ダーク・ファンタジー小説
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- 死神の花嫁
- 日時: 2021/05/08 21:50
- 名前: &ハニー (ID: qsBBbdYU)
「─俺と結婚しろ。」
視線を上げると、
彼の紫っぽい藍色の髪が教室のがたついた窓から
漏れる日がちょうど彼を照らしていた。
結婚─なんて考えたこともない。
まあ16歳なら普通だろう。
というか、出会って八時間程度で
結婚を申し込む学生なんて、
この世に他にいるのだろうか。
八時間前
キャーっという女子の黄色い声で、
眠気が一気に覚める。
あれ?今、何の時間?
「転校生、イケメンだねえ。」
と大人びた意見なのは、
私の大親友、天竺牡丹だ。
ワンレンボブの茶髪を手でとかし
眠そうにあくびをしている。
「というか、転校生!?」
小さく叫ぶと、
転校生らしき少年は黒板前に立っていた。
私の叫び声に驚いたらしい。
その場でこちらを見て立ち止まっている。
「東雲、うるさいぞー。」
担任の一声で恥ずかしさが
どっと押し寄せてくる。
(うわ、第一印象最悪じゃん。)
「糸杉大です。よろしく。
で、センセー、席どこ?」
彼の第一印象はつまらなそう、チャラそう。
澄んだ目には光がなく、
藍色の髪の毛が少し珍しく感じた。
クラスに一人はいるような
スカした男子といった感じだ。
だが、見た目は整っており、
切れ長の瞳に高い鼻、脚長など
日本人離れしたスタイルだ。
外国から来たと言っていたらしい
(寝ていたので、牡丹情報)から、
ハーフとかだろうか。
そんな素敵な見た目だからか、
すぐに彼の周りには人が集まったが、
彼はクラスメイトの質問には
何一つ応えていなかった。
ただ窓の外を見て、
ぼーっと頬杖をついていた。
といった感じで一言も
言葉は交わしていない。
だったはずなのに、放課後
教室に忘れ物を取りに行ったら、
糸杉くんがいて、そう言った。
意味が分からない。
「誰に言ってるんですか?」
「あんただけど?」
糸杉くんは窓枠に
体を半分だけ乗せて、
外を眺めていた。こちらは見ない。
どこかへ行ってしまいそうな雰囲気だ。
「な、何で…?」
「したいと思ったから。」
淡々としすぎていて恐ろしくなってきた。
何でそんなに普通っぽく言えるの?
「けけけ結婚って、
もっと…その、仲良くなって、
付き合って、
大人になってからじゃないの?」
最後の方に行くに連れ、
声はゴニョゴニョと小さくなった。
聞こえなかったかな?
「そんな風習あるんだ。 ふうん。」
外国から来たからなのか、
彼は不思議そうに呟いた。
外国だって同じじゃないの?
「じゃあ、付き合ってよ。」
「でも私、君の事、まだ何にも知らない。
それに何で私がいいの?」
糸杉くんは答えない。ずるい。
ボールが打たれる音と
運動部の勇ましい声だけが教室を流れていく。
無言の時間に圧力を感じる。
「…何部なの?」
やっと口を開いたと思ったら
全く的外れな質問だ。
「文芸部。週2しか活動ないの。
だから今、ゆっくり話せるんですよ~。」
ちょっと嫌みっぽすぎたな。
「じゃ、俺もそこ入るわ。
仲良くなりゃいいんだろ?
つーことで、また明日な。」
糸杉くんはよっと窓から降りて、
机の上に無造作に置いてあった
バックを手に取った。
そして何事もなかったかのように
スタスタと教室を出ていった。
え、うそ…。何あの人…。
誰もいない閑静な夜の廊下に、
一人の足音だけが
ゆっくり響いている。
「計画は必ず上手くいきます。
アレはもう目の前ですから。」
足音がピタリと止まり、
落ち着いた冷静な低い声が
聞こえ始めた。
『当たり前の事を伝えるな。
油断禁物だ。気を引き締めろ。』
月の光に照らされた廊下で、
黒い影はゆらゆらと揺れていた。
- Re: 死神の花嫁 ( No.1 )
- 日時: 2021/05/09 06:54
- 名前: &ハニー (ID: qsBBbdYU)
「移動、だる~。」
牡丹の一言にそうねえ。と適当に相槌を打つ。
昨日の告白(?)から
糸杉くんを意識してしまって、
まともに見れない。
こんなんで同じ部活とかやっていけるの─っ!
痛っ!誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさいっ!」
「っ!いや、大丈夫です!」
顔を上げると、中等部らしき男の子がいた。
茶色っぽい短髪に、大きな目がワンコみたいだ。
でも背は私より高く、
この距離だと少しドキッとしてしまう。
顔を真っ赤に染めて、固まっている。
緊張してる?
彼が落とした荷物を拾っていると
料理部と書かれたチラシがある。
中等部も高等部も大歓迎!と
手書きで大きく書かれている。
「あ、れ?何年生?」
ここ、私立星黎学園は中等部と高等部がある。
部活は中高合同もそうでないものもある。
違いは人数が50人を越えるか。
越えてしまうと、別々の活動になる。
だが中等部の部活や中等部生は
チラシ配りは控えるようにとされていたはず。
(そのため、高等部が
めっちゃ頑張るのが毎年恒例でもある。)
確か料理部は合同だ。
「あ!中等部三年の和倉昴です。
チラシ配りは駄目なんですけど
部員少なすぎて、廃部になりそうなので
許可、頂きました!」
料理部、 そんなに危険だったんだ…!
確かに目立った活動をしている部活ではないけど…
「今、何人なの?」
拾ったチラシを渡す。
大量のチラシは落としたことで
少し折れたり汚れたりしている。
申し訳なくなった。頑張っているのに。
「5人いるんですけど、
そのうち2人は幽霊部員で、
あと2人はもう退部寸前でして。」
和倉君はしゅんと分かりやすく落ち込んでいる。
実質一人になるのだ。
5人からしか活動許可は得られないし、
幽霊部員しか残らないなら、
活動もつまらないものになってしまうだろう。
「活動日は?」
「週に二日ですけど…。」
それなら上手く曜日ずれれば、兼部出来るかも…。
「私、入部するよ。兼部だけど大丈夫?」
「本当ですか!?全然大丈夫です!
ありがとうございます!」
彼は太陽みたいな笑顔で
キラキラと笑ってくれた。
料理は元々お母さんの手伝いはしているし、
嫌いじゃない。だから大丈夫だろうと
思っていたのだけど…。
「ほんとにごめん!」
私の目の前には明らかに小さくなりすぎている
じゃがいもがゴロゴロ転がり、
玉ねぎはボロボロに崩れて、
人参は棒のように細くなった。
「あはは…でもまあ、
最初は僕もこんなんでしたし…。」
という和倉君の前には
形の整った野菜達が並んでいる。
「男の子で料理できるって
かっこいいね!」
すると和倉君は予想外の誉め言葉だったのか、
また真っ赤になって固まった。
「いや、えっ…へへ。」
そして嬉しそうににやついた。
きっと素直な子なんだなあ。
「どうして和倉君は料理部に入ったの?」
グツグツと煮込んでいる間、
皿洗いまでしてくれている和倉君に聞いてみた。
(皿洗いぐらいやれば良かった…)
「好きなんですよ。元々。
料理の音とかが小さい頃から好きで。
トントンとかグツグツとか。」
懐かしむように和倉君は笑った。
お母さんの料理の様子でも見ていたのだろう。
でもその笑顔はどこか悲しげで、
あまりそれ以上は彼に踏み込めなかった。
「出来ました!」
(ほぼ和倉君のお陰で)カレーが出来た。
私の料理部最初の一品である。
「いただきま~す!」
二人で手を合わせ、食べ始める。
夜ご飯を学校の部費で食べてるみたいだ。
「うーん、さすが!美味しい!」
スプーンが止まらない。
これは絶品!和倉君、すごい!
「いえいえ、
また作りたいですね。」
微笑ましそうにこちらを見る和倉君は
私より年上に見えた。
(…格好悪いなあ。)
「今度は頑張ります…。」
次こそは和倉君の役に
立てるように頑張ろう…。
- Re: 死神の花嫁 ( No.2 )
- 日時: 2021/06/06 10:40
- 名前: &ハニー (ID: 4MEgHl17)
料理部に入ってから二週間が経過した。
和倉君以外の部員は
(幽霊部員はもちろん来ないのだが)
退部寸前の先輩二人すらも、
今まではそれなりに来ていてくれたらしいのに、
外部受験のための受験勉強でお忙しいらしく
顔を出してくれなかった。
(ちなみに顧問の家庭科の先生は
たまに顔を出してくれるけど、
基本自由みたいな感じ。
和倉君の腕が確かだから、
元々任せっきりらしい。)
そんな感じで私達は、
お菓子や軽食を作っては食べてを繰り返した。
私はお皿洗いやごみ捨て、
あとピーラーで皮剥きとか
本当に簡単な助手をしつつ、
和倉君の技術を見て色々学ぶところから始めた。
一方、文芸部に入ると言っていた
糸杉くんは全然入らず、
私はその事をすっかり忘れていた。
そんなある日の事だった。
放課後、牡丹は部活に行ってしまったので
一人で帰る準備をしていると、
教室のドアが勢いよく開いた。
「いたな、東雲蘭。」
そこにいたのは糸杉くんだった。
無表情だが、圧迫感がある話し方。
私はそれが少し苦手だ。
「糸杉くん。どうしたの?」
プロポーズ(?)された割には
普通に話せているのが
少し不思議な感じがした。
「お前、文芸部じゃないのか。」
すごい剣幕である。
その圧力に怯んでしまい、声がでない。
そんなに料理部は駄目だったのかな。
「兼部してるの。
料理部はついこないだ、
入ったばっかりだよ。」
少し苛立ちながら応えると、
はあっと糸杉くんは深くため息をついた。
「嘘ついたと思った。慌てたんだからな。」
よく見ると、糸杉くんの額には
汗がにじんでいた。
焦って走ってきてくれたんだろうか。
右手には入部届けが握られている。
ドキッ。そういうタイプには
見えなかったからか、
一瞬胸が高まったのは
仕方がないことなんだろう。
「それさえ分かりゃいいんだ。じゃあな。」
そして颯爽と帰っていった。
あんなに焦るなんて…
いつも余裕そうに見えたのに。
そんなに私にこだわるのは何で?
…知りたい。聞いてみたい。
もっと糸杉くんと話してみたい。
古風な小さな庭にある、
深緑色の苔の鹿威しは
静かな夜にコトン、コトンと音を鳴らす。
鹿威しの澄んだ水にゆらゆらと浮いているのは、
枯れ葉と青白い月光のみだ。
「─お前にこの案件は任せる。
ハッキリとしているのは
あの学校にいるという事のみ。
お前の力で見つけ出し、祓え。」
大地を割るような圧力のある声が
少年に降りかかった。
少年は片膝を立てた忍者座りで
声の主の瞳を睨みつける勢いで、
じろりと見ていた。
声の主は縁側に腰掛け、
少年はその後方で話を聞いていた。
「─了解しました。」
と少年が立ち上がると、
「輝いているな。お前。」
今度は少し柔らかい声だった。
「好きな女でも見つけたか。」
声の主はケケケと笑った。
先程までの緊張感は薄れていた。
「─師範は、何でもお見通しですね。」
少年も優しい声で応えた。
月明かりが庭を照らし、
静寂な夜は更けていった。
- Re: 死神の花嫁 ( No.3 )
- 日時: 2021/06/06 10:46
- 名前: &ハニー (ID: 4MEgHl17)
「─という事で、 糸杉くんは
東雲さんに色々聞いてね。」
「ふぁーい。」
─何かつまんなそう。糸杉くん。
元々スカした感じだったけど、
いつも以上に退屈そうというか。
文芸部は元々静かな部だし、
というか本読んだりするの本当に好きなのかな?
「今日の活動は以上です。さようなら。」
「「「「さようなら~。」」」」
ゆるゆると帰ろうとすると、
昇降口には既に糸杉くんがいた。
綺麗な横顔に思わず見とれている自分がいる。
「あ、糸杉くん。どーしたの?」
「…。」
糸杉くんは何故か無言でうつむいている。
「ん。」
糸杉くんは手を差し出してきた。
え?呆然としていると
「荷物、貸せ。」
と取られてしまった。
暁に染まった小道を二人で歩く。
カラスのか細い声がオレンジ色の空に
弱々しく鳴いている。
小道は駅に続いている道で、
裏道なんて呼ばれるような
静かな、住宅街の路地だ。
糸杉くんは歩くのが速い。
私より3歩先を進んでいる。
この微妙な距離が
沈黙を破れない原因となっている。
気まずい。何で?
駅の方向に向かっているので
ついていくしかないのだが、
荷物を取られているので
別ルートでの下校も不可能だ。
「あ、のっ!」
勇気を出して小さく叫ぶ。も、
糸杉くんは止まらなかった。
何て言おう。何を言おう。
「荷物、重くない?」
何を今更、心配してるのか。
余裕そうに持ってるじゃないか。
私なんかよりもきっと力があるのだろう。
あれだけ運動できるのなら。
「別に。」
冷たい人なのかな。
でも荷物を持ってくれている。
優しい人なのかな。
「どうして私と帰るの?つまらなくないの?」
すると少し黙ったあと、
「…好きな人と、帰りたいって
思うんじゃないの?」
彼は頬を紅潮させて言った。
みるみる紅さを増していき、
耳まで紅くなっている。
「あ、え、そっか…。」
私も頬が熱くなった気がした。
糸杉くんは振り返りもせず、
止まりもせず、
前を向いて進んだままだった。
「…東雲はつまんない?」
疑問形だった。私に聞いているらしい。
どちらかと言えば楽しくはない。
無言の圧力とやらが
(きっと彼は圧力なんて
かけていないつもりなんだろうけど、)
彼の雰囲気から感じられ、
緊張してしまっていた。
でも荷物を持ってくれたり、
つまらないか心配してくれたり…
それはきっと彼が優しいから
出来ることなんだろう。
根っから悪い人じゃない気がする。
「ううん、こういうのも新鮮だから大丈夫。」
ジャリジャリと乾いた土を踏む
足音が急にピタリと止まった。
「ごめん、話すことが思いつかなくて
早く歩いてた。」
顔の紅潮は引いていなかった。
林檎みたいに顔全体が紅い。
こんなこと言う人には見えなかった。
「俺、いきなり求婚したし
自分がよく分かんなくなってて…。
本当は横に並んで
歩くべきなんだろうけど…。」
急に饒舌になった彼の横に、
私は大きくジャンプした。
「仲良くなってみたい。私も。」
大胆なこと言ったな、私の割には。と言ってから
思ったけど後悔はしてない。
夕陽はもうすぐ沈む。
─光があれば闇だってあるものだ。
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