ダーク・ファンタジー小説
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- 虚像
- 日時: 2018/03/24 09:10
- 名前: せいなが (ID: XOD8NPcM)
せいながです。
閲覧ありがとうございます。
亀更新ですが、よろしくお願いいたします。
- Re: 虚像 ( No.1 )
- 日時: 2018/03/24 09:56
- 名前: せいなが (ID: XOD8NPcM)
首を絞められながら、セナはこうなることはわかっていたなと思った。
今まで生きてこられたのが、むしろ奇跡だったのだ。右腕は寸刻みの裂傷で覆われ、赤黒く染まった左腕は動かない。変な方向に折れ曲がった足首は、数ヵ月前に固まったままだ。三日前から重く痛み続けている腹のなかでは、内蔵が破裂しているかも知れない。
ああ、そう言えば今日は私の13才の誕生日だったなと思う。
だんだん思考が薄れ、体温が下がり、視界から光が消えていく。しかし、脳内に一つの記憶がよみがえる。
それは、話に聞く、走馬灯のようで。
「13才になったら迎えに来てね。約束だよ。」
セナは存在しない、私にしか見えない『彼』に話しかける。『彼』はセナがつくった、架空の、セナの脳内にしか存在しない、セナという一人の人間が、精神的ショックがあまりにも大きかったがためにつくられた、『彼』。
存在しないがセナには見える。聞こえる。感じる。
「ああ、いいぜ。約束だ。」
セナの前に立つ『彼』は、切れ長の瞳に、筋のとおった鼻。銀色のサラサラの髪をなびかせながら端正な顔立ちをして、微笑みながら、言う。
そこで、ちょうどポッキリと。
セナの首はへし折られた。
殺されたはずの少女、セナは、ゆっくりと目を開いた。
気が付けば、セナは、床にぺたんと座っていた。視界一面が白。床も、空も、横も、白。
ただ、目の前にいる『彼』と、自分だけが色をもっていた。
「迎えに来たぜ。」
そう言って、『彼』は手を差し出す。
あまり回らない頭で、ただ、耳に響く心地よい声に誘われ、手をのせる。
『彼』はセナの手を握り、ぐいっと勢いよく引っ張った。
びっくりして目をつぶったセナだったが、目を開けると、そこには、大きな門がそびえ立っていた。門のそばには、右側に九尾の狐、左側に酒天童子の像がある。威風堂々としたその姿は、見るだけで子供は泣いてしまいそうなくらい、迫力がある。
そして、『彼』。
セナは石畳の上に座っていたが、『彼』に引っ張られ、立ち上がる。
「…あ、」
セナはいまだにあまり回らない頭を、フル回転させ、声を絞るようにだす。
しかし、聞こえなかったのか、『彼』は、私の手を引き、歩いていく。歩く途中に、大きな桜の木や、松がある。大きな池に鯉が泳ぎ、ちょっとした滝まである。広大なその庭の向こうには、堂々とした、日本家屋が建っていた。
「ようこそ、我が家へ」
『彼』は唐突に、セナの方を振り向いてそう言った。
- Re: 虚像 ( No.2 )
- 日時: 2018/03/24 10:52
- 名前: せいなが (ID: XOD8NPcM)
ここに来て、三日がたち、わかったことがある。
一つ目。ここは私が生きている時にしていた空想が現実となった世界だということ。そこに私は死後、来たという。
世界はいくつにも別れていて、パラレルワールドの一つに過ぎないらしい。
二つ目。死んだからではなく、13才になったら迎えに来てねという約束のために、『彼』が迎えに来たということ。
三つ目。『彼』は、ハルトというらしい。
四つ目。私の記憶は生きていた頃の現実しか覚えてなく、どんな空想だったか覚えていない。
五つ目。私の見た目が変わっていること。黒く、艶があり、腰まである、髪。真っ白な雪のような肌。大きな紫色の瞳。ほんのりピンクに色づいた頬と唇。スラッとした体型。生きていた頃の、光のない目と栄養不足でガリガリだった自分とは全く違う、絶世の美少女。
六つ目。この世界には、独自の神話がある。古来、生き物の長は酒天童子だった。酒天童子のそばにはいつも九尾の狐がおり、一番の従者であった。しかし、急に、長はぬらりひょんへと変わった。ぬらりひょんの一番の従者は牛鬼であった。なぜいきなり、酒天童子からぬらりひょんに変わったのか、何があったのかはどこにも資料がなく、原因不明のままとされている。
その神話がこの世界には今も強く根付いている。
ハルトは関西を納める長であり、酒天童子の末裔らしい。関東にはぬらりひょんの末裔である御令嬢がいるらしい。
しかし末裔といっても、妖怪に変化するとかはなくて、ただ、寿命が異様に長いらしい。
関西と関東は特に敵対をしているわけではなく、仲は良好らしい。
そしてもう一つの神話は一人の少女だった。
この神話は謎に包まれており、わかることは、女性であることと、彼女が世界の起源であり、世界を定める神であることだけ。
七つ目。私はこの人の妻になるらしい。
▣ ▫ ▣ ▫ ▣ ▫ ▣ ▫
暖かい春の日差し、桜が咲き誇り、私はそれを眺めていた。
結局、これからどうするかはあまり決めていないが、ハルトさんにかくまってもらおうとおもう。
「セナ!」
ハルトさんが私の方へ走ってくる。満面の笑みで。私はこの人の好意を受け止められない。
「なんですか」
「結婚するんだって」
本当に私はこんな空想をしたのだろうか。
「ああ、俺達じゃなくて、狐聖が」
こうせさんは、九尾の狐の末裔であり、ハルトさんの従者だ。真面目で、優等生なこうせさんが結婚をするらしい。こうせさんは明るく、私のことも責めたりせず、話しかけてくれる。
「誰とですか?」
気になったので聞いてみた。
「関東のぬらりひょんの末裔のご令嬢の従者と」
関東ってすごく遠いし、なかなか会えないんじゃないだろうか。
「ハルト様ー‼」
するといきなり、こうせさんが走ってきた。
「どうしたんだ、こうせ。」
「結婚できないかもです。」
「なんで」
「実は…」
ああ、やっぱり遠いからと思いながら、こうせさんの話を聞いてみた。
- Re: 虚像 ( No.3 )
- 日時: 2018/03/30 19:16
- 名前: せいなが (ID: rRbNISg3)
天井にはシャンデリア。豪奢な金縁のレッドカーペット。
そして目の前に座る黄金色のドレスを着た14才のルリ嬢。
「結婚なんて、許さないから。」
こうせは結婚相手の雇い主、つまり、菊代の主、ルリ嬢に結婚の許可を貰いに関東の総本山まで来ていた。
もう五度目になるのだが、答えはいつも同じ、全く許可されずにいる。
* * * * * *
「ってな訳で許可してもらえないんですよー」
「へぇー」
「まあ、頑張れ。」
「あー、二人ともそんなに心配してないでしょう。こっちは大変だって言うのにぃ」
* * * * * * *
「靴を履かせてちょうだい、菊代」
もう14才になるルリ嬢は、靴ぐらい一人で履けるはずなのに、菊代に毎日履かせてもらっている。
「仕方ないですね、お嬢様は」
最初は注意していたが、次第にもうそれすらも面倒になり、菊代は靴を履かせた。
「髪をとかしてちょうだい、菊代」
「仕方ないですね、お嬢様は」
茶色の髪を菊代は櫛でとかしていく。
「朝御飯はパンがいいわ、菊代」
「仕方ないですね、お嬢様は」
昨日の番は白米がいいと言ったのに、直前になって変えるのはよくあることだった。
「私のものだと誓って、菊代」
「……それはできません、お嬢様」
何故なら菊代はこうせのものだからだ。結婚を誓った相手のものになるということは必然的であり、当然であり、菊代の望んでいることだった。そう答えるのは分かっていたのか、済まし顔で平然と、ルリ嬢は言う。
「嘘でもいいのよ。誓って?」
「……御身のために、皮肉骨髄、血潮の全てに至るまで捧げる事を誓います。この体も、時間も、命も、未来永劫、お嬢様のものです。」
「うっフフ、そう、それでいいのよ菊代。……ねえ、菊代。」
「なんでしょうか」
「結婚なんて、許さないから。」
遊ぶような少女のような声とは打って代わり、低く、重く堅い壁を連想させる声だった。
「私はお嬢様のものでは有りません。こうせさんのものです。」
「お前は私の人よ。従者として、主に己が所有物だと認めてもらえるだなんて…幸せでしょう?」
「…従者ならです。私はもう、一人の女になったのです。」
「お黙り。」
厳しい声がした。するとルリ嬢は瞳を潤ませ、涙声で言った。
「お前は!今までも、今も、これからも…私のものよぉ……」
もし私が従者だったのなら、この上ない幸せだっただろう。
ルリ嬢は両手に顔を埋め、泣いてしまった。嗚咽を噛み締めながら、言葉を紡ぐ。
「私ばっかり好きになって…。好きなっても、好きになるほど辛いだけなのに。…言ってよ…仕方ないですね、お嬢様って、言ってよぉ!…」
「お、お嬢様。」
「触らないで!」
泣き出したルリ嬢をあやそうと、背中をさすろうとして触ると、叩かれ、弾かれてしまった。
「……選んで、菊代。私か、こうせか。」
まるで自分を責めるように、うっすら笑みを浮かべて、今にも崩れ落ちてしまいそうなくらい儚く、でも底知れない覚悟を秘めながら。
生まれたときから世話を見ていた少女と、結婚を誓った愛しい人。
どちらも大切なことには変わりなかった。
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