ダーク・ファンタジー小説
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- 宿屋の伝説
- 日時: 2019/03/17 23:22
- 名前: BBQマン (ID: uKR9UL7u)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1108.jpg
広大な領土を誇る国家・デイル王国。
しかし、その大半は、過去の戦争により焦土と化していた。
十年前のあの日───
デイル王国の国民ならば誰もが覚えている…否、忘れられるはずもないあの屈辱の日
巨大国家ジャクラウム帝国の侵攻。
デイル王国はなす術もなく国土を蹂躙された。
美しい景観は火の海になり
女子供は連れ去られ
建物は破壊され
国王は串刺しにされ
王女は八つ裂きにされ
後継者たちは魔物の餌にされてしまった。
今はジャクラウムの皇帝の息子がデイル王国を統治している。
あの日以来、デイル王国の誇りは完全に失われてしまった…。
**********
デイル王国 ヴァトナ村───
戦火の中、唯一被害を免れた村。
そこにある宿屋【白昼夢】に、彼らはやって来る。
「はぁ…お客さん来ないなぁ。予約の時間過ぎてるのに」
項垂れながらそう呟くのは、【白昼夢】のオーナー ウルリーカ=イェルムバレーン。
「………」
それを無言のまま聞いているのは居候のマグレガー。
ガタガタ…
ドアを開けようとする音。
ウルリーカは即座に反応し、顔を上げる。
「あ、来た。ちょっと待ってて、今開けるから!」
しかし、ウルリーカがそう言ってすぐ、
バタッ
ドアが開く。
「おっと…開いた。このドアも立て付け悪くなってきたか?」
「ゴメンね。修理にお金かかるからさ…」
「じゃあ今度知り合いの修理屋を紹介するよ。
ちょっとは安くしてくれるだろう」
「ありがとう!本当に助かるわー!」
「なーに、いつも泊めてもらってんだからこれくらいはやらせてくれよ」
ウルリーカに修理屋を紹介してくれるというこの男は
デイル王国の戦士 ヴァシュガ。
あの戦争にも参加していたが、負傷して砦まで戻ろうとしていたところで終戦を迎えてしまった。
それ以来、戦士と呼ばれることに対して露骨な嫌悪感を示すようになった。
戦前からよくこの宿屋を利用してくれている常連で、人当たりも良いのだが。
「今日も稽古?」
「ああ。子供達が待ってる」
「じゃあ、荷物預かっておくね」
「ありがとう」
「行ってらっしゃい」
ヴァシュガは週に二回、【白昼夢】を利用する。
近くにある稽古場で、朝の早くから子供達に剣の稽古をつけ、
夜になると戻ってくる。
決まった家を持たず、稽古で得られる資金も雀の涙程度なので、生活は全く安定していないらしい。
ウルリーカは稽古場に向かうヴァシュガの背中を見て、ひとつ大きな溜め息を吐いた。
- Re: 宿屋の伝説 ( No.1 )
- 日時: 2019/03/21 20:31
- 名前: BBQマン (ID: uKR9UL7u)
マグレガーがロビーを掃除している。
これはウルリーカが頼んだわけではなく、自発的に始めたのだと言う。
「マグレガーもいつもありがとうね」
「………」
だがやはり無言だ。
どんなことがあっても無言を貫いている。
マグレガーとは、たまたま出向いていたスラム街で出会った。
物言わぬ男ではあったが、格好からして「帰る場所」がなく孤独だということはすぐに分かった。
そしてウルリーカは、「帰る場所」のない彼を宿屋に居候させることに決めた。
働かなくてもいいし、手伝わなくてもいい。ただ、来るべき時が来るまではここにいてほしい。
ウルリーカは切にそう願った。
彼の辛さを理解していたからだ。
「帰る場所」のない彼の辛さを、ウルリーカは深く理解していた。
だからこそ、救いたいと思ったのだった。
この宿屋だって、お代を払うかどうかは客に任せている。
悪しき帝国の傀儡となってしまったが、宿屋は国からの支援を受け続けている。
皇帝の息子が何を考えてそのようにしているのかは知らないが、とにかくそのおかげで路頭に迷うことはない。
雀の涙ほどの支援ではあるが、それすらもらっていない国民がごまんといるのだ。
それに比べたらこの程度は何ということもない。
マグレガーが掃除を終えた。
そして外へ出ようとドアに手をかける。
ちょうどその時、
まだマグレガーがドアに手をかけていないのにドアが開いた。
そして1人の少女が入ってきた。
「…失礼…します」
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