ダーク・ファンタジー小説
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- 幻の如く過ぎ行く世界
- 日時: 2021/02/11 21:36
- 名前: 霧滝禊 ◆cTMHUFnf0k (ID: M5P3Ap0i)
現実とはかけ離れた、この世界のどこかにあるとされる幻の様な世界、『明瞭域』。
様々な存在が様々な思惑を持ち、訪れるとされるその世界で生まれ育った青年、『識枷霊夜』。
この物語は、そんな青年が世界を変える、在り来たりでよくある物語。
【幻の如く過ぎ行く世界】、はじまりはじまり。
【記録】
2020/9/13:第1章開幕
【更新予定】
不定期になってます。
書かねばと思う今日この頃。
気付いたら管理人.副管理人賞なる大層なものをいただいていた。
- Re: 幻の如く過ぎ行く世界 ( No.1 )
- 日時: 2021/02/12 20:13
- 名前: 霧滝禊 ◆cTMHUFnf0k (ID: M5P3Ap0i)
【幻の如く過ぎ行く世界】第1章第1話【この識枷霊夜は夢を見る】
最初に、誰かに問いたい。
「俺が思い出せる最初の記憶はなんだと思う」、と。
両親の顔?それとも家族?もしくは友達?…残念だが俺の記憶はそのどれでもない。
俺の思い出す最初の記憶は、「自分が地面に横たわりながら見た空」だ。
そして俺が今見ているその光景も、俺が最初に思い出す「空」だった。
「……夢、か。」
もう何度呟いたか分からないこの言葉を呟きながら、俺は身体を起こす。
「眩しいな…」
寝ていたベッドの真横にあるカーテンを開け、外を見る。今日も世界は晴天だ。
普段の自分であれば、俺はこの後顔を洗い、食事をし、身支度をした後、適当に外出する。
そんな適当人間が識枷霊夜だ。
しかし、今日は普段通りではなかった。
「荷物?何か頼んだものでもあったかな…?」
一連の流れを終え、外出しようとした俺の足元には箱があった。
黒く重厚な、20cm四方くらいの正方形の箱だ。
「ご丁寧に俺の名前まで書いてるのか。」
俺もどこかで人気者なのかな?と、ふざけた台詞をこぼしながら、宛先の書かれた紙の裏側を読む。
「拝啓、識枷霊夜くん。
いきなりこんな怪しい箱が置かれていて不審に思ったかもしれないが、どうか許してほしい。
私は怪しい者ではない。君を育てた者だ。今回はやれといわれたのでこんなことをするが、
私はやりたくなかった。直接渡した方が早いからね。後の話をするので私のところに来てくれ。
あ、勿論箱の中身も持ってな。」
「…巴折、お前か。」
ここで一つ補足をしておきたい。俺に両親はいない。最初からいないらしい。
そんな俺を育てたのは、背がやたら高い女、「織神巴折」と、基本的に何でも出来るメイドみたいな女、「希刹川理」だった。
両方とも癖が強い奴らだが、同時にいい人間だった。
「中身…?これって腕時計か?」
やけに高そうな箱の中身は、恐らく金属と思しき素材でできた、白い腕時計だった。
「時計なんていきなり送ってきてどうしたんだ…。」
俺は困惑しつつ、その箱を持って送り主のいるところへ向かうことにした。
俺の住む家のすぐ近く________見飽きるくらいに見たバカでかい城、「洛城」に。
「あれ?今日は門の前にいないのか?」
すぐ近くなので然程時間もかからずに洛城についた俺は、とある人間の不在に気付いた。
「馬鹿め、今日もいつもどおりにいるだろう。」
「今日は門の上にいるのか…相変わらずよくわからないやつだな…」
いつの間にか門の上に立っていたその男、真っ白な男、「蔵階梯」といつもどおりの会話を交わすと、俺は洛城の中に入った。
「遅かったですね。待ちくたびれて悪戯をしてしまうかと思いました。
「やめてくれ…理の悪戯はただの虐待だ…」
「うふふ。愛情を虐待だなんて酷いですね。ぶちますよ。」
「言ったそばから虐待じゃないか。」
「うるさいです。えい。」
割といい勢いで頭をはたかれた俺は、やり返さずに言葉で訴える。
今から10年くらい前の7才の時、同じ様な場面でやり返したことがあるのだが、ひどい仕打ちを受けた。思い出すのも怖いくらいの仕打ちを。
「痛い!呼ばれてきただけなのになんで殴るんだ!」
「…呼ばれてきた?ああ、そういえば呼びましたね。」
巴折も待っていますから、と促され、俺は階段を登る。
「なあ、いきなり時計なんて送ってきてどうしたんだ?」
「まあそう焦らずに。話は巴折から。」
と、疑問をぶつけてみるも、適当にあしらわれた俺は、これ以上聞いても同じ答えしか帰ってこないだろうと思い、黙る。
歩き始めてから1分位経っただろうか。理は足を止めた。
「ここです。この扉の先に巴折がいます。」
「いや、何回も来たことあるから知ってるよ。」
「そうでしたね。忘れてください。」
「…で、扉開けないの?」
「開けません。自分で開けてください。」
なんだ不親切に、と思いながら扉を開けた俺にいきなり何かが飛びついてきた。
「れいやあああああああ!会いたかったぜえええ!」
「抱き着くな!離れろ!気持ち悪い!」
「やだー。離れないもんねー。」
俺に飛びついてきたのは先のもう片方の女、織神巴折。やたら過保護なやつで、合う度にこうやって抱きついてくる。少し気持ち悪い。
「いい加減にしなさい!」
と、横で見ていた理が巴折の胸ぐらを右手で掴み、思い切り投げ飛ばした。
投げ飛ばされた巴折は椅子に座っている状態で着地し、口を開けていた。
「理すご!巴折びっくり!」
「もうできないことないんじゃないか?俺にはできないぞ、こんなの。」
「うふふ。私にも出来ないことくらいありますよ。」
「へー。あたし気になる。教えて?」
「霊夜くんに手加減することです。」
「おいおいそれは出来なきゃいけないだろ!?俺がかわいそうだ!」
「うふふ。出来ませんよ、そんなこと。…巴折、本題に入りましょう。」
「ああ、そういえば本題あったな。」
なんだこいつら、本題喪失症にでも罹ったか?と思いつつ、少し姿勢を正す。
「今日、霊夜のところに一つ、荷物を送った。」
「ああ。来たな。」
「勿論、持ってきたよな?」
「ここにある。」
「オーケー、話を円滑に進められるよ。」
「で、この時計は一体何なんだ?」
「詳しく教えるためにも、とりあえずその時計を付けてみろ。」
「わかった。」
そう答えた俺は、箱の中から時計を取り出す。ずっしりとした重さを感じる。
俺の利き手は右手だが、時計は右手に巻く。
「これでいいか?」
時計を巻いた右手を巴折に見せつつ、確認を取る。
「それでいい。で、その時計なんだがな…」
「その件は私から説明いたしましょう。」
巴折の話を遮る形で、理は説明を始める。
「そちらの腕時計は名前を「白の創世(ホワイトアウト)」といい、私の父が作った作品です。」
「へえ…理の父さんが作ったのか…」
「はい。父の傑作と言って、過言ではないでしょう。」
「で、なんでそんなもんを俺に…?」
「それはですね…」
「霊夜の能力が見たいからだ。」
今度は理の説明を遮る形で、巴折が話を始める。
「俺の…能力?」
「そうだ。もうお前には宿っているはずだからな。」
俺の能力?なんのことだ?俺はただ暇な人間で、能力なんて一般人レベルしかないんだが…?
そんなことを考えている俺に、巴折はとある衝撃的な言葉をぶつける。
「そのために、こいつと戦ってもらう。」
困惑している俺の目の前に、突如として少女が現れる。
黒いワンピースを着た、黒いショートヘアの、黒い少女。
そしてとても、目付きが悪い。
そしてその両手にはとんでもないものが握られている。
少女の矮躯には似合わない、無骨な大鎌が。
「はじめまして________こんにちは、そしてさようなら。」
そんなことを呟いた少女はその大鎌を振りかぶり…俺を、ぶん殴った。
「あがッ…」
どてっ腹に大鎌を喰らった俺は、扉をも突き破り、壁に叩きつけられた。
鈍い痛みは感じるも、出血はしていない。どうやら刃では殴られなかったようだ。
「弱い弱い弱い弱い弱い。全くもって無価値です。」
俺をぶん殴った少女は平然とこちらに歩み寄ってくる。
「くっ、逃げないと…」
なんとか身体を起こし、入り口へ向かおうとするが…
「虫けらが…逃げるなッ!!!!」
またしても大鎌を振りかぶり、今度は俺の眼前に叩き落としてきた。今度は刃を。
「ッ…危ね…」
「逃げるな、と言っているのが分かりませんか?逃げるな避けるな背けるな。理解しろ。」
高圧的な言葉をぶつけてくる少女。俺はこの少女になにをしたのか。わけがわからない。
「な、なあ。君は一体何なんだ?正直怖い…ぞ。」
「当たり前です。怖いことをしているんですよ?馬鹿なんですか?」
「目つきといい言動と言い、怖いことだらけなんだが…」
俺がそう呟いた瞬間、その少女の目つきがもっと悪くなった。
そして俺は感じた。言ってはいけないことを言った、と。
「目つきの事を…口にするなあああああああッ!!!!!」
恐らくブチ切れたその少女は、先の動きとは比べ物にならない速さで、こちらに刃を振り下ろしてくる。
間違えない。俺の命はここで終わった。我が生涯、多々の悔いあり。
「った…弱…い…の…」
どこかでそんな声が聞こえた気がした。
その瞬間だった。俺の右手…正確には俺の右手の時計に動かされる形で、俺の右手は動いた。
そして辺りを閃光が包んだ。眩しい。目が痛い。ので目を瞑った。
「何ッ…!?」
気がつくとそんな少女の声が聞こえた。
俺は目を開けると同時に、眼前の光景に驚愕した。
俺の両手には白と金を基調にしたガントレットと思しきものが装着されており、時計のあった右手には、これまた剣が握られており、その剣は少女の大鎌を受け止めている。
「なんだ…これは…」
俺が驚愕の声を漏らすと、再び俺の右手が動く。
軽々と少女を大鎌ごと跳ね飛ばし、その勢いで自分の体が起きる。
「そこまで。」
巴折の声が聞こえる。
「冬問、ありがとう。少し休んでくれ。」
「わかりました、巴折さん。」
少女はぺこりと頭を下げると、そのまま消失した。
「な、なんだったんだ…今のは…」
「今のが霊夜の能力だ。」
巴折がそう答える。
「はい。今のが霊夜くんの能力________「然舞廻し(リテイクエイク)」かと。」
理も続けて答える。
「り、りていくえいく…?これが…能力…?」
理解が追いつかない。今日はやっぱり、普通じゃない一日だ。
【幻の如く過ぎ行く世界】第1章第1話【この識枷霊夜は夢を見る】了
→NEXT【幻の如く過ぎ行く世界】第1章第2話【暇人間に戻りたい】
【後書き】
一回全部消して焦った。Control+zとクリップボード復元を知らなければ今頃この小説はなかった。
いきなり人がたくさん出てきて、書きたいことがたくさんあったので変な文になってしまったと思います。今後も改善しながら、自分の考える最終回まで執筆していきたい所存なので、今後もよろしくおねがいします。霧滝禊でした。
【追記】
5話あたりで一度キャラクター設定を投稿します。
- Re: 幻の如く過ぎ行く世界 ( No.2 )
- 日時: 2020/09/14 22:07
- 名前: 霧滝禊 ◆cTMHUFnf0k (ID: M5P3Ap0i)
【幻のように過ぎ行く世界】第1章第2話【暇人間に戻りたい】
「戸惑うのも無理はないです。私も分かりませんでした。」
少し頷きながらそう言う理。
いきなりなんなんだ。変な少女と戦わされた挙げ句、能力だなんだと畳み掛けられる。戸惑って当然だろう。
「戸惑うっていうか…自分にそんなもんがあったことが驚きなんだが…」
「色々疑問に思うこともあるだろうし、自覚させた人間としての責任もある。一からあたしが教えてやるよ。」
巴折が能力について、そして時計について説明を始める。
俺は端々に疑問を感じつつも、その説明の大まかな部分は理解できた。
どうやら【能力】と言うのは明瞭域に存在するものがなんらかの原因で発現させる超能力の様なものらしく、その効果は多岐に渡るらしい。
明瞭域に存在する、能力を持つ者…通称【能力者】の割合は非能力者6:能力者4とそこまで多くないようで、自然発現する存在は稀との事だ。
そして【白の創世】とかいうこの腕時計、区別名を【器装】というらしく、その実態は『武具を内包した装身具』だそうだ。姿形は様々で、眼鏡から腕時計、はたまた家屋の形の物もあるらしい。誰が作ったんだそんなの。明瞭域に存在する能力者の大半は、特定の節目でなんらかの器装を用いて能力テストをし、判別をするようだ。
「…能力と器装の説明としては、ひとまずこんなとこか。なんか質問は?」
「あー…まあ質問だらけではあるんだが…まあ一番気になるのを一つ。」
「おっ、なんでも聞けよ。なんだって答えてやる。」
「俺の能力の…なんだっけ?【然舞廻し】?だかなんだかは一体何が出来るんだ?」
少し考える素振りを見せる巴折。10秒程の沈黙の後、ようやく口を開く。
「あたしの予想と…観測が正しければ『自然操作』系統の能力。それも何かだけではなく、自然現象全般の。」
なんか、地味。自然現象ってあれだろ…雨とか、雪とか、そんなの。
「そ、そうなのか…疑問が解消できてよかったよ…。」
「霊夜…お前今「つかえねー」とか、「地味だな」とか思ったんじゃないか?」
思考盗聴の能力でも持ってんのかこいつは。
ここで「はい」と言えば間違えなくなにかされるだろう。
「いや、思ってない。なんかこう…夢がある、能力だよな。」
「なーんだ。思ってないのか。思ってたらなんかしてやろうと考えてたのに。」
良かった誤魔化して。身を捨てるところだった。
「…あの。私からも一つ、よろしいでしょうか?」
しばらく黙っていた理が口を開く。
「その…私から一つ、個人的に霊夜くんにお渡ししておきたいものがあるのですが。」
「え、まだなにかあるのか?」
少しお待ち下さいね、と部屋を出る理。
「理からもなにかあるらしいし、まあ座れよ。」
そういえばずっと立っていた。
部屋の中にある椅子の一つに腰掛け、ふと自分の手を見下ろす。
今はもう【白の創世】による武装は解除され、ただの両手が見えるだけだ。
遠くから足音が聞こえてきた。そろそろ理が戻ってくるころだと思い、視界を上げる。その時だった。
「…しに…と……?」
【白の創世】が発現したときに聞いたあの声がまた聞こえてきた。
今度はより、しっかりと声が聞こえる。男の声だ。
誰の声だ…?こんな声聞いたことがない。
「…どうしたんだ霊夜?そんなに目ェ開いて。なんか見たのか?」
「今、声聞こえなかったか…?若い男の声…」
「男の声ぇ?そんなもん聞こえなかったぞ?だいたい、今この城にいる男はお前だけだぞ?」
「そ、そうか。多分何かの音がそう聞こえたんだろう。悪かった、巴折。」
そんなわけない。しっかり聞こえたんだ。男の声が。
疲れたので早く帰りたい俺は、誤魔化しの言葉で終わらせる。
「お待たせしました。こちらがお渡ししておきたいもの、です。」
そういった理が両手で抱えて持ってきたのは、【白の創世】が入っていた箱と同じ様な箱だった。
一つ違いを上げるとするなら、長い。
目で見ただけなので詳しい寸法まではわからないが、恐らく120センチはあるだろう。
理は俺の目の前にあるテーブルに箱を置くと、蓋を開ける。
「果刀・戯切、という刀になります。…と、いっても私の作ったレプリカですが。」
箱の中に入っていたのは、とても刀とは言い難い代物だった。
刃の部分はなんとも奇妙な形になっており、言葉を絞り出して説明するなら、「二振りの刀を無理にくっつけた」のではないかと思うほどに奇抜だった。
それに加え、柄部分は更に装飾が酷く、これではまともに持つことは難しいだろう。
真剣というよりは芸術品に近い、そんな刀だった。
「へー。レプリカの割にはいい出来じゃん。やっぱ理って何でも出来るのな。」
いつの間にかすぐ近くにいた巴折はそう言い、果刀・戯切を持ち上げる。
「やっぱ持ちにくいな、こいつ。こんなんで戦えるやつがいたとか信じらんない話だよ。」
巴折はぶんぶん、と軽く振り回しながらそうつぶやく。
「ちょ、巴折危ないぞ、俺たちに飛んできたらどうするんだ。」
「えー?飛んでくるって?こんな感じ?」
少しにやけながら俺に果刀・戯切を投げ渡してくる。
「おまっ…なにして…」
俺は投げられた刀の柄の部分を奇跡的に持つことが出来た。少々安堵し、刀をまじまじと見ようとした。
見ようとした。
見ようと、した。
見よ、うと、した。
見、よう、と、し、た。
しかし、俺が見たのは果刀・戯切ではなく、男だった。
辺りは急に畳張りの屋敷に変化しており、その男は胡座をかいている。
風貌としては20代中盤ほど…?長い髪を後ろで適当にまとめ、黒い着流しに身を包んだ…少し笑った、男だった。
「う、うわっ!だ、誰だあんた!」
俺は反射的に後ろに下がる。本能が距離を取れと言っている。
平和に普通に生きてきた俺でもわかる。こいつは、やばい。
「お前が…やつがれか…?」
声を聞いて驚愕する。さっきも聞いた声だ。手を見た時の声、【白の創世】を発現させたときに聞いた声。
「なんだ?やつがれが聞いてるだろうが、すぐに答えろよ。」
「答えようにも答えられないんだが…。お前は一体誰なんだ…?」
「やつがれが誰、だと?だからやつがれはお前と言っているだろうが。」
「いや、本当に意味がわからないんだが…。」
着流しの男は少しため息をついた後、頭を掻きながら再び口を開く。
「…まあいい。お前はやつがれで、やつがれはお前。不自然ではない。」
「なんだ…こいつは…」
「お前、名前は?」
起き上がった着流しの男は、後ろを向き、そう質問してくる。
「名前…。識枷霊夜、だ。」
「識枷、か。いい名前だ。そうなっても何ら不自然でない。やつがれが褒めてやろう。」
そう男がつぶやくと、いきなり世界は揺れ、崩壊を始める。
「な、なんだ!?ゆ、揺れてるぞ!?」
「やつがれが揺らしている。お前はもう帰る時間だからな。」
「は、はぁ?」
「それではまた、やつがれが会いたくなったら会いに来る。」
男の言葉が紡がれるたび、揺れが強くなる。
「ま、待ってくれ…!最後に、俺の、質問を…」
揺れに耐えながら、俺は言葉を絞り出す。
「なんだ。一つだけなら答えてやろう。聞け。」
「お前の、名前は、何だ…!?」
男はまたそれか、と少し笑い、こう答える。
「愚影劫問。やつがれの名であり、お前の名だ。二度と忘れることのないよう、脳内に刻み込め。」
そんな言葉を聞きながら、崩壊する世界に落下してしまった。
愚影…聞いたことがない。
ああ、普通の日常は何処に行ったのか…。
【幻のように過ぎ行く世界】第1章第2話【暇人間に戻りたい】了
→NEXT【幻のように過ぎ行く世界】第1章第3話【そうなってこうなってどうなった】
【後書き】
第二話です。今回も迷走しています。会話文と間に挟む状況文?的なのの使い分けが拙いのと、「…」を使いすぎていると思います。さてさて、早くも謎の声の正体が判明しました。当初予定していた形と大きく違うキャラクターにしてしまった謎の声の正体。だって余りにも書きにくくて描きにくいんだもの。
霧滝禊でした。
- Re: 幻の如く過ぎ行く世界 ( No.3 )
- 日時: 2020/09/29 19:58
- 名前: 霧滝禊 ◆cTMHUFnf0k (ID: M5P3Ap0i)
【幻の如く過ぎ行く世界】第一章 第三話『そうなってこうなってどうなった』
崩壊する世界に落下している。
言葉で表すと、まるでSF映画か何かのワンシーンかと思う今の状況だが、残念だが今俺の置かれている状況はSF映画でもなければ映画でもない、作り物ですらない現実だ。
「どうしたんだ、いきなり壁なんて見つめてよ…。」
巴折の声が聞こえる。崩壊した世界に落下していた筈が、気付けば元の場所、椅子の上に座った状態に戻っていた。
どうやらどれも現実ではなかったらしい。
「…今、俺何してた…?」
「何してたも何も、顔上げたと思ったらいきなり壁見つめ始めたんだよ。なんも壁にないのに、何見てたんだ?」
「顔上げた瞬間になんか別の所にいて…」
そう言おうとした時だった。
「おい、待て。やつがれの存在を他言するな。」
そう聞こえた。あの男…愚影劫問とかいう奴の声だ。
「返事はいい、何も言わずに壁を見ていた、と言え。いまやつがれの名を出せば、お前は災難に見舞われることになる。わかったな?」
災難…。こんな見ず知らずの人間の言葉を信じるのはどうかとも思うが、可能性は捨てきれない。
「いや…なんか壁紙の模様がなんかに見えたんだよな…」
「なんだそれ、疲れてんのか?」
俺が選んだのは信用だった。もし、これが仮に大事になっても困る。
信用したことによって大事になっても勿論困るが、信じないよりは信じろ、だ。
「まあ疲れたよ…今日だけで色々ありすぎた…。」
そうつぶやき、【白の創世】を見る。どうやらしっかりとした腕時計としての機能もあるらしく、時刻は午後の4時辺りを指していた。
家を出たのは午前10時ほどだったか…?
「疲れたか。確かにいきなり戦わせたりしたしな…。これからの話は明日でも出来るし、今日はもう帰ってもいいぞ。」
「そうか…。ならお言葉に甘えて帰ることにするよ。」
「おう、また明日な。」
そう言葉を交わし、椅子から立ち上がると、理に案内され、部屋を出、入り口に向かい歩く。
今日は普通じゃない一日だったな…。【白の創世】とかいう謎の時計を手に入れ、変な女の子と戦わされ、さらに自分の能力を自覚して謎の男とも出会った。
全て体験した今ですら、自分が体験したとは思えない、作り話のように思えてくる。
「俺の人生、これからどうなるんだろうな…。」
「あ、そうそう霊夜くん。一つ言い忘れていました。」
「ああ…、なんだ?」
「さっき戦ったあの少女…愚影冬問というのですけどね…」
愚影…?さっきの男も愚影だったような…?
「あの少女、今日から霊夜くんのところに住むことになりましたから、よろしくおねがいしますね。」
「……はい?」
多分この瞬間、識枷霊夜は生涯でもっとも間抜けな声を出したであろう。
「こんばんは識枷さん_______。冬は愚影冬問(おろかげとうもん)といいます。今日から宜しくお願いしますね。」
「ああ、宜しく…。まあ、入って…。」
帰宅してからしばらく後…、午後の7時ほどだっただろうか。
家の呼び鈴が鳴り、誰だとドアを開けると、そこには先程戦った少女が立っていた。
本当に来たよこの子。まさか本当に来るなんて思わなかった。
とりあえず居間に案内し、テーブルを挟んで向かい合う形で座る。
「えーっと、とりあえず此方側の自己紹介かな…?俺は識枷霊夜って者なんだけど…。」
「はい、知っています。大体のことは巴折さんに教えてもらいました。」
冬問は少し低い声でそう答える。この返し方だと、多分これ以上の自己紹介は必要ないだろう。
「あとはちょっと気になってるんだけどさ…。」
「なんでしょう、冬の気に障らないことであれば答えますよ。」
「本当に、ここに住むんだよね…?」
「はい。今日からここにお世話になることになります。」
「ああ、本当なんだ…。」
どうやら本当にここに住むらしい。ええ…?俺、巴折や理以外の異性と一緒に住んだことないんだが…?
「そういえば、冬はどこで生活すればよろしいのですか?」
「生活っていうと…、部屋か。まあ余ってるし、好きなとこでいいよ。」
我が家は2階建てで、それなりに広い。1階2部屋、2階の3部屋、合わせて5部屋あり、2階の1部屋を自室として使っているだけで、後は誰も使っていない空き部屋になっている。
多分一人で住むような家ではなく、3~4人で住むような家なんだろう。
巴折が「大は小を兼ねる」とか言ってこの家に一人暮らしさせていたのだが、正直部屋は持て余していた。
「そうですか…。なら冬は識枷さんの隣の部屋を使うことにします。」
「隣ぃ!?え、どうして?」
「冬は一人が嫌いなんです。だから隣です。」
「まあ、君がいいならいいんだけどね…。」
なんだこの子…。さっきの気迫っていうか、威圧感的なものが全く感じられない。
戦うと性格でも変わるのか?なんだそれ、そんなやつ見たこと無いぞ。
「ところで、この家の家事って誰がしているんでしょう?見た所、識枷さんの一人暮らしのように思うのですが…。」
「一人暮らしだからね…。全部自分でやってるけど。」
「そうでしたか、なら今日からは冬が全部やりますね。」
一体何がしたいんだこの子は。
「え?流石にそれは申し訳ないんだけど…。」
「いえいえ、住まわせていただく以上、これくらいはしますよ。」
「対価にしては負担かけすぎてる気がするんだけど…。大丈夫?」
「大丈夫です。実家では家族全員の分もやっていましたし、2人分なら余裕です。」
「余裕…、自分の分でもかなり面倒だったのに、余裕なんだ…。」
多分この子は理みたいに大抵のことは出来るんだろう。
俺にはなれないタイプだ。
「まあしてくれるって言うのなら言葉に甘えとこうかな…。」
もしかしたらこれは全部夢なのではないか?
それくらい妙なことがあった一日であった。
【幻のように過ぎ行く世界】第1章第3話【そうなってこうなってどうなった】了
→NEXT【幻のように過ぎ行く世界】第1章第4話【白讐の断罪】
【後書き】
第三話です。予定更新日を大幅に過ぎ、文量も少なくなってしまいました。
書き上げた内容が何故か消えてガン萎えし、こんな内容と投稿日に。
頭の中で考えたことを文にするのって難しいですね。元々二人はこんなやりとりをする予定ではなかったんですけどね…。
今後はバックアップを取ることにし、内容も読みやすく、描きやすいものにしていきたいです。
霧滝禊でした。
- Re: 幻の如く過ぎ行く世界 ( No.4 )
- 日時: 2021/09/01 22:20
- 名前: 霧滝禊 ◆cTMHUFnf0k (ID: M5P3Ap0i)
【幻のように過ぎ行く世界】第1章第4話【白讐の断罪】
キィーと、ドアを開ける音が聞こえる。
あの妙に高く、耳につく音は俺の眠りを覚ますには十分な音だった。
「…おはようございます。丁度目覚めたようですね。」
「ああ、おはよう…。」
眠気眼で目の前の人物…愚影冬問を視認した俺は、昨日まではしていなかった挨拶を交わす。
妙な気分だ。昨日までは起きて最初にする行動は挨拶ではなく、外を見ることだった。
「…?どうかしたんですか?寝違えました?」
何もせずにいた俺を不審に感じたのか、少しばかり首を傾げながら問いかけられる。
「いや、なんでもないよ。」
「そうですか。朝食の用意ができているので、早めに食べてしまってください。冬はこれから用がありますので。」
そう口にすると、冬問は部屋から出て行った。
朝食か…。人の作った料理を食べるのはいつ以来だろうか。
そんなことを考えながら、居間に向かい、朝食に向かう。焼き魚に白米、味噌汁という非常に朝食らしい朝食だ。
いただきます、と呟き、まずは味噌汁から口に運んでみる。
「…なるほど。おいしい。」
多分俺には才能がないんだろうと思う味だ。おいしい。
そういえばあの娘は「実家でもしていた」とか言ってたっけ。人間、積み重ねが大事なんだろうな。
黙々と食べ進める。10分ほどで食べ終え、食器を洗おうと皿を持ち上げる。そうすると、一枚の紙が皿の下に置いてあった。
識枷さんへ
食事を終えたようですね。洗い物は結構ですので、下記の建物を訪ねてください。
一応地図も描いておきますが、わからないようであれば理さんに聞いてもらえればわかると思います。
なんでこんな方法で伝えようと思ったのか。さっき口頭で説明すればよかったのでは、と思いながら地図に目を向ける。
線と点、それと少しばかりの言葉で描かれた簡潔な地図だ。
この場所…見覚えがある。数回しか見た覚えがないが、あのやたらでかい屋敷だ。
確か巴折が「由緒ある家系」とか言っていたような…。
まあ、来いと言われたからには行っておこう。
そのまま持ち上げた食器を流し場に持っていき、水に浸けておく。洗い物はしなくていいと言われたが、このくらいはしておくのが食べ手としての礼儀であろう。
居間から出る際、横目で時計を確認する。現在、午前9時50分。外出準備や移動時間を加味すると到着は10時30分あたりだろうか。
ちょっと急ぐか、と考えながら洗面所で顔を洗い、歯を磨き、自室へ向かう。
クローゼットを開き、内部を一瞥し、適当な服を着用する。
因みにあたかも様々な服があるかのように聞こえるが、そんなことはない。
着替えを終え、部屋を出ようとドアノブに手をかける。
部屋を横目で一瞥すると、机の上に置いておいた、「白の創世」とやらが目に入った。
「…こいつも一応持っておくか。」
昨日みたいな目にはもう合いたくないが、と呟き、今度こそ部屋を出る。
玄関で靴紐を結びながら、再度時計を確認する。
10時ジャスト、予定より早い。
「よう、今日もいい天気だが…俺の気分は雨模様だ。」
「そのポエムとも挨拶とも取れる発言、好きなのか?」
家を出ると、ちょうど蔵階と会った。
こいつは中々に奇妙な奴で、素性の不明瞭さで言えば、恐らく今までに会ってきたどんな人物よりも分からないことが多い。
物心ついた頃には、巴折達と共に周りにいたし、いつも気づいたらそこにいる。
…少し気味が悪いな。この話はやめにしよう。
「今日は何するんだ?昨日は愚影のとこの娘と殺りあった、とか聞いたが?」
「愚影…。確かにそんな名前だったな。殺りあった、というより、殺られそうになった、な。」
「は、巴折も中々馬鹿らしいことするんだな。本当に殺られちまったらどうするつもりだ、まったく。」
蔵階は少々呆れ笑いをしながらそう返すと、「俺は何をするわけでもないし、お前も予定があるだろ?」と去っていった。
予定という単語に反応し、腕に巻いていた白の創世を確認する。
「10時10分…まあ、予定通りか。」
そうつぶやくと、ポケットに仕舞っておいた例の地図を取り出す。
蔵階と話しながら適当に歩いていたので、少し遠回りになってしまった。
「今が大体…この辺りか?」
地図と周囲を交互に見、大体の位置を把握する。地図の通りに進めば、おそらくこのまま道なりに右折と左折を行えば愚影家に到着するらしい。
そのまま歩き始めると、とある地点を境に急に目の端でとらえていた外壁が変化した。
今までは簡素な石造りだったものの、その地点からは急に黒い堅牢なものへと変化している。
「地図から察すると…この辺から愚影家の敷地みたいだな。」
予想より大きかった。家柄がいいのだろうか?
「ああ、識枷さん。お待ちしておりました。」
正門と思しき方へ進むと、冬問が待っていた。
「ごめん、待たせすぎたかな?」
「いえ、あまり待っていないので大丈夫です。」
多分小一時間くらい待たせたと思うんだが…。考えすぎだろうか?
冬門に案内された愚影家の中は侍が生きていた時代を描いた創作物にでも出てきそうな屋敷で、外側から見ても内側から見てもやはり大きかった。
「ところで、どうして俺をここに呼んだんだ?」
「私の父_____現在の愚影家当主が識枷さんを一目見ておきたい、と。」
「当主…言葉だけ聞くと怖い人ってイメージしかないな。」
ちなみに短い生涯で当主の人間を見たことはない。
「多分ですが、父は私が人を殺しても怒ることはないと思いますよ。そのくらい、父は怒ることに縁がない人間です。」
そんな話をしていると、屋敷の中でも一際品のある襖の前に通された。
「この扉の向こうに…お父さんが?」
「はい。」
冬問はそう答えると、襖を軽く叩く。そうすると、少々低めの男性の声が返ってくる。
「どうぞ、入って。」
その声を聞くと冬問は襖を開き、部屋の右側へと控える。
部屋の中心には灰髪に若干白髪の混じった壮年の着物の男性が正座して此方を見据えていた。
「失礼します。」
「失礼します…。」
とりあえず冬問に倣って挨拶をし、冬問の父に示された座布団に座る。
「初めまして、識枷君。」
「こちらこそ、初めまして。」
「はは、いきなり呼びつけて申し訳ないね…。娘が男の子の友人の家に引っ越すと聞いて驚いてしまったよ。」
「ははは…友人、です。」
友人…?殺されかけた挙句いきなり家に越してきた人間が友人…?
なるほど、何もわからない。
「あ、自己紹介が遅れたね。現愚影家当主の愚影疑問という者です。宜しく。」
「ああ、識枷…」
この辺まで言ったくらいで、疑問に「ああ、君のことはもう調べつくしたから紹介はいいよ、すまないね。」と制された。
そんなに俺の情報って出回ってるの?なんで?
「さて、自己紹介も済ませたあたりで本題に入りたい。」
「本題、ですか。」
「まあ本題と言っても、そう重たい話ではないよ。」
「君は、僕の娘とどういう関係なのかな?」
「…友達、です。」
これしか答えられなかった。そもそも友達ですらない。
いきなり殺されかけた挙句いきなり家に越してきた名前しか知らない女の子です、なんて言えなかった。
「友達、ね。はは、最近の子は進んでるのかい?」
その返答に対し疑問は少し笑う。よかった、気には障らなかったようだ。
尤も、「まあ、その程度の返答しか返ってこないのは予想できていたけどね、」と後ろに追加されたので喜んでいるようではないが。
「うんうん、君ならこれがいいだろう。」
暫しの沈黙の後、少し目を瞑り、頷きながら疑問はそう呟く。
「君、調べたところだと織神のとこのお嬢様と交流があるみたいだね。」
「それが巴折なら…ありますね。」
「そうそう、巴折さん。よかったよかった、ならよさそうだ。」
巴折が話に出てくるときはあまりいいことが起こらない、というのが俺の経験でもっとも役に立つことの一つである。
今まで世話になってきた恩義は勿論感じているものの、それ以上に…面倒くささが勝る。
よく考えてみれば巴折も理も蔵階も全員よくわからない人間だった。今更か。
「君に少し、課題を与えてもいいかな?」
「課題、というと?」
「君の実力が見たいんだよ。力のない人間にそう易々と娘は預けられないからね。無論、この申し出は蹴ってもらっても構わない。」
「しかし…もし蹴るのなら娘はすぐにでも返してもらうよ。」
「…一応聞いておくんですけど、その課題って言うのは「誰かと戦え」とかそういうのでは…」
「察しがいいじゃないか、その通り。君にはとある人間と戦ってもらいたくてね。」
また戦い…昨日からどうしてこうも争ってるんだ。
「君に戦ってもらいたい人間…名前は知らないんだが、最近この辺りで噂になってるのは知ってるかな?」
「知らないですね…。」
「ならそこから説明しようか______君に戦ってもらうのは、この辺りで能力を持つ人間を襲って回ってる、白い服の男だ。」
能力者を襲って回ってる?そんな危険な人間と…俺が戦うのか?命の危険を感じる…。
ちょっと待ってくれ。能力者ってのはそんなの大勢いるのか?
「そいつは謎が多くてね。わかっているのは2つだけで、1つは性別で____」
疑問はそこまで話すとこちらに手を差し伸べる。
「もう1つはそいつの使う力の名前が【白讐の断罪】だ、ということだけだ。」
「選んでくれ、識枷くん。戦うか、戦わないか。」
【幻のように過ぎ行く世界】第1章第4話【白讐の断罪】了
→NEXT【幻のように過ぎ行く世界】第1章第5話【能力者】
【後書き】
最終更新が1年近く前ですね。もう言い訳なんてしません。
さぼりました。これからはまじめにかきます。
霧滝禊でした。
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