ダーク・ファンタジー小説

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残子
日時: 2018/12/10 00:29
名前: 瀬戸 (ID: uKR9UL7u)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1072.jpg

───


「では朝の会を始めます。日直さん、お願いします。えーと…沖野くん」
元気な声が教室に響き渡る。このクラスの担任、国後 ハナ。

「はぁ、今日は僕か」
浮かない声で答えた、これといって特徴のない少年。沖野 ジョウ。

「あ、朝の会もう始まってる!」
そこへ、花壇の水やりを終えて帰ってきたメガネの少女。淡路 サツキ。

「お腹空いたなぁ…」
朝の会だというのに、構わず空腹を訴えたのはクラスで一番太った少年。南 ツクモ。

そして周防シオリ、生口 マユカ、波照間 センジロウ、宮古 ショウタ、西表 カズミ、壱岐 タツキ、三宅 ナエ、佐渡 クジラ。

この12人で1クラス。

「それじゃあまず、懇談会の書類を配ります」

ジョウが淡々とプリントを配っていく。

だがそこで問題が起きる。

「うわぁッ!波照間お前鼻血出てんぞ!」

叫んだのはショウタ。実際センジロウの鼻からは血が流れており、白かった筈の服が一部赤くなっている。

「波照間くん!大丈夫!?」

ハナが近寄ろうとするが、ジョウがそれを止めた。

「良いですよ先生、僕が保健室まで連れて行きます」

「…え、ああ、ちょっと…」

ハナは日直が不在になるのを避けたかったが、どうしていいのか分からず結局そのままでいた。

ハナがこの学校にやって来たのは一年前。まだ若いゆえに他の教師たちからの圧力は相当強い。

何かする度に「対して人生経験もないくせに独断で動いて…」「人生の先輩に刃向かうのか?」
などと言われ続ける日々。

次第に積極的な行動を慎むようになってきた。

当然それでも何も変わらない。

センジロウが鼻血を出したのは大変なことだが、それで動けば「たった一人のためにふざけたことをするな」と言われかねない。

実際、教師が朝の会を途中で抜け出すことは如何なる理由があっても許されない、という規則がこの学校にはある。

無論こんな規則は誰一人として守っていないが、新人であるというだけでハナはそういった理不尽な規則に従わされてきた。

それでも、とハナは微笑する。

こうしてこの子たちと共に歩んでいけるのなら、それでいい。
教師とは単純に成長させるだけではなく、子供とともに成長するものなのだと心に言い聞かせて。





Re: 残子 ( No.1 )
日時: 2018/12/11 09:32
名前: 瀬戸 (ID: 99wOCoyc)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=article&id=1074

ジョウとセンジロウは保健室に着いた。

扉には張り紙が貼ってあった。

『先生は出張でいません

応急手当てのマニュアルは机の上にあります

困ったことがあれば担任の先生に伝えてください』

と乱雑な字で書かれている。

ジョウは保健室に入り、机の上のマニュアルに目を通す。

「…別に鼻血だけならマニュアルなんていらないけどね」

「…」

「ところで君はいつもいじめられてるよね。教室の隅で。先生に見つからないように」

「…沖野くんは知ってたんだ」

「当然だよ。嫌でも見てしまう」

「沖野くんはそういうの興味ないんだと思ってた」

「興味はないよ、視界には入るけど。

関わるとロクなことにもならない奴等には関わらない。それは君だってそうだろ?」

「…うん」

「人と関わらなきゃ生きていけないなんて言われてるけどさ。

でも関われば人生を台無しにされる…そんなヤツの方が多いんだよ」

「…」

「君なら分かると思うけど、人の本能は本当にロクでもない。

道徳だ何だと言ってるくせに、社会の現実は弱肉強食だろ?

なら、初めから道徳なんて夢物語を語らずに弱肉強食という現実を世に広めてしまえば良いだけなのに。

それをしないのも結局自己保身のためさ」

「…」

センジロウは黙り込んでいた。

弱肉強食の世界ならば間違いなく真っ先に殺されているだろう…

という自覚のあるセンジロウには耳の痛い話だった。

「自分の身を守るために規則を作り、自分の身を守るために規則を破る。

人間ってそういう生き物だよ。本当に身の危険を感じたヤツは規則なんて関係なく生存本能を優先する。

だから『弱者』っていうのは真面目なヤツのことなんだろうね、この世界では」

「…ゴメン、沖野くん」

「…あー、ずっと言おうと思ってたけどジョウでいいよ。で、何で君が謝るの?」

「だって…僕が鼻血なんか出してなければ…」

「起きたことを悔いるより、最善の策をとる方が先でしょ」

ジョウは冷たく、しかしフォローするようなことを言う。

ジョウはいつも冷めた対応をしてしまう。

「ジョウくんはいつも冷静だね…。

…君はどうしてそんなに冷静でいられるの?」

「過去を詮索しても良いことはないよ」

ジョウは相変わらず冷たく答えながら、センジロウの鼻に綿球を詰める。

「僕の両親は働き詰めでね、ずっと忙しそうにしてたよ。

笑ってほしかった。

だから笑顔で沢山頑張った。

けど、笑ってくれなかったんだ」

「昔は…ジョウくんも明るかったんだ…」

「まぁね。けど、その明るさに報いてくれる人が一人もいなかった。

だから笑わない。かと言って怒りもしない。悲しみもしない。

初めは笑わないだけだったけど、そのうち感情なんて下らないと思うようになってきたんだ。

さ、帰ろうか?そろそろ朝の会も終わるだろうし」

「…うん」

そして二人は立ち上がった。

「君を保健室に連れてきたのは日直サボりたかっただけだよ」

「…それでも良いよ。僕もあそこにはいたくないかったんだ」

ジョウの冷たいカミングアウトに、センジロウは笑って返した。

『それでも良いよ』

と。

「…僕たちは似た者同士なのかな」

ジョウはセンジロウの一言を聞いて小さく呟き、保健室の扉を閉めた。

そして歩き出す。丁度朝の会の終わりを告げるチャイムが鳴った。

センジロウは複雑な気分を覚えながら、重い足取りでジョウの後をついて行った。

Re: 残子 ( No.2 )
日時: 2018/12/13 08:31
名前: 瀬戸 (ID: 99wOCoyc)

朝の会が終わり、サツキはツクモの席に向かった。

ツクモは学級文庫に置いてある『食事が千倍楽しくなる魔法のような本』の愛読者で、

今日も席に座ってその本を読んでいる。

サツキはそんな呑気なツクモを見て、眉をピクリと動かす。

そして…無言で机をバンッと叩いた。

今度はツクモがビクリと飛び上がる。

「なななななな何?」

ツクモは、刑事ドラマに出てくる敏腕刑事のような鋭い眼差しを向けてくるサツキに恐怖しながら訊く。

「…」

サツキはウサギのように小刻みに震えるツクモから、他の皆に視線を移す。

「ひぃ!?」

最初に視線が合ったショウタは思わず目を逸らす。

だが、サツキは恐ろしい形相のまま何もせず教室を出て行った。

ナエはそんなサツキを心配したのか、彼女の後を追うようにして教室を去った。


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