ダーク・ファンタジー小説
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- 俺たちのパラダイス
- 日時: 2020/03/23 16:03
- 名前: 黒衣 (ID: Gui0iSKB)
はじめに:
この作品は主が始めて投稿する作品です。
至らない点などありますがご了承ください
第一話 「始まり」
電子音が奏でるチャイムが授業の終わりを知らせると、教室はたちまち賑わいに包まれた。
中島、塩田、小崎のバカ三人衆がふざけ合い、参考書とノートを睨みながらペンを走らす公輝、騒がしい女子たちのおめでた恋愛トークだとかが教室を彩る中、俺は頬杖ついて入道雲と青空の元に広がる運動場をひたすら眺めていた。
九州某所、とある住宅街の離れにある流秀高校。そこはスポーツの名門であり偏差値もそこそこな至って普通の公立高校だ。
色んな先生たちが教室を横切って行く中、どすんどすんと一際どデカい足音が近づいてきて、それを察知した皆は騒ぐのをやめた。
「おーし、席につけ!」
教室のドアを開けるなり野太い声で美濃先生は一喝入れた。
俺たちが2年になった時から赴任してきたこのおっさんだが、とにかくいかつく「美濃」の美の面影すらない牡牛の本能と外見を併せ持ったような先生である。
担任になった時こそビビったが、最近はもう慣れてきたし皆にも舐められっぱなしでミノウタウロスなんてあだ名もついているザマである。心なしかミノタウロスに似ている名前のせいでニヤニヤが止まらない……。
「石塚!何ニヤニヤしてるんだ!」
……怒鳴られた。そりゃあミノタウロスが立派にモーモー授業してたら自然と口角が上がるだろう。やらしいこと考えんなよ石塚!なんて言われて教室中から笑いが起こった。まったく失礼な牛だ……。
こうして美濃の長話が大半を占めたホームルームが終わり、またチャイムが鳴り響いたのだった。
皆が教室を出ていくが、俺はまだ帰らない。俺は頬杖をついてアイツが声をかけるのを待っている。
「勇翔、帰ろー。」
呼ばれた。心を踊らせ振り向くと、歩美が待っていてくれた。
俺の友達、前村歩美は小学校の時からの幼なじみで俺の事をよく分かってくれた。
昔は歩美とよくかけっこしてボロ負けしてたっけ。小学校じゃ歩美の方が高かったのに、今じゃ俺より10センチも低い。ほんのり茶色が混じったふんわりショート。振り向くとすこしいい匂いがする……。
最近、歩美のことを意識し始めた。歩美と目が合うとドキッとする。話す時も少し心臓がドキドキする。
「そういえばお前、部活は?」
「今日は休み。勇翔もなんか部活入ればいいのに。」
「いや、俺はクラス人気者という立場があるから。俺がいないと皆が寂しがるからさ☆」
本当はそんな事はないのだが、ずっと言っていればそんな錯覚すら感じてしまう。
歩美の笑いと俺の愛想笑いで賑わう夕方の住宅街。クラスが離れて、歩美は部活も入って本当の人気者。もう戻らない日々と虚しい現実を重ねるように夕日が俺を暑苦しく照らすみたいだった。
歩美は女子バスケ部のエースで、1年生の頃からスタメンを勝ち取った。バスケ部は初めて入ったらしく、全くの初心者。そんなんでエースなんてもはや天才である。元から歩美はめちゃくちゃ早かったし体力もあった。やっぱり自分の居場所を見つけたんだな……。
歩美との会話は日頃の疲れが吹っ飛ぶぐらい楽しいし最近は話せる時間も減ってきた。だからこの貴重な時間は大切しなければならない。……なんて思ってたいら既に別れの時が迫っていた。
Y字に別れた道路だ。左に進むと勇翔の家、右に進むと歩美の家に着く。何ともむごい。おお、神よ!俺と歩美は引き裂かれる運命なのでしょうか!
「あ、私こっちだ。」
歩美の何気ない言葉が俺の心をえぐってくる。楽しい楽しいおしゃべりタイムもこれでおしまいだと思うと辛い。
「じゃあね〜。」
そうこうしているうちに歩美は行ってしまった。大したこともないはずなのに俺の心には大きな傷が残った。歩美と話せる時間が少なくなっている。
そう気づいた時から傷を負い始めていた。あいつも彼氏とかできてるだろうし絶対取られてたまるか……!
──一人の静寂を噛み締めながら俺は進んだ。頬を撫でていく風を振り払いながら進んだ。蒸し暑くて、湿気臭い。この鬱陶しい気分も6月のせいだ。
もうすぐで家だ、嫌いな雨を忘れられる。信号で止まり、青を待つ。信号が変わると、ペダルを踏み込んで先へ進んだ。
……空腹でたまらない。コンビニでからあげでも買うかな。本当は、歩美と一緒に食べたかったけどな……。
その時だった。猛スピードでトラックが突っ込んできたのだ。振り向きざまに頭の中に様々な記憶がよぎった。
歩美と初めて会った日、小学校の卒業式、今に至るまでの大切な思い出……。突然と涙が溢れてきた。焦げ臭いタイヤの臭い。耳をつんざくブレーキ音。考えるまもなく、一瞬のどデカい衝撃と激痛で俺の意識は弾け飛んでいった。
「これが運命。」
「そう、お前が言った、友と引き裂かれる運命だ。」
「本当は分かっているのだろう?」
「この理不尽な世界に怒れ。」
声がする……。強く、広く、反響するように……声がするたびに、頭がズキズキする。
「怒れ。本能を全て解き放ち、間違いを正せ!」
耳を塞いでも、目を閉じても、姿が消えない。声が聞こえてくる。しばらくするとそれは止み、寒気と震えに変わり、一気に襲ってきた。
全身の感覚がなくなって、冷たい風が吹いている。暗闇の中に、自分の肉体がうごめいている……。目が覚めた。起き上がると一面が大理石の床だった。
その先には灰色の濁った水。上を見上げれば星一つない闇空が広がっていた。
勇翔は手を見て気が付いた。自分の手は青白く……死人のような色をしていた。
慌てて顔や首などを触っても感覚がなく、近くにあった濁った水たまりに駆け込んでそこを覗いた。
その濁った水には青白い肌で流秀高校の制服を纏った石塚勇翔の姿が写っていた。
「よお、お目覚めか。」
突然、声がした。見上げると青白い肌の男に見下ろされていた。不気味に輝く青い瞳がナンだが、なびく金髪が良く似合う美男子。悔しいがハンサムだ。
彼は王族や騎兵隊が身につけていそうな華やかな赤い服を身につけていた。
ぎらぎらと不気味に光る青い目で眺められるもんだから、勇翔は少し引き気味に男をみていた。だけどそのままじゃ始まらないので思い切って聞いてみた。
「お前、誰だ?ここがどこか説明してくれよ。」
すると、男は笑いだした。
「おい、何がおかしい?」
勇翔が聞いても男は答えない。何か妙な言葉を呟きだしては不可解な笑い声を上げるだけだ。
よく見ると男の目は充血して、腕には掻きむしったような跡がある。まるでノイローゼ……。
「ここは死神界。全てが無に帰す、人間界と対になる場所だ。俺たち死神は人間界で死んだあらゆる生命をここで裁き、善悪を区別するんだ。」
「そしてお前は、善人だ。」
勇翔のわけもわからぬまま男は中指を突き立て、言った。
「石塚勇翔、俺はお前が気に入った。拾ってやる。」
意味不明だった。それに色んな意味で怖い。頭の中がパニックで、恐怖が肌を刺す。
男の肌は青白く、温かみを感じられない。まるで死人みたいだし、ノイローゼ気味だし……俺の名前まで知っている。冷や汗たらたらの俺の背中に、不安と恐怖がつきまとう……。
「ついてこい。ボスに報告する。ボスもお前のこと気に入るぜきっと。あひゃひゃひゃ!」
あれからずいぶん経ち、俺とあいつはずっと大理石の床を歩き続けていた。ノイローゼ気味のあいつは口笛吹いてお気楽にお散歩気分。俺は思い通りに歩けない砂袋みたいに重い足で、ふらふらと歩き続けた。
「おい、これからどこに行くんだよ……?」
汗だくになって必死で息を切らしながら、勇翔は聞いた。
「ボスの所だ。俺たち死神や現世の命全てを司る、万物の父の所に行くんだよ。あひゃひゃぁ!」
ノイローゼ美少年はさっきからずっとこのテンションで、精神状態を疑いたくなる。
……そして、湖に出た。石灰色の濁った水からは湯気が湧き出て、ボコボコ、シュウーと沸騰したみたいに泡をたてている。落ちればひとたまりもなさそうだが、ちゃんと頑丈そうな橋がかかっている。
辺りは薄い水蒸気に包まれ、先には塔の影が揺らめいていた。俺は不思議な光景が醸し出す神秘と蒸し暑さでぼうっと立ち尽くしていた。
肋骨を強くつつかれ、ビクッとした。振り向くとあいつが親指を後ろに向けてサムズアップした。そこには青白い肌の人達が並んでいた。老若男女、十数人いる。
列の先頭にいたおばさんは激した口ぶりで言った。
「早く行って下さらない?後ろが詰まってるんですの。」
セレブぶった言い方にはイラッとくるが、言葉には強い怒りがこもっていた。
「え、すみません……。」
軽く会釈し、逃げるように走った。なんだよあのおばさん。めちゃくちゃ怖い。
恐怖が体を突き動かす。砂袋みたいに重い足が、羽みたいに軽い。全速力でチャリを漕いだ時と同じくらいのスピードで走れる。
蒸し暑い霧を突っ切ると、そびえたつ青白い塔が見えてきた。勇翔はもっと足を早めて、塔へ全速力で走った。そして勇翔は鉄の大きな扉の前で止まり、息を整えた。
「ぜぇ……はぁ……あの……開けてください。」
返事はない。扉が空く気配もない。
「……あの、開けてください。」
開かない。
「おい!開けろよ!」
扉をガンガン叩き、大声で叫んでも開きはしない。
息が上がっているからか、無駄にイライラする。この頑丈そうな鉄の扉をアメコミみたいにBOOMと蹴破って強行突破してやりたい気分だ。……なんてバカバカしいな。
……ここは死後の世界のハズなのに、なぜ息ができるんだ?肌は青白くて寒いのに、なぜ脈が動いているんだ?普通は魂だけで、身体なんてなくなってるはずだろ?
冷静になって考えてみたらとんでもない疑問に気がついてしまった。
死後の世界というのは、意味がわからない……。
「入れ。」
貫禄のある声が響き、急に扉が音を立てて開いた。
勇翔は驚き、心臓が飛び出しそうになった。心臓が飛び出て死後の世界でも死ぬなんて冗談じゃない!
……それにしてもなんだ?さっきまでビクともしなかったのに……。
よく分からないが、やってやる。勇気を出して一歩を踏み出し、勇翔は塔へ挑んだ。
──わずかに松明に照らされた薄気味悪い螺旋階段を進む俺。響く足音、変な形に揺らめく影。何も来ないでくれよと願いつつも進んでいたその時。
「ご機嫌いーかが?石塚勇翔くーん。」
声がした。気持ち悪い。ビクッとした。……そして、さっきの男が現れた。何も無いところからすっと、座禅を組んで浮いている……。なんだよここ、意味が分からない。
「なんだよお前、消えろ。」
そう言って俺は顎を突き出すと、男はクスッと笑って何かを呟き消えた。なんなんだよあいつ。
とはいっても、つぎまた何が来るか分からない。鬼か、悪魔か、はたまた閻魔様が。今度こそビビってショック死しそうなんだが……。
ビクビクしながら螺旋階段を上がって上がって、ようやくたどり着いた大きな扉は……見るだけでえぐられるような気迫と震えで立てなくなるようだった。
……正確には扉の奥からだが、まるで殺気だ。禍々しくてドス黒い。
見えるようで見えないモヤモヤが、扉から漏れ出ている。恐い。イカれた美男子にも、さっきのおばさんとも、比べ物にならないくらい──。
「何を恐れている。入れ。」
さっきの声がまた頭に響く。塔の前にいた時よりも声がデカい。頭がフラフラして、気持ち悪い。
勢いよく勝手に扉が開いた。中から禍々しいモヤモヤが流れ込み……俺はそれに呑まれた。息が苦しく朦朧とする意識の中で、何かのドス黒い感情が俺の身体に染み込んでくるのが分かった。
苦しい。身体中がビリビリして、口の中が苦酸っぱい。こんな時でも、俺は脳裏に歩美の姿を浮かべていた。──でもそれは、何か近寄りがたい雰囲気で、苦しそうで、モヤモヤしてる。今にも禍々しい煙に包まれて、でっかくて醜い、怪物になってしまいそうな……。
モヤモヤが晴れ、重く苦痛な空気がひいていく。身体のビリビリはまだ止まらないけど、今のでなぜか頭の中がすっきりした。
何も考えずに、扉の先へ入っていく。俺は堂々とレッドカーペットのど真ん中を歩いたが、青白い肌の男たちはこちらを見ると会釈して道をあけてくれる。あの美男子より歳をとっていて、ラフな格好だ。
頭の中がからっぽだから色んな所を観察して、冷静に分析できる。豪華なシャンデリア。壁に飾られた麗しい絵の数々。白くて頑丈な柱は連なり、向こうの玉座への道を示している。部屋の両端側にはスーツの男たち。みんな部屋の掃除やら茶の片付けやらで大変そう。
どうでもいい所に目を向け、警戒というものを忘れて俺は進んだ。……そして、次第に高ぶる鼓動を鳴らしながら大男のもとで止まった。
「──来たか。」
塔の前で聞いた時より、扉の前で聞いた時よりも遥かにデカい、声だけで部屋が大きく揺れた。巨大な気迫と共に鎮座しているこの大男……。
豪快に生やした白銀の顎髭が特徴的なダンディなボス。──ヘビに睨まれたカエルとはこのことだろうか。見られただけで全身が痺れ、何も考えられなくなった。ただ一つだけ分かるのが心臓が張り裂けるぐらいバクバクしてる事だ。
「さて。」
大男は唸った。声には少しの怒りがこもっている……。やっとの思いで勇翔は聞いた。
「あの……あなたは?」
「私か?」
「私は、ヌル。ここのボスをさせてもらっている。」
男は更に唸り、立派に携えた白銀の顎髭を撫で、ワイングラスを軽く回した。しばらく続く重い沈黙は俺に強くのしかかるようだった。数分が数時間経ったみたいに長く、苦しい。
「……お前は、死んだ。」
「はい……薄々わかってました。」
「……なんで俺は死んだんですか?」
勇翔が聞くなり大男はため息をつくと、ワイングラスを掲げ……強く地面に叩きつけた。飛び散る赤い液体。弾け散るグラスの破片に大きな破裂音。大男は大きく目を見開き、大声で叫んだ。
「あのバカ息子によって殺されたんだ!」
「!?」
バカ息子?殺された?どういうことだ?
「ボスの息子が……不正に魂を操ったんだよ。」
後ろから声がした。振り向くとあいつが……イカれた美少年がいた。ボスの前ではしゃきっとしてて、青い目はそこまで不気味には見えない。
「……お前さ。なんだよ、ボスの前ではちゃんと仕事するんだな。」
皮肉を込めて勇翔が言うとボスは片眉を釣り上げノイローゼ美少年を睨みつけた。
「あ、いや、それは」
イカれた美少年もボスの前では頭が上がらないようで、言葉を濁した。
「……後で覚悟しておけよ、怠け者。」
そう言ってボスが吐き捨てるとあいつは首をすくめて怖気付いた。……ボス怖ぇ。
ボスは再び勇翔を見ると、大きく咳払いした。
「失礼した、こいつは腕はたつのだが相当なひねくれ者でな……。ここに来るまで大変だっただろう。すまない、迷惑をかけたな。」
死神界のボスに謝られてしまった……。
「い、いえ!大丈夫です!むしろこちらこそごめんなさい!」
「いいんだよ。善人には良くしてやらねばな。」
「……あのぅ、ボス……。」
ノイローゼ美少年がごにょごにょ口を動かしてボスに訴えかけた。
「ああ、話が逸れたな。」
そしてボスは足を組み、顎髭を撫でながらバカ息子の話を始めた。
「……私の息子、マルスは過去に大罪を犯した。」
苛立ちながらも静かな口調でボスはマルスという男の罪を語る。
「奴は無許可で現世をほっつき歩いては人間の女を口説いていたらしく、自分に浮気するように仕向けて他人の恋をもてあそんでいたのだよ。」
「うわぁ……そりゃ確かに大罪ですね。」
「……いや、これはまだ前置きだ。」
「大罪を犯す前にもまだまだ罪は大量にあった。」
ボスが口を開こうとするとイカれた美少年が話を遮り
「ボスの息子、すっげえ度胸あったんだぜ。懲罰房を恐れないガチワル中のワルだったなぁ……あひゃひゃ!」と笑った。
「黙れ。」
ボスは静かに言い放つと、殺気に溢れた眼であいつを見下ろした。
「ひぃっ!ず、ずびばぜん……。」
ノイローゼ美少年は、涙と鼻水で顔を赤くし、声を震わせ怯えだした。
「はぁ。」
なんなんだよこいつ……。
「……話に戻ろうか。」
「奴は魂を取り逃した。本来は輪廻転生のサイクルから外されるべき……超極悪人をな。」
「いきなりだが、善悪を区別して悪人として判別された人間はどうなると思う?」
「えっ……地獄行きですか?」
「ああ。ここには浄化の大釜という設備がある。そこで罪人の魂を三千年煮詰め、文字通りキレイに浄化するんだ。」
「だが、奴は浄化の釜の見張りをサボり、ぬけぬけと現世へ女を探しに行った。」
「他にも暇つぶし、という理由で罪なき善人を浄化の釜へ煮詰めたり……な。」
「……愚かなものよ。万物の父の息子が、誇りも威厳もなしに人間の娘に酔うとはな。」
ボスはため息をつき、悔しみの表情で握り拳で玉座の肘掛けを叩いた。
「マルスを問いただしても、逃がした罪人の名は分からずじまいだ……。」
「だから、マルスさんはここを追放されたんだ。やべー話だよな。」
「……話が長くなってしまったが、貴様は恐らくマルスに何らかの目的で死のルートを操作されたのだろう。」
簡単に言うが、死を操れるなんてボスの息子はすごいパワーを持っているのだろう。
「詫びといってはなんだが、貴様を生き返らせてやる。またマルスに狙われぬように専属の死神も見張りに付けておこう……。」
「あひゃ!専属の死神!?ならボス、俺やらせてください!」
「たわけが。誰が貴様のような怠け者に……。」
「決まりッスね!じゃあ、石塚きゅんよろしくぅ!」
ノイローゼ美少年はボスの話を遮って無理やり話を進めてきた。マジでなんだよこいつ……。
「……そんなに言うならよかろう。」
本日何度目のため息だろうか、ボスはイカれた美少年に振り回されてため息をついてばかりだ……。
「……石塚勇翔。くれぐれもマルスには気をつけろ。」
「そしてユピテル。貴様には期限をつける。半年以内にマルスを仕留められなければ懲罰房に百万年閉じ込めてやるからな。」
「任せてくだせえよ!俺、ぱぱっとマルスさんぶっ倒して帰ってきてやりますから!」
……こうして俺はユピテルと呼ばれた変な死神と一緒に生き返ることになった。
「では、行ってこい。」
そう言うとボスは勇翔の額に手をかざし、極彩色の光を放った。
「………。」
極彩色の眩い光は勇翔を包み込み、不思議な感覚へと誘ってゆく……。
「うあッ!?」
突然、住宅街でトラックに轢かれた時のような激痛に見舞われ、一瞬のどデカい衝撃に俺はまた弾け飛んだみたいだった……。
「はっ……!?」
揺れるカーテンから秋の夕日が差し込み、暗くなった秋空が見える。腕には点滴、起き上がったばかりなのに一気に痛みが襲ってくる。
ここは……病院……?俺は確か……そうだ!
「ユピテル!そうだ、ユピテルは!?」
必死でユピテルを探してわめく勇翔。
「ビョーインで騒ぐな。ほかの患者にメーワクだろ?」
ユピテルがすっと現れ、不気味な青い目をニヤリと歪ませた。
「ユピテル!お前……」
「何があった!?」
「なに!?」
病室の扉が勢いよく開いて二人の見慣れた顔が見えた。
「あっ……。」
「歩美!?兄ちゃん!?」
「勇翔!?」
「お前……!?」
歩美と勇翔の兄、仁が同時に驚きの声を上げ、本当に生き帰ってこれた実感が俺の涙腺をぶっ壊した。
涙が頬を伝って泣いてることに気が付いた。
「良かったな。オトモダチとオニーチャンにまた会えてよ。」
ユピテルがけらけら笑った。
どうやら俺はトラックにぶつかって全身を強く打ち、頭を何針も縫う大ケガを患い、そのせいで意識がずっと飛んでいたらしい。
「もう!一週間もずっと起きなくてダメかと思ったよ!」
歩美は泣きじゃくった。
「ゴメンゴメン。もう大丈夫だから。な?」
「何やってんだよ死に損ない。」
なんて言いながらも石塚仁の顔は笑っていた。
「ンだとクソ兄貴!」
「そんな言葉病院で使うなバカ兄弟!」
歩美が涙でぐしゃぐしゃになりながら笑った。
ユピテルは賑やかな病室の空中を漂いながら首を振った。
「やれやれだな。」
ユピテルも人の事言えないけどな。
そうして二人が帰り、就寝時間になって急にボスの言葉を思い出した。
「くれぐれもマルスには気をつけろ。」
何度も呟き、ボスの重みがある厳かな一言一言を噛み締めた。
「なんだ。まだ寝てなかったのか。」
ユピテルが言った。
「ボスはいつもあーだけこーだうるせぇんだ。気にする事はねーよ。」
「明日は早い。さっさと寝るこったな。」
「ああ……。おやすみ……。」
不思議な体験をして疲れと睡魔がどっと襲って来た。
……いつまた危ない目にあうか分からない。明日に備えて寝よう。勇翔は静かに目を閉じた──。
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