ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 異世界転移者育成学校で夢の転移者目指します!
- 日時: 2019/08/01 07:45
- 名前: かみかま (ID: Hk5cTOzj)
今朝、最後に親の顔を見て家を出た。
家族の顔を思い出す。見送りは意外とあっさりしていて、まぁこんなものかとも思ったし、ちょっと寂しくも思った。まだ俺は大人になりきれていないのかもしれない。
長いこと電車に揺られ、バスに乗り、ここまで歩いてきた。寒くもなく、暖かくもなく、お散歩にはもってこいの日。周りには何もないからのんびりするにはぴったりだ。
だけど俺は別に散歩に来たわけではない。じゃあ何故誰もわざわざこんなに長い時間をかけて行くことなどないような辺鄙な田舎で、俺は黙々と歩みを進めているのか。
……そんなの、自分が一番よく分かってるじゃないか。
自分の胸元をぎゅっと押さえた。
一歩一歩足が動くたびに胸が高鳴る。歩幅が大きくなる。全身が熱くなっていく。
別に疲れているわけでもない、むしろその逆で身体中からエネルギーが湧き、喜びが溢れてくるのを感じる。
暫くすると山が見え、その入り口に長い長い階段が見えた。
「もうすぐだ……!」
我慢できずに思い切り走る。2段飛ばしで階段を駆け上がる。今まで体の中に溜まっていたエネルギーが思い切り出てきたみたいだ。もう待ちきれない、俺の夢はもうすぐそこまで迫っているんだ。
途中でよろけても問題ない、息が上がっても関係ない。
ふっと顔を上げたときに山奥に似つかわしくない、最近できたような赤い鳥居が見えると俺のペースは更に増した。
早く、早く登れ!もっと早く、もっと早く!あの鳥居に届くように…!
あと21段、あと11段、あと5段、3段、あと1段…!
「届け!」
赤い鳥居を抜ける、と共に整備も碌にされていない山奥にいたはずの俺は洋風の豪華なホールらしき場所に立っていた。
俺と同じ年代の少年少女が100…200…とりあえず、もんのすごい人数がぎゅうぎゅう詰めになっている。
その視線が一度に俺に向けられるものだから、俺は少したじろいた。
さっき叫んだ言葉がまだホールの中で反響しているような気がした…とてつもなく恥ずかしい。
「あなたで最後ですか?遅すぎますよ、賀茂透輝さん。」
刺さるような視線と共に長身の落ち着いた女性が賀茂透輝(かも とうき)こと俺に話しかけてくる。一応叱られてはいるのだが、その声色は柔らかく、きっと相当な人格者だ。
「はい、すみません…ですが、一応47秒前についてます!」
「…この学校の生徒たるもの、もう少し時間に余裕を持ちなさい…えぇと、とにかく入学おめでとう。」
女性は少し呆れた様子を見せたが、すぐに少年少女達の前へ戻っていく。
『入学おめでとう』……。そう言われてやっと実感が湧いた。
ここは学校、少年少女はこれから一緒に学びを深める仲間、さっき話した女性はこれから多くのことを学ぶ先生。
心臓の鼓動が早まる。胸が苦しい、だけど、それ以上にものすごく嬉しい。
俺、本当にここに入学できたんだ。
本当に、入学したんだ……!
この、異世界転移者育成学校に!