ダーク・ファンタジー小説
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- たった一つの物語
- 日時: 2022/01/10 18:39
- 名前: 胡瓜の緑きつね (ID: kOQgU9bm)
五つの宝が揃いし時 世界中の生物が平伏せん
****
ただ宝を集めし者達だけが大地に降り立ち 新しい命を育む
そして平穏が訪れるであろう
宝を集めしも者の国は繁栄を築く
筆者 ****
…記述はこれで終わっている。途中、文字が掠れていた部分もあったが、それ以外の文章はこれまでの古い資料と一致している。
導き出される結論、宝を五つ集めれば、平和と繁栄が手に入る。
そして、私は宝を集める。私の命に変えてでも手に入れなければならない。それも今までとは、ちっとも変わらない。だが、ここに来たのは無駄足ではなかった。私の決意は揺るがない、私の希望も消えてはいない。
~~~~~
命とは儚い物。限りあるものこそ、価値は高いのだ。だからと言うのか、やはりここは虫酸が走る。
ここは[トアル王国]中央都市[セルクス]。そしてセルクスの中にある[冒険者ギルド]トアル王国本部。つまり、トアル王国の冒険者ギルドを束ね、普通のギルドの役割+他国のギルドとの連絡等々を行っている大きなギルドだ。
何故、私がこんなにもイラついているかと言うと、私の後ろを今現在もニタニタと彷徨いている、この男どもに原因がある。
少し前、私がこの都市に入都したところから始まった。私は基本、都市から都市に移動する際は[護衛任務]という任務と移動を並行して行う。
護衛任務とは、移動する最中に魔物や盗賊から依頼人や依頼物などを守護する任務のことだ。
そして、入都の時には入都検索が勿論あるわけで、その時検索を担当した若い兵士から冒険者たちに、私の情報が漏れたと言うことだ。私が護衛任務完了の報せをしにギルド内に入った時に、「おい来たぞ」と言われたので間違い。今もこうやって後ろでニタニタしている、気持ち悪い。
私の番が回ってきて、受付嬢に任務完了の印をだしたその時だ。
「ちょぉぉぉっと待てよ、そこのチビ。お前なんかが辺境都市からセルクスまで、ずっと魔物も盗賊も一回も出会わなかったわけあるめぇよな。お前なんかが、任務をこなせるはずない!コイツの任務偽装を告発するぜ!!」
ほら来た、冒険者ギルドとはこう言う場所だ。見た目で判断する愚か者の集団、もしくは猿の塊。まぁ、私もその中に組み込まれていると言うものだから恐ろしい。
「こういっておられますが、貴方。どうですか?」
受付嬢が事務的に質問してくる。事務的になるほどに、よくあることなのだ。
「馬鹿馬鹿しいにも程がある。まだ聞き分けのいい犬の方がマシだな。私は辺境都市[リューゲ]から、ここセルクスまでの護衛任務をやり遂げたことを誓う」
鼻で笑ってやれば、少しでも相手は怯むものだ。ここで引けば知恵のある者、引かねば真の愚者だ。証拠も何もない、ただ相手が弱そうだったから。そう思っているのであろう。
「っそこまで言うなら決闘だ!!俺様たちに勝てたならしんじてやるよ」
「こう言っておられますが、どうします?貴方」
先程と一緒な質問を投げ掛けてくる受付嬢は、顔は変わらずとも声から「面倒くさい」という気持ちが漂っている。すまんな、もう少し付き合ってほしい。
「その決闘、受けてたとう。私は睡蓮、単独冒険者の玉 睡蓮だ」
その後の出来事は語る価値もないものだ。私に喧嘩を売ってきた冒険者の集団が、素手の私に敗れて迷惑料をふんどられ、一目散にギルドから逃げていっただけの話だ。
翌日、ギルドに行った私に向けられた視線の意味や、[双拳の睡蓮]として恐れられると知るのは、また次のお話だ。
- Re: たった一つの物語 ( No.1 )
- 日時: 2022/01/12 19:19
- 名前: 胡瓜の緑きつね (ID: kOQgU9bm)
私の名は、玉睡蓮。国や村、遺跡などを訳あって巡っている。
懐かしい夢を見た。家族の夢だ。
故郷から遠く離れた地に居ることに、不安がないわけではない。だが、いつでも家族達の顔が頭に浮かび、それを私の力に変えているのだ。父上、母上、兄弟。みんな優しかった、私が家を飛び出したこともきっと許してもらえていると思っている。
…夢から覚め、つまり起き上がったときに想定外の事が起きていた。目から涙が出ていたのだ。誰も信用できない、信用したくない新天地。親しい者との再開も叶わずただひたすらに、がむしゃらに進み続ける私は愚か者だろうか。きっとどうでもいい問だ、考えるのをやめよう。
私は昨晩、冒険者ギルドから一番近い宿屋の部屋を借りた。若い看板娘が、深夜だと言うのに元気よく対応してくれたせいか、安心して眠れた気がする。
今日の予定はセルクスの地理を頭に叩き込み、冒険者ギルドの資料室に向かう。
セルクスを散策中に、流石王都と言うべきなのか、広い市場が開かれていた。色々な物がバラバラに売られており、色々な人が声を張り上げ労働している。私はこの光景が、頭に焼き付いた。
市場で買った串指し肉を頬張りながら、冒険者ギルドに向かう。…と、ギルドより少し手前の路地の方に、昨日のニタニタ冒険者一同がごみ袋にたかる烏のように何かを囲んでいた。
「よぉよぉ、お坊っちゃんさぁ。ここはお前なんかが来るよう場所じゃあねぇんだわ。目障りなんだよ」
また何かしょうもないことやってるな猿が。と、思いはしたが、わざわざ面倒事に突っ込んでいくほど私もデキた人間じゃない。私の目的は資料だ、こいつらに構ってる暇はない。
「…昨日散々小さい女の子にぼこぼこにされたというのに、今日も相変わらずよく吠える」
「あ゙あ゙ぁん?!やんのかボンボン野郎!」
「人語には人語で返してもらえるか?猿。あ、猿だから無理か」
もう面倒臭いから猿と呼ぶことにした。そう、その猿は一回男に舌打ちをし、その後またニタニタと笑い始めた。そして、あり得ないことに通りすがりの若い娘さんを取っ捕まえ、首もとに短剣を当てたのだ。
「ひひひひひ、お前が動いたら、この女殺すぞ!おい、やれ!!」
人質を取った場合、相手が善人なほど効き目がある。挑発された男は動かない。娘も恐怖で助けを呼べない。
男は動かない、ように思えた。それほど違和感がなく、剣一振りで決着がついてしまった。
猿どもは四足歩行に相応しく、地面に這いつくばっている。私は踏み込んでいた足を正常に戻し、娘の安否確認の為に駆け寄った。
「おい、そこの娘。怪我はしていないか?」
「え、あ、はい。す、睡蓮さん?」
猿に襲われた娘、私が昨晩行った宿屋の看板娘ではないか。王都であろうと、わざわざこんな危険な道を通るほど急ぎのようでもあったとかと聞くと。
「えっと、睡蓮さん。この羽織、睡蓮さんのですよね?食堂の椅子に忘れられてましたからお届けに…、冒険者ギルドだったらこの道が近道ですから、ちょっとくらいは平気かな…って」
まさか、羽織を届ける為だけに危険を犯したとでも言うのか。私が悪いような、娘が悪いような、だが、結局は私の忘れ物のせいだ。
「すまん、嫌なめにあわせたな。羽織、感謝する。あー…と」
「ふふっ、私はサーヤです。ユー宿屋の看板娘、サーヤですよ。では、睡蓮さん。お帰りお待ちしてます。帰りはちゃんとした道で帰りますから!」
サーヤはそういって、パタパタと大通に駆けて行った。
私は、もう一人の人物に顔を向ける。しっかり見ると、確かにボンボンと言われればボンボンに見える。金の装飾が施された軽量鎧を見にまとっている男は、サーヤと私の話しが終わった頃合いを図っていたのか知らないが、目が合った瞬間に私にこう言ってきた。
「君が昨日、猿どもを素手で蹴散らしたっていう玉 睡蓮か。俺を弟子にしてくれ」
「…は?」
翌日、さらにその翌日も、男は私に弟子入りを申し込んできた。宿屋にも乗り込んできて、睡蓮は居るか、睡蓮は起きているか。変態並みにサーヤに聞いていた。サーヤは一応恩人の男を、店の外に追い出すことは気が引けるだろう。代わりに私が追い出した。
ギルドで鉢合わせ(待ち伏せされていたとも言う)したときには、弟子入りと手合わせを申し込んできた、ちなみに会うたんびにだ。周りからの視線は珍しいものを見る目から、同情の類いに変わった。ストレスしか溜まらない。
宿屋への帰り道に勝手に付いてきて、勝手に自己紹介を始めたりもした。ちなみに自己紹介だけでも数回聞いている。男の名前はアルフォンス。剣士。元は貴族だったが家から追い出されたため、腕っぷしが良ければ生きていける冒険者になったんだとか、なんとか。
そしてそんなことを繰り返して数日、私が受けた魔物討伐任務にまで付いてきた時に、私の堪忍袋の緒が切れた。
「おいアルフォンス、なんでそんなに私の弟子になりたいんだ。ほかにもっとイイヤツがいるだろう」
「睡蓮が、善人だからだ」
…はぁ?何いってるのかが、相変わらず理解できない。
「睡蓮は、素手で戦うスタイルの冒険者じゃないのは、見て直ぐ分かった。剣の鍛練の成果が、軸を安定させて、歩きさえ美しい、完璧だ」
「だから何だ、そんなもの誰でも努力すれば手に入る」
「それは無理だ、他の人間は睡蓮のように強く綺麗な信念は持っていない。俺は睡蓮の信念と、技術を覚えたい」
信念、技術。私が幼い頃にたくさん聞いたその言葉には、少なからず愛着があったのだ。だからなのか、今思えば大変頭の悪いことを言ったな、と後悔している。
「ならば、こうしよう。私が一回だけ技を見せる。その技を夕暮れ時までに取得できれば、弟子入りを認めてやる!」
どうせ出来ないだろうと甘く見ていたのだ、私は。
「鼠構え、神速、網破り」
網破りとは、鼠が網に穴を開けるように、誰にも気づかれないように、自分の好きな大きさの穴が開けられるという技。試しに技を放った木には、枕一つ分くらいの穴が開いた。
「この技を取得してこい。取得できなかった場合、今後私の視界に入るな」
約束の夕暮れ時、私は任務を終えて帰路についていた。そのときに、茂みの中から狼型の魔物が一体出てきた。驚くべきことに、腹に穴が開いた状態で、私の足の先の地面に倒れた。
そして、茂みの先から出てきたのは、魔物の返り血にまみれたアルフォンスだった。アルフォンスは、私を見ると何かを誇るように狼の腹の穴を剣先で指した。
「網破り、取得してきたぞ。約束の夕暮れ時に間に合ったのは奇跡だったがな」
「…荒い、まだ斬りつけに近い。根本的な剣の斬りかたを間違っている」
「えっ…じゃあ弟子入りは…」
「…ただ、斬り方が全く違うのにここまで網破りに似せれたのは多分お前が初めてだ。もどきとはいえ、成功はしている。約束は守ろう。アルフォンス、今日からお前は私の弟子だ」
「あぁ、よろしくな睡蓮」
「師匠と呼べ、師匠と」
「いっつ…殴ることないだろ、す…師匠」
師匠と弟子。この師弟コンビが、後々問題児コンビになるとは、まだ誰も知らない。
ただ、未来は無限に広がっている。
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