ダーク・ファンタジー小説

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召喚方法の奇妙な誤り方
日時: 2019/04/25 19:13
名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)

それは突然の出来事であった。

いつも通り騒音に包まれた東京。車が走り、人が歩き、飛行機が飛び、機械が作動する。そんな、本当にいつも通りの東京だ。だからこそ、ある種の平和ボケをしていた住民たちは、いきなり目が潰れるほどの眩い光に都市が丸々飲み込まれるなんて思ってもみなかった。その光とともに、異世界へと飛ばされてしまうことだって、彼等・彼女等からすれば、想像の中にすらなかったであろう事なのだ。

そして、また別の世界では。

こちらもまたいつも通りに、ドラゴンが空を飛び、勇者がそれを退治し、魔王は世界を脅かし。それはもう、最早パターン化された生活を、延々と繰り返していた。それでも、異世界と呼ばれる此処を退屈に思う者は出てこない。魔法だらけのかなり不思議な世界であるが、住民は存外呑気らしい。そんな住民の思想や超常現象よりも、更に不思議なことが、この世界に起きた。目が潰れそうな眩い光とともに、住民が消えてしまったのだ。まあ此処までは先程の東京と様子と同じで。ここから先が少し特殊だったのだ。

一度もぬけの殻になった東京と、異世界。しかし数秒後には、何事もなかったかのように、そこに人間が戻ってきた。否、戻ってきたというのには語弊がある。正確には入ってきた、だ。

つまり。

異世界に住む人々と、東京に住む人々が、世界だけを置いてけぼりにして、入れ替わってしまったのである。

異世界にまとめて飛ばされたとある少年…のちの主人公の一人である彼は、呟いた。

「普通こういうのって主要人物だけが異世界来るんとちゃうん…?」

Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.1 )
日時: 2019/05/05 17:12
名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)

さて。この呟いた少年…いや、主人公の一人についてざっと説明しようと思う。

彼の名は河代黎明カワシロレイメイ。現在高校一年生。
運動神経が良く、頭も悪い訳ではないが、少し内向的。その為、虐められてはいないのだが、ペアを組めと言われると、必ず最後に残るタイプの人間である。
周りの人間に彼の事を聞くと、大体の確率で、「別に嫌な奴じゃないよ」だとか「あー…そういえばどんな人なのか全く知らないわ」だとかハッキリしない言葉が返ってくる。
まあ、単純に人間関係がややこしくなるのを避けるために、わざと静かな人間を装っている彼は、この評価を非常に気に入っているらしいので良いだろう。以上が彼の説明である。
そんな彼だが、人並みに、色んなことを経験しているつもりだった。
異性と付き合ったこともあるし、骨折程度の怪我、そして思春期、反抗期。正常に色んな事を経験してきた。
本人は、成長の一環として、そのほぼ全ての出来事一つ一つを、冷静に対処してきたつもりであった。それはまあ世界の経験が活かされて乗り越えられた訳であって、大きな想定外には対処できないのが人類の欠点である。

そして。

今回の経験は、若しかしたら今まで人類が経験していなかったことではないか。それはつまりこれこそが大きな想定外の一つなのではないか。そんな事を考え、彼は焦りまくった。
アニメやら漫画やらライトノベルやら、そういった部類でしか見た事のない生物、建物、景色が目の前に広がっている。
和を大切にしている日本、ましてやビルだらけの東京では見ることすら不可能な洋風の城。
そしてその上を飛び回っている、竜らしき生き物。竜と言っても、あの縦長な滑空の生物ではなく、童話に出てきそうな、大きな翼を持った、真っ赤な竜…つまりドラゴンである。
ドラゴンの他にも、西洋にありそうなレンガでできた街並み、後方に広がる森、その更に奥に見えた奇妙な建物。あれは恐らく遺跡と呼ばれるものだ。中にはきっと数々のお宝が眠っているに違いない。

そんな光景に唖然としていたのは彼だけではない。
一緒に異世界へと飛ばされた、東京都内にその時いた人々もまた、同様に唖然としていた。
機械の蔓延る世界とは違い、なんて豊かな土地なんだと、黎明は現実逃避する。とてもじゃないが、余程の事がない限りこの状況を簡単に受け入れることはできないだろう。はたと、彼は考えた。

(では現代の方はどうなったんだ?)
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場面が変わって、ここは現代。

自分たちが住んでいた豊かな土地とは一変して、薄汚れた空気とコンクリートの匂いに、彼は思わずむせ返った。なんだこの匂いは、と彼は考える。いや、考えたのは彼だけじゃなかったかもしれないが。

彼の名はギァヴィス。黎明と同い年。先程の彼とは別の、主人公の一人である。
生まれつき魔法が使えた彼は、天才と呼ばれ、嫉妬と尊敬の渦の中で幼少期を過ごしてきた。その過程の中で若干性格が歪んでしまったのは仕方がないと思う。因みに魔法属性は未だに不明である。
とはいえ、運動能力は並、知能は低め。魔法以外はてんで駄目だった彼は、良く同い年の者に虐められていた。ことごとく返り討ちにしていたが。

さて、そんな彼だが。

今回の事件には相当動揺しているらしい国民を余所に、非常に冷静に、新鮮な町並みを眺めていた。否、冷静だったのではない。単純に興味がなかっただけである。彼はこんな事を考えた。

(この不快な臭いは慣れそうにないが、本で見た機械はこう言うものだったのか。)

そう、彼は頭は余りよろしくないが、知識だけは持っていた。ただそれを応用できないからいつまで経っても頭脳が発達しないだけで。それは置いておくとして、彼の膨大な知識は、本から来るものが多かった。
ありとあらゆる小説、図鑑、絵本を読み漁った彼は、その物語、言葉、単語、知識等を吸収し、常に頭の中に入れておいた。役に立つことは少なかったものの、今日、こうして冷静になれたのだから、今までの行動は無駄ではなかったと証明された。以上が彼の説明である。

そもそもこんな状況になったのは、王の側近であるあの無能な魔術師の所為である。王も中々の無能だが。
近々、隣の大きな国との戦争があるとの事で、国が戦争に反対しつつも準備をしている中、隣国の強さが馬鹿にならんということに気付いた王が、このままでは負けると、負けたら王の支持率が下がると、そう思ったらしい。そこで手っ取り早く相手を倒す為に悪魔を召喚しようとしたらしいのだが、魔術師のしくじりによって魔法陣が大きくなり、更に、魔法陣が大きくなった事で、召喚するための代償が膨れ上がり、悪魔を召喚する事が出来なくなってしまった。最早国を覆うレベルの魔法陣は、最後の魔術師のしくじりによって、東京都内の人物とこの王国の人物を入れ替えてしまったというわけである。
因みに、わざわざ東京都内の人物が入れ替わったのには、魔法陣関連の理由があるのだが、それは後ほど。

この事実を密偵の友人から知らされたギァヴィスは、それはもう怒り狂っていたらしい。

「背後からぶっ刺してやろうかあの無能な国王めが!」

彼の絶叫がビルだらけの都内にこだましていた。

Re: 召喚方法の奇妙な誤り方 ( No.2 )
日時: 2019/05/18 11:06
名前: 塩辛太郎 (ID: jBQGJiPh)

「おーい!」

突然背後から、少し高めの声が聞こえた。黎明の体は分かりやすく跳ねた。心臓のリズムを一段と早くしながら、一先ず声の主を確認しようと振り返る。そこにいたのは背の低い少年と、背の高い女性だった。
少年はなんだかこちらを睨んでいるような風だった。大きく手を振りながら再度高めの声を出したのは女性の方だ。女性にしては低めなのかも知れないが。
そんな事よりも、黎明と、そしてその周辺の人々は目を疑った。思わず口に出しそうになった。

(なんだその格好は)

と。
少年は白のシャツに紺のズボン。此処までは普通だが、羽織られている青いマントのようなもの。何より、金髪に緑の目だなんて、異質だ。隣の女性は、真っ白な長袖のロングドレスの上に、緑のチャイナドレスのようなものを来ていた。スカートにはパニエでも入っているのか、ふわふわしている。彼女は橙色のロングに桃色の目だった。どちらも因みにブーツである。
コスプレでもない限り、少なくとも平日の東京では見かけない出で立ちだ。もしかしたらコミケでも行われていたのだろうか。そんな風にまた現実逃避したくなる。
しかしどう考えてもあの格好は変だ。実に鮮やかだが、街中にいたら普通にビビる。
そうこう考えているうちに、二人がこちらに近づいて来た。周囲の人々と共に、黎明は一歩下がる。何かされるのかと。厄介な出来事に巻き込まれるのではないかと。そんな警戒を知ってか知らずか、尚もこちらを睨んでいる少年とは逆に、隣の女性は話し始めた。

「皆様!突然こちらの世界に召喚してしまった事、深くお詫び申し上げます!ですが、我々は故意にあなた方を召喚したわけではないのです。そして、この国は今、住民がそちらの世界へと召喚されたことによって、大変な危機を迎えております!どうか、手を貸しては頂けませんでしょうか!」

訳がわからない。
そういった風に、現代の人々は女性を見つめた。先程と変わらずニコニコしている女性は、話し終えただけで満足したらしい。頑張って台本に載っていた台詞でも覚えたのだろうか。
というか、話の中心となるその『危機』の内容が話されていない。この女性、頭のネジが数本抜けているのではないか。早急にドライバー持ってきた方が良いのか。くだらない事を考えながら、黎明はまた現実逃避を始めそうになる。仕方ない。黎明自身、現実逃避が癖になってしまっている事は自覚していた。
周囲の人間がざわつく中、ケロっとした顔で、黎明は言った。

「訳が分からない。一から説明してもらっても構わないだろうか。というか、そもそも君らは誰なんだ?」

まるで年配者のような話し方に少々驚いていたような女性だったが、すぐに表情を元に戻して話し始めた。隣の少年は益々目付きを鋭くしていたが。というか、語尾に必ずびっくりマークが付くようなこの喋り方、なんとかならないのか。人数が多く敷地が異常に広い分仕方ないのかもしれないが。

「えぇ、名前も名乗らずに申し訳ありませんでした!私はローズ・シュタイン!隣の彼は…」

彼女が続けようとするのを無理やり遮って、少年が初めて声を発した。ビックリするほど低い声で、彼は名乗った。

「……エコーだ。」

「…はい!宜しくお願い致します!…本題に移るのですが!この国は、隣国との戦争の準備中であり、そして、いつ攻め込まれてもおかしくない状況なのです!そんな中、召喚方法を誤った所為で、偶々魔法陣を開いていたそちらの世界とこの国の住民が入れ替わってしまったようなのです!幸い私達は森にて修行を行っていた為に召喚から免れましたが…ご存知かも知れませんが、この国…いやこの世界は魔法を主とした世界!科学の発達したそちらの世界とはまるで違う世界!そこでです!科学の存在しないこの世界で、想定外の戦術を錬れるのはあなた方のみ!住民が消えた今、この国を守れるのはあなた方しかいないのです!どうか、協力してはくれませんか?」

またあの笑顔のまま長話を終えた彼女は、また満足そうに息をついた。話の中に矛盾がちらほら見えた。科学の存在しない世界で、どうやって科学を作ればいいと言うのだろう。というか、何故この女性は、こちらの住人が科学を使える事を知っていたのだろう。
それよりも重要な事を、黎明は尋ねた。

「…………ん?俺たちはいつ帰れるんだ?」

「それは分かりかねますね!」

…言葉を聞いた瞬間、東京からの客人は戦慄した。
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「ゼー…ハー…」

初めて見た機械に、その死にかけの目を生き返らせて、見るもの全てが新鮮だと言いそうな幼子の如く街中を走り回っていたギァヴィスは、体力を使い果たして今にも倒れそうだった。否、倒れた。
因みにここまではしゃぎ走り回っていたのは彼のみだ。他の物は大きくそびえ立つガラスとコンクリートの塊に怯え、空気の汚さにむせかえっていた。
隣にいた密偵の友人ことランスロットは呆れたような目でそれを眺めていた。倒れたギァヴィスに近付くと、彼はその上にどっかりと腰掛ける。ぐえ、と鴨やアヒルのような、いや、潰れた蛙のような声をあげ、ギァヴィスはランスロットに抗議していた。元々短気な彼のことだ。どうせ殺してやるだとかぶっ飛ばすぞだとか物騒な事を叫んでいるに違いない。丁度背中のあたりに座られ、肺を若干圧迫されていなければ、の話だが。
ギァヴィスは思い切りランスロットを睨みつけたが、彼はどこ吹く風で、これから如何しようかと考えていた。

今もう一度魔法陣を展開すれば、今度こそどの世界へ行くかわからない。そもそも、元に戻せるかどうかすら怪しい。こういう場合はどうすれば良いのだろうか。
ランスロットはその聡明で普段は滅多に活動しない頭脳をフルで働かせていた。勿論無表情だが。下にいる彼はいよいよ呼吸が難しくなってきたらしく、息切れしていたこともあって気絶しかけている。流石にまずいと思い腰をあげた途端、ギァヴィスはガバッと起き上がり、妙な体勢のまま彼の尻をかなり強く蹴っ飛ばした。
反射的にランスロットが殴り返すと、あ、と思う間もなく、ギァヴィスは気絶した。しまったと思うがもう遅い。彼の鮮やかな銀髪が揺れて、やがてドサっという音と共に地に落ちた。

その時、轟音が街に響いた。

驚いてランスロットが空を見上げた。そこにあったのは、巨大な飛行物体であった。ランスロットはやけに冷静な頭で考えた。これが、異星人というものか、と。


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