ダーク・ファンタジー小説

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オリウェール物語-夜明けの皇女編-(しばらく休載します)
日時: 2021/09/16 10:59
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 こんばんは、フロム・ヘルと申します<(_ _)>
シリアスな創作が書きたくて、カキコを訪れました。
本作品は"異世界"を舞台とした皇女伝記、その生き様が物語の内容となっております。
私自身はノベルは素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。

※注意

※矛盾や欠点が目立つ部分があるかも知れませんが、温かい目で見て頂ければ幸いです

※誹謗中傷・皮肉・悪口・不正な細工などはやめて下さい

※本作品には残酷な描写が存在します。苦手な方、読んでて気分を害した方は迷わず、『閉じる』を押すように


【あらすじ】

 かつての栄光の面影を失い、暗黒時代の最中にあった異界の帝政国家『オリウェール』。
堕落した統制の不正の数々により、その国は今や、差別や貧困、犯罪が溢れる廃国と化していた。

 シャドーフォルクの亜種である少女『ノエル・シルヴェリア』は迫害の対象とされているルシェフェル住む森深くの集落で暮らしていた。 
しかし、政府が放った襲撃部隊より集落は焼き払われ、一瞬にして多くの同胞を失ってしまう。
惨劇を目の当たりにしたノエルは虐げられる者達のため、理不尽な世を正すため、オリウェールの『皇女』となる事を誓う。


【登場人物】

【ノエル・シルヴェリア】

 本作の主人公である銀髪の背の高く、紅色の瞳を持つ少女。種族はシャドーフォルクの亜種(ルシェヴェリア)。
自身が味わった苦しみを繰り返させないため、虐げられる人々を救うため、自身が皇女になってオリウェールに平穏をもたらす事を誓う。
身体能力が高く、運動神経が抜群で頭の回転も早い。剣を主な武器とするが、銃器の扱いや格闘戦も得意。

【ルイーズ・フォークスペル】

 ノエルが王都で出会い、後に親友となる白髪の少女。
オリウェールの住民で、髪の色により『ルシェフェル』として不当な扱いをされてきた。
ノエルの理想に心酔した事で、協力を決意。彼女の右腕として王政の復活の手助けをする。
温和で暴力を嫌う少女だが、護身用にピストルを所持。

【エドゥワルド・バロウズ】

 ノエルが皇女に即位するための重要人物。種族はシャドーフォルク。
衰退の一途を辿る王政支持派のリーダーを務める。
かつては黄金時代のオリウォール王政に仕え、統治を行っていた摂政伯爵だった。
愛国心と王への忠誠は緩んでおらず、国の秩序を正そうとするノエルに協力する。

【デズモンド・コルドウェル】

 オリウェールの王都に住む兵器専門の若きエンジニア。
後に兵器学者として、オリウェールに名を遺す事となる人物。
一般的なシャドーフォルクであるが、平等主義者でルシェフェルを差別をしないなど、紳士的な一面を持つ。
政府や機関に所属していない立場であるが、国の平穏を名目に活動するノエル達、王政派に協力する。

【ロシュア・ヴァーデン摂政伯爵】

 腐敗したオリウェールの最高権力者。
元は王政派の一員であったが、前々から平穏ばかりを主張する王政派に対し、不満を覚えていた。
政府が保管していた王族の財産を利用して権力を掌握、オリウェールの政権を握る。
彼が歪んだ思想によってもたらされた統治は国全土に不況をばら撒き、ルシェフェル迫害のきっかけとなった。

【アルテミスの冠】

 ヴァンデーン政権を陰で操る第三勢力。
その実態は謎に包まれており、"アルテミス"という異名を持つ指導者が組織を率いている事ぐらいしか、詳細がはっきりしていない。 
存在を知る者は一部を除いて少なく、目的すらも不明な秘密結社である。


【用語】

【オリウェール】

 本作の舞台となる政治制の大陸で人口の7割が『シャドーフォルク』が占めている。
1世紀以上前に王政が廃止され以来、大統領制が民を統治し、平穏な黄金時代を保っていた。
しかし、『ロシュア・ヴァーデン』が権力を掌握してからは恐怖政治が幕を開け、国の頽廃は大きく進んだ。
差別や貧困、犯罪が溢れる廃国と化し、住民達は不安を募らせ生活している。

【シャドーフォルク(影の民族)】

 オリウェールの主な住民。
知能、技術、潜在能力、運動能力などが高く、戦いに特化した種族である。
また主に対する忠誠心が強く、寿命も平均150年以上と長い。
その正体は太古の昔、光の勢力との戦争に敗れ、地上に追いやられた民の末裔。
未開の地だったオリウェールを開拓し、現在の文明を作り上げた。

【ルシェフェル】

 生まれつき髪が白いシャドーフォルクの特殊体質。
光の勢力の生まれ変わりと邪揄され、住民からは忌み嫌われている。
オリウェールでは差別の対象とされ、いじめられたり、商品の値段を倍に上げられたりと卑劣な仕打ちを受ける。

【ルシェヴェリア】

 ルシェフェルの中でも10万人に1人の割合しか生まれない亜種。
紅い目が特徴で一般のシャドーフォルクと比べ、身体能力や頭脳が遥かに優れている。
オリウェールでは神の化身として崇拝する者もいるが、反面に邪悪な魔物として嫌悪する者もいる。

【ウォール】

 オリウェールの通貨。1、5、10、50、100に分けられた紙幣である。
また、金貨、銀貨、銅貨なども存在しており、代用品として使用される。


 ・・・・・・お客様・・・・・・

らいむ様

綾音ニコラ様

リャニャンシー様

n/s様

大根味の味噌煮様

沙耶様

siyaruden様

Ruby@様

鳴門海峡様

Aa様

ダルコフロマンス様

ガガ様

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女-【オリキャラ募集中】 ( No.1 )
日時: 2021/04/30 21:15
名前: らいむ ◆PR77xqk16U (ID: BoGAe/sR)

はじめまして、オリキャラ募集のタイトルを見て面白そうだなと思い、ちょっと投稿してみようと思います!
敵キャラですがよろしければ・・・


名前「ピート・ロウ」

年齢「見た目は15歳程の少年、実年齢54歳」

性別「男」

種族「ルシェヴェリア」

武器「白炎糸はくえんし…白い炎がピアノ線のように張りつめた糸のようなもの。触れれば物が焼き焦げ、人の肌すら焼いてしまう。絡まれば身体の自由が利かなくなり、文字通りピートの傀儡と化してしまう。ピートの傀儡と化した者の身体には火傷の跡があるのはこれが原因。
   ヴァイスアニマ…白炎糸を集合させた巨大な人形ドール。これを使うという事は、ピート自身も冷静でなく、全てを出し切る暴走状態が多い。」

容姿「白いショートヘア。血のように赤い右目と鉛色の左目が特徴。少年のような小柄な体格で、見た目通り本人にはさほど筋力や体力は無い。普段は白いフードで顔を隠し、身体も腕もすっぽりと包まっている。鉛色の左目は義眼であり、他人を小馬鹿にしたような表情で他者を見る」

性格「一言で言えば冷徹。感情を一切表に出さない。全てを見下しているような態度と、何を犠牲にしても目的を果たそうとする。ただ一つ、盲目的に「アルテミス」を崇拝しており、全ての行動原理でもある」

設定「「心を奪う白い影」と呼ばれる少年。その詳細は不明であり、目的も不透明。ただ、彼の現れた場所では必ず誰かが行方不明となり、彼の傀儡と化す。傀儡となった人物の身体には見るも無残な火傷の跡があり、いずれも心を奪われたかのような廃人となっている。目的の為ならば人を殺める事に躊躇いはなく、「必要な犠牲」であると考えている。邪魔する者には容赦なく、あらゆる手を使ってでも潰しにかかる。彼曰く「間引き」。」

台詞
「間引きを行う。悪い芽は摘み取らなくては」
「私をただの魔術師などと思わぬ事だ。でなければ、足元をすくわれるぞ……こんな風にな」
「私の身体も心も魂すらも、あのお方のモノ……その為ならば全て惜しくない」

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女-【オリキャラ募集中】 ( No.2 )
日時: 2021/05/08 20:15
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 らいむ様!オリキャラのご提供ありがとうございます(≧▽≦)

 説明文を全て拝見しましたが、設定が素晴らしく、私にはない発想で溢れています!
ピート・ロウという名前も、白炎糸という武器も個性的でかっこいいと思いましたし、敵キャラという立ち位置ですが、一瞬で気に入りました!
このキャラクターは主人公を苦戦させる存在となり、アルテミスの良き右腕となるでしょう。

 近々、必ず登場させますので、らいむ様が生み出したオリキャラの活躍をご覧になって下さい!
心から感謝の気持ちをお伝えします<(_ _)>

                           フロム・ヘルより

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女-【オリキャラ募集中】 ( No.3 )
日時: 2021/05/08 20:22
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 北方の大陸"オリウェール"。

 その広大な大地は光の国から追放されし、"影の民(シャドーフォルク)"の開拓によって文明を築き上げられた。
やがて、各領域を納める王族達の統一により、1つの帝政国家が誕生する。
だが、どの時代においても、影の民の亜種である"ルシェフェル"は迫害の対象とされ、虐げられてきた。
理不尽に忌み嫌われる彼らは暴虐の魔の手に狩られ、遥か東国の地へと追いやられてしまう。

 しかし、救済の女神ジャネールの預言書には、こう記されている。

 赤い瞳を持ち、清廉な心を宿すルシェフェルの聖乙女がこの世に生を受けた時、オリウェールの真の統治者となり、暗黒の時代に夜明けをもたらすと・・・・・・



 ディセンバー歴2017年 オリウェール帝国 東方の地 アニフィス州

 そこは真冬の森の最奥だった。雪の綿を降らす雲に覆われた空は薄暗く、広大な大地の一面は白色に染まる。枯葉を散らせた枝だけの木々が並び、吹雪が自然の奥へと迷い込んでいく。雪を運ぶ風は、やがて谷へと行き着き、煙のように消える。

 山岳の中心に広がる盆地に小さな農村があった。決して広い集落とは言い難いが、農地を保有する家々が建ち並び、鍛冶屋、商店、診療所、教会など生活に便利なあらゆる設備が整っている。そして、峠の頂点には下層の村々を見渡すように 豪華な構造が施された屋敷が聳えていた。

 その最上階の窓から、1人の少女が外の景色を眺めていた。深紅の瞳に後頭部が長く結われたボサボサの白い髪、胸に赤いリボンを締め、シャツの上にセーターを羽織っている。堂々とした精悍な顔を持ち、背が高く脚が長い。品のある格好が凛々しさを引き立てていた。しかし、その表情はどこか切ない。

 ふいに何者かが扉を叩き、ノックの音を部屋に響かせる。我に返った少女は真剣な横顔を振り返らせ

「・・・・・・どなたですか?」

 と物静かで冷静な声で壁の向こうの人物に問いかける。

「失礼致します」

 扉が開き、少女の個室に1人の女性が足を踏み入れる。彼女は瞳は赤くなくとも、長く生やす髪の色は共通していた。フリルが付いたカチューシャを頭にブローチ付きのスカーフを首に巻き、長袖のワンピースと白いエプロンを足の近くまで下した格好。この屋敷のメイドだった。

「カリスタ・・・・・・」

 少女はメイドの名を囁き、再び外の景色を黄昏る。カリスタは深く一礼すると、主に問いかけた。

「今日は年に一度の祝祭日です。皆様は、下階の広間で宴を愉しんでいる最中ですよ。お嬢様は行かないのですか?」

「賑やかな場所は好ましくありません。できれば、冬の外を眺め、気持ちを落ち着かせていたいのです」

 少女は、宴の誘いに否定的な態度を取った。幅広い地帯を一望できる真冬の景色から顔を逸らさない。

「皆様が、あなたのご到着を待ちわびていますよ?この村をまとめる領主様に直接お会いして、感謝をお伝えしたいのです。せめて、お顔だけでもお見せできないでしょうか?」

 カリスタの二度目の誘いに少女は、やる気のないため息をつく。しかし、自身を慕う台詞にようやく心が動いたのか、彼女は扉のある方向へ足を進め

「私に感謝ですか・・・・・・そういう事でしたら、出向かないわけにはいきませんね。宴の場に案内して下さい」

 メイドは嬉しそうな面持ちを繕うと、速足でキャビネットに向かい、一着の上着を取り出す。部屋から出ようとする主の背中に回り、黒いジャケットを羽織らせた。少女は、微かにずれが生じていていたリボンの乱れを整え、室外の廊下を辿っていく。


 下階へ降りると、祝祭に集った人々の鳴り止まない歌声や歓声が耳に届く。広間が先にある大きな扉の前で、カリスタは"どうぞ。お入りください"を手の仕草で表現し、重い取っ手を引いた。開ける壁を退かした瞬間、宴の賑やかさがより盛大なものとなった。

 いつも静寂だった大広間は、今日という日を祝う愉快に満ちた舞台と化していた。点在するテーブルには豪華な料理や無数の酒が並べられ、壁や床、天井などあらゆる所に派手な装飾が施されている。祝祭は始まってから、既に長い時間が経っているようだが、終わる兆しは全く見えない。

 大勢の同胞に煽られ、酒の飲み比べをする酒豪達。詩人が奏でる楽器の音色に合わせ、踊り狂う若い男女の集団。そして、玩具や飾りを手に、子供達がはしゃいで回る。その場にいる全員が、雪のように純白の髪を生やしていた。

「あ、ノエルだ!お母さん!ノエルが来たよ!」

 少女の訪れがいち早く目に留まった幼子が嬉しそうにこちらの名を叫んだ。その伝言は最初、幅が狭い周囲に伝わって、瞬く間に広間全体に知れ渡った。彼女の存在は、即座に注目の的となり、1人に存在に対しての喝采が鳴り響く。 

「ノエル様!お待ちしておりました!」

「お嬢様のご到着だ!歓迎の歌を歌うぞ!」

「ノエルお姉ちゃん!僕達と遊んでよ!」

 髪が白い群衆はノエルと呼ばれた少女を友好的に出迎える。手を振られ、祝杯を挙げられながら、彼女は同胞達の間を通って奥にある玉座に向かう。途中、ワインを注がれた杯を配られ、満面の笑みを繕う子供達に手を引かれたりした。

 やがて、ノエルは玉座の前に辿り着くと、統治者の椅子に腰掛ける事はなく、自身を慕う皆の前に立った。賑やかだった群衆は静まり返り、領主の演説が始まる。

「私にとって、この日は忘れられない日となるでしょう。今という平穏な日常は、皆さんの日々の働きがあってこそ。私達、ルシェフェルは遥か古き時代から卑劣な迫害は受け、虐げられてきました。しかし、私達はこうして生き永らえています。どんな卑劣な仕打ちにさえ、耐え凌げる力がある。団結し、生きる術を身につける力がある。これからも、そうやって真に大切なものを誇りながら、私達は生きて行くことでしょう。過酷ながらも、美しいこの地にて・・・・・・」

 ノエルは堅苦しさを緩め、温和な顔で杯を掲げた。群衆も、その仕草を真似て、歓喜に満ちた表情を合わせる。

「今日という日を祝し、我らルシェフェルの栄光を願って・・・・・・」

 ノエルは"乾杯"を言おうとした・・・・・・が、その台詞は発せられなかった。

 突如、集落に置かれた監視塔の鐘が鳴り出したのだ。ノエルを含むルシェフェル達は、世の終わりを宣告されたような深刻な雰囲気を漂わせる。不安を募らせ、子供達は大人の背後に身を潜めた。

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女-【オリキャラ募集中】 ( No.4 )
日時: 2021/05/19 23:18
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 ふいに広間の扉がバンッ!と豪快に開いて、血だらけの兵士が転がり込んで来る。その悲惨な姿に一部の女性は悲鳴を上げた。

「何事ですか!?」

 ノエルがただ事ではない事態の全容を問いかける。

「て・・・・・・敵襲です!数千にも上る軍勢が集落を包囲しております!」

 誰もが望んでなかった最悪な知らせに群衆は混乱に陥る。逃げ場のない状況に立たされた女子供は泣き出し、老人達は蹲って祈りを囁く。

「戦える者は武器を集めろ!女や子供を絶対に外に出すな!この屋敷だけは、絶対に守り抜くぞ!」

 がたいのいい男の鼓舞に他の男達も戦意のこもった雄叫びを上げた。攻めて来た敵勢を迎え撃つため、太い列を成して大広間を飛び出していく。

「お嬢様!」

 そこへメイドであるカリスタが、走りの妨げになる裾を上げてながら、ノエルの元へやって来た。

「カリスタ!外はどうなっていますか!?」

「村は既に火の手が回っています!ここにいては危険です!早く、安全な場所へ避難を!」

「私も戦います!武器を用意して下さい!」

 ノエルの発言にカリスタは耳を疑い、否定論を訴える。

「何を仰いますかっ!?あなたは、ここに住む皆様方にとって、かけがえのない領主です!あなたの身にもしもの事があれば、誰がこの村を治めるのですか!?」

「私だけが生き残っても、この村に未来などありません。同胞達が生きてこそ、繁栄の統治が成り立つのです。    こちらの兵力は乏しく、ただでさえ、劣勢よりも悪い戦況です。私が戦いに加わる事で大切な者を守れるなら、喜んで命を懸けましょう」

「お嬢様・・・・・・!」

 民を思う勇敢さに涙ぐむカリスタ。ノエルは一時、微笑むと、すぐさま目つきを鋭くして

「カリスタ!あなたはここにいる方々を安全な場所に誘導して下さい!地下なら、これだけの人数でも十分に身を隠せるはず・・・・・・!」

「畏まりました!どうか、ご無事で・・・・・・!必ず、生きて帰ると、約束して下さい!」


 外に出ると、かけがえのない平穏は燃えていた。ありふれた日常など最早なく、家も畑も何もかもが、原型が留まらない程にまで破壊し尽くされている。獣の本能をぶつけ、殺し合っては増えていく兵士達の亡骸。無力のまま惨殺された村人達の遺体は踏みつけられ、冷たい泥に沈む。

 戦火の中へ飛び込んだノエルは殺戮に満ちた光景に絶句した。吐き気を催す恐れを無理に押し殺すと、味方に加勢し、襲い掛かって来た敵兵を迎え撃つ。

「死ねえ!!」

 ノエルは敵兵が罵声と共に力任せに振るった斬撃を剣で受け止める。体を素早く回転させ、相手の刃の狙いをずらすと、そのまま刀身を振るい喉を裂いた。噴き出す血を押さえながら、痙攣して蹲る余命僅かな敵を見捨て、次の敵と一戦を交える。

 味方を殺したばかりの新手が複数、こちらへ迫り来る。片方が銃剣で刺そうとするが、ノエルは剣を振り上げ、それを弾く。狙いを大きくずらされ、無防備を晒したところに斬撃を加え、頭と胴体を両断した。もう1人が斧で掲げながら強襲し、ノエルも猛烈な勢いで攻め入る。同時に重なった2つの刀身は交わる事なく、片方が人体を切り裂いた。

「ぎゃああああ!!」

 斧の柄を握りしめた両腕が切断され、地面に落ちた。戦う術を失った襲撃者は耐え難い痛感に絶叫し、切断面から血飛沫を飛ばす。最後は喉を貫かれ、数秒もかからず、絶命した。

「ノエル!怪我はないか!?」

 そこへ返り血で戦服を汚した青年が駆け寄って来た。

「ジャン・・・・・・!あなたも無事だったのですね?」

 ノエルは殺意で強張った顔を緩め、優しく微笑んだ。

「君が加勢してくれるなら百人力だが、こっちの状況はお世辞にもいいとは言えない!皆は向こうで襲撃者の大隊を食い止めている!一緒に来てくれ!このままじゃ、村は全滅だ!」

「分かりました!急ぎ、同胞達を救わねば・・・・・・!」


「な、何だあいつはっ・・・・・・!?」

 その時、味方の兵士が奇妙な言葉を口にした。ノエルとジャンは、その発言を聞き逃さず、叫びがした方へ背中を覆す。肉を裂くような鋭い音と共に兵士の体に細い亀裂が無数に入った。次の瞬間、全身が発火し、バラバラに崩れ落ちた肉片を白い炎が焼き尽くしたのだ。その光景を視界に収めた時、その表情は怪訝を繕う。

「ぎゃああああ!」

「ぐあああっ!」

 他の兵士達も次々と謎の現象に襲われ、不可解な死を遂げていく。周囲にいた味方はノエルとジャンを除き、全員が瞬く間に無残な亡骸と化す。

「こ、これはっ・・・・・・!?」

「一体、何が起こってるんだ!?」

 2人は姿形のない脅威に身構え、辺りを警戒する。  互いに背中を預け、八方からの襲撃に備える陣形を取った。激しい胸騒ぎと嫌な予感を募らせながら・・・・・・

「クスクス・・・・・・」

 すると、どこからか無邪気で面白おかしい笑い声が聞こえた。並みの敵など比ではない邪悪な気配がノエル達に身の毛もよだつ寒気を覚えさせる。

「ここだよ・・・・・・」

 声の主は自分の居場所を告げ、いつの間にか、2人の傍で立ち尽くしていた。その正体は15歳程の見た目をした少年で、悪意のある笑みでこちらを凝視している。非力そうな細身の体格で白色ローブで腕や足を含む全身を包み込んでいた。素顔はフードのせいではっきりとは把握できないが、額からはみ出た白い髪の隙間から赤い片目が光る。

「何者だお前は!?」

 ジャンは、警戒を絶やさない厳しい口調で声を張り上げる。ノエルを守ろうと彼女の盾となり、刃先を少年に向けた。

「"ピート・ロウ"・・・・・・それが私の名だ」

Re: オリウェール物語-夜明けの皇女編- ( No.5 )
日時: 2021/06/06 18:17
名前: フロム・ヘル (ID: FWNZhYRN)

 ピートと名乗った少年は短く名乗りを上げて二、三歩、歩みを寄せた。フードを脱いで素顔を晒すと、不気味に口の端を引きつる。明かされた意外な素顔に2人は驚愕のあまり、冷静さを欠く。

「・・・・・・お前、ルシェフェルか!?何故、敵である政府に味方する!?」

「政府・・・・・・?あんな奴らには興味はない。私はただ、"アルテミス"に忠をつくしているだけ」

「アルテミスだと・・・・・・!?」

「おっと、お喋りが過ぎたようだ。わざわざ、言葉を交わす必要はなかったな。これから死にゆく害獣に・・・・・・」

 ピートは死の宣告を語尾にした途端、目つきを鋭く顔を強張らせた。広げた手の甲を手前にかざしたと思うと白き炎を放つ細糸が瞬時にして、辺り一面に張り巡らされる。糸は人が通れる隙間をも塞ぎ、狩る側、狩られる側の3人を囲んだ。

「これより、間引きを行う。悪い芽は摘み取らなくては・・・・・・」

 ピートは、こちらを脅迫するも、同じ姿勢を保ち、何故かその場を動かなかった。ジャンは地面を蹴り、一直線に突っ込むと無防備な彼に斬りかかる。その動かぬ仕草が、罠とも知らずに。

「・・・・・・っ!」

 ジャンは横からヒュンと風を切る音を耳に捉え、危機を察した。反射神経を生かし、とっさに剣で弾いて、何とか攻撃を防いだ。その一撃は重く、反動で大きく後に退く。鋼でできた剣は欠け、白い炎が刀身を溶かしている。

(奴の使う、この奇術は何だ!?暗黒魔術の一種なのか!?)

 先が読めぬ攻撃にジャンは苦戦を強いらせ、歯を強く噛みしめる。

「どうした?私を斬り殺すのではなかったのか?糸をよけねば近づけないぞ・・・・・・?」

 ピートは、てこずる相手に皮肉を吐き捨て手の形を変えた。糸の数を更に増やす。自身はその場に留まったまま、巧みに武器を操り、あらゆる方向から、無数の白炎糸をジャンに浴びせる。

「くっ!このっ・・・・・・!」

 白炎糸の奏でる加虐はノエルをも餌食の対象としていた。極度に集中し、剣で応戦するも、糸は素早く、どこから襲い掛かかって来るのか把握できない。刃は徐々に折れそうなくらいにまで欠けていく。

「・・・・・・ノエルッ!後ろだ!」

 ジャンの深刻な叫びにノエルは背後を身構えようとした。しかし、その警告は遅く、白炎糸は防御の術が間に合わない程に直前まで迫っていたのだ。  

 ノエルは恐れで目蓋を閉ざし、痛感と死を覚悟した。その時、何かが覆い被さり、体が仰向けに宙を浮く。立ち位置がずれ、地面に背中を打ちつけるも、お陰で直撃は免れた。

「ノエル・・・・・・無事か・・・・・・?」

 苦し紛れに身を案じる優しい声。ノエルは、おそるおそる目蓋を開けると、上に跨り、こちらを見下ろすジャンがいた。彼は、口から血を垂れ流しながら、余裕の笑みを繕う。

「ジャン・・・・・・!!」

 ノエルはジャンが自身を庇い、痛手を負った事を即座に理解した。大切な仲間に怪我をさせた失態が、罪の意識を生む。

「安心しろ。ちょっと、背中をかすっただけだ。お前が死ななくてよかっ・・・・・・ううっ!!?」

 その刹那、ジャンは表情を険しく一変させた。彼の片腕があり得ない方向へ捻じ曲がり、関節と骨が折れる音が痛々しく鳴り響く。強引に引きずられ、ノエルの元から遠ざけられる。

「くだらん友情劇は虫唾が走る・・・・・・私をただの魔術師などと思わぬ事だ。でなければ、足元をすくわれるぞ・・・・・・こんな風にな」

 ピートはジャンに糸を括りつけ、傍に引き寄せた。四肢の自由を拘束し、宙に吊るす。

「私が、もっと心躍る芸を堪能させてあげよう・・・・・・感動のエピソードの始まりだ」

 ピートが片手を前にかざすと、ジャンは地面に叩きつけられる。糸によって無理矢理立たされ、剣を構えた仕草をノエルに向けたまま、ジリジリと彼女との間合いを縮める。

「ルシェベリアの少女よ。お前は愛する者の手で、人生の終焉を迎えるのだ・・・・・・これぞ、最高に甘い絶望の蜜と言えよう」

「ノ・・・・・・エル・・・・・・に・・・・・・逃げ・・・・・・ろ・・・・・・」

 致命傷を負い、鮮明な声すら上げられなくなったジャンが逃げるよう、告げる。

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

 ノエルは無残な姿に成り果てたジャンに絶句した。その場から逃げようと横たわったまま、泥だらけの地面を這いずる。勝ち目のない状況と仲間に刃向かえない拒絶が、まともな思考を蝕む。

 傀儡と化したジャンは数十秒もかからずにノエルに追いつく。彼は自分の意思とは関係なく、振り上げた剣先を下に向け、ノエルを手にかけようとした。

「死ね・・・・・・」

 ピートの無慈悲の一言が、1発の破裂音で揉み消される。彼の胸部に小さな穴が開いて、血を弾き飛ばし、一瞬だけ身震いした。その弾みで手の力が緩んで、指に絡めた糸を手放す。ノエル達を閉じ込めていた白炎糸の結界が解かれ、ジャンが倒れ込む。

「お嬢様!」

 戦えない同胞達を避難させていたはずのメイドのカリスタが、ノエルに駆け寄る。その手に銃口から細い白煙が昇った銃を握っていた。

「カリスタ・・・・・・!」

「ご無事ですか!?お怪我は!?」

 彼女は必死に主を守ろうと、自身の身を堂々と危険に晒した。横たわったままのノエルの体を引きずり、敵との距離を遠ざける。

「小癪な・・・・・・!」

 不意を突いた手段で殺人劇を妨害した事がピートの逆鱗に触れる。彼は赤い染みが広がる胸の怪我を気にせず、悍ましい形相を露にした。遊戯のつもりだった加減を捨て去り、容赦ない蜘蛛の巣状の白炎糸を放つ。


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