ダーク・ファンタジー小説

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壁の外の少女
日時: 2019/02/22 01:27
名前: player (ID: uKR9UL7u)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1097.jpg

これは、『その力』に壊された少女のお話。

・・・・・・・・・・

少女は何度死にたいと思っただろう。
少女は何度絶望しただろう。
少女はそれでも進み続けるだろう。

・・・・・・・・・・

「なぜだ」

「なぜ、この少女に」

「おかしいぞ」

「私はお前に『絶対的な死の運命』を付与した」

「なのになぜ」

「お前は生きている!?」

『・・・』

「答えろ!」

「お前は一体何者だ!」

『・・・』

その声は届いている。
少女には聞こえている。
男の悲鳴に似た叫び。
朽ち果てる寸前の輝き。
全て、事も無し。
少女は表情ひとつ変えず、微塵も動かず、男を爆破した。

男は500年を生きる魔術師で、『願ったことを確定させる能力』の使い手だったという。
しかし、それは無意味に終わった。
凶悪な経歴も、その経歴から繰り出される恐怖も、少女に対してそれは微塵の効果もなかった。
丁寧に作り上げられたガラス細工が地に落ちて割れるように、その一生は一瞬で無駄になった。

少女は高校生だ。
だから、『日常』がある。
この錬金術師のような『異常』を殺しながら
『日常』を過ごしている。

「あ、おはよう!」

少女の後ろから一声。
同級生だ。

『・・・』

少女はひどく無口だ。
話す必要がないから。
少女は表ひどく無表情だ。
感情を表に出すほどのことがないから。

それでも、まるで人形のようなこの少女にはたった一人の『友』がいる。
その友が、こうして毎日声をかけてくる。

神ではない。
悪魔でもない。
天使でもない。
人間だ。
少女は、紛れもなく人間だ。

大切なもの、守りたいもののひとつやふたつ、あって当然だ。

少女は今日も『異常』を殺す。



【続】

Re: 壁の外の少女 ( No.1 )
日時: 2019/02/23 03:10
名前: player (ID: uKR9UL7u)

災難は時と場を弁えずにやって来る。
都合良く沈黙してくれたり、都合良く逃げたくれたりはしない。
災難は時と場を弁えずにやって来る。
本当に、やって来る。

「そうだ、宿題やって来た?私まだ出来てないんだけど・・・」

『・・・』

首を縦に振る。
やって来た。
とにかく時間をかけてやった。
日常を、それだけ長く感じておくために。
私が人であるために。
私の目の前の『世界』のために。

『・・・』

「・・・ぅ・・・わ、私の顔に何かついてる?」

『・・・』

首を横に振る。
違う。
何もついていない。
『友』の顔には何も。
しかし、近くに気配を感じる。

「・・・そっか、それなら───」

『・・・』

止まった。
川のように流れていた筈の時が止まってしまった。
友はそこから動かない。

「・・・フ、フ、フ、フ、フ、フ・・・」

「話に聞いてた通り・・・いや、それ以下ねぇー」

「この程度なら、時間を止めるまでもなかったかしらぁー?」

「あら、おかしいわぁー」

『・・・』

「時を止めたのに、『バグ』の害虫が一匹残ってるぅー」

『・・・』

「どう見たってただの人間なのに・・・面白ォい」

ロボットのように単調な女の声。
少女にとって必要のない声。
少女にとってノイズのような声。

「でもちょっと魔力を強めれば人間ごとき・・・」

『・・・』

「・・・あ・・・あら・・・?どうして・・・かしら、ね!」

『・・・』

「止まりなさいって・・・止まれ・・・止まれ。止まれ!止まれ止まれ止まれ!!」

『・・・』

しかしその程度でどうにか出来る少女ではなかった。
微塵も効かない能力。
抵抗は無意味。
しかし女は執拗に時を止めることに執着する。

「どうして・・・!?」

「時を止め、その中で動けるのは私だけ!」

「あなたごときが止まった時間の中に入り込んでこれるわけないのに!」

そんなことを言われてもどうしようもない。

『・・・』

「ククク・・・なら・・・なら、呪い殺して上げるわぁー!」

『・・・』

女は何か唱え始めた。
即死の呪文か。
この世界のものではない。
先程の錬金術師と似た異質な力。

『・・・』

「し」

『・・・』

「ねぇー!」

『・・・』

しかし、当然のように何も起こらない。
何も、起こる筈がない。

「ぅ・・・あ!」

『・・・』

女は目を大きく見開く。
眼前の『説明がつかない』少女から視線を離さない。

「うっ・・・うう・・・嘘よねこんなの・・・私・・・私!」

「ここまでの力を手にするのに・・・何億回も!何億回も痛みに耐えて・・・!」

『・・・』

少女は表情ひとつ変えず、一言も話さず、影に塗られた顔を女に向け、

『・・・』

女は途端に、どこからともなく現れた巨大な影に両腕を捕まれた。
丁度、磔のように女の体は十字を描く。
そして女は悲鳴をあげる。

「ぎぃ!ぃ・・・ぎひゃああああああああああ!!!」

激痛。

「あが、ああああああああああああ!!」

それはこれまで味わってき全ての痛みをも凌駕する。

そして・・・

ズシャッ

女の体は縦に真っ二つ。
残忍に裂かれ、そのまま炎に包まれて消滅した。



【続】

Re: 壁の外の少女 ( No.2 )
日時: 2019/02/23 03:10
名前: player (ID: uKR9UL7u)

忌々しい『時の支配者』たる女を倒したが、
時は依然止まったままだ。
ヤケクソにでもなったのだろうか。
自分が死んでも時を止め続ける・・・最後の抵抗だろう。
と、その時───

「・・・あれ、一体何だったの?」

『友』が喋った。
『友』が動いた。

止まっている時の中で動いた。
川ではなく、湖のような静寂さの中で。
『友』は動いていた。

『・・・』

しかし、それもまた自分の不可解な力の末端なのだろう。
それでこの『少女』は納得する。

「あの女は誰・・・?」

『・・・』

この『少女』の沈黙は、本当の沈黙だ。
何も答えられない。

「・・・もしかして・・・隠し事でもしてる?」

『・・・』

隠し事はしている。
だが、それは『友』のことを思うなら当然の配慮だ。

「・・・言いたくないなら、良いよ・・・多分、私も理解出来ないだろうし」

賢明な判断だ。
こんな状況を理解するのは不可解に近い。
『日常』と『異常』が共生する、こんな状況を理解するのは、最早那由多に一つの賭け事のようなものだ。

『・・・』

「・・・ところで、どうして皆固まってるの・・・?」

『・・・』

「あの女の仕業・・・?あの女がやったの・・・?」

『・・・』

コクリと頷く。
あの女が時を止め、『少女』と『友』だけが動いている。
まるで彼女たちだけの世界のように。

「・・・そう」

その一瞬。本当に一瞬だが『友』は笑ったように見えた。
何か笑うところでもあっただろうか?
『少女』は『友』のその笑みに疑問を残しつつ、その力で止まったままの時間を解除した。
勿論、彼女は誰がどうやって解除したかは知るまい。
『少女』は、ほんの一瞬で、指一本動かさずに解除出来るのだから。



『友』は時が動き出したのを確認し、再び歩き出した。
『少女』は、いつもならば追っていたであろうその背中を、どうしてもすぐには追えなかった。
しかし、『友』がいつも通りの顔で振り向いたので、追うことにした。



【続】

Re: 壁の外の少女 ( No.3 )
日時: 2019/02/25 00:43
名前: player (ID: uKR9UL7u)

意図せぬ事故は往々にして起こり得る。
予期せぬ災禍は唐突にやってくる。

いつも通りの授業風景。
教室には32人の生徒と1人の教師。
教師の持つ短い白チョークが黒板の上を滑るように移動する。
教卓には名簿が置かれている。
女子生徒の机の上にある紙が柔らかな風に吹かれて飛ぶ。
女子生徒は慌てて紙を拾う。
なおも薄い黄色のカーテンがひらひらと揺れ、室内を穏やかな空気が循環していく。
少女もまたその中にいた。

『・・・』

『・・・』

『・・・───』

『───』

物言わぬ『少女』は ふと、思う。
自分はなぜ女子高生なのか。
自分はなぜここにいるのか。
自分はなぜ生きているのか。
そして、この力は何なのか。

あらゆる疑問が脳に焼きつく。

『・・・』

(そうよ、あなたはそれを思い出さなければあなたになれない)

(存分に思索しなさい・・・)

(・・・偽りのまま生きていくなんて罪深いわ)

(しっかりと思い出しなさい)

(あなたの・・・)

「全てを───」

『・・・』

全てを───
それは『友』の声だった。
だが『友』は前を向いて板書を書き写している。

『・・・』

気のせいだ。
そう思い、『少女』は目を瞑り、思索を始めた。



【続】

Re: 壁の外の少女 ( No.4 )
日時: 2019/02/28 00:40
名前: player (ID: uKR9UL7u)

『友』は振り向きたかった。
『少女』が座っている、後ろの席を。
なぜだろうか。自分にも分からない。
これは恋慕の情なのか。
それとも単純な・・・『少女』の魅力ゆえなのかは知らない。
とにかく振り向きたかった。

振り向いて、その顔を見ていたかった。
何か懐かしい感じのするその顔を。
かつてもっと身近に見ていたような気がするその顔を。
見ていたかった。

『少女』は物言わぬ性格だ。
自分のことを迷惑だと思っているかもしれない。
それでも、『少女』を見ていたかった。
この気持ちは本物だ。

仮にこれが愛だとして、それが何だというのだろうか。
愛に障壁などない。
全て愛は平等だ。

チャイムが鳴る。
授業が終わった。
『友』は胸の高鳴りを感じていた。
また『少女』を見つめていられる時間が来た。


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