ダーク・ファンタジー小説
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- greed
- 日時: 2020/03/06 02:28
- 名前: たむちゃ (ID: .LvfpM8c)
コロナ休みで勉強する気が起きないs j kのただの戯れです。続くかわかんないけどよかったら見てやってください。
注意〜
・一話完結の短編集にできるように頑張ります
・血がいっぱい出ます
- Re: greed ( No.1 )
- 日時: 2020/03/06 02:42
- 名前: たむちゃ (ID: .LvfpM8c)
chapter1【解】
時はこの世界の暦で19600年、暴虐な主君からの租税、劣悪な法律、無慈悲な刑罰への不満により、とある城が火に包まれた。
燃やせ、燃やせと謳う臣民の声は雷鳴のように街中に轟いた。地獄へ落ちろ、死ね、そんな怒りは天を駆け登り、地を這い、世界中に響き渡るようであった。
「あぁ、やっとこれで終わる」
切望の声は、城の中からも漏れ出た。最初こそ消火や、迫りくる反乱の脅威に対応しようとしたものの、もう皆疲れていた。罪のない人を処刑するのも、奴隷のように働かされるのも。訳の分からないことを叫び出すメイド、神に祈る兵士、自ら火の中に飛び込む庭師……全てが非日常であり、そしてその非日常の到来を皆望んでいた。町民が憎む裏で、その敵であった者たちの、誰もが死にたかった。
……起きなさい。一緒に逃げましょう、アーノルド
悲痛な声で、朦朧とした意識は覚醒した。
姫、私の愛した姫。若き15の姫は、焼けるように熱い廊下の端で、私を呼んだ。さあ、はやく。あなたをここで終わらせるわけには行かないわ。私と一緒に来るのよ。はっきりと頭に響き、私は立ち上がる。ふらふらとする足を持ち上げて、抜け道へと走っていく。
背後で殺せ、という掛け声が聞こえたような気もした。そして、遠くの方で銃声が鳴る。戦う気のない我らを彼らは痛めつけようとする。なぜならそれは、
「私たちが、酷いことをしてきたから。これは当然の報いよ」
何度も、そう繰り返し呟く姫様は、決して止まらなかった。前へ前へと進んでいく。
「……王は、」
「この騒ぎに乗じて、私が殺したわ」
驚いてはいけない、と彼女は言った。私の方を向かなかった。
「どうせ生まれた時から人殺しだもの。それなら最後に、民の自由の手伝いがしたかった」
正しい道徳観は、この王族の中で彼女だけが持っていた。気を病んだ我らを、自分の部屋に招き入れて紅茶を入れてくれた。父君にばれないように、絶対に内緒だと。
私たちが反乱を起こさなかったのは、王が私たちにかけた術___軽い洗脳のようなものだ____の影響が何よりの理由だが、姫への忠誠があったから、というのもある。王はもう若くない。この苦しい日は、じきに終わる。そうすれば、次は彼女が君主となる。流した涙を必死に拭いて、それだけを信じて仕えてきた。
民が、その心労を知っているわけがなかった。彼らにとっては、王の配下は皆敵意の対象だ。
「王の直属部隊をどのように出し抜いたのですか」
王の護衛にあたる者たちのことだ。魔法兵士で、魔道具を使って戦うのだが、一級戦士と呼ばれ、類を見ないほど強い。今回の火災だって、彼らが大量の水を出すことが出来れば、10分せずともおさまったはずだ。
「父に会いたいといえば、簡単に入れてくれたわ。それでナイフで刺して出てきたの。本当は部隊に言い訳も考えてたんだけど、びっくりした、出てきたら倒れていたわ。多分父の力が強すぎて、体や精神を完全に支配されてしまっていたのね。可哀想に」
恐らく部隊が完全に消火活動に向かう前に、王の息は絶えていたのだろう。
直属部隊だけでない。みんな主君の魔法によって無理な労働を強いられていた。心と正反対のままに、体は動く。主君が死んだことにより、その呪いが解けたということだろう。喜ばしいことではなかった。あまりにも強い力から解放され、倒れている者、気が狂っている者を何人も見た。
「姫君に、血を浴びさせてしまったことは……」
「なぜアーノルドが謝るのか分からないわ。私は今日で王族を追われた身。対等な身分よ。それに、心は元々王族ではないわ」
尊厳もルールも、もう何もかも持ってない。楽になった。そう言ってのけた姫に、これからも私は一生忠誠を誓う。
抜け道の地下通路は、もうじき出口を迎える。そこからはもう安全ではない。隣国には入るが、きっとまだ民の燃え盛る歌声は聞こえるだろう。どこで討たれるか分からない。剣の感触をしっかりと確かめた。剣の腕には自身が無いわけじゃない。必ず、この姫をお守りしてみせよう。
「……私が、謝らなければ」
姫は急に立ち止まった。しんと静まり返る地下通路。
「あなたは死にたかったかもしれない。あなたは、父の指示でたくさんの人を殺したわ。あなたは切れ者で、腕もいい。父が気に入るのも無理はないわ」
振り返った彼女のドレスに飛び散った鮮血を、私は初めて目の当たりにした。
「ねえアーノルド、あなたは『民』よ。私がどれだけ父が嫌いでも、血は血なの。私を恨んでいるでしょう。あなたが望むのなら、ここで殺しても構わない」
これは私のわがままなの。だから……
きっと彼女は苦しかった。いくら憎んでいたといえ、人殺しは辛いだろう。私だって苦しかった。何も変えられない立場というのは、どうしようもない苦しさがあるのだと思う。それを私が知ることは出来ない。
「……侍女のサリーはぶつぶつ呟いて窓から飛び降りたわ。ドクター・ドナルドの元へ行ったら……自分の喉元を刃物で裂いて、ちょうど倒れるところを見た。看護師のライラもよ。慕っていた人たちは、みんな自分で命を絶ったの。ごめんなさい、私、もう耐えられなかったの。自分の罪はわかってた、でも死にたくなかったのよ。怖かった。だから、……あなたを呼んでしまったの。あなたは廊下の真ん中で、煙が迫ってるのに座り込んでたから」
王が死んで、術が解けた反動か、自分がなぜあの時あそこにいたのか、どうしても思い出せない。ただ民衆の力強い歌声と、轟々と火の燃える音は分かっていた。ただ終わりにしたい、その一心だったのだと思う。仕え、慕う人のことも忘れていた。疲れていた、のか。
「あなたはあそこで死ぬには勿体ない人間だから、って自分に言い聞かせたけど、私のエゴでしかない。1人にならないために、私は民を犠牲にしようとしてる……」
苦悩で握られた彼女の手を、そっと掴む。跪きながら口元に持ってきて、手の甲にそっとキスをする。
「私の命はあなたにある。家じゃない。あなた自身にあるのです」
悲しげな表情が、彼女に浮かんだ気がした。彼女は言う。
「アーノルドの命は、アーノルドのものよ」
「あなたの為だったら、命さえ投げ打ちましょう。それが、家臣全員の総意でございます。それでもあなたが贖罪を果たすというなら、それは苦しみながら、長く生きることでございます。今後は私に、殺せなどと言わないでくださいませ」
姫がため息をついた。表情が緩んで、その拍子に、彼女の白い頬に涙が一筋つうと伝った。
「父の術のせいだと思ってたけど、そもそもが分からず屋なのね」
立ち上がって姫の手を引っ張った。
「もうすぐ外に出ます。上着のフードをお被りください。……まずは、逃げ延びないと」
火がついてから起きるのが遅かったせいで、防具をつける暇さえなかったのが功を奏した。目立たない格好だ。これなら隣の国でおかしく思われることもないだろう。
火の海、怒号、焦げた匂い。全てが彼女を苦しめるだろう。もう彼女の味方は自分しかいない。午前零時の反乱が終わりを告げる前に、できるだけ遠くに逃げ延びよう。彼女の気が休まるところまで連れていき、そして彼女にとって自分が必要なくなるまで、ずっと、隣に。
あの時、私はどのように行動するべきだったのだろうか。
あそこで私が別の決断をしていれば、君は未知の苦しみに怯えることもなかったということか。
教えてほしい、どこで道を踏み違えた?
そもそも、最初から間違っていた?
私たちは、一体、何の怒りに触れてしまったのだ?
嗚呼それは、今や誰も、知らない話。
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