ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 惡しき妖狐の醒めぬ間に
- 日時: 2018/03/11 14:10
- 名前: T.F (ID: bzzu4..q)
とある掲示板に掲載されていたアルバイト募集の告知
その謳い文句は次の様なものであった。
簡単な軽作業、短時間!高収入!作業時間たったの3時間程度で20万支給!
連絡は下記の電話番号まで………。
文才ゼロにつき閲覧注意。
荒らし等の行為もご遠慮下さい。
- Re: 惡しき妖狐の醒めぬ間に ( No.1 )
- 日時: 2018/03/12 10:54
- 名前: T.F (ID: bzzu4..q)
序
このような呼び掛けに応じて集まったのは3名の男達であった。
3名とも電話で告げられたのは集合場所が某北関東の某駅前であるという事と移動に際して発生した賃金は全て雇い主が負担するという事だけが伝えられそれ以外の説明は一切なされなかったそうである。
駅前に集まった3名の男達は迎えに来ていた車へと乗り込むと車はどんどん人通りの少ない方へと向かって行く
30分もしない内に車は山中を更に奥へ奥へと進んで行く。
その間もハンドルを握る依頼人の関係であろう人物は一言も発しようとはせずにただ黙って車を走らせているだけである。
流石に何かヤバいんじゃないかと集まった3名が感じ始めた時であったどうやら車が目的地へと到着したらしく停車する。
「到着致しました。仕事内容をご説明致しますのでお降り頂けますでしょうか。」
運転席の男が後部座席に座る男達へと丁寧な口調で促す。
男達は指示に従って車を降りると辺りは木々に覆われた薄暗い森のなかであった。
「こんな所まで連れてきて、いったい何をさせるきなんだ?」
3名の中で一番年長であろう髭面で肌が浅黒く日焼けした見た目が屈強そうな男が悪態をつく。
「皆様、道中長らくお待たせ致しました。それではご説明致します。皆様に今から行って頂きますのは、この森の中を10分程歩いた先にある朽ちた祠の中から其処にあるモノを取ってきて頂きたいのです………どうです?簡単なお仕事でしょ?。」
運転席に座っていた男は笑顔を浮かべ仕事内容を告げる。
「それって?犯罪にはならないんでしょうか?」
気の弱そうな学生風の男が疑問を口にすると
「社の管理者には此方の依頼主様から既に許可はとっていますので、犯罪行為にはあたりません、どうぞ御心配なく。」
「障りみたいな事はないですよね?」
「全く問題ありません、彼方の車をご覧下さい。」
ヨレヨレのスーツ姿の中年男の言葉に運転席に座っていた男はそう言うと此方に近づいてくる車を指差す。
「あの車には依頼主様が手配された神主さんがお乗りになられておりますので、お祓いもバッチリです、ご安心下さい。また、当然の事ながら帰りも先程の駅前までお送り致しますのでこちらもご安心を。」
「お祓いとかそんなものはどうでもいいが、本当に20万貰えるんだろうな!」
髭面の男が肝心な事を聞き忘れてはならないとばかりに尋ねる。
「はい、バイト料は此方に用意してございます。」
そう言って懐から3つの茶封筒を取りだし、その中の一つの中身を三人へと確認させる。
茶封筒の中には25万円が入っていた。
「余分な5万円に関しては交通費となっております、他にご質問はありますでしょうか?」
男の言葉に三人の男達から新たな疑問が口にされる事はなかった、三人とも金が欲しかったからである。
「ご質問が無ければ早速作業に取り掛かって下さい。」
そう言って男は車からリュックを一つ降ろしてくるや、気の弱そうな学生風の男へと手渡す。
「これは?」
「念のため、懐中電灯や軍手、軽食等といった物を人数分用意してございます。」
「おい!さっさと行くぞ!」
学生風の男がリュックを背負うのをもたついていると年長の髭面の男が苛ついているのか急かし始める。
「待って下さいよ。」
先に森の中へと足を踏み入れた髭面の男を先頭にヨレヨレのスーツ男、学生風の男が後に続き森の中へと消えていったのであった。
男達三人は足早に森の奥へ奥へと歩みを進めていくのだが、辺りはただ木々が生い茂るばかりの景色が延々と続くだけで自分達がどの程度進んだのかさえ分からなくなってくる始末である。
「本当に社があるんでしょうか?」
ヨレヨレのスーツ男が不安からか弱気な発言を始める。
「何言ってんだ、何も無ければこんな事をさせる意味がないだろう!うだうだ言ってないでとっとと探せ!」
スーツ男の弱気発言が癪にさわったのか髭面の男が声を荒げる。
「もしかして、あれじゃないですか?」
二人がぶつぶつと言い争っている間に先頭を歩いていた学生風の男が少し先を行った木々の合間を指差し声をあげる。
「見つかったのか?」
髭面の男が嬉々とした声をあげると一目散に学生風の男が指差した方へと走り出す。
「これかぁ〜うん、これに違いない。」
何やら髭面の男は社の前で思案している様子。
社は凡そ畳一畳位の小さな社であり、朱塗りの社と同じ朱塗りの鳥居が社の前に鎮座している。
社の中には何やら黒い塊の様なものが納められている。
おそらく依頼人が回収を依頼した品はこの黒い塊の事なのだろうと三人は察しがついたのだが、何故か手を伸ばしてそれを掴む事は憚られたのであった。
「おい、優男!さっさと取ったらどうだ!早くしないと日が暮れちまうぜ!」
髭面の男はスーツ男に件の塊の様な物を取る様に促す。
「嫌ですよ!何で私が!あなたがやればいいじゃないですか!」
「お前は金が欲しくて来たんじゃないのか!もういいどけ!」
髭面の男はそう言ってスーツの男を押し退け、社の中へと手を入れると一気に黒い塊を引きずり出したのであった。
ビリッ………。
髭面の男が力任せに引き出した為であろうか、何か破れた様な音が微かに聞こえたようであったが、目的の物を手に入れた三人にとってはどうでも良い事でしかなかったのである。
「何にも起こらないみたいだな!楽勝な仕事だったようだ、とっとと此を渡しに戻るぞ。」
「抑それって何なんでしょうか?」
髭面の男が手にしている塊に学生風の男が疑問を口にする。
「さぁな、石みたいだが、金さえ手に入れば何でもいいさ。早く戻るぞ!」
ぞんざいに答えると髭面の男は石の様な黒々としたモノを学生風の男が背負っているリュックに放り込むと来た時と同様にさっさともと来た道を戻って行ってしまう。
「これって、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「一応、許可はとってるみたいですし、お祓いもしてくれるから大丈夫なんじゃないでしょうか。それよりも私達も早く戻りましよう、日が暮れてしまいそうですし。」
学生風の男が気にした素振りでスーツ男に話しを振るもスーツ男は問題ないと安易な返答をし、そんな事よりも早くこの場を離れたいといった様子を窺わせていた。
男達三人が来た道を黙々と歩き暫くすると、車を降りた開けた場所へとたどりつくことが出来た。
「戻ってこれたみたいだな。」
「そのようですね。」
髭面の男が安堵の声を発するとスーツ男も安堵した様子でそれに応じる、車が停車している場所の手前には先程まで無かった白木の祭壇の様な物が組まれており、祭壇の横には浅黄色の袴に白衣姿の如何にも神主スタイルの若い男が椅子の様な物に座って何か待っている様子であった。
「ご苦労様で御座いました。」
三人を送り出した男は満面の笑みを浮かべながら、三人の労を労う素振りを見せたが直ぐに
「それでは、まず品物を頂けますか?」
と三人の男達に品物を催促したのである。
「ああっ、これか?ほらよっ。」
学生風の男が背負っているリュックから煩雑に例の黒い石の様なモノを取り出すと髭面の男は目の前の男へと手渡す。
すると男はいつの間に手袋をしたのか、貴重な物を扱う様な素振りで、受け取った石の様なモノを白木の匣へと納めたのであった。
「これはお約束の報酬です。」
男は懐から茶封筒を取り出すと三人に手渡していく。
「お祓いを行いますので祭壇の前にお並び下さい。」
報酬を受け取った男達が中身を確認していると男は祭壇の前に行くように促すも
「俺はそういうのは信じてないから構わない、それよりも早く帰りたいから送ってくれないか?。」
金を受け取った事で満足したのか、髭面の男は一人だけお祓いを拒んだのである。
「わかりました、それではお一人だけ先に駅前まで送らせます。」
男はもう一台の車を運転していたであろう、身なりの整った男へと髭面の男を先に送り届けるように指示すると、他の二人同様に祭壇の前に並んで
「それでは神主さんお願いします。」
とお祓いの開始をお願いするのであった。
「掛け巻くも畏(かしこ)き 伊邪奈岐大神(いざなぎのおおかみ)筑紫(つくし)日向(ひむか)の橘の小戸の………」
祭壇の前に進み出て一拝した神職は祓いの為の祝詞である祓詞を奏上し始める。
この時には既に髭面の男を乗せた車は既に走り去っていた。
神職の祝詞が終わり、大麻(おおぬさ)による祓い、塩湯(えんとう)よる様々な祓いが行われた後に除災祈願の為の祝詞が奏上される等して、お祓いが終わるには約50分程かかっていたようである。
お祓いが終わると男は何処かへ連絡していたようであるが、二人の男達を車に乗るように促すと、神主には次の車が直ぐに迎えに来る事を告げ、男達を送る為に車を走らせたのであった。
- Re: 惡しき妖狐の醒めぬ間に ( No.2 )
- 日時: 2018/03/12 16:48
- 名前: T.F (ID: bzzu4..q)
壱之①
それでは次のニュースです。
昨日、棚橋公園にて発生した仲村昭秋(なかむらてるあき)さん
年齢不詳、職業不定が死亡した事件では、仲村さんと付き合いのある友人等の証言によると、仲村さんは最近、犬がいる!犬がそこにいる!と、まるで幻覚でも見ているような症状がみられていたことから警察では———。
朝っぱらからラジオが垂れ流す情報には明るいニュースなんて何一つなく、事件や政治家の汚職等の耳にしたくないものばかりであった。
時刻は午前4時55分、まだ薄暗く、陽も昇っていない時刻だと言うのに1週間前から恒例になっている行事は私から自由を奪おうとするのであった。
耳を澄ましてみろ!
階段を登ってくる悪魔の足音が微かに聞こえてくるはずだ。
もうすぐ近くに来ている気配が感じられる。
「起きろ〜〜!」
午前5時丁度、拡声器でも使用したのかと思われるようなけたたましい声で叩き起こされる事はかれこれ1週間前からの恒例行事と化している。
「やはりな………。」
気持ちのいいベッドで微睡む時間さえ与えられず
橘貴久(たちばな たかひさ)
はストレスを抱えるのであった。
「ほら、起きたならぐずぐずしないで早く着替える!」
ぽんと
放る様に粗雑に扱われたのは流行りのコスプレ用衣装等ではなく、白衣・白袴といった実家の必需品なのであった
そう、うちの実家は結構歴史のある稲荷神社なのである。
そして、装束を粗雑に扱い、あまつさえ実の兄さえも粗雑に扱い
緋色の袴に白衣といった所謂、巫女姿で仁王立ちし腕組みをして此方を見下ろしているお方は、橘深雪(たちばな みゆき)つまり私の妹であった。
「もぅ〜早くしてよ!お兄ちゃん!お父さんが旅行に行っている間は朝のお務めは二人でやるんでしょ!」
「はい、はい、わかりましたよ、着替えるから本殿で待っててくれ、3分で行くから。」
急かす妹を取り敢えず部屋から追い出すとパジャマを脱ぎ捨て足袋、襦袢、白衣、白袴と言う順に手早く着替えるや、素早く階段を降り宅地の真横に位置する本殿目指して足早に移動するのであった。
江戸時代前期に建立されたとされる
正式名称桔梗(ききょう)稲荷神社は全国の稲荷神社同様に鳥居や社殿は赤漆塗りであり、御祭神は 宇迦御魂大神(うかのみたまのおおかみ)を主祭神として祀っている為に神使である狐の像が境内には数ヶ所みられる。
変わっている点といえば仏教の大黒天を祀る、大黒堂という御堂が神仏習合時代の名残を残している所ぐらいであろうか。
本殿に到着すると既に内陣に円座が補設されており、妹は静かに正座し神前を見つめていた。
妹の座る位置より前にある祓案(はらいあん)の近くの定位置に笏を持ち姿勢を正し、小揖(しょうゆう)、祓案より三歩程の歩幅前の位置にて再び小揖、左足より三歩進み出て祓案の前にて深揖(しんゆう)、再拝して祓詞(はらいことば)を奏上するという、一連の流れは講習会にて学んだ通りに滞りなく行われていく。
Page:1