ダーク・ファンタジー小説
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- 罪無き殺人犯
- 日時: 2019/08/15 12:29
- 名前: 千葉里絵 (ID: g0slzSWz)
8月14日 都内
世田谷区のアパートにて舌を切り取られた死体が発見。遺体は部屋の住民で都内の大学に通っている笹木七海(21)と判明。第一発見者は被害者と同じ大学に通う黒澤愛美(20)。死因は舌を切ったことによる窒息死。
8月17日 神奈川県
横浜市の一軒家で頬を抉り取られている死体を発見。遺体は家の主で会社員の高木進(37)と判明。第一発見者は被害者の妻の高木春子(34)。死因は後頭部の複数回に及ぶ打撲。
8月23日 都内
小金井市の公衆トイレででん部の肉を抉り取られている死体を発見。遺体はトイレ清掃員の太田真紀子(47)と判明。死因は刃物に刺されたことによる出血多量。第一発見者は近くを散歩していた倉橋雄大(27)
8月25日 千葉県
千葉市の会社であばらを抉り取られた死体が発見。遺体は経営者の立花彰(50)と判明。死因は細いロープ等の紐に首を絞められたことによる窒息。第一発見者は従業員の金子昴(25)。
その後、8月30日現在まで似たような事件は無し。
- Re: 罪無き殺人犯 ( No.1 )
- 日時: 2019/08/14 20:48
- 名前: 千葉里絵 (ID: g0slzSWz)
「で?……何ですか?これを読んで、犯人を捕まえろ、と僕に言ってるんですか?」
数枚の資料をクリップで留めた物をペシリと机に放ると、志賀沼は此方を見つめた。
少し長めの黒髪は目に掛かって邪魔そうだ。
切れ長の目の下には隈がくっきりとある。恐らくこの隈さえ無ければなかなかのイケメンになりそうなのだが……。万年睡眠不足のため、それは永遠に実現しそうにない。
年齢は……聞いたことがない。職業は犯罪研究所研究員。
犯罪研究所とは10年程前に国が作った施設だ。
ここ数年間、犯罪は増える一方だったため国が苦肉の策として設置したのだ。上手くいかなければ一年で終わる予定の実験だった。だが、実験は成功した。
犯人の心理を考え、犯人を捕まえるというのが実験内容だった。これを今も志賀沼は行っている。
こんな捜査方法が主流を占めている今の日本はおかしいのかもしれない。だが、志賀沼の捜査は必ず当たる。
だから日本政府は、未だに研究所に資金を出し続けている。
「ええ、体の一部が抉り取られた死体。それがつい最近、四人も発見されたのよ」
「……でも、それだけじゃ同一犯だとは言えないですよね?これだけの件数じゃ、たまたま体の一部を死体から抉り取るという事件がたまたま四件狭い期間の間に起きたとも考えられます。第一、犯人の指紋も髪の毛も何も残って無かったんでしょう?」
その通りだった、警察本部でもその様な考えを言う人間は少なからずいた。そのためこの仮説は本部では通らなかったのだ。
それを今、志賀沼の所に持ってきたのは何か不安だったからだ。この捜査方針では間違っている気がしてならなかったからだ。
「でも、志賀沼君。アナタなら分かるでしょ、私がこれを持ってきた理由が。それにアナタなら……」
「僕なら、何ですか?」
「……アナタならこの事件の真相も解っているでしょ?」
- Re: 罪無き殺人犯 ( No.2 )
- 日時: 2019/08/15 12:25
- 名前: 千葉里絵 (ID: g0slzSWz)
「……間違えないで。私は先島ですよ。志賀沼にこの事件ををこんな短時間で解ると思いましたか?……いや、もう少し考えれば解るかもしれませんけどね。でも、私は資料を見た時に解った」
志賀沼……いや先島は少し此方をバカにした様な口調で言った。
「今回は志賀沼君じゃなくて、先島君が出てくるのね。ええ、これはアナタへのお願いよ。この事件の真相を私に教えてほしいの」
お願い、と頭を下げながら頼むと先島は不本意そうな声を上げた。
「嫌だな、由紀子さん。頭なんて下げないでください。良いですよ、今回の事件は私の方が志賀沼より向いてますから」
「ありがとう。協力感謝するわ。で、この事件は何なの?何が目的で犯人はこれを行ったの?」
先島は机の上の資料から四枚の写真を出してきた。
東京で舌を切られていた、女子大生。
神奈川で頬を切り取られていた会社員の男性。
東京都ででん部を切り取られていた清掃員の女性。
千葉であばら肉を切り取られていた会社経営者の男性。
この事件の被害者とされている人たちの遺体の写真だった。
「……カニバリズム」
「え?」
「だから、カニバリズムですよ。犯人は食べるために人を殺したんです」
- Re: 罪無き殺人犯 ( No.3 )
- 日時: 2019/09/30 21:29
- 名前: 千葉里絵 (ID: /D2iNz78)
「食べる……ため……?」
人が人を食べるために殺した?どうして?いや、それは食べるためなのだが……。なぜ、人を食べる必要があった?
「由紀子さん?大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。どうぞ、そこに座ってください」
先島に促されるままに横にあるソファーに座り込んだ。
「で、先程の続きなのですが……」
話を続けようとする先島の声に被せる様にして、私は声を上げしまった。
「待って!なんで……なんでそんな風にカニバリズムだなんて言い切れるの?……根拠があるの?そもそも現代の日本でカニバリズムなんてあるわけ……」
「ありますよ。カニバリズムは今、この日本で、数日前に行われています。犯人は恐らく、今も美味しく冷凍なりなんなりして保存していた肉を食べているでしょうね」
何も感じていない様に淡々と述べる先島を私は見つめる以外に出来なかった。
「こ、根拠は……」
やっと声が出たと思ったら先程と同じことを訊いていた。
「根拠はありますよ。まず、切り取られている部位が、豚や牛等の食べられる部位です。要するに……美味しそうな場所。それから被害者は全員ある程度肉付きが良いですよね。ガリガリな人はいない」
机の上の遺体の写真を指差しながら先島が言う。
「わ、わかったわ。でも、肋の肉は?あそこはどうして抉り取られていたの?」
私が訊くと、先島はそんなこともわからないのか、という顔をして言った。
「スペアリブ……ですよ」
この一言を言い終わると先島の体からスッと力が抜け落ち、頭は下を向き、腕も力なく床に向かって垂れている。
これを見て、私は漸く体から力を抜いた。
よかった、志賀沼が帰ってくる……。
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