ダーク・ファンタジー小説

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会えない君へ
日時: 2021/01/20 03:37
名前: 風野竜 (ID: cA.2PgLu)
参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=form

 今は会えないあなたへ

 あなたは、幸せでしたか?
 後悔はありませんか?
 今は元気ですか、今、幸せですか?

 僕は、後悔がたくさんあります。
 貴女に、想いを伝えられなかったこと。
 たくさん一緒にいられなかったこと。
 貴女と、もっと話せば良かった。
 後悔してもしきれないぐらい、たくさんあります。

 貴女が、初めて声をかけてくれた時、物凄く嬉しかった。
 初めて買い物に誘ってくれたとき。
 初めて映画館に一緒に行った時。
 学校で他愛のない話をした時。

 人が怖くて近づけなかった僕に、手を差し伸べてくれてありがとう。
 自分の名前を好きにさせてくれてありがとう。

 最後に一つ。  僕は、貴方の事が、好きでした。
 出来れば直接伝えたかった。
 ずっと、伝えたかった。でも出来なかった。
 この関係が壊れるのが怖かったから。

 今まで、ありがとう。色々あったけど、楽しかった。
 さようなら。向こうでもお元気で。  
『昨日、最高裁で、家族に虐待をし、逮捕された大石周一容疑者の判決が言い渡されました。最高裁は、未就学児や、その母親に対し長期間虐待をした罪は重いとしたが、法令に基づき禁錮2年と罰金80万円の支払いを命じました』
 大石周一。僕に、虐待をした人。苦しめた人。僕の名前を嫌いにさせた人。  五十嵐周。僕は、この名前が嫌いだ。
 僕は、高校1年生になった。五十嵐普という名前がイヤだと認識してから、もう、十年にもなる。
 今は、母の友樹と共に二人暮しだ。父親は、いない。もうかなり前に離婚した。原因は、 DVだ。僕ら二人は、父親から暴力を日常的に受けていた。父は、大酒飲みで、酒癖が悪 かった。気に入らないことがあれば、すぐに手を上げ、暴力を振るった。そんな生活が4年 続いた。
 ある日、僕が、7歳のとき。父親に命令され、酒をついで父のもとに持っていこうとした ときにこぼしてしまった。その酒が、相当高い物だったらしく、父は、激怒した。手の持っ ていたグラスを投げ、テーブルを投げた。そして投げるものがなくなると、僕に直接手を出 した。殴り蹴り、投げ飛ばした。  そしてこの日が父とあった最後の日だった。
 この騒ぎを聞いた近所の人が、警察へ電話をしたらしい。すぐに警察が来て父を連れて行った。僕は、病院へ連れて行かれた。
 そして、裁判で離婚が決定した。その翌日父は刑務所に入った。
 そしていま高校生になった僕は、一つ重大なことがあった。それは、人と話すことが出来 ないということだ。しかし、必要最低限の会話はできる。出来ないのは、雑談や、世間話な どの、個人の言葉が要求される会話だ。
 故に、小学生、中学生の時は、一切の時間を一人で過ごし、誰とも話さずに生活してきた。
 人と会話がしたくても怖くて出来ない。これが僕の悩みだ。
 それに、僕の傷を知っている人は、僕を避ける傾向にある。僕はこれが嫌だった。なので、わざわざ家から2時間かかる高校を選んだ。
「みなさんはじめまして。このクラスの担任になる佐藤美香です。一年間よろしくね」
 三十代ほどの女性が自己紹介をした。
「それでは、皆さんに自己紹介をしてもらいます。じゃあ、男子から」
 クラスの男子が順々に自己紹介をして行く。そして僕の番になった。
「えっと、僕の名前は、五十嵐周です。えっと、あまねっていう字は、何周年の周の字です。一年間よろしくお願いします」
 自己紹介を終え、着席をした。
 そして、自己紹介は順調に進んでいき、女子の中盤頃に差し掛かった。
「私は、柚木普です。えっと、五十嵐君だったかな?とは、字が違いますよろしくお願いします」
 この彼女に、僕の平穏な高校生活プランを台無しのするのはまだ、後のことだ。
 入学式と2時限目が終わった休憩時間。僕が小説を読んでいると、急に本に影が差した。何だ?と顔を上げるとそこには、転校生の彼女がいた。見つめ合うこと数瞬。突然彼女がわめき出した。
「やっぱり!あんたアマネでしょ!あたしの事覚えてない?小学校3年まで近所に住んでたでしょう。しかも結構遊んでたよ。アマネと私」
 突然の出来事に、普を除く全員が唖然とし、教室はしーんと静かになった。
「ねえ君。五十嵐くん?」
 彼女が低い声で言った。
「な、なんでしょうか」
「覚えてるよね?」
 尚もどすの聞いた声で言う。
「えーっと、どちら様ですか?」
 怖そうな女の子は、僕の記憶に無い。
「あんなけ小学生のとき遊んでのに?」
 うん、あまり関わらないでおこう。と心の中で誓う僕だった。
「うん、覚えてない」
「そうか」
 彼女が残念そうに言った。
「悪いけど覚えて無い」
「えー、残念だな。小学生の時に隣に住んでいたけど覚えて無い?」
 何だと、我が家の両隣はマンションだが。全部で百人ほど住んでると思う。そんなの覚えられるわけがない。
「覚えてない。悪いね」
「じゃあ思い出させてあげる」
 彼女は、自信満々の顔で言う。
「はぁ?」
「よし、まず今日一緒に帰ろう!」  
 そこで、終業の鐘がなった。
 結局、彼女に流され一緒に帰ることとなった。
 彼女と共に帰路に着いた。
 家に着いてからも、あの謎の女子の事が頭から離れなかった。
 そもそも、わざわざ遠い高校を選んだのに、同じ中学の人が居るんだ。
「周!お風呂入りなさいよ!」
 母に従い風呂に入る事にする。
「ふぅー」
 湯船に浸かると自然に声がでた。実のところ、僕は、風呂が好きだ。血がしっかり巡って 頭が冴えるような感覚になるからだ。しかし、今日は頭が冴えるついでに余分な事を思い出した。
 あれは、九年前。父の虐待が発覚し、警察に連行され、僕が救急車に乗せられているとき。 左隣のマンションの前で、こちらを見ている母親と、心配そうな顔でこちらを見ている女 の子。その女の子の顔と、今日話しかけてきた女子の顔が一致する。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
 風呂の中に僕の絶叫が響く。
 どうした?と母さん。
 確かに記憶の隅に彼女の顔が浮かんでくる。
 体育に着替えの時、上の服を隠されて探していたとき。
 プールの時プールサイドへ追い込まれ困っていた時。
 どのシーンも、心配そうな表情だった。
 その日の夜はなかなか寝付けなかった。
 翌日、学校に行くと、クラスの人にあからさまに避けられた。  
 なんだか分からない感覚に覆われた。 なぜだ、なぜ僕だけがこんな目に合わないといけないんだろう。僕に、消えない傷をつけ、トラウマお植付け、なぜこんな目に合わなくちゃいけないんだろう。 あいつのせいだ。絶対許さない。必ず……、必ず何らかの形で仕返しをしてやる。
「覚悟しておけ、大石周一!」
 無意識のうちに口から飛び出した言葉は、高校が始まって、あまり交友関係のできていない教室の生徒を唖然とさせるには十分すぎるほどだった。無意識だった。なぜこんな言葉が出たのか僕にも分からない。
 僕の事情を知っているのだろうか、先生は、僕を教室から連れ出した。連れ出される途中、クラス中の視線は僕に集中していた。
 そして、彼女は、心配の目を僕に、向けていた。
 その後、僕は、職員室まで連れて行かれた。そこには、普段から世話になっているカウン セラーと職員数名がいた。
「ねえ、周くん。なんであんなことを言ったの?」
「人間関係が難しくて」
「ねえ周君。どんな状況でそんな言葉が出た覚えてる?」
「いいえ。あんまり」
 実際、少しは覚えている。しかし、それを言うと彼女に迷惑をかけてしまう。
「分かったわ。先生。どんな状況で言ってましたか?」
「はい、五十嵐君は、朝学校に来て少ししたら伏せていました。そしたら、あの言葉を」
「そうですか。周君。今日はもう帰りなさい。そして今週中にうちに来なさい」
「……はい」
 そう頷くと、鞄を取り帰路についた。
 その帰り道。僕は、後ろからの視線に気がついた。振り向いても、人が居ない。
 気のせいかと思いそのまま歩き続けるが、やはり後ろから人の視線を感じる。気になって振り向くと、そこには、首からカメラを下げた細身の男がいた。
「あらら、見つかっちゃったよ。家までつけようと思ってたのに」
 その男は、悪びれる様子も無くつぶやいた。
「あの、どちら様でしょうか」
 見た目から記者ということは分かるのだが、名前も知らない。
「あぁ、僕の事か。僕ね、朝港新聞の山賀矢ちゅうもんですわ。あんた、大石周一の息子さんやろ、少し話聞かせてもらいたいんやけどええかな」
「いいえ、お断りします。僕にも僕の母にも、近付かないでください」
 僕は第一印象でこの人は、大嫌いだと思った。
 そう言い、僕は歩き出した。このまま家まで案内するのは嫌なので、図書館で時間を潰すことにした。少し後ろを見ると、やはり、あの山賀矢が着いてきていた。
 僕は、山賀矢を撒くようにして住宅街を歩いた。しかし、さすが記者と言うべきか、やはり付いて来た。
「あの!いい加減んしてもらえませんか!」
「取材を受けてくれたらやめるよ」
 山賀矢は、性懲りもなく言った。
 僕の怒りが、沸点に達した。
「いい加減にしろ!あいつに対して抱くのは嫌悪と憎悪だけだ。もうこれでいいだろう!もう、もう二度と僕ら家族に近づくな。次つけたら警察に引き渡す」
「あー。はいはい。わかりましたよ」
 山賀矢は、満足そうな様子で去っていった。
 その背中を見送りぼくは、帰宅した。
「だだいま」
 誰もいない家に向かって言った。母は、仕事だ。いつも、夜8時ぐらいに帰ってくる。それまでは一人だ。友達といえる人がいない僕は、家に帰ったあとは、課題と読書をして時間を潰している。  早退した日の夕方、滅多にならない玄関のチャイムがなった。驚いて出ると、そこには柚木普がいた。
「あっ、周君。今日様子が変だったから、心配出来たんだ。いまダイジョブだった?」
 オドオドした様子の彼女は、心配そうな眼差しで僕を見ていた。
「うん、ダイジョブだよ。ちょと昔の事で苛ついただけだから」
「そうなんだ。良かった……」
 力が抜けうような声で言った。
「なんでそんなに心配そうなの?」
 大して関わりのない人に心配されるのが不思議で仕方なかった。
「なぜって、昔は全く会話をしなくって、久しぶりに会って、昔とは違って会話をしてるなーなんて思ってたらあんな事言うし。心配するのは当たり前でしょ!だって私はあなたの事がす…………」
 顔を赤らめた彼女は言葉を止めた。
「……す?」
 何が言いたかったのか、徹底的に人から避けられていた僕には分かるわけもなかった。
「す……す……すごく、凄く心配してたんだからね!」
 尚も顔を赤らめた顔で彼女は言った。
「なんで?」
「は?」
 気づいたときには遅かった。なぜだなぜだと考えているときに声が漏れてしまった。
「いっいやなんでもないよ気にしないで。僕は大丈夫だから」
 彼女は、僕に近づくと、襟元を掴まれ引き寄せられた。
「なんでってどういう意味なの?」
 低い声で聞いてきた彼女の顔は笑っていたが目は、笑っていなかった。
「いや意味なんか無いです」
「あるでしょ」
 今にも食べられそうな雰囲気だった。
「はい、ありますからこの手を離してください」
「意味を言ったらね」
「わかったよ。なんでそんなに知らない人のこんなに心配されているのかなと思って」
 そう。この疑問は自己紹介の時から気になっていたことだ。
「それは、昔のあなたを知っているからよ」
 昔から知っている、か。確かに知っていただろう。僕の記憶の中にもあるぐらいだ。それならば、なおさら疑問だ。これまで関わった人間は、僕の過去を知った途端に僕の前から姿を消した。もしくは、いじめやからかいの的にした。しかし、彼女は違う。僕の前から消えたりからかいの的にもせずに、ただ、心配している。彼女は一体何者だ。今まで関わってきた人がおかしいのか、彼女が変わっているだけなのか、僕には分からない。このパターンは初めてだ。
「…………君?ねえ、周くんてば」
 おちつけない。すっかり考え込んでしまった。
「はい。なんでしょう」
「何でしょうじゃないわよ。私もう帰るね、もう塾の時間になるから。じゃあまた明日ね」
「じゃ、じゃあまた明日」
 彼女が帰り、僕も家の中に入ると疲れがドット来た。
 仕方ない、嵐みたいなもんだったもんな。
 そしてそのままソファーに倒れ込んだ。次に目を開けると、外は暗かった。どうやら眠ってしまったらしい。


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