ダーク・ファンタジー小説
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- 毒りんごを落とした神
- 日時: 2018/08/24 01:31
- 名前: ウシオシシ (ID: NLcS5gZX)
ザルサネスという人間の悪者が悪者となっていく話。
一人の特別な人間を愛してしまった故に道を踏み外していくザルサネスという人間の迷いの少ない人生を語っていく。
悪者とは何か、果たして本当にザルサネスは悪者なのか。ザルサネスの言動に罪はあるのか。何が正しく何が間違いであるのか。
ザルサネスの物語を見ていくとしよう。
- Re: 毒りんごを落とした神 ( No.1 )
- 日時: 2018/08/24 10:56
- 名前: ウシオシシ (ID: twODkMOV)
幼少期、彼は物心ついた時には孤児院に居た。
目つきが鋭く普段から拗ねた表情で黒い癖っ毛の髪が切られることなくモサッと目まで覆っていた、ザルサネスはあまり笑わない子で周りで元気よく遊んでいる子供たちの中へ混ざることもせず部屋の片隅で一人で本を読んだり絵を描いたり、とても暗い印象の子だった。
もちろん、引き取りたいという大人は居なく、新しい顔が増えてはやっと覚えた子が去ってゆく。ザルサネスは顔と名前を覚えることを辞めた。
そんな彼だったが、孤児院にやって来た女の子に恋をした。
「ねえ、みんなと遊ばないの?」
彼女はザルサネスと目線が合うように屈んで問うた。
「・・・どうせみんないなくなる、楽しくない」
「私がいるよ!一緒に楽しもう?」
彼女はザルサネスに手を差し出す。
ザルサネスは初めて彼女を見た。
サラサラと揺れるブロンドの髪は窓から差し込む光を受けてキラキラ光り、淡い青色の瞳に自分を見つける。まるで宝石みたいだと思った。
それからザルサネスは彼女が居る時は他の子と遊ぶようになった。相変わらず笑うことはあまり無かったが少しは明るくなった。
他の子と遊ぶ彼女を見つめる時間も多く、彼女の似顔絵もよく描いていた。
それを彼女は「上手だね」と笑って褒めてくれた。
- Re: 毒りんごを落とした神 ( No.2 )
- 日時: 2018/08/24 11:20
- 名前: ウシオシシ (ID: twODkMOV)
月日が経った頃、彼女の引き取り手が決まった。みんなから人気のあった彼女は囲まれて別れの挨拶を交わしていた。
その中にザルサネスは混ざれず少し離れた所から見ていた。
それに気づいた彼女は自らザルサネスの元へ駆け寄った。
ザルサネスは自分のところに来てくれた事が嬉しかった。
彼女は寂しそうな顔一つしなかった。
「ここで初めて出来た友達が貴方だから、いつかまた会いましょう?」
初めてあったあの頃と同じように彼女は手を差し出した。
ザルサネスは彼女と握手するように手を取る。
「うん!僕は君に会うためにこれからを生きるよ、大人になったら僕の妻になってほしい」
「うふふっ、こんな時に面白い冗談ねっ」
「君の新しい名前は何?」
「アリアよ、またね」
彼女は別れの挨拶にザルサネスの頬に軽くキスをしてアッサリ離れていった。最後に微笑んだ彼女の顔が忘れられず思い出すと顔が蕩けた。身体の中心が熱いようなそんな気までして。
暫く経った頃、真夜中に孤児院で火災が発生。逃げ遅れたザルサネスは右腕と右の目の周りを大きく火傷した。
孤児院にいた子供は何人かは亡くなり、孤児院は全焼。あとから知ったのは、子供にうんざりした院長がやったとのこと。
行くあてのない子供たちの多くは病院で保護されることになった。
ザルサネスは怪我が治り次第、病院から抜け出した。
外の世界に出られた喜び、彼女アリアに会えるかもしれない楽しみにジッとしては居られなかったのだ。
- Re: 毒りんごを落とした神 ( No.3 )
- 日時: 2018/09/01 00:19
- 名前: ウシオシシ (ID: VpfXouOp)
アリアはきっと遠くにいる、けどきっとまた孤児院のあった所に戻ってくるはず、そんな曖昧な希望でもザルサネスにはそれしか無かった。ザルサネスにとってはそれが光だったのだ。
山を越えた所に小さな集落を見つけた。住人はザルサネスに優しくしてくれた。庭や所有地で取れた野菜を調理してザルサネスに与えた。子供だったザルサネスが心配だからと人がいる所に住んでも良いとさえ言ってくれた。だが人とあまり関わりを築いてこなかったザルサネスからしたらそれはお節介のなにものでもない、ザルサネスは誘いを断りまた山へと戻り、住める場所を探した。
陽が沈み始めた頃、古い物置小屋のような山小屋を見つけた。大きな木々が周りに立って建物を隠してるように見えた。生い茂った緑の草木が建物に纏わりついてる。出入口らしい扉を軽く押せば隙間ができた、次は少し強めに体当たりをした。中に入ると舞った埃を吸い込んで噎せる。
小屋の中は外の光が入る用に開け閉めの出来ない小窓が部屋の対面に一つずつあった。
小さい身体には狭い山小屋でさえ、大きく広く感じた。
住むところを手に入れたザルサネスは衣服は山を降りた集落の洗濯物を盗った。食べ物は畑から生ものを、木造で出来た小屋がいつ焼けるか怖くて火は使えなかった。盗った服や布は山で下へと流れる川で洗った。作物を盗ったときは足跡を消して小屋へ戻り、出入りを見られてないか追っ手は来てないか確認してから必死に隠れて生きた。
それも全て心に灯る光、目を瞑れば瞼の裏で笑うアリアの顔が思い浮かぶ。彼女に会うためなら現状は苦ではなかったのだ。
- Re: 毒りんごを落とした神 ( No.4 )
- 日時: 2018/09/04 18:43
- 名前: ウシオシシ (ID: wI2AEWca)
10年後、ザルサネスは20歳になり、狭く感じ始めた山小屋を再建築・改造をすることにした。
雨漏りしていたところは板で塞いでいたが、新しい板を屋根の上に貼り付け、ドアのネジを新しいものへ変え、床下の板を一部外して土を何日もかけて懸命に掘り進め地下室を作った。
ザルサネスは26歳を迎えた年に、ふと幼い頃いた孤児院を思い出した。アリアと出会ったこと以外大した思い出など無いのだが、燃えた後いまはどうなっているのか気になったのだ。思い立ったが即行動のザルサネスは手ぶらで山を登った。
幼かったザルサネスの登った山は当時は途方もなく長い距離に思えていた、小さい体に合った歩幅とゆく宛のない先の未来と同じ光景ばかりの木々の中だったからだろうが、今はなんてこと無かった。
街におりてみると知らない人間、知らない服装、知らない小物等を持っていた。貧相な建物がこじんまりと並んでいた昔とは殆ど変わっているように見えた、高い建物が立っている訳ではなかったが大きな買い物を楽しむ場や立ち並ぶ飲食店は読めない字で書かれている店名もあった。煌びやかになってしまった街の光景に何故だか疲れてしまう。
足早に孤児院のあったであろう所へ向かう。変わった道でもなんとなくの足取りで。
そこは一つの敷地内に二つの屋敷、二件の家が建っていて、その間は少し開いているが同じ作りの家で、一つの家には若過ぎる男女が、もう一つの家はカーテンが閉まっていて人のいる気配は無かった。
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