ダーク・ファンタジー小説

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スプランクノンの世界。
日時: 2020/05/26 08:47
名前: 千葉サトエ (ID: JHhjdqyH)


 何も考えずに、二作品並行を行います。更新が遅いのは相変わらずですが、楽しんでいただけると幸いです。

Re: スプランクノンの世界。 ( No.1 )
日時: 2020/05/29 18:00
名前: 千葉サトエ (ID: JHhjdqyH)


「あっついなぁ……迎え、全然来ないじゃん」

 八月の、蝉が五月蝿い駅前のバスターミナル。そこでつばさはどうすることも出来ずぽつんと立っていた。手に握られた葉書には『つばさクンへ。7月20日、11時に東都中央駅前のバスターミナルに迎えに行きま〜す。待っててね! 』と書かれている。現在時刻、12時5分。一時間以上の間、彼はここで葉書の主を待っていた。

 待っている間の駅の様子はさすが都会というか、人は多いがせかせかとしていて、まるで自分だけ置いていかれたように感じた。電話番号でも知っていれば良かったのだが、残念なことにこの迎えに来てくれる女性のことは、名前と容姿しか知らない。

 入間ナナコ。葉書と一緒に送られていた写真では、ベリーショートの黒髪に、オーバーサイズの白Tシャツとホットパンツ。真っ赤なスポーツカーにもたれかかる様なポージングのその写真は、底抜けに楽しそうな笑顔を浮かべた童顔で、子供のような大人、という印象をつばさに抱かせた。

 葉書の写真をもう一度まじまじと眺めていると、後ろからポンと肩をたたかれる。

「少年〜っ! そんなにアタシの顔が好みぃ? 」

 突然のことに固まっていると、後ろから写真をひょいと取り上げられた。いきなり取られた写真を取り返そうと振り返ると、サングラスに黒のタイトなミニスカートという出で立ちの女性が、仁王立ちで立っていた。背も自分より高いためか、正直かなり怖かったが、写真がないとどうにもならない。そう思っていると、相手の言葉に気が付いた。

「……え? 『アタシ』? もしかして、入間さん、ですか? 」

「そ、アタシが入間ナナコよん。お迎えに来たわ」

 明るい調子で自信有りげにそう告げる彼女は確かに黒髪ショートだが、サングラスで顔が見れないためホントにこの人であってるのか疑わしい。思わず一歩後ろに下がると、疑われていることに気が付いたのか、サングラスを取って、慌てたような声を上げた。

「ほら、見てっ。写真と同じ顔でしょ? ……え〜?! これでも疑うんなら〜……」

 彼女は困ったように上に羽織っていたジャケットのポケットから手帳の様な物を取り出して、つばさに向けて突き出した。

「国際公務員。レベル区分で言えば部長! ちょっっっっとだけ、偉いんだからね〜? 」

そういって見せてもらった、その手帳には彼女の顔写真と、名前、役職などがびっしりと打ち込まれていた。役職は——

「……ゴルゴダ全層部長……臨時指揮官? 」

「そ。それがアタシの肩書き。と言ってもまあ、大した物でも無いんだけど。……どうっ? 信じてくれた? 」

 相手の聞きなれない役職名に呆けていると、急かすように信じたかと訊ねられ、コクリと小さく頷きを返す。

「おっし! じゃあ解決ね。車にのってちょーだい。30分くらいで着くからねー」

 そう言われて付いていったには送られてきた写真に写っていたのと同じ、真っ赤なスポーツカーが止められていた。

「さ、乗って乗って。……あっ、いろいろ説明すんの忘れてたわ。でも時間も無いし……車の中で説明するわ」

 つばさを無理やり助手席に押し込むと、彼女もいそいそと運転席に乗り込んだ。助手席から後部座席を覗いてみると、なんだかよく分からない機材が山と詰まれていた。

「あ、後ろは気にしないで。ちょっと汚いのは大目に見てちょ」

「え、いや、......はぁ、大目にみます」

 いろいろ聞きたいのだが、何から聞けば分からず、気の抜けた声で返事を返す。

「じゃあ、一応確認事項ね。えーっと、藤井つばさ君、15歳。性別は、もちろん男。お父様とお母様は8年前に失踪。現在の保護者は、叔父の藤井ジン……あってる? 」

 直すところはないから、小さく頷きを返すと、狭い車内に響き渡るような溜め息が聞こえてきた。

「しょうね〜ん! 君ね! もっとシャッキリなさいシャッキリ! 」

 シャッキリと言われても、いまいちどういうことか分からず首を傾げていると、再び溜め息が隣から聞こえる。先程よりも大きなそれに思わずむっとしていると、ナナコはちらりとつばさに視線を向けて、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。

「……何で笑ってるんですか……」

「いや〜君もやっぱり子供なんだな〜って思ってさ」

 その言い方と表情にますますむっとしつつ、当たり前じゃないか、と思わずにいられなかった。15歳なんて、無力で、何も出来ない子供だ。自分一人じゃ生きていくことも出来ない。そんな自分の無力感が嫌いだったのに、それをこんなに嬉しいことのように指摘されると、何も言えなかった。

「……ナナコさんも、そんなふうに子供のことを見れるなんて、随分オバサンですね」

「なんにぃー?! アタシがオバサンだったら今から行くところにいる女職員の大半はオバサンよ! 」

そう小声でそう言い返してみると、怒ったような声で車のアクセルに踏み込む力も強くなり、車体がグンと動いて体が前に持っていかれる。その時にちらりと見た彼女の顔がその顔が満足そうに微笑みを湛えていて、心底不思議だった。


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