ダーク・ファンタジー小説
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- 愛しい人からのプレゼント
- 日時: 2021/10/24 05:11
- 名前: こたリスラ家 (ID: zG7mwEpd)
「セっ…ラぁ…」
そう声をあげるのは志麻。病室のベッドの上で、苦しそうにしている。綺麗な紫色の瞳からは涙が溢れている。だが、必死に口角を上げ、『大丈夫』と言っているようだ。
「志麻くんっ!!」
そう声をあげるのはセンラ。ベッドの横で志麻の手を強く握り、膝をついている。顔は涙でくちゃくちゃだ。
彼らは志麻センでコンビを組んでいるのだが、志麻が突然の心不全で亡くなりそうなのだ。長年共に歩んできたのだから、別れも辛く悲しいものになる。
「志麻くん逝かんといてっ!志麻くんが死んじゃったら俺っ…どうすればっ!」
「そんときはぁっ…うらたっさんとぉっ…坂田がっ…おるでっ…」
そう言って後ろを見ればうらたぬきと坂田が涙を流しながらこちらを見ている。ただ、こちらに来ないのは気を遣っているのだろう。二人で抱き合って共に泣いていた。
「いややっ…志麻くんがええねんっ…!志麻くんしかっ…おらんっ…!!」
「センラっ…」
センラは泣きじゃくるばかりで志麻も困ってきている。そんな時、志麻は胸に痛みを感じた。
「う"っ…!!」
「志麻くんっ!!」
「センラっ…!」
必死に名前を呼び合う二人。
「センラっ…!ちゃんとっ…きいてなっ…」
「なにっ…?」
センラは落ち着いて志麻を見る。
志麻は必死に笑顔を作り、こう言った。
「ありがとう…センラっ…」
そう言って静かに息を引き取った。センラは泣いてばかりで返事ができない。
気がつくとセンラの後ろにはうらさかがおり、静かに見守っていた。
「センラ…?」
「なんやっ…!」
うらたがゆっくり話しかけ、センラの横に座り込む。
「これ。」
「ん…?」
差し出されたのは紫色の小さな可愛らしい花。それが花束となって渡された。
「これね、ペチュニアっていう花やって。」
後ろから坂田の声が聞こえた。『ペチュニア』聞いたことはあるが、こんなに可愛らしい花だとは思ってもいなかった。
「この花の花言葉、知ってる?」
うらたに問いかけられた。といっても知るわけがない。みんなが知るような花たちの花言葉も知らないというのに…
「この花の花言葉は…」
「うん…」
センラがゆっくり頷いた後、うらさかは声を合わせて言った。
「「あなたと一緒なら、心がやわらぐ」」
「えっ…?」
わけがわからない。心が…?なんで…?
「これ、志麻くんがセンラに渡してって言っててね、俺たちもなんで?ってなって聞いたの。そしたら…」
「うんっ…」
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「なんで…?」
「俺な、心が疲れたら、センラの家に行くの。そしたらセンラも疲れてるはずやのにとびっきりの笑顔で迎えてくれてね。センラと一緒やと心がやわらぐんよ。俺の話になんでも笑ってくれて、笑わせてくれて…
こんな人初めて会った。やから…」
「でも、なんで今?」
「俺な…心不全でもうすぐ死んでまうねん」
「えっ…!?」
「やから、なにもできてへんもんで花と、あとこれも渡したいんや。お願い」
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「センラの笑顔見ると、疲れが取れるって。笑ってくれて嬉しいって。こんな人と会うのは初めてで、本当に愛しい人だからって言って、渡してくれって。」
「うぅ…」
センラの顔にはこれまで以上に涙が出てきている。
今まで過ごした志麻との思い出を思い出しているのだ。
「あと、これも」
「えっ…?」
そう言って渡されたのは1枚の写真。
「これっ…!」
それは初めて会った時に『センラって可愛いね。一緒に写真とっていい?』って言われて撮られたもの。
「ずっと志麻くんが持ってたんだよ。これだけは本当に大事なものって。」
「志麻くんっ…!」
「大切にしてねやって」
「……大切にするよっ…!志麻くんっ…!」
そう言ってセンラは志麻の方に顔をあげ、言ったのだ。
「素敵なプレゼントをありがとう。志麻くん。」
そう言って微笑んだ。
志麻の表情は微笑んだようになり、外の生暖かい風が二人を包み込んだのだった。