ダーク・ファンタジー小説
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- 転生少女は愛を願う
- 日時: 2018/12/26 15:13
- 名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)
ただ、愛して欲しかった。
ただ、抱きしめて欲しかった。
名前を呼んで欲しかった。
私を見て、笑って欲しかった。
ただ、それだけだった・・・
愛を知らず、虐待を受け続けていた少女は、神様の気まぐれにより異世界へ転生する。
そして転生した先で待っていたのは、個性豊かで心優しい『家族』。
愛を知らない彼女は、新しい家族に愛されながら第二の人生を歩み始める。
こんな私だけど、どうか・・・どうか、愛してください。
【キャラクター紹介】
家名 ハリストン
王家の血筋。公爵家。
父 フェイル(9/3)
騎士団団長。先代国王の甥。熱血で、某有名テニスプレイヤーを彷彿とさせる。気が動転している時や混乱状態になった時は次男のケイルに殴ってもらっている(理由・殴られた時の痛みで目が覚めるから)
母 リリー(5/7)
伯爵家の次女。お城でのダンスパーティーの際フェイルに見初められ結婚。天然で抜けているところがある。ネガティブな所あり。
長男 レオン(11/11)
魔法、剣、学力、全てにおいてトップクラス。優しく物腰が軟らかで女性に人気がある。
次男 ケイル(8/6)
騎士。子供が好きなのだが、強面のため女性や子供に逃げられてしまう。そのため、自分から逃げないアリスに必要以上に構う。
三男 スカイ(5/10)
幼少期に強大な魔力のせいで魔力暴走を起こし、外見の成長が10歳前半で止まってしまっている。アリスを着飾らせるのが好きで、よく街に出かけては服やアクセサリーを買い与える。
四男 シェザード(12/24)
魔眼を持っており、相手の魔力を『視る』ことが出来る。また、その魔力の乱れにより感情を感じ取ることも出来る。魔力を同調させると、心を覗くことも可能。体調の善し悪しも多少はわかる。また、『呪声』と呼ばれる特殊な声を使える。シスコン、ブラコンをこじらせている。
五男 ルース(12/24)
極度の心配性。いつも自信がなくおどおどしている。しかし魔法の腕はピカイチで、学園卒業後宮廷魔導師になることが約束されている。妹のことが心配すぎて魔法でつくりあげた現代で言う盗聴器を作ってしまった。(ケイルに握りつぶされ鉄拳制裁をくらいました)
長女 アリス(4/2)
異世界から転生してきた女の子。前世の記憶を保持している。前世ではひどい虐待を受けており、人に対して強い恐怖心を持っている。
【その他】
不定期更新になります。
別サイトで掲載しているものですが、こちらのサイトの方が感想やアドバイスを多く貰えるのでこちらに掲載致します。元々掲載している方のサイトを更新したらこちらも更新致します。
出来たらでいいので、感想やアドバイスをください。
不定期ではありますが、頑張って完結までも出ていけるように頑張りますので、よろしくお願いします。
現在ネタ不足なので、もし宜しければ『こんな話を読んでみたい』などといったコメントをいただけるとさいわいです。
【目次】
>>1 プロローグ
>>2 新しい世界へ
>>3 触れる愛情
>>4 『少女』と『家族』(シェザードside)
>>5 かくれんぼ
>>6 僕の『妹』
>>7 『ネズミのパーティ』
>>8 召喚魔法
>>9 閑話休題・お父さんは娘とお話がしたい(フェイルside)
- プロローグ ( No.1 )
- 日時: 2018/12/26 14:20
- 名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)
ただ、愛して欲しかった。
ただ、抱きしめて欲しかった。
名前を呼んで欲しかった。
私を見て、笑って欲しかった。
ただ、それだけだったのに・・・
じくじくと痛むお腹を抑えながら、そんなことを考える。
刺されたところから溢れ出る血は、私に死を実感させる。
けれどもそこに恐怖はなく、ただぼんやりと空を眺めていた。
大量の血が流れてゆき次第に霞がかってゆく頭で思い出されるのは、家族の顔だった。
いつも私を見下し、疎ましく思っていた母。暴力ばかり振るい、口を開けば暴言ばかりだった父。
そして、そんな両親に愛され、誰からも好かれていた妹・・・
可愛くて、運動ができて、頭が良くて、スタイルが良くて、優しくて、誰からも愛されていた妹。
私の持っていないものは、なんだって持っていた妹。
私の、自慢の妹。
あぁ、もし私の人生に次があるのなら。私は、妹のようになりたい。
顔も、学力も、運動神経も、全部平均かそれ以下でいい。ただ、妹のように愛して欲しい。抱きしめて欲しい。
それ以外は、何も望まないから。だから、神様・・・
どうか、どうか次は、こんな私を愛してくれる人に出会えますように。
どうか、どうかよろしくお願いします。
そして、世界はだんだんと黒く染ってゆく。
世界が全て黒に染まりきる間際、「その願い、叶えよう!」なんて声が聞こえた気がしたけれど・・・
きっと、気の所為だと思う。
あぁでも、本当に叶うのであれば、これ以上幸せなことは無いよなぁ・・・
- 新しい世界へ ( No.2 )
- 日時: 2018/12/26 14:22
- 名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)
温かい・・・ここは、どこだろう?
どこまでも続く真っ白な世界。あたたかい世界。
そこに私は、ふわふわと浮かんでいた。
そこがどこかも、私が何故ここにいるのかも分からない。けれど、ただひとつハッキリしているのことは、私が先程、死んだということだ。となるとここは・・・死後の世界だろうか?
「そのとーり!!」
「っ!!」
突然、頭の中に謎の声が響いてきた。
それは男とも女とも取れる不思議な声で、年寄りとも若い人ともとれる奇妙な声だった。
あたりを見渡すも、誰もいない。ただただ声が聞こえるだけだ。しかし、姿が見えないそれに恐怖を覚えることは無かった。むしろ安心感さえあったのだ。
そのことを疑問に思いながら、私はその不思議な声に耳を傾ける。
まず初めに伝えられたのは、この世界のことだった。
どうやらここは現世と常世(あの世のことらしい)の狭間の世界らしく、訳ありの魂達が集まる場所なんだとか。つまり、今ここにいる私も、その訳ありの魂のひとつという事だ。
その次に教えられたのは、私の事だった。
私は、声の主の気まぐれによって作られた存在らしい。正確に言うと少し違うらしいが、そこは教えてもらえなかった。声の主は「罪滅ぼしだ」と言っていたけれど・・・なんのことだか、私にはさっぱり分からなかった。
そして最後に教えられたのは、私のこれからのことだった。
私はこれから、別の世界で人生をやり直すことになるらしい。神様補正とかなんとか言われたけれど、そこはよく分からなかった。ただ理解出来たのは、私の『最後の願い』が聞き入れてもらえるという事だった。
私を愛してくれる人に会いたい・・・そんなわがままな願いが、本当に叶えてもらえるのだ。なんて幸せなんだろう。
「それじゃあ、準備は出来たかな?」
全てを説明し終えたらしい声の主は、私にそう問いかけた。
準備・・・うん。大丈夫。覚悟は出来た。
「それじゃあ、今度こそ幸せにおなり。君はこれからの人生で、砂糖吐くんじゃないかってレベルで愛してもらえるから。だから、ちゃんと前を向いて歩くんだよ」
私がその言葉に頷くと、背中を軽く押される。
そして体とともに、意識も下へ下へと落ちてゆく。
「頑張ってね。ーーちゃん」
意識が完全におちきる直前。声の主が何かを言った気がするが・・・私にはわからなかった。
- 触れる愛情 ( No.3 )
- 日時: 2018/12/26 14:25
- 名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)
結論からいえば、私は無事に異世界へ転生することが出来た。
その世界での私は貴族の家の娘で、上には五人の兄がいた。
私は、この家の初めての娘(妹)ということで、両親にも兄にも、本当に砂糖を吐いてしまうのではと思うほどに愛されている。
まだ泣くことしか出来ない赤ちゃんだからされることは限られているのだが、ことある事に可愛いと言われ、抱きしめられ、キスをされる。
私は愛されているということに安心感を抱きつつ、同時に恐怖心も持っていた。
その理由は、私が赤ちゃんであることにも関係している。というか、主にそれが原因だ。
先程も言った通り、赤ちゃんは基本泣くことしか出来ない。空腹を訴える時も、体調が悪い時も、泣くことでしか相手に伝えることが出来ない。私はそれがとても怖かった。
前世の私が泣けば、直ぐに父が飛んできた。そして腹部を力強く蹴られ、そのまま体を踏みつけられる。その時の痛み、恐怖が、トラウマとなって強く根付いてしまっているのだ。
いくら今は優しいとは言っても、いつ暴力を振るわれるかわからない。それに、私が泣かなければ誰も困らない。泣かなければ、『ちゃんと』愛してくれる。可愛いと言って貰える。だから私は、泣くことをやめた。
お腹がすいても、五人の子を育てた母は、大体の授乳の時間がわかるようで、一定の時間で授乳しに来てくれる。だから私は、空腹に耐えた。粗相をしても、こまめにメイドさん達が確認してくれる。だから私は、そのことを伝えないようにした。体調が悪くても、寝ていればきっと治るだろう。だから私は、気持ちが悪くても、頭が痛くても、絶対に泣かなかった。
全く泣かない私をして家族は奇妙に思っていたが、兄様たちの中の誰かも同じような状態だったようで、特に何かを言うことは無かった。
泣かない私を、両親は抱きしめてくれた。兄様達は、可愛いと言ってくれた。誰もが私を愛してくれた。
あぁ、この選択肢は間違いではなかったんだと、確信する。やっぱり泣かなければ愛してもらえるんだ。殴られることは無いんだ。
私は、心の底からそう思った。しかし、それは長くは続かない。
ある日の夜。なかなか治らない体調に不安を感じ始めた頃。四番目の兄・シェザードが、寝室にやってきた。いつもの気だるげな雰囲気はそこには無く、とても険しい、そして今にも泣き出してしまいそうなほど悲痛な顔をしていた。
「・・・アリス」
眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情をする兄は、壊れ物を扱うように私に触れる。
「ねぇ、アリス。どうして、泣いてくれないの?アリスがないてくれないと、みんな分からないんだよ?アリスがお腹を空かせていても、アリスの体調が悪くても、気づいてあげられないんだよ?」
私は驚いた。なぜ、それを知っているのかと。ちゃんと『いい子』でいたはずだ。生まれてからずっと泣かなかったし、そういった素振りも見せなかったはず。なのに、どうして・・・
頭の中が疑問と恐怖でグルグル回り出す。それを知ってか知らずか、兄は私の疑問に答えてくれた。
「僕はね、人の感情を読むことが出来るんだ。体調も、いいか悪いかだけなら分かるし、頑張れば心の中を見ることだってできる。・・・だから、分かった。アリスが、いつも怯えていたこと。苦しんでいたこと。全部。でも、アリスが何も言わなかったから・・・だから申し訳ないけど、覗かせてもらったの。アリスの心の中」
シェザード兄様は、そこで一度言葉を区切る。翡翠色と藤色という美しいオッドアイは、悲しみに歪んでいた。
「アリスは、泣いちゃダメだって思ってる。泣いたら、愛されない。泣いたら、嫌われてしまう。そう思い込んでる。でも、それは違う。間違ってる。僕達はアリスに暴力なんて絶対に振るわない。怒らない。嫌うなんてもってのほかだよ。何があっても、僕達はアリスを愛するよ。だって、家族なんだから。だから・・・ね、アリス。アリスは、泣いてもいいんだよ?」
・・・本当に?
苦しそうに、けれど優しく告げられた言葉に、様々な感情が湧き上がる。
戸惑い、安堵、恐怖、喜び・・・全てがごちゃごちゃと糸のように絡み合い、心の奥へ沈んでゆく。
そんな私を見て、兄は微笑み額へキスを落とす。
「アリス。僕は明日、君が抱えていた感情を、思いを、全てみんなに話すよ。そうしないとアリスはきっと、死んでしまうから。あぁ、お医者さんも呼ばないとね。無理はしちゃダメだよ?大丈夫。何も心配はいらないよ。ただゆっくりと休めばいい」
そう言って兄は、私の目を片手でおおった。その温もりに、だんだんとまぶたが落ちてゆく。
「アリス。寝る前にひとつだけ、約束してくれる?僕らの愛を、決して疑わないと」
──うん。約束する。
兄の言葉に、私は心の中で答えた。
兄はクスリと笑い、
そして耳元へ顔を近づける。
「おやすみなさい、アリス。いい夢を」
今までとは違う、不思議な響きを持った声。その声を合図に、私は夢の世界へと旅立った。
・・・・・・・・・・・・・・
なんだか、周りが騒がしい。
浮上する意識とともに、私は目を覚ました。するとそこには、涙を流す母の姿が。
そのすぐ側には、己を責めたて熊のようにウロウロと歩き回る父。兄達の姿を確認することは出来なかったが、おそらくはこの部屋にいるのだろう。
・・・一体、何があったんだろう?
状況を理解できずポカンとしていると、顔を覗き込んでいた母と目が合った。
「アリス!」
母は優しく、それでいて素早い動きで私を抱き上げ、またおいおいと泣き始める。
「あぁ、アリス。アリス!あなたのことを何もわかってあげられなくてごめんなさい。あなたは泣かないんじゃなくて、泣けなかったのね。それなのに私ってば、大人しい子なんだと思ってたわ。あなたの心も知らずに、そんな呑気なことを考えて!あなたがずっと苦しんでいたと言うのに、気づけないなんて!食欲が落ちていることに、疑問を持つべきだったわ。ずっと苦しい思いをさせてしまってごめんなさい。お医者様に見てもらったら、あと数日遅かったら死んでいたと言われたの。それなのに私ってば!あぁ、ごめんなさい。本当にごめんなさい!どうかこの母を許して頂戴。私はあなたを、心から愛しているわ。泣いて怒るだなんて、ましてや暴力を振るうなんてとんでもない!何があっても、あなたを愛し続ける。約束するわ!だからアリス、どうか母を許して頂戴」
母は泣きながらまくし立てるようにそう言った。
蹲りながら私を抱きしめる母。その隣に、優しく微笑む父が膝をつく。
ライオンのたてがみのような髪は乱れ、男らしく整った顔の頬には、大きなアザができていた。
「シェザードから話は聞いたよ。辛かったね。何も気づいてあげられなくて、本当に済まなかった。けどね、アリス。よくお聞き。私達はアリスのことを、心から愛している。それは、分かるかな。私達は、家族なんだ。愛して当然だろう?それに、君が悪いことをしたというのならいざ知らず、ただ『泣いた』と言うだけで叱ることは絶対にしない。それはとても酷いことだ。前のアリスがされたことは、当たり前のことじゃない。むしろ少数なんだ。私達はそんなことはしない。神に誓って、そんなことは絶対にしない。だからアリス。安心しておくれ」
そう語りかける父には、いつもの某有名テニスプレイヤーのごとき暑苦しさは無く、私の思い描く『優しい父』そのものだった。
そして兄たちも、父や母と同じようなことを言ってくれた。
本当に?本当に、私を愛してくれるの?私は何も返せない。対価を持っていないのに。本当にいいの?
「いいんだよ、アリス。君は愛されていいんだ。対価なんて、必要ないんだよ」
シェザード兄様がそう言った。みんな、ウンウンと頷いて、私にキスを落としてくれる。愛していると言ってくれる、
・・・あぁ、いいんだ。私は、愛されていいんだ。
頬に熱い何かが流れていく。
それは、生まれてから初めて流した涙だった。
─────────────────
以下、作者より補足。
父のセリフを見てわかる通り、彼らは主人公・アリスが前世の記憶を保持しているということを、シェザード経由で知っています。
アリスは完全スルーしましたが、こちらの世界では記憶保持者はなんら不思議ではありません。ただ珍しいというだけです。ので、家族は記憶を保持していることに驚きはしましたが、特に何も言うことはありませんでした。むしろその記憶の内容の方が印象的だったのでしょう。
セリフを上手くくぎることが出来ず、また長いのに中身のない話となってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
次の話はシェザード視点のものになる予定です。
- 『少女』と『家族』(シェザードside) ( No.4 )
- 日時: 2018/12/26 14:52
- 名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)
残酷な描写が出てきます。
作者ですら顔をしかめるほどの胸糞悪いシーンがあります。ご注意ください。
────────────────────
「おやすみなさい、アリス。いい夢を」
額に口付けをしながら僕は、魔力を乗せてそう言った。
ゆっくりと広がった魔力はやがて、アリスの中へと吸い込まれる。するとアリスから穏やかで規則正しい寝息が聞こえ始めた。
僕はもう一度キスを落とし、そっとアリスから離れる。
──コンコンッ
静かな寝室に、控えめなノックの音が響く。
「どうぞ」
「失礼いたします」
しゃがれたような、いかにも年寄りだと思える声とともに、一人の男が入ってくる。
「こんな時間に申し訳ありません、シュレウさん。本当なら、もう少し早い時間にと思ったのですが・・・」
「いえいえ、大丈夫ですよシェザード様。この老耄が少しでも役に立てるのであれば、いつ何時であれ、駆け付けましょう。」
男──シュレウさん──は大きな黒い鞄を抱えながらゆっくりとこちらに歩み寄ると、アリスの顔を覗き込んだ。
「・・・ふむ。体調を崩された日から今日までの時間を考えると、随分と顔色がいいですねぇ。どなたか、治癒魔法をお使いになられましたか?」
「はい、レオン兄さんとスカイ兄さんが。暴走を起こさない程度なので、本当に気休め程度でしょうけど・・・」
「いやいや、それでもやるかやらないかでは大違いですよ。そうですか、お二人が・・・わかりました。それでは、あとは私にお任せください。外でレオンハルト様がお待ちになられてますよ」
「・・・はい。アリスのこと、よろしくお願いします」
僕は深々と頭を下げながらそう言って部屋を出る。
「お疲れさま、シェザード。アリスの様子は、どうだった?」
「レオン兄さん・・・今はゆっくり寝てるし、シュレウさんに診てもらってる。『呪声』を使って眠らせたから、僕が合図するまで起きることはないよ」
「・・・そうか。すまない、シェザード。嫌な役を押し付けてしまって・・・」
苦しげな顔をしながら一番上の兄・レオン兄さんは僕の頭を優しく撫でる。その魔力は黒く濁り、悲しみや苦悩が見て取れた。
僕は兄を安心させるため優しい笑みを浮かべ、「大丈夫だよ」とだけ言った。
レオン兄さんは安心したように微笑むと、僕の手を取りみんなの待つリビングへと戻った。
「あ、シェザード!お疲れさま。アリス、どうだった?何か分かった?」
部屋に入るなり、三番目の兄であるスカイ兄さんにそう言われた。
アリスはどうだったか、何かわかったか、具合はどうだ、無理をしていないか・・・とにかくいろんな質問を一気にされて、僕は返事をすることも出来なかった。
「落ち着きなさい、スカイ。それについては、ちゃんと話してもらうから・・・いいかな、シェザード」
レオン兄さんが、確認をするようにこちらを見る。
その瞳には不安と心配が浮かんでいた。
読まなくてもわかる。兄がアリスを心配していることも、僕に負担をかけたくないことも、全部。
その心配を少しでも晴らせるようにと、僕はまた笑みを浮かべる。
「・・・もちろん。言葉より見た方が早いと思うから、幻影魔法使うね。できれば、一ヶ所に固まってほしいかな」
僕はそう言って、魔力を編み上げ幻影魔法を発動させた。まだまだ未熟で、粗の多い、けれどこの中の誰よりも鮮明に映し出す、僕の得意な魔法。
その魔法で映し出したのは僕がアリスの心を覗いて見えたアリスの『過去』。生々しく、残酷で、目を覆いたくなるようなものばかりの、暗く重い記憶。
僕が最初に映し出したのは、誰かが泣いているところだった。
声を抑えるようにして泣いていたのは、前世のアリス。ちらりと見えた足には、明らかに自然にできたものではない、大きなあざがくっきりと浮かんでいる。どれだけ泣いていたのだろうか。しばらくすると、部屋の外からドスドスという不機嫌な足音が聞こえてきた。するとバンッと強く扉が開け放たれ、クマのような大柄の男が入ってくる。その顔は怒りに歪んでおり、狂気とも思えるほどであった。
『泣くな!床が汚れるだろうが、この愚図!』
強く怒鳴りつけるように男はそういうと、アリスの腹を強く蹴る。小さな体は吹き飛び、壁にぶつかって崩れ落ちた。ひゅー、ひゅーと細く苦しげに息をするアリス。そこに追い打ちをかけるように男は何度も何度もその体を踏みつけた。
『この出来損ないが!』
男はそう言ってアリスの胸を蹴り上げる。アリスの呼吸が止まり、一瞬視界が暗転した。次の瞬間には、真っ暗な部屋に一人取り残されたアリスがいるだけ。アリスは咳き込み細く呼吸をして、縮むように丸くなった。
そこには、理不尽な暴力と心無い暴言に耐える少女の姿があるばかりであった。
次に僕が見せたのは、家族がみんな揃っているところだった。
きれいな黒髪の少女と、クマのような男。そして美しい女性が楽しげに談笑している。アリスはその輪には混ざらず、寒い廊下で、家族の視界に入らないようにと膝を抱えて座っていた。
少しすると、男が何か冗談めかして話し始める。その内容が面白かったようで、女性と少女は声をあげて笑った。
アリスは、控えめに、聞き逃してもおかしくないほど小さな声で、クスリと笑った。ただ、それだけだった。
だというのに男は、小さく笑ったアリスに狂気とも思える怒りの眼差しを向ける。そこには、先程のように楽しげに笑う男の姿はなかった。
『ごめんなさい!』
アリスがひきつったような声で謝罪する。男はそれを聞かず、ドスドスとアリスに近づき髪を引っ張った。痛い、痛いと叫ぶアリス。涙でゆがむ視界がとらえたのは、少女を抱き寄せ侮蔑の眼差しを向ける女性の姿だった。
扉が閉められ、薄暗い部屋に男と二人きりになると、男はアリスを乱暴に放り投げる。そして男はアリスにまたがり、大きく腕を振りかぶって・・・
「もうやめて!!」
悲鳴を上げるようにそう言ったのは、双子の弟であるルースだった。
ルースは僕の腕をつかみ、魔法を止めようとする。その手は震え、怯えていた。
「もういいよ・・・もう十分だよね?ねぇ?」
今にも泣きそうになりながら、何度もそう訴えるルース。
僕は魔力を霧散させ、幻影を止めた。
「・・・つらい役目を負わせてしまったな、シェザード。まさかこれほどのことだとは思っていなかったんだ・・・」
苦しそうにそういったのは、父・フェイルだった。父さんは大きな手で僕の頭をワシワシと撫で、抱きしめる。
ふわりと広がった魔力は、悲しみと怒りに染まり、酷く歪んでいた。
「父さん・・・僕は大丈夫だよ」
確かに見ていて気持ちいいものではなかったが、もっとひどい記憶や心の中をのぞいてしまったこともある。その時と比べれば心構えもできていたし、まだましだったと思える。・・・いや、これをましだと言ってしまうのはどうかと思うが。
それでも僕はそう言って父さんの厚い背中に腕を回した。
「最悪の事態を想定してはいたが・・・思ってた以上だったな、あれは・・・」
そうため息混じりにぼやくように言ったのは、二番目の兄・ケイル兄さんだ。
短く切られ後ろに流すように固められた髪は、乱雑にかき回されたせいか乱れており、所々絡まってしまっている。
その絡まった髪を、気を紛らわすためかどうかは不明だが、スカイ兄さんがせっせと直していく。
「ねーねー、あれってさ、多分血の繋がった家族だよねぇ?もしそうじゃなかったとしても、さすがにあれはやりすぎだと思う。胸くそ悪い」
髪を整えながらスカイ兄さんは明るい声でそう言った。
それが決して軽い気持ちで言ったものでは無いということは誰もがわかることだろう。幼い少年のような外見からは想像もできないような力で、手に持ったブラシを握りつぶしそうになっている。
「口が悪いぞスカイ。もっと慎みを持って話なさい・・・と、普段なら言うところだが、たしかにあれは気分が悪いな・・・」
レオン兄さんはスカイ兄さんのてからひょいとブラシを取りあげ、そう言った。
それからレオン兄さんは一度大きく深呼吸をし、その後ぐるりとみんなを見渡してからこう言った。
「アリスはきっと、僕たちが今まで通り愛しても、安心することはできないだろう。あの子が負っている傷は、時間だけでは到底癒すことのできない程大きな傷だ。だから・・・今まで以上に、あの子を愛してあげようと、僕は思う。けれどそれは、僕だけでは到底無理な話だ・・・だから、協力して欲しい。あの子が笑って過ごす為にも・・・」
訴えるように紡がれた言葉。その言葉を笑う者も反対するものも、ここには居ない。
母は、アリスが目を覚ましたらたくさん抱きしめてあげると言い、スカイ兄さんはたくさん服やアクセサリーを買ってあげて、前世でできなかったであろうオシャレを楽しませてあげるんだと張り切り、ルースは魔法を覚えきれいな景色を見せると宣言した。
皆それぞれ別のやり方でアリスを愛する。その愛情がアリスの過去を塗り替えるまで、ただひたすらに、無償の愛を捧げ続ける。
それがどれほどの時間を有するのかは不明だが、それでも『家族』なのだからと、みんな楽しげに話していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝になった。
シュレウさんの診断によると、アリスはあと少し遅かったら死んでしまうほど弱っていたそうだ。また膨大な魔力量から、母乳だけでは補えないほどの魔力が消費されているのだという。そのため、スカイ兄さんの時にも使っていたという特殊なミルクを毎朝飲ませることになった。
シュレウさんは「もう大丈夫です。アリス様が亡くなられる心配はありませんよ」と言ったのだが、心配性な父は部屋をうろうろと歩き回り、ケイル兄さんに殴ってもらっていた。・・・本人がいいのならそれでいいのだが、外では絶対にやってほしくない。もしやったら他人のふりをしよう。
ほほに大きなアザをつくってもなお落ち着かない父は、まるでクマのように部屋を歩き回り、ネガティブなところがある母は泣きながらぶつぶつと自分を責めている。
・・・さすがにこれを止めるのは骨が折れそうなので、先にアリスに起きてもらうことにしよう。
僕は合図となる額へのキスをして、すっと離れる。
少しすると、ゆっくりとアリスが目を覚ました。
そこからはちょっとしたカオスというか・・・母は泣いてるし、父はそわそわしてるし、レオン兄さんとスカイ兄さんは手を取り合って喜んでるし、ケイル兄さんはすでに殴る準備しちゃってるし、ルースは安心して泣き出すし。とにかく収拾がつかない状態となってしまった。
──本当に?
アリスの困惑したような声が、頭の中に響いてくる。
本当に自分を愛してくれるのか。自分は何も返せないのに、愛してもらえるのか。そんな思いが、ダイレクトに伝わってくる。
僕は優しく微笑みながら
「いいんだよ、アリス。君は愛されてもいいんだ。対価なんて、必要ないんだよ」
と言った。その言葉に、誰もが頷き、同意する。
──あぁ、いいんだ。私は、愛されていいんだ。
そう思ったアリスの頬を流れる涙。
アリスが初めて流した涙は、きらきらと輝きながら落ちてゆく。
その涙は、過去に一度も流したことのない、暖かで優しい涙だった。
─────────────────────
今回も長いだけで中身のない話になってしまいました。本当に申し訳ございません。
今回はさすがにシリアスが続きすぎるとメンタルがブレイクされるので、ちょいちょいネタを挟んでみました。そこでちょっとでも笑っていただけたらなーと思います。
この話はもしかしたら少しずつ改稿するかもしれません。もし改稿した場合は(改稿)と書かせていただきますので、ご了承ください。
次回は心も体も少しだけ成長したアリス視点のお話となります。
週一更新めざして頑張りますので、気長にお待ちください。
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