ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

神様というものは
日時: 2020/11/15 10:53
名前: ルルルル (ID: 6o2LtD0O)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12893

初めましてこんにちはルルルルと申します。閲覧ありがとうございます。


  ―――― 重要 ――――

 本作品「神様というものは」は私、ルルルルの私事情により、誠に勝手ながら、連載を中止させていただくことになりました。なお、「神様というものは」は、他の場で、他の形で、皆様にお届けしたいと思っております。
自分にとっての処女作ですので、やはりこの作品には思い入れがあります。ですが、このような形になってしまい、私自身とても情けないと思っております。ですがこれで完全にお別れというわけではありません。
今まで閲覧してくださった皆様、小説カキコさんの皆様には多大なる迷惑をおかけしますことを誠にお詫び申し上げます。そして何より、この作品に1度でも触れてくださったことを感謝いたします。またどこかで会えたら、その時はまた、温かい目で見守ってくださると光栄です。
本当にありがとうございました。


  11月15日追記







――― 「神様というものは」あらすじ ――――――――――――――――――――――――――


 親友と呼べる人もいない。好きな人もいない、。そんな高校生活を送る2年生の野球部のエース高山瞬(たかやましゅん)は、学校の授業の「自分にとっての神様とは」という質問に答えを出せないでいた。そして、この春転校してきた2年生の美術部の安田裕翔(やすだゆうと)と出会う。自分の居場所。裕翔の病気。瞬は裕翔と付き合っていく上で何を見ていくか。そして「自分にとっての神様」とは一体何なのか―――
まっすぐな二人の、切ない友情ストーリー。




Re: 神様というものは ( No.1 )
日時: 2020/11/08 09:29
名前: ルルルル (ID: 6o2LtD0O)

1.



 俺は困った。

 ____________________________________________________________________________________







 学校の道徳の授業。今日のテーマは宗教についてだ。先生が口を開く。

「神様は私たちの心の中に存在します。自分にとって絶対的な存在で、わたしたちを幸せに導いてくださる、と崇められているのです。しかし私たち日本人みたいに宗教に属さない人もとても多いのです。」

神様?戦前の天皇みたいなものなのだろうか。でも戦後からは天皇は神様ではなく人間として生きている。結局、神様ではなかった。神様なんてものは無かった。まあそんなことはいい。とにかく俺は、神様はいないものとして生きている。(神頼みするときは別として)
そういうのを信じる人は宗教とか神様とかそういうのに縛られて生きていくのだろうか?



「先生ぇ~。神様ってホントにいるんですか~?」

前の方から女子の声がした。彼女は、クラスの中でも目立つような人で、リーダー的存在だ。本当に目立つから、学校で彼女のことを知らない人はいないとか。まあ俺には関係のないことだが。

「先生はいると思うよ。でも、キリスト教だとかイスラム教だとか、そういう宗教的なものじゃなくてね、なんていうか、自分個人の中に存在する大切なもの。たとえば、友達とか、好きな人とか、好きなアイドルとか。」

 大切なもの?なるほどここでいう神様っていうのはそういう「王様」とか「崇拝」みたいなニュアンスのものじゃなくていいんだ。

「ふう~ん。じゃあ、先生にとっての神様ってなあに~?まさか…彼氏とか?」
「ちょっと何言ってるの!先生をからかうのはやめなさい!」

クラスにどっと笑いがあふれた。しばらくして笑いがおさまると、先生は話し始めた。

「いいですか?今回宗教のことをやっているけど別に宗教に入れって言ってるわけじゃないの。大切なのは、あなたの中の大切な存在がなにであるかということよ。」

大切な存在…。俺はずっと部活の野球に明け暮れていたから大切な存在が何かなんて考えたこともなかった。そういえば俺には、好きな人なんていない。親友と呼べる人もいない。もちろん家族は大事だが、神様とはなんかちょっと違う気がする。そもそも大切な存在ってなんだ?訳が分からなくなってきた。







  
 









「ちょっと、高山たかやま君?高山瞬たかやましゅん君?聞いてるの?」

先生が俺の名前を呼んでいたみたいだが全く気が付かなかった。俺は時計を見た。先生が神様についてどうたらこうたら説明してからもう20分も過ぎていて、あと5分ぐらいで授業が終わる。ということは、俺は20分も大切な存在が何なのかをボケボケ考えていたのか。



「あ、すいません。ちょっと考え事してました。」
「はぁ、ちゃんと聞いてなさい。もう一回言うわよ。あなたにとって神様とは何ですか?」
「え………。」

俺の心臓がドクンと響いた。
なんで?なんで俺に聞くの?そんな神様を信じない奴にお前の神様は何だと聞いてもどうしようもないだろ?

なんて答えればいいのやら、俺は焦った。


「・・・わからない…で……す・・・。」
「わからない?なんでもいいのよ、友達でも、好きな女優さんとか、ペットとかでも。」
「…………………………わかりません……。」


案の定、周りがひそひそと話し始めた。よく聞こえないけど何を言っているかは検討がつく。

俺は別にぼっちではない。むしろ、目立つか目立たないかで言えば目立つ方だ。クラスの男子に話しかければちゃんと会話してくれるし、向こうから話しかけてくれることだって普通にある。女子だって挨拶ぐらいはしてくれる。だからテキトーにクラスのみんなが神様だって答えればいいはずなのに俺の中の何かがダメだと訴えている。


本当にわからない。神様が何なのか…。






ひそひそ声はだんだん大きくなる。普段よく俺と話す男子が心配そうにこちらを見つめてくる。
なんでもいいんだよと斜め前の女子が俺にこそっと教えてくる。

鼓動が速くなるのが分かる。一回一回が重い。これはまずいぞ。



どうすればいい。






「えっ、あのえっと……」


 
なんて答える?




「えっと…自分にとっての神様は……」







どうする、俺































「もういいわ。ごめんなさい。神様の話をしたってよくわからないわよね。この話はもうおしまい。鐘がなるわ。号令お願い。」






キーンコーンカーンコーン






















最悪だ



















俺は起立してうつむいたままそれとなく礼をした。学級委員の号令は耳に入ってこなかった。








Re: 神様というものは ( No.2 )
日時: 2020/11/01 15:53
名前: ルルルル (ID: 6o2LtD0O)

いつもの学校にいつものように来て、いつものようにクラスのやつらとしゃべって、いつものように授業を受ける……はずだった…。なのになんだったんだよ、さっきの俺。先生にもクラスにもすごく悪目立ちしていたじゃないか。まるで…
「『ザ・陰キャ』って感じだったぞ、お前。」
「うわっ、びっくりした~。」

こいつは同じクラスの男子、三田だ。部活は違うけど何かとよくしゃべる。
それにしても本当にびっくりした。

「高山、さっきどうしちゃったんだよ。なんか具合でも悪かったのか?」
「いや、別にそんなんじゃねぇーけど…。」
「高山があんなふうになるの初めて見たわ。大丈夫か?」

俺も初めてだよとか思っていると、向こうの方から3,4人の男子グループがけらけら笑いながらやってきた。

「おい高山。お前さっきヤバかったぞ。」
「いったいどうしたっていうんだよ。」
「神様はここにいるクラスのみんなですって、テキトーに言って流せばよかったのになあ。」
「めっちゃおどおどしてたぞ。お前『陰キャ』にでもなったのかよ。」

男子グループはそう言うと、俺の返事も聞かずにぎゃはははと大笑いしながらどこかへ行ってしまった。

「なんだあいつら。ただおちょくっただけじゃねぇか。気にすんなよ高山。多分あいつら本気で言っ
 てるわけじゃないと思うけど。」
「ああ、気にしてねぇぜ。ありがとうな。」

気にしないわけねえだろー!!あーもうほんっとに最悪だよ!「陰キャ」って言われちまったぜ。三田にも。グループの奴らにも。自分でも「陰キャ」みたいだな…って思ったよ?でもわざわざそういうこと言わなくていいじゃんかよ。本気で言ってない?なら最初から言うな!これでも一応傷ついてんだぞ!俺意外と豆腐メンタルなんだぞ!まあ、百歩譲って心配してくれた三田は許す。でも、さっきのグループは何なんだよ。三田の言う通りただおちょくっただけじゃねえか。ていうか「陰キャ」とか「陽キャ」っていったい何なんだよ。そういうの誰が決めたんだよ。

目立つとか目立たないとか、見た目とか、趣味がどういうのかってだけでそいつのキャラが決まる。そしてそのキャラがスクールカーストの位置づけに大きく影響する。そんなのおかしい。そもそもスクールカーストがあること自体がおかしい。
人のことも良く知らないのに、見た目やその人の趣味だけで人を見下すっていうのはひどすぎる。そんな奴がもし、俺は陽キャだぜなんてほざいていたらなおさら腹が立つ。「本当の陽キャ」ってのは誰と話しても態度が変わらずに明るく話せるやつのことじゃねえのか?それに俺は「陰キャ」とか「陽キャ」とかっていう言葉の響きが大嫌いだ。特に「キャ」の部分がなんだか気持ち悪くて大嫌いだー!

俺は自分の頭の中で火山を大噴火させていた。それだけじゃおさまりきらなかったので眉間にしわを寄せてみた。さっきの授業の時の焦りや恥ずかしさよりも今は怒りの方が圧倒的に勝っている。

ついに俺はチッと舌打ちまでしてしまった。

「おいおい高山、やっぱりお前怒ってるのか?」
「ああいや、そんなことない。大丈夫だ。」

ああ、めちゃくちゃ怒ってるよ。でもあのグループに対してじゃあない。いや、もちろん腹は立った。ただそれ以上にこの不平等で憎たらしいスクールカーストを作り上げた何かに俺は怒っている。



「あ、そういえば再来週の土曜日は体育祭だな。」

ん?体育祭…。そうか、もうそんな時期か。確かに言われてみればもう10月だ。

「お前、足が速いんだからそこでお前の力見せつけりゃいいじゃん!そうすればさっきの授業の時に張られたレッテルがはがれるだろ。まあお前はもともと目立つ方だったし大丈夫。あ、もう帰りのHR始まる。じゃあな。」
「おう。サンキューな。」
「頑張れよ。」

そういって三田は、自分の席に戻っていった。





体育祭か…。



「はぁ…。」



さっきの授業と言い、「陰キャ」といい、アンラッキーが続いてるな…。

「いやな予感がする…。」




いや、ダメだ!しっかりしろ俺!この体育祭を全力で楽しんで見せようじゃないか!





頑張れ俺!







Re: 神様というものは ( No.3 )
日時: 2020/11/08 09:42
名前: ルルルル (ID: 6o2LtD0O)

2.

 
    安田裕翔

____________________________________



2週間後…





ここはいつも学校へ行くときに乗る電車の中。

俺は今とてもソワソワしている。うまく隠そうと思っても、感のいい人が俺を一目見ればこいつは今ソワソワしてるなと分かってしまうくらいソワソワしている。
いつもは学校行くのだるいなと思いながら電車の中で音楽を聴いている。ただ今日はいつもとちょっと…いやだいぶ違う。だるいなとも思わないし、音楽も聴いていない。
なんてったって、今日は待ちに待った体育祭なのだから!!だから俺は昨日、変に目が覚めてよく眠れなかった。って、行事の前の日に眠れないなんて小学生かよ、と自分にツッコんだ。

体育祭当日から1週間前は、体育祭準備集中期間として、放課後などに練習がある。その期間、俺は誰よりも頑張った。声を出すときはめっちゃでっかくしたし、練習であろうといつだって本気で取り組んだ。自分のチームである紅組に精一杯尽くせたと思う。どんな行事も全力を出している俺だが、ここまで頑張ったのは初めてだ。


……あれ、なんでこんなに頑張ったんだっけ俺…。そうだ、今回の体育祭は全力で楽しんで見せると決めたからだった。そういえば集中期間が始まる前、三田に「頑張れよ」とか言われたな。けれど、何を「頑張れ」なんだ?何かあったっけ…。なんか「レッテル」とかがどうのこうのとも言ってたような。
なかなか思い出せない。何だっけ?




まあいっか。そのうち思い出すだろう。俺はとにかく今日という日を楽しめばいいんだよ。


自分にそう言い聞かせて俺はまたソワソワし始めた。










5時間後…





お昼が終わってから3種目目。上を見上げると、雲に隠れていた太陽が少しだけ姿を現した。
俺は今、入場門で整列している。なぜなら俺は、この借り物競争に出場するからだ。
「ええ~、次は借り物競争です。選手の皆さんは入場してください。」
「よし。」

ついに来た。去年は出られなかったから、すごくドキドキしている。クラスでは、俺ともう一人女子しか出ない。出場する人数が少ない分、配点がでかいので責任重大だ。

先生が笛を吹き、選手たちはトラックに沿って入場していく。


俺の後ろの男子2人が何かコソコソと話をし始めた。

「なあ、あのカードには何が書いてあるかな?」
「さぁな。『好きな人』とかじゃね?」
「そんなべたに書いてあるわけないだろ。大体そういうのは『大切な人』って書いてあるんじゃねぇのか?」
「なんだよ、それだってベタ中のベタじゃんか!」
「はは、確かに。」
2人は笑った。


「大切な人」?なんかそれどっかで聞いたような聞いてないような…。




そう思っている間にもう着いてしまった。思い出したかったがもう仕方がない。集中しろ!俺!頑張って1位になるんだ!俺は6レーン目だから前のレーンの奴らを見てイメージトレーニングをするとしよう。そう考えていると放送部からアナウンスが流れた。

「ルールを説明します。まず、走ってトラックのレーン上にある白いカードを1つ取ります。次に、そのカードに書かれたお題を誰かから借りてゴール付近にいる審査員のところまで行きます。OKをもらったらゴール。あとは徒競走と同じです。お題は、簡単なものから難しいものまで幅広くあります。皆さん頑張ってください!」

簡単なものから難しいものまで…か。難しいものに当たらなければいいのだが…。


1レーン目がスタート地点についた。


「いちについてー、よーい……」


パァァン‼


一気に歓声が沸き、お馴染みのBGMが流れ始めた。

「スタートしました!この競技の肝は、選手と観客のチームプレイ!いったいどうなるのか~⁉両チームとも頑張れー!」

選手たちが次々とカードを取り、「借り物」を持ってそうな人を探して走っている。

「3コースの君は何のお題だぁ?な、なんと傘だあああああ!!こんないい天気の日に傘を持っている人なんているのかああ!?」


会場は大盛り上がり。お題のものを借りられて喜びに満ちている選手と、まだ見つからずに焦っている選手。熱く実況するアナウンサー。そして、大笑いしながら一生懸命に応援する観客。すごいな…。みんな楽しそうだ。キラキラしている。まあ、俺だってこの後そうなるんだからいいけどね!集中、集中!


















俺ははっとなった。イメージトレーニングしすぎて自分の世界に入り込んでいた。俺まであとどのくらいか確認する。なんと、もう次じゃないか。危ない危ない。
俺は、スタート地点に向かって歩き始めた。

どうしよう。俺今めっちゃ緊張してる。足が少し震えてる。さっきまでは緊張のきの字すら出てこなかった。きっと前の奴らも俺と同じだったのかもしれない。


スタート地点に着き、深呼吸をしてみる。


「位置について!」











もう一回、深呼吸をする。






「よーい」














バアアン‼



俺はスタートした。勢いよく地面をけった。







Re: 神様というものは ( No.4 )
日時: 2020/11/08 09:57
名前: ルルルル (ID: 6o2LtD0O)

カードのところまで走る。
「さあ 、何が書いてあるんだ? 」
俺は、カードをめくり、お題を見た。















「大切な人」











俺はすべてを思い出した。


先々週のあの最悪な授業のこと。三田に言われた「頑張れ」の意味。俺に張られた「レッテル」。俺にとっての神様…大切なものが何なのか全く答えが出なかったこと。全部思い出した。俺は、体育祭のことで頭がいっぱいになっていた。だから忘れかけてたんだ…。できるならもう思い出したくなかったのに…。こんなに運が悪いことがあるのだろうか。自分の大切なものが何か分からないやつに大切なものを持って来いと。しかも今回は「人」だ。「物」ではない。だが大切な人なんてそうぱっと思いつかない。

どうすればいい。



「さて!そこで突っ立ってる君!君のお題は…おお!『大切な人』ですね!友達でも好きなあのコでも誰でもOK!さあ突っ立ってないで走れ~!!」

言われるがままに俺は生徒席の方に走り出した。

まずいぞ。ぐずぐずしてたらビリになる。それに、またあの例の授業の時みたいに最悪なことになりかねない。








とうとう生徒席に着いてしまった。さてどうしよう。


「おーい、どうしたー高山ー?大丈夫かー?」

声のする方を見るとそこには三田がいた。もう仕方がないと俺は覚悟を決めた。
「おい!!三田!ちょっとこっち来い!!」
自分が借りられるんだと察した三田は、生徒席から出て、トラックを俺と一緒に走った。



「なあ、お前のお題って確か『大切な人』だよな。俺でいいのかよ?」
「ああもちろん!」

コーナーを曲がり、審査員のところまで全速力で走る。

「さあ、確認しますね。…よし、OKで~す。」


そういわれて俺たちはゴールした。結果は6人中2位だった。
「やったな!高山。」
「ああ。協力してくれてありがとな。」
2位か。はじめてにしちゃ上出来だ。万歳!


すべての選手が走り終わり、俺たちはこれから退場する。先生の笛が鳴り、またお馴染みのBGMが流れる。俺たちは生徒席へ走り出す。
「そっかあ、それにしてもお前は俺のことそういう風に思ってくれてたのか。ありがとな。」
「おうもちろん!三田はいい奴だしな!」


ごめーーーーーーーん!!違う!違うんだ!ただ俺とよく話す奴がお前だっただけだーー!!ぐずぐずしてビリになるのが嫌だっただけだーーー!
そう考えると俺はだいぶひどい人間だ。三田は、よく話しかけてくれるし、心配だってしてくれるめっちゃ優しい奴だ。別に嫌いとかじゃない。むしろ、人間としてめっちゃ好きってくらい。それを俺は、変なこだわりをつけて三田を「神様」や「大切な人」の枠に入れさせない。いいやつだってのはわかってるのに。こうなるんだったら俺は、例の授業の「お前の神様は何だ?」の質問に「三田です」って答えればよかったのかもしれない。そうすれば丸くおさまった?俺も自分自身で納得してた?いや、ダメだ。そういうことをテキトーに決めちゃだめだ。軽く考えちゃだめなものなんだよ。「神様」とか「大切な人」ってもっと、こう…。



グダグダ考えているうちに混乱してきた。ダメだ。やっぱり「神様」なんて俺にいねぇんだよ…多分…。
「おい、高山、大丈夫か?_なんか顔が怖いぞ?」
「あっ、いやっ、ごめん。ちょっと俺トイレ行くわ。」
そう言って俺は自分の席に戻らず、列から抜けた。







「…。」

東階段側のトイレは混んでいそうだったので、あまり人が来なさそうな南階段側のトイレに向かう。今は一人になりたい。
それにしても最悪だな。みんなが体育祭で盛り上がってる中、俺は変なことで一人で落ち込んでる。俺以外の人はきっと、お前にとっての神様は何だって聞いたらすぐに答えられるだろう。でも俺は答えられない。分からないんだもん。
だって、「神様」でしょ!?自分にとっての大切な存在でしょ!?それって、よっぽど自分にとって特別なものじゃなきゃ。

「……俺、考えすぎかな…。」
そう思いながら角を曲がった瞬間。なんと、男子が一人でしゃがみ込んでうずくまっている。

「お、おいあんた!大丈夫かよ!」
どうしたんだろうか。行事だから疲れたのか。暑さにやられたのか。いや、今はもう10月だぞ?それともケガ?
俺は駆け寄って、しゃがみ込み、男子の様子をうかがう。
「どうしたんだ⁉」
「だ、大丈夫です…。」
「大丈夫じゃねーだろ!」
あいにく、周りに人はいない。そりゃ、人気のないところに行こうとしたんだから当たり前だ。
「しょうがない。あんた、俺におぶれ。保健室まで行くぞ。」
「うん…。」








  _______________________________________




「っだあぁ!やっと着いたあ!」
疲れた。階段の上り下りはなかったものの、なんせ相手は高校生男子。まあまあ重かった。
男子を保健室のベットに寝かせ、俺も横にあった椅子に座った。先生はいなかった。きっと救護係で忙しいんだろう。
「あ、あの…。」
「おう、大丈夫かよ。無理すんなよ。」
「ありがとう。」
「いやいや、全然。気にすんなって。ていうか、どうしてあんなふうになってたんだ?」
「実は………ただの頭痛さ。それで静かなところへ行きたくて…。でももう大丈夫。さっきよりかはいくらかマシになった。」
そう言うと、男子はニコッと笑って見せた。でもその笑顔には何か違和感がある。頭痛からきているのだろうか。それとも何かほかの理由があるのだろうか。

「そっか…。」
「そういえば君、名前なんて言うの?」
「俺は高山瞬。2年生だ。」
「そっか2年生か。ふ~ん。」
「えっ、もしかして3年生?だとしたら俺ってばバリバリのタメ語で…」
「ははは、大丈夫。僕も2年生だから。名前は安田裕翔やすだゆうと。よろしくね。」

安田裕翔。その名前を聞いて思い出した。こいつは確か今年の春に転校してきた奴だ。
めちゃくちゃイケメン少し細身で勉強もできる。この前のテストでは、上位5位に入ってたらしい。それでいて運動はちょっと苦手で、一人称は「僕」。だから、男女問わず、こいつのギャップにはまり、絶大な人気っぷりなんだ。確か、転校して1週間で9人の女子から告白されたとか…。
まるで漫画の中から飛び出してきたような人である。確かによく見れば、相当なイケメンだ。
くっ、うらやましい。ん?でも、そんな人気者が具合を悪そうにしてたのを誰も気付かなかったのだろうか。変なの。

「どうしたの?」
「ああ、ごめん。あんた、転校生だよな。すごいぜ?みんな、あんたのこと憧れだって思ってるよ。」
「別に。みんな僕のこと見た目や能力でしか見てないんだよ。」
「でも俺はすげぇと思うよ。あんた、頭めっちゃいいっていうじゃん。努力とかいっぱいしたんだろ?ふつうはなかなかできないぜ?俺なんて、決めたこと3日も続かないしさ。そういうところ本当にすげぇと思う。」
「…………ありがとう、瞬君。」

そう言って、こいつはまた笑った。今度は自然とほほ笑んでいた。

「あ、そうだ!今日体育祭の後空いてる?お礼させてよ!」
「え?いや、別に大したことしてないし…。」
「いいじゃん!せっかくだしさ。これも何かの縁だよ。それに瞬君が助けてくれなきゃ僕死んでたかもだし。」
「は!?し、死んでたって、え!?」
「あ、何でもない、何でもない。冗談だよ……。とにかく空いてる?」
「お、おう。」
「なら決まりだね。」
「よろしくな。安田君。」
「裕翔でいいよ。」
「よろしくな、裕翔。」

なんかすごいやつとつながっちまったな…。










これが俺と裕翔との出会いである。










つづく


Page:1