ダーク・ファンタジー小説
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- 日ノ本恠嵜踏査譚 ~黒ク歪ミシ滝~
- 日時: 2017/12/20 22:33
- 名前: リオ.期待を裏切らない裏切り者 (ID: i33vcyQr)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12106
日ノ出ヅル国、日本。
亜細亜ノ極東ニ位置シ、複数ノ島カラ成ル国。
八百万ノ神々ガ深キ眠リニツキシ神国。
長キ歴史ノ面影ト、時代ノ先端ヲ行ク風景ノ並ビシ此ノ国ニオイテ
二人ノ若キ者共ガ紡ギ出ス、恠嵜ニ立チ向カイ、其ノ真相ヲ追求セシ物語。
と、だいぶ厨二臭い仕様となってます。
気が向いたら書いていきますよーいくいく
※読者姉貴兄貴達へ※
この作品はフィクションだゾ。(実際の場所、団体等とは一切関係が)ないです。
これだけ理解して読んでくれよな〜頼むよ〜
- Re: 日ノ本恠嵜踏査譚 ~黒ク歪ミシ滝 壱~ ( No.1 )
- 日時: 2017/12/18 17:39
- 名前: リオ.期待を裏切らない裏切り者 (ID: i33vcyQr)
日本。
アジアの極東に浮かぶ、複数の島から成る国家。
面積は約37万平方キロメートル、人口は1億人を越す民主主義国家である。
ビル等が立ち並ぶ先進国としての顔立ちと共に、古くからの由緒正しい神国
の面影も残しており、それは各地でも見ることができる。
47の都道府県に分けられる国土の北端が北海道、南に沖縄であり、北海道に
至っては冷帯に属しており、比較的涼しい夏が訪れるため、避暑地として
観光に来る客も少なくない。
そんな北海道の広大な土地の中に作られた高校が1つ。その名は道立浦風高校
という。北海道の中でも日高と呼ばれる地域に建てられたその高校は、その地区でも特に学力の高い生徒を集めた、当日点重視の7学級の普通科を設置している学年制の高校である。
そんな浦風高校に通う生徒の中でも、特に秀でた生徒が2人。
1人は2年の弥永凜央。華奢な体型で肌は象牙色、癖のないストレートの黒髪で、後ろはツインテール、前髪は右目が隠れるように分け、その間から覗く瞳は長い睫毛で覆われている。外出時は黒のトレンチコートを羽織り、制服であるセーラー服とトレンチコートの間に臙脂色のマフラーを巻いていることが多い。また、時折赤縁の眼鏡を掛けていることもある。
という、一見すると「話しかけたら冷たい視線で返されるだろう」と思われても仕方がない彼女だが、人当たりは良く親切であり、そのイメージが崩されたという人も多い。そして、彼女は極端な理系人間。俗にいうリケジョというものである。定期テストの際も、数学と国語の点数差が60点以上はいつものこと、といった具合である。もう1人の友人によって、何とか追試は免れようとしているようだが、中々上手くいかないことが多い。そして、退かないところは絶対退かない性格で、本人はそれが無意識のため、自然と人を怒らせたりもする。
そして、もう1人が芥川瑠斗。凜央と比べると少し茶色がかった癖毛を、目に入らない程度の長さでボブカットにしている。目は垂れていて、肩幅が少し広め。外出時には、制服の学ランの上にフード付きのウィンドブレーカーを着て、フードを被るだけの簡単な服装をする。
一見、眠そうで何を考えているかわからないように見える彼ではあるが、凜央に同じく人当たりは良い。とはいえ、凜央の根っからの優しさに比べると、こちらは猫を被っているだけで、裏では散々愚痴を吐いている。そして瑠斗は、凜央とは正反対の文系で、理系ではまるで点数が取れない。特に言語学が秀でていて、英語の他にドイツ、イタリア、フランス、ラテン、アラビア語などを習得している。そして、凜央とは古くからの仲であり、無意識に人を怒らせる凜央のフォローに回ることもよくある。凜央には理数をよく教えてもらっている。
という具合に、個性に満ち溢れたこの2人だが、お互いに心霊や怪奇といった類のものを好んでおり、よくスポットに調査をしに行ったりしている。
この2人が、日本各地のスポットを調査していく上で、様々な事件、事故に巻き込まれ危機を迎えるであろうということを、この2人は知るよしもない。
- Re: 日ノ本恠嵜踏査譚 ~黒ク歪ミシ滝 貮~ ( No.2 )
- 日時: 2017/12/18 16:17
- 名前: リオ.期待を裏切らない裏切り者 (ID: i33vcyQr)
師走上旬。
北海道でも太平洋側であり雪が少なめの日高にも、遂に雪が積もった。
一度外に出てみれば、各々の家の前の雪かきをする老人、公園で雪遊びを
する小さな子供などが彼方此方に見て取れる。北海道の冬ならではの光景だ。
そんな、雪化粧を施された町を、凜央は校舎の二階から、気怠そうに眺めていた。凜央は細い欠食児童のような体型をしている上、体力もない。それなのに、毎年雪が降れば必ず雪かきを家族に任される。雪の積もった外を見ては、今年も任されるのか、なんて思って憂鬱になる。毎年冬になると見られる凜央の姿だ。
しかし、彼女が気怠そうにしている理由は、それだけではなかった。
彼女は趣味が高じて、瑠斗を連れて心霊スポットに足を運ぶ。そのタイミングは、心霊現象が起こったと噂されて直後というのが基本なのだが、最近は中々そういった類の話を聞かなくなってしまった。要するに、退屈なのだろう。
そうして、凜央がため息を吐こうとした時に、教室の扉がガラッと音を立てて開いた。その向こうに立っていたのは、栗毛色のボブカットの青年、瑠斗だった。そうして彼は、教室の中に凜央の姿を見とめると、駆け足気味で寄っていった。凜央の真横辺りに立って彼は、嬉々として口を開いた。
「凜央、面白い話が入ったぜ。心霊現象があったんだってさ」
その声に気付いて凜央はハッとして瑠斗の方を向いて、彼が抱えてきた沢山の
プリントに目をやった。
「面白い話? 詳細は? そのプリント?」
と凜央が問いかければ、瑠斗はプリントの束を机にドサッと乗せた。そのあまりの多さに苦笑を抑えきれない様子の凜央は、プリント一枚一枚に目を通しながら
「また大量に刷ってきたね。紙の無駄だって怒られても、私は知らないよ」
と瑠斗に対し言い放つ。今まで何度もそうやって資料を持ってきていた瑠斗だが、その多さ故、先生に度々怒られている。その度に上手く機転を利かせ、言葉巧みに逃げてくる辺りが、彼の悪質なところであろう。
「いやぁ、どうしても必要なものを集めたらこうなってさ」
そう笑いながら返す瑠斗は凜央が資料を読み終え感想を述べるのをわくわくと
しながら待っている様子だ。暫くして、凜央がやっと全ての資料を読み終え、
感想を伝えようと口を開いた。
「ふーん、場所は札幌市西区……名前は『平和の滝』……平和の名を関する場所で心霊現象なんてね、困ったものよ。最近になってそういうことが多くなってるのかな。内容としては『滝を見つめたまま動かない人影を見つけて、そのまま歩き去ろうとしたら同伴者が滝壺で溺れていた』とか、『この公園の近くのトイレでかつて焼身自殺があったようで、焦げ臭い匂いのした方を撮影したら、火達磨の霊が写っていた』……有りがちではあるけど、中々だね」
「だろ? 俺的には心霊写真の方より、滝壺であった事件が気になる」
瑠斗が、凜央の読み終わった資料をまとめながらそう呟く。そうしてまとめ終わった瑠斗は、思い出したように付け足した。
「……あ、そうだ。滝壺事件の生き残り……って言ったら失礼か。の、人と連絡がついてるんだ。俺、やっぱりすごいだろ」
そう誇らしげに言い放つ瑠斗を見て、凜央は変わらない表情で
「いつものことでしょ、いっつも瑠斗は何処からともなく連絡取れるようにして。感心するよ」
と、本人にそのつもりはないが、受け取り方によっては皮肉に聞こえなくもないような返答をする。それを聞いた瑠斗は、
「あいよ、いつもお褒めありがとう」
と、皮肉にしか聞こえない返答を、逆に凜央に返す。しかし凜央はふっと微笑み
「どういたしまして」
と返事をした。瑠斗は苦笑して、皮肉で言ったのにな、と思って、今にも吹き出しそうなのを堪える。そうして、そろそろ切り出そうと思った瑠斗は、凜央に
「で、本題なんだけどな。次の土日使って、ここに調査をしに行かないか?」
と明るめの表情で、まるで遊びに行かないかと言っているような誘い方をした。
「調査? 瑠斗も好きだね。まぁ私もそうなんだけど。で、次の土日ってことは泊まり込みってことだよね。民泊でも使うの?」
凜央も乗り気である。久々の心霊スポット調査だからであろう。
「いや、ホテルは取ってあるから安心してくれ。ただ俺らも学生だし、予算もあまり無いから、一部屋しか取れてない。我慢してくれ」
「別に構わないよ。慣れてるから。しかしホテルまで取ってるなんて、用意周到だね。行く気満々だったのが私でも見て取れるよ」
凜央がそう言えば、瑠斗は声を上げて笑って
「凜央にすら悟られるか、俺も末期だな」
と言っていたが、凜央には何が面白いのかわからなかった。
一方、瑠斗は笑いながら時計にちらっと目をやっていた。そろそろ周りの生徒も減ってきつつある。自分達もそろそろ帰って、少しずつ次の調査の準備をするべきだろう。瑠斗は凜央に
「そろそろ、俺らも帰らないか? 周りも減ってきてるしな」
と言う。凜央もそれを聞いて時計を見ては、鞄を取って立ち上がって
「もうこんな時間なんだね。うん、いい加減帰ろうか」
と返答した。
「折角だから、帰りに俺の家に寄ってかないか? 美味いご飯作るぞ?」
瑠斗は、資料を鞄にしまいながらそう提案する。
「あっ、いいね。私、家だと碌なもの食べてないからなぁ……」
と嬉しそうに賛成している。それを見た瑠斗は笑って返した。
「どうせカップ麺なんだろ? だからそんな貧相な体型なんだよ」
「私は低燃費だから充分なんだよ」
そんな話をしながら、2人は玄関へ向かったのだった。
調査3日前、瑠斗の料理を、普段からカップ麺しか食べていないという凜央は
美味しそうに食べていた。瑠斗が彼女に手料理を振る舞う理由、それは彼女の
欠食児童のような体型と貧相な上半身の"それ"を、少しでもどうにかするためであるということ。このことに、凜央が気づく日は来るのだろうか。
- Re: 日ノ本恠嵜踏査譚 ~黒ク歪ミシ滝 参~ ( No.3 )
- 日時: 2017/12/18 17:33
- 名前: リオ.期待を裏切らない裏切り者 (ID: i33vcyQr)
あれから3日が経った。
2人は早朝に、近くの公園で集合してから、バス停まで徒歩で向かった。
定刻通りに現れた高速バスのトランクに、調査に必要な道具を詰めたスーツケースを預け、同じく道具を詰め、パンパンに膨れた鞄を抱えてバスに乗り込んだ。
そうして、2人が札幌市大谷地駅に到着したのは、出発してから約3時間後の
9時頃であった。
札幌市は、日高方面に比べて雪が多く、師走の上旬には既に雪が積もっているということが常である。2人はバスを降りて、その肌を刺すような寒さに身震いしながらも、地下鉄に乗るべく、大谷地駅のエスカレーターを降りていく。
発券機で乗車券を2人分購入してから、ホームに出て数分経った。線路の奥から
機械音が次第に大きくなってきて、目の前をかなりの速度で車両が疾走し、やがて停車した。その際の風も中々のもので、瑠斗はフードを、凜央はスカートを押さえながら停車するのを待って、ドアが開いて降車する人々が居なくなってから、地下鉄に乗り込む。土曜日ということもあってか、車内は人で埋まっていて、瑠斗は2人が座れる分の座席を見つけることすら困難であったが、なんとか空席を見つけて、凜央に対して手招きをする。対する凜央は、3時間近いバスの旅に合わせて、人混みの地下鉄という移動手段にうんざりしているのか、頭を押さえてふらふらと瑠斗の隣の席に寄ってきては、糸の切れた操り人形のように、突然ぱたりと座席に倒れるように腰掛けた。その一連の動作を眺めていた瑠斗は、またいつものことか、思ってはふと笑みを漏らした。
そうして暫く地下鉄に揺られ、2人は琴似駅で降車した。その際、瑠斗がいくら揺すっても、中々凜央が立ち上がらず、かなりの苦労をしていた。彼女の貧弱さは目を疑うばかりで、一周回って、そこまで体力がないのはすごい、と思えるほどだった。しかしここから、バスに乗って20分ほど移動する。
「……あぁ、凜央? 悪いんだけど、ここからバスで20分移動さ」
そう瑠斗が苦笑しながら、隣をふらふらと歩いている凜央に声をかけると、凜央は、虚ろな目で瑠斗を見上げては弱音を吐いた。
「えぇ……? これからまたバスに乗るの? 私は暫く無理……」
「そうだなぁ……荷物、持ってやろうか? あと、バスの間は仮眠をとることを
お勧めするぞ」
「ああ、ごめん……迷惑かけるね」
凜央は瑠斗に鞄を申し訳なさそうにしながら渡して、そう謝った。瑠斗は別にいつものことだと、気にする様子はない。凜央の分の荷物を持って、隣を歩く凜央
の様子を見ながら歩いて10分ほどで、バス停が見えてきていた。
近くのベンチに凜央を座らせてバスを待っていると、暫くしてから『西42 平和の滝入口行き』と表示されたバスがやって来た。荷物をトランクに入れてから、バスに乗車した。席に着いてから、瑠斗は凜央に仮眠をとるよう促し、自身は
鞄からノートパソコンを取り出して、平和の滝について調べ出した。
2
あれから暫くパソコンを弄っていた瑠斗は、画面に表示される時計を見た。
大体20分が経過しようとしている。運賃表には『平和の滝入口』と表示されている。放送でも、終点なので荷物を忘れぬようにと促す内容が繰り返される。
瑠斗はパソコンを閉じて鞄にしまうと、隣で仮眠をとっている凜央を起こした。
「凜央、あと数分もしないうちに着くから、そろそろ起きておけよ」
「ん……あぁ、瑠斗。おはよう」
仮眠で多少の元気を取り戻したのか、凜央は呑気にも瑠斗にそう返した。
やがてバス停が見えてきて、バスは停車した。鞄を持って、運賃を払い降車して、トランクのスーツケースを受け取ると、軽く運転手に挨拶をしてから、平和の滝に向けて歩き出した。
少し前までは住宅地も見かけたが、目的地は山間にあるので、少し険しい道を
2人は歩くことになる。瑠斗の言っていた『生き残り』とは、この自然歩道を少し行ったところで合流する約束らしい。瑠斗が隣を見てみると、凜央が息を切らしながらも歩いている。
「凜央、大丈夫か? 途中で倒れたりはやめてくれよ」
そう茶化す瑠斗に、凜央は心配ないといった様子で返答する。
「大丈夫、流石に倒れたりはしないから」
「はは、本当かい?」
「本当だからって!」
そんな会話をして笑い合いながら自然歩道を歩いていく2人。暫く進むと、視界の先に人影が見て取れた。それを確認した瑠斗は、凜央に『先に行く』という表情でグッドサインをして、早歩きになり、次第に走っていった。凜央は少し焦った様子で、必死に瑠斗を追いかける。息を完全に切らし、口を使って呼吸する凜央の前に立っていたのは、青いダッフルコートを着た、20台一寸であろう、髪を後ろで束ねてポニーテールにした女性であった。彼女、どうやら今は瑠斗と打ち合わせをしているようだ。凜央は顔を上げようとしたが中々に上がらず、遂には耐えきれないと言わんばかりに、しゃがんで息を整える態勢に入ってしまった。
ポニーテールの女性は心配そうにして、声をかけようとした。しかし瑠斗はそれを制止する。
「いつものことなので、ご心配なさらずに。それに彼女、こういう時は話しかけない方が、若干早く回復するんです」
そう言い放つ瑠斗に、女性は困惑の表情を浮かべながらも頷いた。
- Re: 日ノ本恠嵜踏査譚 ~黒ク歪ミシ滝 四~ ( No.4 )
- 日時: 2017/12/20 00:08
- 名前: リオ.期待を裏切らない裏切り者 (ID: i33vcyQr)
3
凜央が呼吸を整え、立ち上がったのはあれから10分ほど経過した時だった。
「やっとよくなったのか? ほら、このお方も待っているよ」
起き上がった凜央に瑠斗がそう言えば、凜央はハッとした様子で、ポニーテールの女性の方に目をやった。服装のせいでやや地味に見えるが、顔立ちは整っている。凜央は慌てて、制服についた埃を払ってから、自己紹介をした。
「どうも、私は弥永凜央と言います。そしてこちらが」
芥川瑠斗です、と言おうとした凜央を遮って、瑠斗が口を開いた。
「おっと、自己紹介なら、凜央が屈んでる間に、俺のも凜央のも済ませておいたぞ」
「ええ。瑠斗君から聞いてるわ。私は桶野綾。気軽に綾って呼んでいいからね」
「え? いえ、そんな……初対面の方にそれは……。桶野さんでいきますね」
そう言って、ポニーテールの女性、桶野は凜央に握手を求める。それに応じた
凜央が手を握り返す。一連の動作が終わったところで、桶野が口を開いた。
「さ、挨拶も済んだことだし、ここらで一寸休まない? 瑠斗君も凜央ちゃんも、きっと疲れてるでしょ?」
そう言って桶野は近くの適当な岩に腰をかけ、隣の2人が座れそうなスペースを左手でぽんぽんと叩いた。瑠斗が、じゃあお言葉に甘えて、と言って座ろうとした時、凜央はそれを遮るように、桶野に向けて言った。
「あ、その必要はないです。こちらとしては、直ぐにでも現場へ案内してほしいのですが」
その言葉に桶野はぽかんとし、瑠斗は
(またか……)なんて思いながら、凜央を止めようとするが、凜央は尚も続けて、終いには鞄からルーペと園芸用のスコップを取り出して
「すみません、忘れてました。これが無いと始まりませんからね」
と言って、2人に笑みを浮かべる。桶野は依然呆気にとられている。
瑠斗は、やれやれ、と頭を抱えていた。
瑠斗のフォローによって、一行は現場へ向けて出発することになった。
バスに乗っていた頃とはまるで風景が違い、辺りは雪を被った木々で覆われていて、その奥からは川の流れる音が感じ取れた。その幻想的、かつ神秘的とも言えるその情景は、まるで怪奇現象なんて無かったかのような雰囲気すら醸し出していた。談笑しながら、というよりも、黙々と歩く凜央に変わって、よく喋る桶野の相手をしながら歩いていた瑠斗は、こういう場所に、こういう目的では来たくなかった、なんて思い始めていた。人間、一度ついたイメージというものは中々拭えないものである。怪奇現象なんて知らずに、凜央を連れてここに来たら、さぞ楽しかったであろう。瑠斗は桶野の話に適当に相槌を打ちながら、そう考えていた。
一方、凜央は途中途中にしゃがんで、雪をかき分けては、その下の土をスコップで採取し、コートのポケットから取り出したビニール袋に詰め込み、同じくポケットから漁り出したラベルに、油性のペンで何かを記入していた。こうした何の変哲も無い場所の土であろうが、凜央にとっては『現場一帯の貴重な土壌サンプル』といった扱いである。ホテルに戻って、成分分析器にでもかけるつもりだろう。踏査の際はいつもこうである。そうして毎回、瑠斗を呆れさせるのが凜央であった。
そんなことを繰り返しているうちに、木々の隙間から流れる水が徐々に見えてきて、それに伴い水の音も大きくなってきていた。
「もう少しよ」
そう桶野が言い、一行は少しばかり足を早めた。すると目の前には、辺りの雪景色と調和した、大きさこそそこまでないものの、美しい滝が目に入った。
「……よしっと。此処よ。君達からはただの綺麗な滝に見えるだろうけど、私はすごくこの場所が怖いのよね」
桶野がそう言って振り返り、滝を指した。
「瑠斗、見てよあれ! すごく綺麗だよ」
「凜央、俺達は観光に来たんじゃないからな」
はしゃぐ凜央を、瑠斗が笑いながら宥める。暫く笑って眺めていた桶野は、
「本題に入っていいかな」と言って、2人を注目させる。
「ああ、すみません……」
凜央がそう言ってぺこりとお辞儀をすると、桶野は気にしないでと凜央に微笑みかけてから話を始めた。
「君達が来てくれる一週間前くらいかな。私、莱っていう友達がいたんだ。それでその日は、莱と一緒に、ここ平和の滝を夕方……いや、日が落ちてすぐくらいに訪れたんだよね」
そう、当時の様子を思い出しながら話す桶野を前に、凜央と瑠斗はその内容を確実に、でもゆっくりとメモを取っていた。
「……それで、のんびり時間をかけて自然歩道を歩いてから、ここに来たんだ」
と言った桶野は、当時2人が立って滝を眺めていたという場所に歩いて行って、立ち止まってから再び話し始める。
「それで、暗くて雰囲気あるのを満喫して『もう帰ろうか』ってなったときに、丁度あの辺に人影が見えたの。自分たちと同じく遊びに来たんだろうなって思ってたんだけど、その影も、それを見つめた莱もまるで動かなくなって……『置いてくよ?』なんて半分冗談で言ってから、少し歩いて後ろを振り返ったんだけど……そうしたらいたはずの莱がふっと消えてて、辺りは真っ暗。滝の方から水の音が激しく聞こえるくらいで、怖くなって逃げ出しちゃった……」
一通り話終わった桶野は、胸を撫で下ろす仕草をした。
話をメモしていた2人は、その様子を見て、顔を合わせた。
「これは、調べるしかないね。瑠斗」
「ああ、そうだな。俺達も消えないように気をつけるぞ、凜央?」
そうして2人は、桶野に対して質問をし始めたのだった。
- Re: 日ノ本恠嵜踏査譚 ~黒ク歪ミシ滝~ ( No.5 )
- 日時: 2017/12/20 23:47
- 名前: リオ.期待を裏切らない裏切り者 (ID: i33vcyQr)
「では、桶野さん。当時、人影が居た場所の側で立ってもらえますか?」
メモ帳を閉じて鞄にしまった凜央は、口から白い吐息を漏らしながら、桶野にそう願った。桶野はそれを許諾し、当時人影のあったという場所へ向かう。
凜央と瑠斗はその後を追い、軈て立ち止まった桶野の側にしゃがんだ。そうして凜央は、ポケットからスコップとビニール袋を取り出しては、雪の下の土も一気に掘ってしまわないようにと、スコップの裏を使って、雪を払うようにして掘っていく。その日以来も札幌では雪が降っていたのか、雪の厚みはかなりのもので、それを削っていく作業は地道なものであった。そうして掘っていくうちに、軈て地面が見えてきた。それを確認した凜央は、鞄からルーぺを取り出し、その様子を観察している。観察し終えると、ルーペをしまった凜央は、その辺りの土をスコップで少し採取し、ビニール袋に詰め、ラベルに『人影』とだけ書き込んだ。一連の動作を不思議に思っていた桶野は、疑問を口にした。
「ねぇ、凜央ちゃん。そんな土を取ってどうするの?」
凜央は表情を変えずに桶野の方を向いて、その疑問を晴らそうと言葉を返す。
「採取した土は、ホテルに戻ってから成分分析器にかけます。その際の比較対象として、私はさっきから土を集めていたのです」
大真面目に答える凜央が可笑しかったのか、桶野はふっと笑みを浮かべた。
「あっはははっ、随分な器械を持ってるのね。夢は学者?」
冗談交じりにそう言う桶野であったが、凜央は何が面白かったのかわかっていない様子で返した。
「夢……ですか? 私はまだ実感が湧いていないのですが……学者というのも良さそうとは思いますよ」
桶野の笑みは増す一方で、すかさず瑠斗がフォローを挟む。
「凜央は父が数学者でして……ああいう性格も、学者の父から受け継いだのでしょう。あまり意地悪はやめてあげてくださいね」
「ははっ、ええ。一寸した冗談よ。ごめんね?」
「いえ、こちらこそ。冗談や皮肉が通じないのですよ、彼女は」
そう言いながら、瑠斗は凜央に目をやる。まだそこらの土いじりをしているようだ。苦笑しながら、ある事を疑問に思って、瑠斗は桶野に尋ねる。
「……あ、そうだ。桶野さん、莱さんとここに来て人影を見つけたとき、どんな会話をしていましたか?」
「え、会話? ええと、そうね……私が動かない人影を指して『見て莱、人影よ』って言ったんだけど、莱は見えてなかったわ。ずっと『どこ? どこなの?』の一点張りで……」
瑠斗の疑問はそこにあった。
桶野が人影を指して、莱に声をかけた場所と、人影の場所との間は15mもない。
いくら辺りが暗いからといって、この距離は認識できるのが普通だった。
しかし、何故それが見えてなかったのかは瑠斗には不明である。ホテルに戻って、凜央に相談するのが妥当だろう。瑠斗はメモを取ってから、桶野に
「そうですか。ありがとうございます」と一礼した。そうして、先程凜央がいた場所に目を向けると、いたはずの凜央がいない。
「やれやれ……」そう呟いた瑠斗は、桶野に適当な嘘をついて、凜央を探しに向かった。どうせ少し離れたところでガラクタでも集めているんだろう。瑠斗はそう思って、雪道を歩いて行った。
丁度その頃、凜央は少し離れたところに不審な光景を捕捉していた。
そこら辺の針葉樹の下は、雪がなく雑草等が繁茂していたが、一本の木の下だけ、雑草が生えていなかった。その光景に違和感を覚えた凜央は、その土の一部を掘って採取し、ビニール袋に入れてから、目立つラベルを貼り付けた。
その時だった。
「凜央! こっちの話はとっくに終わってるぞ!」
と、聞き慣れたやや低めの声が凜央の耳に流れ込んで来た。その声は段々と大きくなってきている。凜央はすかさず
「わかった! 今戻るから!」と返す。そうして瑠斗達の元に戻ろうと立ち上がったとき、瑠斗達が歩いてやってきた。戻る前に、瑠斗達が来たのだ。
「おう、凜央。探したぞ? こういう所があるからな……目を離した俺が悪かった」
そう言いながら頭を掻く瑠斗に、凜央は頬を膨らませて
「私は幼い子供じゃないんだから……」と返す。それを瑠斗は「悪かった」と受け流すと本題に入った。
「こっちの方は用が済んだ。後は、適当な場所に監視カメラを付けて、明日回収に来るだけだが……何か面白いものでも見つけたのか?」
瑠斗は、雑草のない土の部分が少し削られているのを確認し、凜央に問う。
「あっ、これ? いえ、普通の土だよ。私の勘が外れたっぽくて……」
「……じゃ、其方も終わったんだな。後は監視カメラを置くだけか」
そう言って瑠斗は、鞄から三台の監視カメラ、というよりもビデオカメラを、桶野と凜央に1つずつ渡して、場所を指示した。
「ここと……後はここだな。そこに設置してもらえますか」
2人は言われた場所に監視カメラを設置した。続いて瑠斗も、自分の分を設置する。
「……よし、これで今日の任務は終了か」
瑠斗は欠伸をしながらそう呟く。
「お疲れ様だね。2人はこれからどうするの?」
桶野が凜央と瑠斗に問いかける。瑠斗は、ああ、と声を漏らしてから
「俺達はこれから、ホテルに行こうと思います。配送していた荷物もあるでしょうし、いい加減チェックインしに行こうかと」
「そう? じゃあ私はこれで失礼しようかしら」
そう言いながら、桶野がリュックを背負う。凜央はというと、採取した土のサンプルを眺めている。瑠斗は桶野の方を向いて言った。
「わかりました。もう少しずつ暗くなってますので、お気をつけて」
「ええ、わかったわ。ありがとう。そっちもね」
そう言い、桶野は瑠斗の横を通り過ぎて行った。その際、瑠斗の耳元で
『あんな可愛いことホテル? どんなホテルなのかな』
なんて言われたのを思い出して、瑠斗は交換しておいたメールアドレスから
普通のホテルです。ご安心を 瑠斗
と送っておいた。丁度、凜央はサンプルをしまっている。瑠斗が切り出した。
「さて凜央、この後はホテルにチェックインして、荷物を広げようと思うんだ。
そしてその後、少しばかり付き合ってもらえないか?」
凜央はきょとんとして、顔をあげた。
「ん、何かな。瑠斗?」
すると瑠斗は、両手で自らの腹を押さえる仕草をして言った。
「俺はそろそろお腹がぺこぺこなんだ。いいレストランがあるから、一緒に行こう」
そう言った瑠斗に、凜央はがっかりした表情で返す。
「私は瑠斗の料理の方がいいけどな……まあ、瑠斗が行くなら私も」
そうして2人は、自然歩道を歩いて戻って行った。
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