く抱き締める。

「死んでますよ、それ」

そんな女に、無造作に言葉をかける青年がいた。
女は泣くのをぴたりと止めた。
青年を睨むその眼差しは、果てしない絶望を憎しみだけを湛えていた。

「殺してやる……」
「無理ですよ」
「殺してやる!!」

女の腕から肉塊がドチャリと落ちる。
血に染まった腕で、女は青年の胸倉を掴んだ。



「絶対に殺してやる!! 現実に戻ったら! 必ず! お前を————殺してやるからな!!!!」


Re: Linker Game ( No.4 )
日時: 2017/12/05 02:41
名前: 北風 (ID: rk41/cF2)

《9月4日 土曜日 17:21》
《都内某住宅街 一般住宅》
《加薪(KAMAKI)巡(MEGURU)自室》


「本当にこんなことで良かったのか?」
「ん? 別のが良かった?」
「いっいや……」

『Linker×Gunner』の文字が浮かび上がるPCモニター。
満面の笑みを浮かべるとおる。
宿題は?だなんてとても言い出せない雰囲気に、巡は本日何度目かになるため息を吐いた。

「リンカーガンナーってオンラインゲームだったのか」
「そうだよ。巡はオンライン初めて?」
「ああ、そもそもゲーム自体あまりやらないしな」
「……まあ、ゲームをやる人があんなこと言えるはずも無いしね」

巡は一瞬地雷を踏んだかと焦ったが、とおるが依然笑顔なのを見て胸を撫で下ろした。

「ご機嫌だな。そんなに嬉しいのか? 俺とゲームできるのが」
「そりゃあ嬉しいよ」
「っ!?」

冗談めかして尋ねればあっさりと肯定され、巡は戸惑いを露わにする。

「だってこれ二人一組でしかプレイできないんだよ。ほら私ご存知ゲーム仲間いないし……? 巡? 顔赤いけど?」
「えっあっや、な、なんでもない……か、変わってるんだな、二人一組でしかできないって」
「うん、まああんま無いよね。ゲーマーってボッチ多いし」

勘違いしたのが恥ずかしくなり、咄嗟に誤魔化した巡だったが、怪しまれてずに済んでまたも一安心した。
そうこうしている間に、とおるの巧みな手さばきにより、着々と登録が進められていく。

「とりあえず巡の方の登録は完了したよ。私はすでに登録してあるから、私のIDを入力して……っと」

画面上に巡のIDと自分のIDを打ち込んでいくとおる。
その下にある『Link』と書かれたボタンをクリックすると、ゲーム画面に切り替わった。

「終わったよ! これで遊べるよぉ!」
「おお……相変わらずパソコンの腕は大したもんだな」
「何おじいちゃんみたいなこと言ってるのー」
「お、おじいちゃ……あれ? そういえば、俺の部屋にパソコン一台しかないけど、お前はどうやって遊ぶんだ? 二人一組なんだろ?」
「ああ、私はスマホでやるから大丈夫だよ」

そう言ってとおるはポケットからスマホを取り出して操作し始めた。

「スマホでもできるものなのか?」
「うん、単純なゲームだからね。基本リンクしたペア間で撃ち合いするだけのゲームなんだよ。でも他のリンカーとも協力とかできて……」
「リンカー?」
「ああ、『プレイヤー』みたいな意味。このゲームやってる人は皆誰かとリンクしてるから」
「へぇ。ちなみにその協力ってどういう……」
「ああもう、とりあえずやってみようよ。そしたら分かるって。ほら、私もログインしたよ」

笑顔でスマホの画面を見せるとおる。
巡も何の気無しに画面を覗き込んだ。



「あれ?」



「? どうしたの?」
「これ……俺のとゲーム画面が違うぞ?」
「えっ嘘? そんなはずは……」

とおるは慌てて画面を確認した。

画面には、本来描かれるはずの銃やステージは一切描かれていなかった。

その代わりに、真っ白な画面に一言。




『You are 5th linker』




とだけ書かれていた。


「何これ……5番目? そんなはずないよ……だってこのゲームは世界的に人気で……そもそもこんな画面聞いたこと……」
「とおる! 俺のパソコンも!」

きょとんとして呟くとおるに、巡が叫ぶ。
見れば、巡のPC画面にも同じ文字列が浮かんでいた。

「何か変だぞ、これ! ずっと画面が変わらないし、操作も出来ない」
「え、怖い……ちょっと一回電源切ろう……………………嘘」

とおるの目が恐怖と困惑に見開かれた。

「切れない! 電源切れないよ、これ!!」
「こっちもだ!!」
「それにこれ……光が……?」

真っ白な画面が、徐々に光量を増していく。
二人が呆然と見守るうちに、スマホとPCから発せられる光は、目を開けていられないほどのものになっていた。

「う、うわあああ!! 巡!!」

とおるが悲鳴を上げて巡に抱き着いた。

「何これ!! 何なの!?」
「俺が知るかよ!!」

パニックになり、上手く働かない頭で、巡は考える。
眩しさで開けられない目で、必死に見据える。

——とおる。




じきに光は失明するのではないかと錯覚するほどの強さになっていった。


意識を手放す直前、巡はとおるを抱え込むようにして抱き締めた。


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