ダーク・ファンタジー小説
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- お嬢様とメイド【完】
- 日時: 2021/08/20 23:04
- 名前: さかな (ID: oKgfAMd9)
よくある日常。
メイドに起こされ、着替えをし、顔を洗ったり歯を磨いたり。
お母様とお父様に挨拶をし、お姉様は学校へ。
私はいつもお姉様とは20分ほど遅れて起きる。お姉様は私と違って生徒会に入ってるため、朝早く起きて校門の前に立ち、生徒全員に挨拶をする活動を行っている。
お父様からはもう少し余裕を持って起きれないのかと言われ、お母様からは美香みたいに生徒会に入りなさいと言われる。
これがよくある日常。
ちなみに美香というのは私の姉の名前で、名前のように美しく、少し香水をかけていい匂いを保っている。
我が校の生徒会は成績オール5、もしくは4を1、他5まで取ってない人しか入れないため、オール4しか取ってない私は入れるわけがないのだ。
頑張れば5は一個取れるが、それでも届かない。
そもそも私は姉妹で生徒会に入るのが嫌なためこっちから願い下げだ。
結果でしか見ない両親に何か言ってやりたいが、言ったら言ったで面倒なため思ってたことを飲み込む。
そろそろ時間なため食事を終え、口直しとして自家製の紅茶を飲み、メイドが外にいるため玄関を出る。
「行ってまいります。お父様、お母様」
こんなことを言っても反応しないのが私の両親。
出る時は言えと習ったものの反応しないのでは意味がない。
そんなことを考えてもキリがないため、メイドが待ってるので玄関を出て前にある噴水広場まで早歩きで行った。
なぜ無駄に敷地が広いのか。歩くのすら面倒になってくる。
噴水広場についたものの、車の隣にメイドが困った様子でいた
「何かあった?」
「すみません、お嬢様の車がパンクしてしまいまして。一昨日に美香様が連れてきた狼が原因かと」
お姉様は結構動物に好かれる。そして週2の頻度で何かの動物を連れてくるのだ。
その種類は熊だったり、狼や猪など。お姉様の1日を見てみたい。
「なるほどね。今日は歩いて行くよ。学校もそんな遠くないし」
「大丈夫ですか?普段家の中を歩くのも面倒臭がっているお嬢様なのに。成長しましたね」
「ちょっと。私だってやる時はやるんだからそんなバカにしないでくれる?」
広い家を歩き回って同じ景色を見続けるよりは学校を歩いて行く方がマシでしょ。
「冗談に決まってるじゃないですか。お嬢様が歩くなら私もお供しますよ」
「いいよ。お供しなくて。メイドも仕事あるんじゃないの?」
「最近運動してなかったので。それにたまには運動しないと太りますからね」
車ばっかり乗ってるお嬢様もいつかは太るんじゃないですか?と、ニコニコでいうメイド。
ニコニコとは裏腹に、その言葉を鵜呑みにして青ざめる私。
増えてたらどうしよう。50未満とは決めてるけど、車に乗りすぎて増えてる可能性も十分にあり得る。
「お、お嬢様?そんな心配なさらずともお嬢様は痩せていますよ?」
「見た目で判断できたら誰も苦労しないよ」
メイドの一言で気分が落ちたところで学校へと足を進める。
学校の道にある信号機を気分が落ちたことで運気も落ちたのか全部赤信号に引っかかってしまった。
「休憩できてよかったじゃないですか」
「よくそんなプラス思考にできるね」
羨ましい。
そう小さく呟くとメイドの耳には聞こえたらしい。
メイドは私の顔を見るなり、少し考えてこう言った。
「私だって最初からプラス思考じゃないですよ」
イラつきが混じった声色で発された後は、ついさっきの内容で頭は埋め尽くされた。
メイドにも何かあったのか。私には想像できない過去があるのか。子供の時から一緒にいる分、謎が深まるのは当たり前だ。
どうしてメイドはイラついてるのか。疑問を持った私は本人に聞くべきかと思ったが、流石にやめといた。
無神経にも程がある。
その後しばらく無言が続いて学校に到着した。
「それでは、いってらっしゃいませ。お嬢様」
校門前でお辞儀するメイドを見て、さっきのことを思い出し気まずくなったためその言葉に返事はせず教室に向かった。
教室に友達と言えるものはいないが話す人はいる。私から話しかけることはないがその子はいつも話しかけてくれる。
昨日のテレビが面白かった。おすすめの本があるから紹介するなど。
しかもその子はとてもバカまではいかないが頭は悪い方なのでたまに勉強を教えている。
「ねぇねぇ、お金持ちってどんなんなの?何やってるの?」
昼休みに勉強を教えて欲しいと言われたので渋々教えることに。
教えてる時に話題を振られ、この話題を答えないと面倒になる子なのでちゃんと答えた。
「家と土地が広い。何やってるかは親に聞いて」
私に聞かれても何をやってるかは親次第なんだから私がわかるわけない。
「やっぱ家広いんだね。漫画で見た通り!許嫁とかは?やっぱりいる?」
「いるっちゃいるけど、まずはお姉様の許嫁が先だから全然会ってないよ」
会ったとしても最初の1回だけ。どんな人だったか忘れたし。
「外でもお姉様って言ってるの?」
「どこで誰が見てるわかんないから。もし外で様つけてなかったらチクられるんだよね」
私の家柄が有名だそうで、どこから敵が来てもいいように100人弱は町や市にいるらしい。
なので下手に発言するのはできないのだ。
「あれみたいだね!スパイに狙われてる子みたい!」
「私が?なんで?」
「だって、どこで誰が見てるかわかんないんでしょ?それってなんかカッコいいじゃん!」
カッコいい。
どこで誰が見てるかわからない状況をカッコいいなんて初めて言われた。
今まで怖がられたし、私達も狙われるなんて変な勘違いしてるやつしかいなかった。
自分でもこの状況をよく思っていなかったのだ。
だからカッコいいといわれたら無意識に頬が緩み嬉しくなってしまう。
「どうしたの?嬉しいことあった?」
「何もない。それはそうと、勉強の続き」
私がそういうと、その子は不貞腐れた返事をしながら勉強に取り掛かった。
学校から帰宅後。帰りはメイドが仕事なためお迎えはなかった。
もしあったとしても気まずさが残るだけなので今日はなくてよかったと安心した。
「ただいま帰りました。お父様、お母様」
朝とは比較的に静かなため両親は仕事なのだとわかった。
両親は共に小説家であり漫画家。父が小説家で、母が漫画家。ヒット作が何作もあるため最終的に金持ちになったということ。
家にあの2人用の作業部屋が別々にあるため、編集者や他担当の人も違うのだ。
昔からこうやって部屋に篭りっぱなしのため、両親から褒められたことは一切ない。
姉も前までそうだったのだが頭がよく生徒会に入ってしまったため褒められる機会が増えたのだ。
学力の違いは当たり前のため仕方のないことだが、テストでいい点を取ったとしても親は部屋に篭ってるためそういう時はメイドに褒めてもらっている。
そのためメイドの愛情をもらって育ったと言ったも過言ではない。
そうこう考えてるうちに姉が帰ってきた。
「ただいま帰りました。お父様、お母様。あ、もう帰ってたの?」
お決まりのセリフを言った後私に気付いたお姉様。
「私は生徒会という面倒なのに入ってないからね」
「生徒会楽しいよ?みんな個性豊かなの」
「どうだか。そもそも私は頭悪いから入りたくても入れないけどね。入るつもりはないけど」
ちなみに私はお姉様と仲はいい方。悪くはない。
「ねーねー、友達できた?」
「話す人だけ」
「嘘。あの子とよく喋ってるじゃない。ほら、ポニーテールしてる子。友達じゃないの?」
「よく話す人だから違う」
私にはお姉様みたく友達が大勢いるというわけではなかった人生を送ってたため、友達の定義がいまいちわからない。
「よく話す人は友達なんだよ?きっとその子も友達だと思って接してるはず」
「本当に?信じるよ?」
メイドの冗談を思い出してどうしても疑ってしまう。でもお姉様は嘘つかないので信じても良さげ。
「信じてよ。それより眠いの?なんか疲れた顔してる」
「お姉様が言うんならそうなのかも。自室行って寝てくるよ」
「ご飯前には起こすからね」
んーという生返事をして3階にある自室に向かう。何で自室が3階にあるんだよ。
3階まで階段を登るのは何年間も体験してるので今更言っても何も変わらない。
エレベーターは一応あるが使ったら逆に長いのでやめといた。これも運動のうち。
自室に着くと寝心地が良すぎて心配になるキングベッドに飛びついた。
昔から寝付きはいい方なので数秒間目を閉じるとすぐに意識がなくなった。
- Re: お嬢様とメイド ( No.1 )
- 日時: 2021/08/21 08:42
- 名前: さかな (ID: oKgfAMd9)
ぐっすり寝た後、起こしにきたのはお姉様じゃなくてメイドだった。
「お嬢様、ご飯のお時間です」
「んー」
お父様に遅いぞと言われるんだろうなとおもいながら、ぐしゃぐしゃになった髪を手でとかしながら下へ降りる。
食卓へ行くと、いるはずのお姉様が食卓の椅子に座っていなかった。
「お姉様は?」
「お勉強らしいですよ。後から来るそうです」
「ふーん」
だから起こせなかったのか。
納得と同時に、褒められる要素を増やしてるのかとも思った。
自分勝手なのは承知だが、私からしたらそう見える。
よくできる姉とまぁまぁできる妹。そう比べればお姉様が褒められるのは当たり前。
でも少しくらい。
そう思ったら負けだ。社会に出て生き残るのは頭のいい人なのだから。
私が今のままで社会に出たら中途半端に終わってしまう。だから今頑張るのだ。
今誉められなくとも、いつか私が姉を越して褒められる時が来るかもしれない。
私はそう思っているから。
結局、お姉様は食事が終わっても戻っては来なかった。
だから私がお姉様の部屋に行ってご飯を届けなければならない。
お姉様の部屋に前に来て扉を3回叩く。
集中してると思ったのですぐ気付くように少し強めにした。
強すぎたのかもしれないがお姉様はすぐに扉を開けた。
「そんな強く叩かなくても」
「ご飯持ってきたよ。そんな勉強しなくてもいいんじゃない?」
お姉様の机をチラッと見たが参考書らしきものには付箋がびっちり付いていた。
「ありがとう。私受験生だからさ、今のうちにやっとかないと」
褒められるためにやってるんじゃない。
それはお姉様の言葉でよくわかった。
だから嫌なのだ。屁理屈ばっかり考えてる自分と自分の将来ために考えてるお姉様。
このたかが一つの考えで差がわかる。わたしがどれだけお姉様に劣っているか。
悔しい。
いつも私を上回る姉にこう思うしかなかった。
翌日。
私の車はまだ直っていなかった。
業者は頼んだそうだがその業者も忙しく明後日に来るのだそう。
「今日も歩きですね。お嬢様」
昨日歩いたばかりだがもう面倒になってきた。
「そうだね」
しばらく無言が続いた。
何か話題がないかと頭の中を巡らせる。
あ、昨日メイドが言ったことの意味を今聞いてみようか。
昨日は急に言われたことで本人に聞くのは無神経ではないかと思ったが、気になることは聞いてみないとわからない。
私は意を決して聞いてみることにした。
「メイド」
「はい?」
ニコニコと笑顔で振り向くメイド。その笑顔は私が問いかけたことですぐ崩れた。
「昨日言ってたこと、どういうこと?」
スンとした表情で私を見つめるメイド。少し考えた後にこう言った。
「私だって最初からプラス思考じゃない。ですか?」
冷淡とした声で話すメイドは少し淡々とした雰囲気を漂わせた。
「そのままの意味ですよ。私も昔お嬢様みたいに比べられて生きてきました。ですがある日思ったんです。失敗することを恐れながら生きるのはやめようと」
メイドは凛とした目線を私に向ける。
「恐れながら生きていくのは勿体無いじゃないですか。誰しもが失敗する世界で自分だけ失敗しないのはないんです。なので全部を変に捉えるのではなく、いい方向に捉えようと思えるようになったんです」
その考え方に少し羨ましいと思った。
メイドはちゃんと考えて変わったんだ。私だって頑張らなければ。
自分の気が済むまで考えまくろう。その考えがいつか私の人生に付与するかもしれない。
「お話を聞けて十分ですか?早くしないと遅刻しますよ」
メイドはもしかしたら私の人生の先輩なのかもしれない。
「おはよう」
「おはよう」
いつものように挨拶をしてくる昨日の子。
「昨日のドラマ面白かったよ〜!ドラマも見ないんだよね?」
「見ない以前に興味ない」
面白いのになどと嘆く彼女。興味ないものはないんだから仕方ない。
「あのさ」
さっきまで嘆いてた彼女は真顔でこう言った。
「あなたの名前って、何?」
その言葉が私の心を突き刺す。
「よくよく考えたら名前知らないなって思って。で、名前何?」
そう聞かれても私はすぐ言葉を返せなかった。
考えたらそうだ。姉も両親もメイドも他の使用人も名前はあり呼ばれるのに私だけ呼ばれない。
私の名前って何だ?
そもそも私に名前があるのか?
私は鞄を手に持ち走って家の帰路に辿った。
授業なんか関係ない。名前の方が重要だ。
そもそも世界に名前がない人はいるのか?
私がその1人だと言うのなら、私はなぜこんなにも恵まれていないのだ。
金があっても土地があっても、愛がなければ幸せとは言えない。人に名前なんかあって当然だ。
でも、私は名前を呼ばれたことないんじゃないか?
「お父様!お母様!」
学校はどうしたと言われたがそんなの今はどうでもいい。
「私の名前は何ですか?」
名前があるかどうかだ。
「そもそもおまえは誰だ?」
え?
予想外の展開に困惑する。
私は名前があるか聞いてるだけでまずそこから話すのか?
「私は2人の娘で」
「ここの家には娘は1人のはずよ。なんかいるから養っただけで、名前があるかなんて言われても知らないわよ」
嘘。
嘘だ。これは夢。
夢なんだ。
メイドに聞かないと。
「メイド、私の名前わかるよね?」
「すみません、わかりません。この屋敷にいたのでお嬢様と呼んでいましたが、前に奥様方に聞いたところわからないとおっしゃっていましたので。私に聞かれてもわかりません」
何で、何で誰もわからないの?
私は誰?
私は何者?
私の存在って、何
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