ダーク・ファンタジー小説

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今宵も月が綺麗ですね・・・・・・【短編】
日時: 2018/12/21 19:07
名前: 天月 (ID: FWNZhYRN)

満月が浮かぶ深夜、『高月 真尋(たかつき まひろ)』は残業を終え人気のない夜道を歩いていた。
空腹だった彼は遅くなった夕食を求め道沿いにあるレストランに足を踏み入れる。

レストランにいたのはシェフとして働く1人の少女『門永 零(かどなが れい)』。
彼女は閉店直前にも関わらず真尋を飲食店に招き入れる。
天使のような笑顔に真尋は零に一目惚れの感情を抱きながら席に腰かけ料理を注文する。

誰にも邪魔されず女の子と2人きりの心躍る空間。
豪華な晩餐を味わう最中、ふと零は月を見上げて言った。

「今宵も月が綺麗ですね・・・・・・」

誰でも共感を抱くただの一言・・・・・・しかし、真尋は知る由もなかった。
それがこれから起ころう悪夢の始まりだった事に・・・・・・

Re: 今宵も月が綺麗ですね・・・・・・【短編】 ( No.1 )
日時: 2018/12/21 22:48
名前: 天月 (ID: FWNZhYRN)

 時計の針が深夜の10時を指し長かった残業は待ちに待った終わりを迎えた。苦労が済んだ一時の嬉しさに一息ついた表情を浮かべ椅子に座ったまま大きく背伸びをする。朝から長時間、同じ体制で職務を全うしたせいか首や肩、特に背中が痛い。軽い運動しただけなのにボキボキと骨の音が痛々しく響く。それはまわりも同じだった。

「ふぅ・・・・・・やっと終わったな。お疲れ拓也。」

「お疲れ真尋、今日も1日大変だったな・・・・・・ったく、この仕事は疲労が溜まってしょうがない。早く家に帰って風呂上がりにビールが飲みてえよ。明日の事は考えたくねえ。」

「同感だ。仕事が山積みなのは毎日なんだから明日に備えてちゃんと英気を養わないとな。俺も今日は早く寝るよ。」

 そんな日常的に在り来たり会話が途切れる事なく弾む。

「そうだ、今日部長に頼まれた仕事の1つに分からなかった部分があるんだ。明日でいいから手伝ってくれないか?」

「オーケー、明日になったら真っ先に見てやるよ。ページを開いておいてくれ。じゃあ、俺はもう帰るよ。」

「頼みを聞いてくれて感謝する。お礼に酒をおごってやるから今度一緒に飲みに行こうぜ。あと、夜道は色々と物騒だから気をつけろよ?お前の友達、行方不明になったんだろ?まだ見つからないのか?」

「ああ、あいつが姿を消してからもう4年になるが今になっても安否すら分からない。お前の言う通りいつ何が起こるかわからない世の中だからな。十分気をつけるよ、また明日。」

 俺は帰りに必要な物が入った鞄を肩にぶら下げ同僚達に"お疲れ様でした、さようなら"と簡単な挨拶をして職場を後にした。


 今までいた室内の明るさで目の力は衰えていたため外は真っ暗な闇の世界が広がっていた。ここは街の中でも退廃地区のような陰気な一帯、車もほとんど走らずここを通る人は少ない。それ故に不気味なほど静かだ。更に付け足せば夜の闇に紛れて野良犬らしい獣の遠吠えが余計に不安を掻き立てるのだ。離れた距離を置き点在する外灯が唯一安堵をもたらしてくれる。

 俺はホラー映画の舞台を歩く気分で薄暗く狭い道路の脇にある歩道を通り帰宅を始めた。暗い世界に聞こえるのは自分の足音だけ、だが後ろに何かがいそうで恐くて振り返れない。口に出すのも嫌だがたまに何かの気配を感じていた。ひんやりとした空気、唸り声が聞こえてきそうな感覚、正直に言えば仕事で上司に怒られるよりもこっちの方が恐い。俺はなるべく早歩きで横にある公園を見向きもしないで通り過ぎる。

 季節は9月、夏が終わりを迎え始めたばかりのこの季節は朝は残暑が残っているものの夜は雪が降る前の冬のように寒い。どれくらい寒いかって?例えば吐息をすれば白い息が空気に溶けてゆく。あと、冷たい風が肌に突き刺さり震えが止まらなる。風邪を引くのは嫌だからこの時期は常に厚着のコートを持参しているのだ。だが、こんな寒暖差の激しい環境は普段の生活に支障をきたす。仕事の調子にも差し支えるが社会人として生きているからには弱腰になってはいられない。そこは持ち前の気合で何とかしよう。

Re: 今宵も月が綺麗ですね・・・・・・【短編】 ( No.2 )
日時: 2018/12/24 18:47
名前: 天月 (ID: FWNZhYRN)

 『高月 真尋(たかつき まひろ)』、だらしないながらも平凡に暮らす27歳の男性だ。高校卒業後、故郷である富山を離れ今は東京のアパートで1人暮らし。コンピューター関連の仕事をしており決して得意ではないが同僚と助け合いながら何とか働いてる。職務に就いてから早4年、ようやく職務のやり方に慣れてきたところだ。

 本当は明かしたくないが俺の子供の頃の家庭環境は最悪だった。親父は飲んだくれのギャンブル中毒でパートで働いたお袋の給料を奪っては全部自分の快楽目的につぎ込んだ。気に入らない事があればすぐに女房を殴り暴力は俺自身にも飛び火した日もあった。そんな苦痛な日々に耐えかねたのかお袋は置き手紙すら残さずに蒸発した。悲しみに暮れている間もなく次のDVの標的は俺になった。

 俺も耐えられなくなりついに家を飛び出した。しばらくは石川に住んでる不良仲間の哲治って奴の元で暮らし無秩序な生活を繰り返した。食い物の調達は万引きでもう何件ものコンビニで何度盗みをやったか覚えてない。酷い時には弱そうな相手にカツアゲをして・・・・・・女子高生を殴った事もある。理性は消えいつの間にか罪の意識さえも失いかけていた。

 そして、悪意の誘惑に負け人として絶対に許されない最悪な過ちを犯してしまった。嫌でも忘れられない。それは満月が浮かぶ深夜、俺が哲司と快楽を求め街をぶらついていた時、歩道橋の上でぶつかった青年と口論になり・・・・・・

 いや、これだけは俺とあいつだけの秘密にしておこう。悪い行いは数え切れないほどやったし人に言えない、世間に知られたくない事だってした。とにかくそんな腐れきった日々が1年ぐらい続いた。

 そんなある日、いつもように万引きを働いたが店員に見つかって警察に突き出された。俺は手首を拘束されパトカーに押し込まれた挙句、警察署に連行される。取調室で厳しい尋問を受けたが出来る限り嘘をつき共犯者である哲司の事は黙っていた。これで俺の人生は終わってしまうのかと覚悟したが運が味方して他の前科がバレる事はなかった。結局、ちょっと怒られただけで俺は不幸中の幸いにも釈放され命拾いした気分を久々に味わったんだ。

 しかしそれ以来、捕まった事がトラウマになり俺は恐くて万引きが出来なくなってしまった。それだけじゃない。1日も欠かさず繰り返していた悪行三昧もその日を境にばったりと途絶えた。しばらくは哲司1人に養ってもらっていたがだんだんと申し訳ない気持ちになり今いる場所に嫌悪感が生まれ始めていた。

 だが俺は親父のいる実家にはどうしても帰りたくなかった。玄関先で待っているのが暴力だと容易に予想できたからだ。それで仕方なく哲司に礼と謝罪をすると行きたくもなかった富山へ戻り親戚のいる家へと身を移したという訳だ。

 親戚と言っても従弟とかではなく数年前に病気で夫を亡くし1人で畑仕事をして暮らしている婆ちゃんだ。俺に道徳を教えてくれたのは婆ちゃんだった。家庭の不幸で苦しんでいた俺に涙を流し心から同情してくれた。何より嬉しかったのは"真尋の痛みが癒えるずっとここにいていいのよ?お婆ちゃんはいつだってあなたの味方だからね"と言ってくれた事。誰かに優しくされたのなんて久しぶりだった。嬉し涙を流したのはあの時が初めてかも知れない。罪の意識を感じたのもその時だった。

 その日から俺はこれまで犯してきた罪の悔い改め真面目な人間として生きる事を誓った。暴力も理不尽もない生活は前の不正に塗れた生活よりもずっと楽しかった。楽じゃないけど達成感のある毎日、親切な人達に囲まれ存在自体汚れてた俺も少しずつ錆を落としていった。いつか自分を救ってくれた婆ちゃんに恩返しがしたい、気がつけばそれが人生の目標になっていたんだ。

 そして1年後、俺は就職試験に合格し晴れて社会人という大人に仲間入りを果たしたのだ。婆ちゃんの喜びようは言葉で表せるようなものではなかったよ。俺はいつか今よりも立派になってまたここに戻って来ると約束し東京へ旅立った。

 そして、今に至るという訳だ。これが俺のクソみたいで最高に素晴らしい人生さ。


 しかしその直後、事件が起きる・・・・・・


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