ダーク・ファンタジー小説
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- 箱船のアヴァターラ
- 日時: 2020/04/09 21:05
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
科学技術が発展し超高性能なAIが自由自在に生まれている2020年、日本。
家事、教育、介護等様々な場面で活躍していくAIを作っているのは私たち人間。
このAIたちは謂わば人間のアヴァターラ(化身)とも呼ばれるようになっていた。
同時にAIたちは自我を持つ者も増え人間から自由を掴み取ろうと考える集団も現れた。
伊瀬九蘭は曾祖父、伊瀬景勝がAI製作に大きく貢献してくれたということでそれなりの生活が
保障されている。暴れるアヴァターラ達に彼女は救いの手を差し伸べると決め彼らと
対峙していく。
「登場人物」>>01 >>04
「第一話」>>02
「第二話」>>03
- Re: 箱船のアヴァターラ ( No.1 )
- 日時: 2020/04/08 21:15
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
<登場人物・壱>
伊瀬九蘭
18歳の少女で曾祖父が大きくAI製作に貢献したことで普通の生活が保障されている。
アヴァターラ達には人間と変わらずに接している。自分たちが出来ることは自分たちでやり
どうしても人手が足りない等困ったときにアヴァターラに頼るべきと考えている。
シヴァ
男性型アヴァターラで識別番号は1116。日本で生まれた初代自立型AIトリムールティの一体。
識別番号は右肩にある。美青年で金の眼のイヤリングを付けている。他の二体と比べかなり
戦闘に特化して作られたため自我は持っていても感情を一切持たない。
ヴィシュヌ
シヴァと同じ男性型アヴァターラで識別番号は1117。トリムールティの一体で識別番号は右手の甲。
銀髪で右目にはヒビが入っている。シヴァ同様に戦闘特化させようとしたときに個体に負荷を
与えすぎたためにできた。
ブラフマー
上記の二名と同様で識別番号は1118。トリムールティの一体で識別番号は右太もも。
赤髪で金目をしている。過去に重要人物である伊瀬景勝の護衛を担当した際に両目を破壊され
今の眼に至っている。198㎝と結構大きい(他二体も同様に大きな体をしている)。
<アヴァターラ補足>
アヴァターラとは…
AIの呼称。男性型、女性型と別れており大抵の場合男性型は力が強く戦闘や力仕事に特化した
タイプが多く女性型は情報処理等、細かい作業に特化したタイプが多い。耳にはヘッドフォンの
ような部品がある。人間と変わらない姿をしているためこの部品と番号で人間と区別している。
識別番号とは…
国がアヴァターラを管理するための番号。法律で人間が数字の入れ墨を入れることを禁じている。
アヴァターラは必ずこの数字を持っている。数字はランダム。
- Re: 箱船のアヴァターラ ( No.2 )
- 日時: 2020/04/09 18:02
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
第一話「拾われたのは初代アヴァターラ」
13年前、アヴァターラ試運転時に起きた爆破事件は今ではもう記憶の隅に置かれていた。
その頃、伊瀬九蘭は5歳という幼さだった。父親は片腕欠損という重体を負ったが娘を育てた。
育児などやったことが無い彼は困り果てていた。そこで彼はある事を思いついた。
九蘭の曾祖父の研究データを利用し母親に似せたアヴァターラを作り出し彼女を九蘭の
お世話係を命じた。13年後。今の伊瀬九蘭は漫画家をしていた。といっても売れていないわけでも
無く売れているわけでも無い。
「おーい、無事ですかぁ?九蘭ちゃん」
長い黒髪が揺れ動くのが見えた。育児用アヴァターラ、名前を伊瀬卑弥呼という。
「無事でぇす…」
「声が無事じゃないですぅ!!しっかりしてください!!」
否、育児をする母親とは思えない。この姿や口調はメイドや姉もしくは妹に近い。九蘭が
高校時代に着ていた制服に似たデザインの服を着ている。
「九蘭ちゃん、私拾ってきちゃいました!」
「何を?」
「え、エヘヘ…シヴァ君ですぅ。お、怒らないでくださいよぅ!!九蘭ちゃんが御国の人に
お願いすれば修復ができるでしょう?古いタイプの子だからそんじょそこらの技術者じゃ
直せないんですぅ!!」
シヴァ、それは今使われている初代自立型AIの三体トリムールティの一体だ。
彼の他にヴィシュヌ、ブラフマーの名を持つアヴァターラが存在する。確かに一部部品が
錆びついている。九蘭は手元の電話の受話器を手に取ってボタンを押す。そして連絡し数時間すると
国から派遣された技術者がやってきた。
「オッス、九蘭さん。久しぶりっすね」
体育会系の口調で話す好青年、堰沢巧翔は若いながら国直属の技術者の
一人になった天才技術者だ。旧タイプから新型まで幅広いアヴァターラの修理等をしている。
「この程度の錆ならすぐにどうにかなるっス。ちょっとすいませんね」
背負っていた箱を開き道具を使って錆を取っていく。「あ…」彼が気の抜けた声を出す。
「これ…まだちゃんとした持ち主が決まってないみたいで。九蘭さんにしておきますね」
頷く前に彼が勝手に、勝手にプログラミングした。
- Re: 箱船のアヴァターラ ( No.3 )
- 日時: 2020/04/09 18:38
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
第二話「国からの要望、護衛なんていりません」
旧型から初代までのアヴァターラについての資料を見つけた。たまたま父親の部屋に眠っていた。
軍事力向上を目的としたアヴァターラが多く製造されたが戦闘力を強めれば強めるほど
成功例が少なくなっている。最高戦力とされたのはただ一体、シヴァだけだ。その後、戦闘用の
AIを作れば人々を犠牲にする戦争が起こると反論が出たため戦闘用アヴァターラは製造されなく
なった。シヴァのデータはほぼ初期化されていた。自我を持っているが感情に関するデータは
復元不可になっているようで表情は一切動かない。数日後、国の関係者を名乗る男たちが
やってきた。
「そのシヴァを一旦、こちらで預かってもいいでしょうか?初代アヴァターラの設計図等は
今現在の日本にも知っている人間は少ない。というのも戦闘用に作られたために暴走したら
危険だと考えられるからです」
「…分かりました。でも酷いことはしないでくださいよ?」
男は頷いた。彼は釜萢軍四郎と名乗った。彼は隣に立っていた青年に
挨拶するように命令する。青い目をした黒髪の青年。彼が着ている制服はAI特殊対策隊LIFEの隊服。
「AI特殊対策隊LIFE隊長、不破誘。これからアンタの身辺警護を担当することになった」
「コラッ、不破ァ!この方はな、景勝様の血を引く方だぞ!!」
「あ、良いんです。それでどうして警護を付けるんですか?忙しいのに」
九蘭は話をどうにか戻した。テロリストグループ「ラクシュミーサークル」が動き出し
彼らは重要人物の一人である九蘭を狙うと考えられるため護衛を付けるというのだ。それを
聞いた九蘭は首が千切れるほど横に振った。
「私、一般人だし!!そんな関係ないと思うんですけど!!と、兎に角しばらく時間をください。
本当に何かあったら承諾します。私、迷惑はかけたくないです」
「わ、わわ、分かりました。一週間のうちに何かあったら付けるということで」
そう言って彼らは家を出て行った。
- Re: 箱船のアヴァターラ ( No.4 )
- 日時: 2020/04/09 20:59
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
<登場人物・弐>
ラクシュミーサークル
圓道幻夜/ナイト
男性型アヴァターラ、識別番号−001。耳の部品はヘアバンドで隠されている。圓道幻夜というのは
偽名であり本名はナイト(Night)という。ラクシュミーサークルのリーダー格であり伊瀬景勝が
作り出した秘匿兵器「天叢雲」を起動するための鍵を探して居る。旧型アヴァターラ。
鶴永楔/チェイン
男性型で旧型アヴァターラ、識別番号−002。耳の部品はフードで覆い隠している。本名は
チェイン(Chain)。幻夜/ナイトが作り出したアヴァターラの一人で幼児と変わらない性格を
している残酷で冷徹で無邪気。
綛山廃都/ルイン
上記二名と同じ、識別番号−003。耳の部品は隠していなくて青い光を放っている。本名は
ルイン(ruin:廃墟)。上記二名が人間不信に対して彼は「まだ人間の中にも自分たちを生物として
扱ってくれる人間がいるのではないか?」という考えを捨てずにいる。
鳳雨月/レイン
上記と同じ、識別番号−004。本名はレイン(Rain)。ルインとチェインとは義兄弟のような関係。
その顔は九蘭を性転換したような顔立ち。ルイン同様に人間が本当の悪だとは思えないという
考えを持ち見極めようとしている。
<天叢雲について>
伊瀬アヴァターラサービス初代社長、伊瀬景勝が大きく関わって作られた兵器。13年前以前に
試験的に作られていたAI、今存在する全てのAIのプロトタイプと言っても良いもので人間の
様々な思考を覚えている。悪意や負の感情すらも覚えていて今は何者かの作為でそれを多く
取り込んでいる。起動するには伊瀬家に関連する誰かが持っているであろうとされる鍵と
彼の血を引く人間が必要。
- Re: 箱船のアヴァターラ ( No.5 )
- 日時: 2020/04/10 19:10
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
第三話「教育型アヴァターラの心」
「先生、さようなら!」
大きなランドセルを背負って走る小さな少年。小学一年生を見送るのは若い男性教師。
彼の耳にはヘッドフォンのような部品がある。そう、彼らに双山先生と呼ばれるこの教師は
アヴァターラ。心の底から笑うことは無くとも純粋な彼らには心から笑っているように見える。
フルネームを双山辰次。彼を買い取ったのは竹取第二小学校の校長先生だ。教師も少ない今こそ
アヴァターラの力を借りるべきと考えている。
「双山、お疲れ様」
「はい」
さっきまでの明るい声から無機質な声へ変わってしまった。
「子どもたちはどうだろうか?」
「問題ありません。みんな、仲が良く虐めも起きていません」
「そうですか…それは良かったです」
校長はそう返した。機械故の性質なのか、しかしいつか彼にも心の底から笑って欲しい。
児童たちにはきっと彼に自我を持たせる力があるだろうと思っている。
数日後、小学校六年生には職業講話が行われる。そこで紹介されたのが伊瀬九蘭だ。
「皆さん、こんにちは。今日は漫画家の一日について紹介します。長く話すつもりは無いので
リラックスして聞いてください」
中世的な声が体育館に反響する。説明時間は45分設けられていたが彼女の話は35分で終わった。
実は九蘭はこの学校の卒業生であった。講話が終わっても彼女は暫く学校にいた。その裏側、
放課後の影る体育館の中で双山辰次はとある男と対面していた。彼は綛山廃都と名乗りルインとも
名乗った。
「結局どちらで呼べばよいのでしょうか?」
「どっちでも構わないさ。アンタには友だちとして手を貸してほしいからね。時に君、人間を
どう思ってるの?分かりやすいのは人間の子どもをどう思ってるか、かな」
双山は何も言わない。言葉に出来ない複雑な感情を抱いていた。ルインはいつの間にか彼の
耳元に手を当てていた。突然、脳裏に金属音が響いた。赤い光を放っているということは
暴走状態にあるということだ。後は放置しておけば良い。暴走させ人間を襲わせる、その際に
どんな行動をとるのか。自我に芽生え自ら死を選ぶのか、それともそのまま人間を殺すのか…
その姿を見た人間がどう感じるのか。それを知る必要があった。
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