ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

殺しの教本
日時: 2020/04/12 17:05
名前: sun (ID: EWbtro/l)



「ほんと、死んでくれないかな」

私は自室の勉強机に突っ伏しながら、ぼそっと呟いた。
今にも叫びたしたくなる衝動を抑えて、深くため息をつく。


きっかけはシンプルなことだった。


「ねえ、さっちゃん」

丁度トイレから出てきた私の前に立っていたのは、同じクラスの美紀。
仲が悪いわけではないが、特によく話すというわけでもない。
いわゆる、クラスメイトだ。

「なに。どうしたの」

美紀から話しかけられることなんて滅多にないので、なんとなく身構えてしまう。
美紀はあたりをきょろきょろと見渡した。
よほどの用がない限り、こんな寒い時期に廊下に出てくる人はいない。
その時も、廊下にいたのは私と美紀だけだった。
人がいないのを確認したらしく、美紀はにこっと笑った。

「さっちゃんのお母さん、前のお父さんと再婚したんだってね」

一瞬頭が真っ白になった。

「なに、急に」

私の声が予想以上にとがっていたらしく、美紀の白い顔が一瞬で青ざめていくのが分かった。
きっと、何か私の地雷を踏んでしまったと思ったのだろう。

「いや、あの、普通におめでとうって言いたくて、その、、、ごめん」

美紀が友達に嫌味を言うような子じゃないのは知っている。
本当に祝福の言葉を掛けに来たのだろう。
私は心を落ち着かせるために深呼吸をしてから、美紀に笑いかけた。

「、、、、私こそごめん。ちょっと驚いただけだから」

ありがとう、と言うと、美紀はほっとした様子で笑顔を浮かべた。
きっとひきつった笑いになっていたと思うが、まあ大丈夫だろう。
それだけ、と言って教室に戻っていく美紀に手を振りながら、私の心は怒りに満ちていた。



「ねえ、花梨。ちょっと来て」

次の休み時間、私は本を読んでいる花梨の手を取って廊下へ連れ出した。
あまりに急な出来事に驚いているらしく、いつもはおしゃべりな花梨が一言も発せずにいる。
人目のない廊下の奥まで来ると、私はくるりと花梨の方へ向き直った。

「皐、、?」

花梨は小さな声でおずおずと尋ねてきた。
なにか不穏な空気を察知したのか、目には怯えの色が宿っている。

「ねえ、何かあったの?」

二人の間に30秒ほどの沈黙が流れた。
そのうち花梨は痺れを切らしたらしく、いつものようにペラペラと話し出した。

「なに?ほんとにどうしたの?私本読んでたのに。あ、そういえばこの前のさ」

「花梨」

「あの番組、最高だよね、ほんと。てかさ、最近気になってる芸人がいるんだけど」

「花梨」

「そうそう、そういえば今度新しいドラマ始まるらしいよ。その主演がさ」

「花梨!」

一瞬の沈黙の後、花梨はやっと話すのをやめた。
話を遮られたことが不満らしく、小さくため息をついてから私を怪訝そうな目で見た。

「なに?用があるなら早くしてよ。休み時間、終わっちゃう」

「美紀に、言ったでしょ」

花梨は一瞬何のことを言っているのか分からなかったらしく、眉を顰めていた。

「私のお母さんが再婚したこと」

あぁその話ね、と的を得た顔をしている花梨をみて、一層怒りが増す。

「誰にも言わないでって、私言ったよね」

「んー、そうだっけ」

「言った」

「ふーん、そっか。まあ、いいじゃん別に。悪いことじゃないし」

全く反省していないようだ。
そんなことで呼び出したの、とでも言いたそうな顔をしている。

「いや、そういう事じゃなくて」

「話、それだけ?」

呆れた。
人が怒ってるっていうのに。
私は花梨の両肩をぐっと掴んだ。

「花梨、ごめんも言えないの?」

もう感情を抑える気はなかった。

「約束破ったのは、あんたでしょ?申し訳ないって、思わないの?」

花梨は私と目を合わせようとしない。
罪悪感で、とかではなく、単純に鬱陶しく感じているのだろう。

「ねえ、聞いてる?」

「あのさあ、言っとくけど、」

花梨が面倒くさそうに口を開いた。
花梨の大きな目が私の目をしっかりと見据える。

「人に言うって、そういうことだよ」

私は怒りで声が出なかった。
なに、こいつ。
花梨は私の手をゆっくりと肩から外し、にこっと笑った。

「じゃ、戻るね。皐も早くしないと授業遅れるよ」

ばいばーい、と手を振りながら教室へ向かう花梨の後ろ姿を私は睨みつけた。
信じらんない。あいつ。



今思い出しても腹が立つ。
私は机の上に飾ってある写真に手を伸ばした。
中学校へ入学するときに二人で撮った写真だ。
中学校の制服を着て、二人で手をつないでいる。

「顔見るのも、イラつく」

私は写真を伏せた。

花梨とは幼稚園の頃からの幼馴染で、家族ぐるみで仲が良い。
いわゆる親友、というやつだった。
毎日一緒に登下校し、同じ部活に入り、休み時間には飽きずにおしゃべりを続けた。

信用していたのだ。誰よりも。
だから、全部言った。親が離婚したことも、再婚したことも。
誰にも言わないって約束もしてくれた。

なのに。

別に親の再婚の話はどうでもよかった。
私が怒っているのは、花梨が私との約束を破ったことだった。
怒っている、というか、ショックだったのかもしれない。


もう今となっては殺意に近いほどの怒りに変わってしまったが。




Re: 殺しの教本 ( No.1 )
日時: 2020/04/13 13:36
名前: sun (ID: EWbtro/l)



ピロンッ

ベッドの上に置いたスマホが鳴った。
机に突っ伏したまま目線をやる。
先程までは真っ暗だった画面が明るく光っているのがなんとなく分かった。
うるさい、と呟いて寝返りを打つように顔を背けた。

ピロンッ

ピロンッ

続けざまに通知音が鳴る。
どうせクラスLINEか何かだろう。
一向に鳴りやまない通知音に嫌気がさして、ため息をつきながら重い体を起こす。
ただでさえイライラしてるっていうのに、と心の中で悪態をつきながらベッドまで歩く。

ピロンッ

立ったままスマホを拾い上げ、通知を確認する。

<壮太さんから10件のメッセージ>

画面に映し出された名前を見て、思わず笑みが漏れる。

「なんだ、壮太か」

壮太は私の隣に住んでいる、小さいころからの友達だ。
しょっちゅう私の家に遊びに来ては、ゲームに熱を上げている。
もう長い付き合いなこともあって二人の間に恋愛感情などは一切ない。
クラスの女子が言うにはすごくモテるらしいが、私にとってはどうでもいいことだ。

”おーい、今から家行っていい?”
”なあ、無視すんなよ”
”おいってば”

内容を確認して、素早く返信をする。

”ごめん今見た”
”来ていいけど、今何時かわかってる?”
”ちゃんと裕子さんには声かけてきなよ”

裕子さん、というのは壮太の母親のことだ。
まだ若く、綺麗な人なので、なんとなくそう呼んでいる。
20時半を指す時計を確認して、部屋を出た。
お母さんとお父さんに伝えなきゃ。

階段を下りながら、ふと思い出して再びLINEを開く。
階段の途中にある小さな踊り場で立ち止まり、壁にもたれながら画面に指を滑らせる。

”あと、10件も一気に送ってこないで 通知うるさいから”
”緊急の時は電話して”

こうでも言っておかないと、既読が付くまで送ってくるに違いない。
クラスLINEや家族LINEに動きがないことを確認して、壮太とのトーク画面に戻る。
既読が付いていることを確認して、私は再び階段を降り始めた。

「お母さん」

リビングにいる母に声を掛けた。
母は手にしていた本から目線を上げて私の目を見つめる。

「あら、なんか楽しそうね。帰ってきたときは鬼みたいな顔してたのに」

、、、、、確かに。
花梨のことすっかり忘れてた。
自分の単純さが可笑しくなって、思わず笑ってしまった。

「私、単純すぎ」

母はより一層不思議そうに私を見つめている。

「なあに、良いことでもあったの?」

「あ、そうだ。今から壮太がくるって」

母の顔が一気に明るくなる。

「まあ、そうなの?何か準備しなきゃね」

ソファから立ち上がろうとする母を制して、机の上にあるスナック菓子を手に取った。

「いい、いい。どうせ大した用じゃないんだから。これで十分」

でも、と不満そうな母を無視して私はリビングを後にしようとした。
ふと、体を翻して母の方へ向き直る。

「あ、お父さんどこにいる?」

母は一瞬固まった後、笑顔で答えた。

「多分、書斎ね」

幸せそうな母の顔を見て、私も笑顔になる。

「わかった」

おそらく、親が再婚したことを私が気にしているんじゃないかと思っていたのだろう。
私にとっては嬉しいこと以外の何者でもないのに。

「お父さん、今から壮太がくるって」

そう言いながら書斎のドアを開けると、父は寝ていた。
机に突っ伏して、静かに寝息をたてている。
数分前の自分と同じ体勢をしているのが面白い。

「お父さーん」

小さく呟いても全く起きる気配はない。
まあ、いいか。
私は書斎を後にした。

丁度その時、チャイムが鳴った。

「壮太だ」

私は小走りで玄関へ向かう。

ガチャ

ドアを開けると、ジーンズに黒いパーカーというラフな格好の壮太が立っていた。

「いらっしゃい。早かったね」

そう言いながら壮太を招き入れると、頭をポンっと叩かれた。

「おせぇ」

靴を脱ぎながらこっちを見つめている壮太を叩き返す。

「なんでそんなに態度がでかいのよ」

壮太は「確かに」と笑って私の部屋へと向かい始めた。
いつの間にか大きくなってんなぁ、と思いながらその後ろをてくてく着いていく。

私の部屋に着くなり、壮太は床に座って私の目をじっと見つめる。

「え、なに。何かついてる?」

ぶんぶんと首を振る壮太はどこか気まずそうに見える。

「なに、何か用があったんじゃないの?」

私が壮太と向き合うように座ると、壮太は口を開いた。

「俺、好きな奴できた」

あまりの衝撃に一瞬言葉が出てこなかった。

「おい、何か言え」

「あ、え、本気?」

「こんな嘘、つかねぇ」

壮太に好きな人なんて、ありえない。
そう思うと同時に嬉しさが込み上げてくる。

「ほんとに、ほんと?」

こくりと頷く壮太を見て、思わず抱きしめそうになる。

「やったあああああああ!」

「っびっくりした。大きい声出すな」

「今まで好きな人がいないってこと、心配してたんだよ!」

「あ、そうなのか。なんかわりぃ」

「いいよ、そんなの!で、誰なの」

壮太の顔が一気に赤くなる。

「言わなきゃ、だめなのか?」

「あったりまえじゃん!協力するから!ほら、言ってみ」

「同じクラスの、橋本」

顔を両手で隠しながら呟く壮太を、たまらず抱きしめた。
感動しかない。

「え、おい、ちょっと」

動揺している壮太を他所に、私は喜びに浸っていた。
まさか壮太の恋バナが聞ける日が来るなんて。

「いい加減、は、な、っせ」

力ずくで私を引きはがした壮太は、まだ顔が真っ赤だ。

「ねえ、告白は?いつするの?」

「は、?しねえよ、んなもん」

目の前でおどおどしている壮太を私は満足げに眺めた。


まさかあんなことになるとは、微塵も思っていなかった。




Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。