ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 吸血鬼と暁月【外伝】
- 日時: 2012/08/14 20:56
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
始めまして、もしくはいつもお世話になっております、枝垂桜です。
これは旧シリアスダークで連載している『吸血鬼と暁月』の外伝、つまり番外編になります。
読者様のリクエストも受け付けておりますので、本編のスレッドの方で応募ください。
●=シリアス △=明るい *=甘め
目次
あいさつ >>1
第一之章 眠りに着くまで *
- Re: 吸血鬼と暁月【外伝】 ( No.1 )
- 日時: 2012/08/14 20:53
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
※本編とは違って少し明るいです。
※朱音がまだアカネ(ややこしい)の時。つまり過去のある夜のお話です。
【第一之章】 眠りに着くまで
綺麗な満月が昇っていた。
ここに来るまでの苦労も、ここにいると安らいでいく。
アカネは沙雨の隠れ家に泊まりに来ていた。
幼くして両親を亡くしているので、両親の目を逃れながら家を出る、という関門はアカネにはないのだが、村の人間の目をも逃れる、というのも至難の業だ。
特にここは港町なので、人目につきやすい。
ここに来る途中に見つかってしまった事も少なくはないのだが、その時は沙雨が泊りに来てくれた。今回は運よく誰にも見つからず、ここに来る事が出来たのだった。
溜まりに溜まっていた話を、時雨と寧々とで繰り広げ、離し疲れて全員寝てしまっていた。
ふとアカネは目を覚ました。
真夜中に目を覚ますというのは珍しい事だった。
もう一度眠りに着こうと目を閉じるが、意識が完全に覚醒してしまっていた。
アカネはそっ、と布団から出て、部屋から出た。
眠たくなるまで、縁側で星でも見ていようか。そう考えたのである。
この隠れ家は日本伝統の屋敷の作りをしており、縁側と言うものが近くにあった。
誰にも使われていない部屋へとつながる襖を開ける。するとそこには、すでに先客がいた。
縁側に腰を掛け、空に輝く満天の星を見上げている。
誰かが来たことに気付いた先客は、こちらを見た。
「───まだ起きてたの?アカネ」
沙雨は優しく微笑みながら言った。
アカネは首を軽く横に振って、その言葉を否定した。
「目が覚めて……」
「僕と同じだ。───こっちへおいで」
今夜はここで寝ていたのだろうか。敷かれていた布団を避けて沙雨の所まで歩いて行く。
沙雨の隣に腰をかけた。
「今日はここで寝ていたの?」
「うん。こっちの部屋の方が好きだからね」
「そうなんだ」
沙雨に向けていた視線を夜空へ向けた。
満月が雲に隠れたと思ったら、また出てくるのを繰り返している。
季節はもう秋へと移り変わる。虫たちの鳴き声が聞こえて来て、それは子守唄のようにも聞こえた。落ち着く合唱だった。
「綺麗だね」
「そうだね」
合唱を声で掻き消さないように、小声で話しかける。
途切れ途切れの短い会話であったが、寂しくはなかった。むしろ、沙雨がとても近くに感じられて嬉しかった。
しばらく夜空と合唱を聞いていたら、瞼が重くなってきた。遂にはふらりと沙雨の方へ倒れ、それでまた意識が戻って来た。
「あ…ごめんなさい」
体を沙雨に任せたこの状態を立てなおそうと、起き上がろうとする。そんなアカネの肩に手を掛けて、沙雨はそっと自分の方へ寄せた。
「良いよ。眠いなら、寝ていても」
「で、でも、重いよ?」
アカネがそう言うと、沙雨が少し笑った。
「全然。だから、安心してお眠り」
その言葉を聞いて、アカネはまた安堵した。
たまに沙雨が言ってくるこういう言葉にドキリとする。
先程も言った「おいで」という言葉にも何か不思議な力が込められているようだった。逆らえないのだ。
また「おだまり」と言う時もある。その時は少なからずの恐怖を覚えて、押し黙ってしまうのだ。
沙雨は時として、言葉に魔法を込めるのだ。
「──それともどうする? 部屋に帰る? やっぱりここで寝る?」
「……ここで寝る……」
控えめに言ったアカネを見て、沙雨はまたふわりと微笑んだ。
本当に優しい笑みだ。
「……じゃあ、今晩は一緒に寝ようね」
沙雨はアカネの耳元に唇を持って行って、囁いた。
「───愛してる」
深く、甘く、低い囁き。
自分の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。
「私も……愛してる……」
「うん。おやすみ、アカネ」
それを最後にアカネの意識は夢の世界へと誘われていった。
- Re: 吸血鬼と暁月【外伝】 ( No.2 )
- 日時: 2012/08/22 16:38
- 名前: 枝垂桜 (ID: 49hs5bxt)
第二之章 久遠とマーチ
『旧友』
古くからの友人。または昔の友という意味をさす言葉である。
死神マーチと吸血鬼水袮久遠の関係に当てはまる。彼らは古い友人であり、因縁がある仲だ。
二人の亀裂を作ったのは久遠だ。それを引き裂いたのはマーチであり、マーチは突然彼の前から姿を消したのだ。
彼女は死神だ。魔方陣によって呼び出され、術者が呼び出された者の主となる。二人も最初はその関係に過ぎなかったのだが、時が経つにつれて、友という関係になっていった。
常に笑ってはいるのだが、彼女にも感情があり、それを表に出さないだけなのだ。
しかしやはり主従と言う関係も崩れることはなかった。
「主、今日も暗殺依頼の手紙が来ております」
久遠は吸血鬼の中でも三本指に入る戦闘能力を持った武闘派だ。かなりの力を持っている。そのため、吸血鬼の王からの暗殺依頼は絶えることを知らなかった。
「俺はこういうのあんま好きじゃないから、紗雨に回しておいて」
「罰せられますよ」
「だよねぇ。仕方ない」
紗雨も久遠の友であり、同じ三本指に入る武闘派だ。ここらではあまり見ない刀という武器を用い、その刀の名を『闇華』と言ったか。
久遠はマーチから手紙を受け取ってその内容を読んで、もう一度マーチに差し出した。
「燃やしておいて。世間に流れ込まないように」
「Yes,your majesty(イエス・ユア・マジェスティ).」
マーチはこの言葉と、もう一つの承諾の言葉『御意』を使い分ける。
吸血鬼関係の仕事を主から請けるときは、この言葉を使う。
久遠が今頼んだのは「御意」でもいいと思うだろう。しかし深く掘り起こせば、自分達の正体が人間たちに知られないよう、処分して、と考えることができる。
マーチは一瞬で、人の言葉を奥深くまで掘り起こすのだ。
一旦きります
- Re: 吸血鬼と暁月【外伝】 ( No.3 )
- 日時: 2012/10/10 18:17
- 名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)
その絶対的な主従の関係が崩れ始めたのは契約から何年も後だった。
「マーチ……」
「はい」
「……契約を切ろうと思う」
そう告げた瞬間、ガラスが弾ける音がした。
驚いて視線を向けるとマーチが珍しく笑みを消して、久遠を睨みつけていた。
その足元にはジリジリに砕けっちって、形を失っているコップがあった。
「なぜですか? 貴方と私の契約はまだ果たされていない」
「俺は……」
「皐月さん、ですか? なるほど、貴方は死神の私より悪魔の皐月さんを契約者に選んだわけですね?」
「マーチ、話を聞いてくれ」
「聞く事もないでしょう。私にはすべて分かるのですから。私と貴方はまだ契約している。まだ繋がっているのですから」
怒っている。
久遠は察した。表情のないマーチが不安を露わにし、殺気まで滲みださせていた。
それもそのはずだ。久遠はマーチを裏切ろうとしている。
契約を交わしてから二百年。ずっと傍で久遠を支え続けてきたのに、今こんなにもあっさり引き千切られようとしている。
「皐月さんは私より格上の魔族。……確実に私との契約より、強い力が得られる。……なるほど」
マーチは準備していたお茶をすべて床に突き落として、踵を返した。
そのままこの部屋を出て、ドアを閉めた。
その様子をずっと久遠は無言で見ていた。
違う。マーチと契約を切りたいのは───人間になりたかったから。
皐月の事は確かに好きだ。
だが彼女は呪いの言葉を囁き続ける。その囁きに負けてしまった時は、自分が壊れるとき。修復はできない。
こんな化け物は嫌だ。人間になりたい。
馬鹿な考えだとは思うけどな───、久遠は軽く笑った。
翌日、マーチは二百年間、ずっと取っておいたのだろうか。血で書かれた契約書をびりびりに切り裂いて、この家から姿を消した。
残っていたのはかつて彼女が愛していた、不可能の花言葉を持つ青薔薇だけだった。
その薔薇は決して枯れることなく、朽ちることなく、今でも久遠が持っている。
Page:1