ダーク・ファンタジー小説
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- 僕の野球部生活は、味方と闘う日々でした。
- 日時: 2018/08/06 13:28
- 名前: 奈狐 (ID: SypwfE3m)
僕は野球部の部員。某都立の中高一貫校の1年生。どうしても野球部専用グラウンドで野球がしたくて、この学校に入学しました!!
雑用が好きですか?仕事を押し付けられても微笑みながら受け入れられますか?辛くって、苦しくって、本当は誰かに話たくっても………笑って誤魔化せますか?
いつ、どこで自分が道を間違えたのかがわからない。それでも時は進んできます………。
これは、作者である私の体験を元にした、ある女の子の闘いのものがたり。
- Re: 僕の野球部生活は、味方と闘う日々でした。 ( No.1 )
- 日時: 2018/08/09 10:03
- 名前: 奈狐 (ID: 9RGzBqtH)
「カキーーーン」
心地よい金属音が、今日も学校付属の野球場に響く。長らく続いていたバットの音がふと止んで、声変わり途中のがらがら声が聞こえた。
「ボールバック〜〜〜!!」
変な具合に裏返っているその声は、僕らのチームのキャプテンのものだ。
「橘、そこのボールも拾ってー。」
「あ、はい!」
三年生の指示に従って、ボール拾いをする僕達一年生……九人。僕は、そのうちの一人……学年唯一の女子部員、橘 凜音だ。まだ5月なのに暑い日が続く今日、僕ら一年は元気に雑用をこなしています!!
入部してから一ヶ月。ようやく先輩の顔と名前が一致した。二年生が八人……次期キャプテンの石井先輩、左利きの次期エース東海林先輩、フレンドリーでよく話しかけてくれる大澤先輩、とにかく元気な佐藤先輩と紺野先輩、パワーヒッターの田中先輩と長野先輩、何考えてるかよくわからない静かな結城先輩。三年生が五人……キャプテンの吉野先輩、エースの東川先輩、背の高い岩瀬先輩、ちょっと怖い井上先輩、そして……もう一人の女子部員、守屋 朱里先輩。
沢山の個性的な先輩方や同級生部員と過ごす部活の時間は、僕にとってとても幸せなものだ。朱里先輩は、僕にとっても優しくしてくれる。一見気難しそうな結城先輩も、色々知っているし色んな事を教えてくれる。……良い先輩たちなのだ。
僕は、野球がやりたくて、この学校に入学した。これからの部活動生活が、楽しみでならないのだ!!
ある日の大会後。
「はい、俺らは第一試合だったから、後ろにはあと二試合あります。と、いうことで、君らにはスコアブックの付け方を覚えてもらおうと思う。」
結城先輩が僕らの前に立って紙を配り始めた。おお、スコアブックってもしかしてこの紙切れにつけるのか?もっと冊子的なもんだと思ってたんだけど。
「俺らは冊子のヤツは使ってないよ。高いから。金がないんだよ、弱小校だからね。」
結城先輩が僕の心をよんだように言う。ばれたかっ!?
「これ、覚えなきゃダメなの?」
唐突に、亀田が結城先輩に聞いた。おい、入部一ヶ月で先輩にタメ口とは、結城先輩は随分舐められたもんだな。
「うん、覚えて。」
そんなことは気にも留めない様子で、結城先輩が続ける。
「ちなみに、俺らの代は俺しかマトモに覚えなかったので、俺がずっとスコアラーやってまーす。だけど、君らは全員ちゃんと覚えて一人にだけ負担かけさせないようにすることー。いいね?」
……どうりでいっつも結城先輩が書いてると思ったよ。と、結城先輩が
「スコアブックの付け方わかるやついる?」
と聞いてきた。僕は咄嗟に
「あ、はい。私わかります。」
と答えた。………そう。僕は普段は一人称は『私』だ。変なやつと思われたくないからな。
「そう。じゃ、橘は他のやつにも教えてやって。さすがに俺一人で八人は無理だから。助かる。」
「あ、はい。」
相変わらず結城先輩の物言いはさっぱりしていて少し冷たいけど、色々知っている良い先輩だ。
さぁ、第二試合のスコアをつけようか。
- Re: 僕の野球部生活は、味方と闘う日々でした。 ( No.2 )
- 日時: 2018/09/04 16:41
- 名前: 奈狐 (ID: SypwfE3m)
5月……暑くなってくる直前のこの季節の風は、清々しくて気持ちが良い。
「カキーーーーンッ!!」
今日も金属音は心地よくグラウンドに響き渡り、私たち野球部は元気に練習している。
「セカンセカン!」「ひとつで殺れ!」「橘!伸びて捕れ!!」
シートノックでは、絶え間のない掛け声が飛んでいる。僕の守備はファースト。やろうと思えばライトも出来るのだが、外野は人数がありあまっているため僕は内野に回された。
「ふっ!!」
少しライト側に逸れた送球を、思い切り脚を伸ばして捕る。
「ナイキャ橘!おっまえ体やわらけーなぁ!」
東海林先輩が少し微笑んで褒めてくれる。
「えへへ、ありがとうございます♪」
「俺なんて体かたいからそんな脚広がんねーよ。股裂けるってーの。よく怖くねーな。」
「あはは、私、小学四年になるまで新体操やってたので。まぁ、大分前の話ですけど。」
東海林先輩は見た目、怖い。背も高いし、声もでかい。何より少しでも話せばわかるのが、『超オレサマ』なこと。今第二試合のピッチャーをしている佐藤先輩によると、東海林先輩は肩を怪我していてまだマウンドには戻れないんだという。それでほぼ内野初心者の僕は東海林先輩に色々教えてもらっているのだ。
「橘、ショートバウンドはこうやってグラブに吸い込むようにして捕るんだよ。最初は難しいかも知れねーけど、そのうち出来るようになると思うから練習しろよ。」
「は、はいっ!!」
怖い人だと思っていたけれど、東海林先輩は案外親切だ。こういうふうに、苦手な所をしっかり見てくれていて、アドバイスもくれる。
「ま、その背の高さでファーストやるのもきっちーよな。」
「…………。」(困り顔)
「?」
そうだ。確かに僕は背が低い。おまけに女子で、更には左利きという縛りがある。でも、でもですね?
「………背が伸びないのは遺伝なんです………どうしようもないんですよ……。」
わざわざ痛いところを突いてくる辺り、やっぱり東海林先輩は東海林先輩だ。酷い。でもまぁ悪気は無いんだろうし………いい人ではあるんだろう。……多分。
- Re: 僕の野球部生活は、味方と闘う日々でした。 ( No.3 )
- 日時: 2018/11/17 18:18
- 名前: 奈狐 (ID: OLpT7hrD)
5月の下旬辺りから、野球部は大会ラッシュにみまわれる。放課後の練習にも皆気合いが入っていて、僕たち一年生……というより、第二試合ですらあまり出る機会の無い僕と森崎、浦井、門崎の3人は雑用に走り回っていた。ことさら、同じファーストというポジションに二人も先輩がいる僕は、ファースト後方に逸れたボールを拾い集めたり、ノックをする顧問にボールを渡したりとマネージャーのように働いている。
「橘っ!わりぃ、そこのグラブ取って!つーかこっちに投げて!」
「は、はいっ!!」
「橘ぁーー、すまーん、ボールグラウンド外に飛んでっちまったーぁ!」
「あ、とってきます〜!」
「サンキュー!」
先輩のグローブ投げちゃっていいんスか?とか、他の一年生働かなすぎじゃね?とか、突っ込みたい事が色々ありすぎるけど、そんなこといちいち気にしてる暇が無いくらい忙しい。
「そろそろグラ整入って!っていうか今何時!?」
グラ整係(…?)の結城先輩の指示…と言うよりは叫びが聞こえる。
「「「はーい。」」」
森崎、浦井、僕が同時に返事をして、グラウンド整備用のブラシを取りに走る。門崎もゆっくり歩きながらだがグラ整をしに来た。
「おい、亀田!新野!お前らもグラ整行け!」
結城先輩が二人に叫ぶ。僕たちの仕事はグラ整以外にもバットやボール、ヘルメットなどの備品を管理棟に持っていき片付ける、というものがあり、それはグラ整と同時進行のため当番制で代わりばんこにやることにしている。はずだった。そう、本来は。
「藤岡と今仲と濱口はまた道具片付けか。お前らいっつもそれやってるよな。たまにはグラ整やれよ。浦井たちが可哀想だ。」
結城先輩が(二年生なのに何故か)藤岡たちと共に(トンデモないスピードで)ボールの数を確認しながら冷静なトーンで諭している。まぁつまり、僕たち率先して仕事をこなす組はグラ整をめんどくさがるサボり組によって迷惑被りまくりなのだ。もう慣れたけど。
「橘、急ごうぜ。もう5時45分だ。」
「嘘だろぉ!?」
門崎に言われて時計を確認する。
「マジかよ…。」
「ヤベーな。」
森崎と浦井も慌てはじめる。僕たちの学校は、前期で『特別活動延長届』を出していても、最終下校時刻は6時ちょうど。6時になると昇降口を閉められる上に、6時を過ぎても校内に残っていた場合、部活に『ペナルティ』がつけられる。『ペナルティ』が一年の内に三個たまると、その部活は二週間の『部停』……部活動停止になってしまう。つまりは………
「「「「先輩に殺されるっ!!」」」」
こうして、理不尽ながらも常にグラ整をしている4人は、毎度毎度時間に追われながら(ダッシュで更衣室に移動して) 着替える羽目に陥る。それが、まぁ、僕たちの日常。
「オーイ、一年、急げぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
…………今日も元気に、ダッシュでお着替え、だ。
- Re: 僕の野球部生活は、味方と闘う日々でした。 ( No.4 )
- 日時: 2019/07/14 16:21
- 名前: 奈狐 (ID: SypwfE3m)
6月初旬。僕らのチームは予選を突破し、多摩地区大会へと駒を進めていた。
その初戦の日。
「……?あれ、朱里先輩は?」
二回裏の僕たちの攻撃の時に、ふと見たらさっきまでスコアをつけていたはずの朱里先輩が居なかった。
「ん?ほんとだ、困ったな。おい1年、誰か代わりにスコアブックつけろー。」
顧問に言われて僕らは顔を見合わせた。
「………俺、書けない。」
「俺も。」
「書けるわけねーじゃん。」
不毛だ。不毛すぎる。つーか結城先輩に覚えろって言われたじゃんかよ。記憶力ゴミかよ。お前らの脳ミソの容量はカメムシ以下なのか?
そんなことを思いながら黙っていると、
「橘は?書けるんだろ?やれよ。」
と亀田が言った。
「は?」
ボーッとしていた僕は、思わずそう答えてしまった。
「あぁ、いいじゃん。」
「よろしくー。」
「え??いや、あの………?」
戸惑っている僕を無視して、皆は応援を再開した。
「じゃ、橘、頼むわ。」
顧問にそう言われ、僕は仕方なく
「はい。」
と答えて机に向かった。
(ふーん。向こうはエースをベンチスタートにしてるのか。オーダー表無いと、イマイチ分かんなかったからなぁ。しっかし、ウチも舐められたもんだな。エースがもはや守備について待機すらしてないとはね。…………あ、フォアボールでランナー出たな。牽制のクセでも見とくか…………)
スコアをつけること自体は嫌いじゃない。むしろ好きだ。データを記録して、蓄積していく感じ。そして、それを後ろの代に引き継げること。そういうのって、なんかいいな、と思う。単純に、書くのが楽しいのはあるんだが。で、僕が問題にしてるのはそこじゃない。端から仕事をやる気のない同級生たちに、怒りを覚えるってことだ。協力する気皆無。なかなか振りきっていて、もはや清々しいくらいだ。
(………どいつもこいつも、バカばっか。)
頼むなら頼むなりの態度ってもんがあるだろうに。まぁいいや。僕は僕の仕事に集中しよう。押し付けられたとは言え、放り出すなんてことは僕の美学に反するからな。
ため息を一つついて、僕はグラウンドに目をやった。さぁ、先輩達は、どこまで勝ち進むだろうか。
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