ダーク・ファンタジー小説
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- 武人─Bujin─
- 日時: 2020/05/11 17:13
- 名前: 快喜 妖 (ID: MmsT0Uvz)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12775
身体中に傷を負った男が、帰って来た。
生まれ育った国に、帰って来た。
戦争に勝って、帰って来た。
「帰って来てすぐに迎えてくれたのはお前か。
もう誰も迎えに来ないなんて考えてたが、現実は甘いな。」
「やあグレイスお帰り、何年ぶりだ?」
「さあな、戦場じゃあ年なんて数える余裕はなかったよ。
俺はそうだな、自分の名前すら忘れていた。グレイスか。」
「極限状態だったそうだな。無理もない……死地を一人で潜り抜けたのだからな。」
「ええと、ところでお前は誰だ?挨拶して名前を呼んでくれたってことは知り合いなんだろうが。」
「ジェレミー。お前はそう呼んでいた。」
「ジェレミーか。ああ、大変だったよ。死なないだけで痛覚は残ってる。」
「赤く染まったな、お前の制服も。」
グレイスの制服は血まみれだ。敵を殺せば殺すほど、そうなる。
もちろん、そこには自分自身の血液も混じっているわけだが。
「はは、ある意味連中の勝利かね。で、ブラウン少尉は?いるんだろ?」
「今は中将だよ、名前を覚えてるのか?」
「『敵』の名前を忘れるスットボケ兵士になったつもりはない。やれやれ、残酷なヤツほど出世するもんだな。通してくれ。」
「じゃあ、また後でな。ああ、バーの名前、覚えてるか?」
「もちろんだ、その頃には服の赤さが増してるかもな。」
「着替えてこいよ、仕事服でバーに来るヤツがあるか。
お前は尚更そうだ、クレイジー・グレイス。」
「あー、あー……何だ、その……実に残酷なアダ名だ。
クレイジー?誰がつけた、その呼び名。」
「お前が戦ってる最中に国のバカどもがつけやがったよ。お気楽なもんだな、愛国愛国と喚いてりゃ愛人を抱ける。」
「なるほどな、すぐには殺さないでおこう。」
「気を付けろ。ブラウン中将殿ならお前を永久拷問しかねない。
折り紙つきの小物だからな。」
「心配するな、酒の禁断症状だけで共産主義者を張り倒してきたのがこの俺だ。」
グレイスは笑って、ジェレミーと別れる。
連合軍研究所の建物を出てすぐ、『迎え』だ。
部下からの信頼が厚い彼はそういうことが出来る。
「お帰りなさい、大尉。
良い報せと悪い報せがありますが……。」
「ええと、誰だったかな?」
「フランクです。」
「フランク、俺は好物は最後に食べるんだ。御褒美的な意味合いでな。
悪い報せから頼む。」
「クソッタレのブラウンが中将になりました。」
「それは知ってるとも、だが問題はないな。」
「何でです?」
「言い忘れたな、ジェレミーとは戦場に向かう前からの約束だったんだ。
必ずブラウンを殺すって。素敵だろう?」
「……相変わらず無茶ですけど止めても止まる人じゃないですよね。」
「分かってるなら全速力だ。ブラウンを殺して酒を飲んで妻を抱く。
こんな素敵なことがあるか?これからずっと、欲望のままに生きさせてもらいたいねえ。」
「俺だってそうしたいもんですけど……そうはいかんですよ、中々ね。」
- Re: 武人─Bujin─ ( No.1 )
- 日時: 2020/05/12 22:15
- 名前: 快喜 妖 (ID: MmsT0Uvz)
「ようこそグレイス、よく帰って来たな。」
ブラウンがグレイスに歓迎の言葉をかける。
小物だが大物らしさを演出する能力だけは評価出来る。
「お前の実験のおかげだよ。
どうやったら死ねるのか教えてもらいたいね。
銀の銃弾でも喰らえば良いのか?」
「知らんな、せっかくの給料を楽しめないのか?」
「ケツに爆弾をブチ込まれても死ねないんだぞ、何が給料だ。
ああ、何ならお前のケツに同じことをしてやろうか?」
「俺はそういう趣味はない。」
「そうか、なら話はすぐ終わる。」
「で、その話とやらは何だ?
俺も忙しいのだがな、早くしてくれないか。」
「お前を殺しにきた。」
ブラウンは一瞬固まる。
殺すと言ったのか?
と、聞こえてきた言葉に疑問を抱く。
「冗談ならあとにしてくれ、何度も言うが俺は───」
「もう良いだろう、ブラウン中将殿。
これからアンタは地獄で快適に暮らすと良い。
アンタのような悪魔には閻魔すらひれ伏すだろうさ。」
「いい加減にしろ。」
「動いたな、死ね、クソボケ中将。」
グレイスが目にも止まらぬ速さでブラウンの脚を撃つ。
「コルト1911……どうだ、おかわりが欲しいなら悶えろ。
今は5発分入ってる。」
「ぐ、ぉ、おお、おおおおお、お……!!」
「ははは、そうかそうか。
おかわりが欲しいか……そら、受け取れ。」
「くっ、やられたままで死ぬなら軍人ではない!
伊達に中将になったと思うなよグレイス!
俺にはバックボーンもある!
そもそもお前を不死身にしてやったのは誰だ?
気安く復讐してもお前が損するだけだぞ!」
ブラウンはグレイスの腕に注射器のようなものを突き刺した。
「お前は不死身だが痛覚は残っている。
この薬は何もしていなくても凄まじい痛覚を感じさせる……。
お前は牢屋行きだ。」
- Re: 武人─Bujin─ ( No.2 )
- 日時: 2020/05/13 20:47
- 名前: 快喜 妖 (ID: MmsT0Uvz)
「……お目覚めかね、グレイス。」
「お前は……誰だ?」
冷たい牢獄の中で目を覚ましたグレイス。
残念ながら自分が牢獄に閉じ込められている側だということに気づく。
「……そうか、俺はあのあと気絶して……。」
「私はサミュエル。
君が中将殿に刃向かったおかげで休日出勤だ。
やれやれ……世間様が羨ましいな……。
我々が必死に国を守っている間にも……平和に暮らしている。
闇の世界など知りもしない……実に羨ましいよ……。」
「俺を牢獄に閉じ込めたのは愚痴を聞かせるためか?」
「いいや違う……君は彼の怒りを買った……。
それ以外には何もない……良いな?
私だって旧友をこんな目に遭わせたくはないさ。」
「冗談じゃないぞサミュエル。
俺が人体実験を受けると決まって……無視を決め込んだのを忘れたか?
お前らの信条は『友を見捨てること』か、ええ?」
「違う、落ち着け……。」
「落ち着けるか、こんなことになると知ってれば軍になんぞ入らなかったよ。
聞いたぞ、少年少女をそのスジの連中に売り飛ばしてるそうじゃないか。
何でもありか、このクソッタレ。」
「人間は誰かを不幸にしなければ幸せになれんのだ、分かってくれ。」
「教会で女を抱くくらい罪深いことだ……サミュエル、お前こそ分かれよ。」
「ブラウン中将殿を見ただろう。
あれが人間の本質なのだよグレイス。
所詮は恥の概念を持ったサルだ。」
「俺はどうなる。
ブラウンがくたばるまでこの中にいるのか?」
サミュエルは誰もいないことを確認すると、
「……安心しろ、お前にもちゃんと見せてやるさ。
ヤツが目玉ひん剥いて女の名前を叫びながら死ぬ様子を……。」
そう囁いた。
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