ダーク・ファンタジー小説

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SOS
日時: 2018/09/17 17:41
名前: はや (ID: RO./bkAh)

常日頃、我々人間に憎悪の心は憑き物。例え仲の良い友達の彼氏自慢でも。べた褒めして「幸せのおすそ分けありがとう」といいつつも、なんだこのイライラと上手く笑えない感じ。多分、幸せな人が嫌いなんでしょう私。

「なんか今までは、奥手な感じしてたけどー…」

朝からこの話。よかったね、念願の鈴谷くんと結ばれて。ただそれだけのことを全て違ったニュアンスで言わなければならないことが、1日の私の体力と精神力を削り出している。どうしよう、こんなんじゃダメだ。別に鈴谷くんのことが好きで、今隣で惚気話をしている彩のことが嫌いというわけじゃないんだ。ただ、人が自分より明らかに幸せだったり充実しているのを見たくない。

「南々は好きな人いないの?」
「私は、いいかな。モテないし出会いがそもそもないし」
「えー。そんなことない!」

私の自虐的な言葉が後を絶たなかったせいで、彩に気を使わせてしまった。奈良坂南々、17歳。特に希望も夢もない。

Re: SOS ( No.1 )
日時: 2018/09/19 23:46
名前: はや (ID: RO./bkAh)

4つのゲームPCの画面はすぐに切り替わった。牛乳瓶の蓋のような丸メガネを掛けて、画面を見つめながらひたすら何かを打ち込む男子は顔色一つ変えない。

「鈴谷学園のスズヤナオキ?」
「そんなやつ、しらねーよ」

ソファーに寝転がり資料を捲る制服姿の一見ただのスポーツ刈りのヤンキーは、顔を顰めた。スズヤナオキと発言した彼は、天パの明るい髪色で笑うより真顔の方がイケメンである。牛乳瓶がスズヤナオキの顔を探り当て、一旦体を伸ばす。ソファーにいた2人は画面近寄った。牛乳瓶はスズヤナオキの顔写真を拡大した。


「祖父の鈴谷昌大が経営する学校法人鈴谷学園の孫。一言で言えば…やりたい放題」

一言で言えばそうだ。

「鈴谷学園自体怪しいって聞くよね」
「そうなんだよ。しかも、こいつ学校の裏サイトとかSNSであんまり評判よくない」
「なんで?」

天パと牛乳瓶は頷いて、また牛乳瓶は掲示板に目を付けた。

「スズヤナオキはね、鈴谷学園大学のサークル生とも繋がりがあるんだって」
「ほぉー」
「鈴谷学園大で学生がレイプ事件あったでしょ。それに関与もしてると書いてあるし、相当調子乗ってるみたい」

スズヤナオキなんで捕まらんのや

性犯罪者!

イキっててほんとむり、たばこ臭い

「この書き込みがパチもんじゃねーならただの犯罪者ってわけか」
「パチもんなら誹謗中傷で逆に被害者になっちゃう」
「あ!こんなのもあるぅ」

牛乳瓶が見つけたのはTwitterの動画である。スズヤナオキとその仲間たちが、学校の廊下と思われる場所で同級生か下級生かに何か液体をかけている。撮影者の笑い声と手ブレがひどく、詳細は分からない。3人がPCに顔を向けていると、部屋のドアが開いた。入ってきた男子はただの男子高校生である。

「あれ?恭也、学校は?」

牛乳瓶に問いかけられた恭也と呼ばれた男子はため息をついた。

「お前らこそ」

リュックとブレザーをソファーに無造作に置いた。

「まさかサボったとかじゃないよね?」
「勝手に言ってろ」

天パが聞くがイマイチ反応が悪かった。

Re: SOS ( No.2 )
日時: 2018/09/23 11:59
名前: はや (ID: RO./bkAh)

南々と彩は今日の抜き打ちテストの愚痴をダラダラと言いながら校門を抜けた。放課後と言っても、課外授業のある日は6時まで学校で授業を受けている。疲れが溜まって南々はいつも以上に元気がなかった。

「尚生くん!」

南々が口を開いたとき、彩が鈴谷を見つけて南々の元を離れた。南々は方向転換して真っ直ぐ帰路に着こうと歩き出した。しょうがないか。

「奈良坂はいいの?」
「あれ?南々いないや」
「南々って結構可愛いよな」

小さくなっていく南々の後ろ姿を見ながら、鈴谷直生は呟いた。彩は耳を疑った。

「え?」
「あ、ううん」

南々って…どうして名前呼びなんだろう。中学生からの同級生とか?あ、違う。尚生くんは鈴谷学園中学だから。でも南々って、名前呼びじゃん。

「寂しいどすなー」
「なに…」

面倒なのがきた、別に嫌いとかそういうわけじゃないんだけど。光橋ひかりが後ろから私の肩に手を置いてきた。興味がなくなった、だるくなったという理由でエースだった女子サッカー部を辞めた逸材。新人戦の地方大会まで進んで2年生でエースになったひかりだが、なんだか部が弱いからつまらないとか言い出した。まさか本当に辞めるとは。でも、好きなことに興味がなくなったり好きなはずなのにヤル気や気力が湧いてこないのは私も同じだ。排他的な思考回路でお互い過ごしてきた結果、生まれてから17年で10年も一緒にいる仲になった。

「最近元気ないね」
「いつもでしょ」
「あ、それな。また家でなんかあったの」
「いつもでしょ」
「あ、それな。それより、鈴谷尚生っているじゃん?彩の彼氏」
「タバコ吸ってるんだって」

所詮あんなのただのイキリなんだから。そもそも関わりないし、こんな平凡な学園でむしろ浮くような気がする。

「あとはね、万引き犯捕まえたってサラリーマンをリンチした動画もあるよ」

ひかりがスマホの画面を見せてきた。なにこれ、ただのグロ映画じゃん。鈴谷とか正木とか普段は頭の切れるような集団で特にDQNな風貌でもない人たちの方が怖い。Twitterに載ってたらしい。

「しかもさ、先生たち見てるはずなのに全然怒んないの」
「経営者の孫だから怒れないんだね」
「本当にタチ悪すぎワロタ」
「笑わんで」

Re: SOS ( No.3 )
日時: 2018/09/24 22:17
名前: はや (ID: RO./bkAh)

尚生は彩の手を取り、2人は手をつないでアーケードを歩いている。

「あれ?鈴谷尚生?」
「そう、その彼女が木戸川彩」

牛乳瓶は片手にiPadを開いて物陰から彩の特定をしている。天パは牛乳瓶を連れて2人の後をつけている。

「うわ!ちゅーしてる」
「聞こえちゃうよ」

交差点の信号が赤で、2人は横断歩道の前で軽くキスをしている。

「瑛、どこまで行くの?」
「なんか手がかりがつかめるまで」

ハイハイとiPadをショルダーバッグに閉まって、天パの後をついて行く。2人は大通りを潜るかと思いきや、前を素通りして人混みの中に消えてしまいそうになる。追う天パと牛乳瓶が辿り着いたのは、繁華街だった。もう暗くてネオンの看板があちこちにかかり、キャッチや居酒屋の勧誘が後を絶たない。まだ8時前なのにもう賑わっている。

「おにーさんたち!飲んできません?」

厚化粧で金髪の女が2人に店のメニュー表を押し付けながら寄ってきた。

「お姉さん、僕ら未成年なんです」
「え?そうなの?!やば!」
「すんません!!」

急ぎ足だった天パは笑いながら去っていくと、牛乳瓶は女に一礼して後に追いついた。天パが足を止め、見上げた建物は…

「ラブホだ」

鈴谷尚生が連れ込んだのか、彼女が行こうと言ったのかは分からない。鈴谷尚生と彩は店に入っていった。天パは進んでいくが、牛乳瓶は立ち止まっている。

「瑛ってば…見てこれ」

ラブホの入口に張り紙がある。

「複数の男性による使用お断り…なんでよ?」
「ほら、男同士ってさケツの穴にぶっ刺すじゃん」
「なにを」
「言わせんなよ、ちんこな」
「おう」
「だからフィニッシュしたあとすげー汚くなるわけ、うんことか体液で部屋汚れるんだよ。部屋がうんこまみれになるから、断ってる店もあるみたい」

ラブホの前で怪しい会話をしてると、道行く男女から「ホモ?」「入店禁止だってのに」と囁かれているのが聞こえた。

「なんか、恥ずいわ」
「そう?俺イケメンに誘われたら考えるかも」

天パの屈託のない笑顔は羞恥心に溢れかえっている牛乳瓶を黙らせてしまった。確かに天パこと・神浜瑛は女性的な顔立ちをしているし体格はがっしりしているというより細いので、男性に受けるかもしれない。

「どうする?2人出るまで待つ?」
「うーん、今日はいいかな」
「結局俺ら白い目で見られに来ただけじゃーん」

Re: SOS ( No.4 )
日時: 2018/09/25 23:20
名前: だー (ID: RO./bkAh)

「ラブホって初めて?」
「うん」

彩は恥ずかしそうに俯いた。室内は水槽のように薄いブルーのライトで照らされ、ただただ綺麗である。鈴谷尚生がシャワーを浴びている間、彩が室内を見渡す。うわ…こんなの、何に使うんだろ。なんか怖くなってきた。その時、何か撮られたようなカシャッという音がした。彩は突然の音に条件反射で身をくすめた後、恐る恐るシャッター音のした棚へ足を進めた。アメニティグッズが収納してあるいくつかの棚を覗き込んで、何か反射したものに手を伸ばした。

「なにしてんの?」
「…え?」

後ろから鈴谷尚生に囁かれて右半身が鳥肌になるのを感じた。シャワーを浴びたばかりの高い体温が彩に伝わってきた。

「シャワー浴びないままでもいいけど」
「あ、浴びる!」

彩は咄嗟にシャワールームに飛び込んだ。なんだか、変だ。尚生くん。鈴谷尚生は彩が1番に手を伸ばした棚からカメラを取り出し、代わりにビデオカメラをセットした。鈴谷尚生の顔つきは至って平然としている。

「尚生くん、上がったよ」
「おいで」

鈴谷尚生が両手を広げると彩はめっきり笑顔になり、腕の中に包まれていった。

Re: SOS ( No.5 )
日時: 2018/09/27 01:07
名前: だー (ID: RO./bkAh)

部屋にこもってゲームをしていると、スマホが鳴っている。うるさいなぁ。サイレントにしておこう。南々は一旦手をとめ、ベッドに置いてあるスマホに手を伸ばす。画面にLINEの通知が溜まっている。

尚生くんとえっちしちゃった!!

秘密だよ?

でもね!すごく尚生くんがいい人ってわかったよ!

変な噂あるみたいだけど私は尚生くんを信じる

どう返そう…まぁ悩むのも時間の無駄なので当たり障りのない文章で返した。他人にカップル間の性事情を堂々と言うのは、ちょっと気持ち悪い。彩と言えど。途端にゲームのやる気をなくしたので、ベッドに倒れ込む。


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