ダーク・ファンタジー小説
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- あなたを 序章
- 日時: 2022/02/26 17:13
- 名前: やまら (ID: HSijQ0Up)
イギリスのとある駅の柱に向かってたくさんの荷物を乗せたカートを押して飛び込む、一人の少女の姿があった。
名をレイニウム・アンジョーナという。
茶髪に丸い眼鏡をかけて、いつも下を向いている、それが彼女の特徴だった。要するに内気な少女だった。
柱に飛び込んだ彼女は、ぶつかることもなく柱をすり抜けた。後ろにいた母親もそれに続く。するとそこには赤い列車が線路にとまり、黒いローブを着た子供と大人でごった返していた。
列車の一番前の入り口に向かい、荷物をカートから降ろす。若干引きずる形ではあるが、人混みにまぎれこめばそれは異様な光景には見えなかった。それにこれが普通なのだ。この世界では。一人の少女がたくさんの荷物を引きずりながら歩く姿なんて。
列車の中に頑張って荷物を入れた彼女は、心配そうに見つめる母の姿をその瞳で捉える。優しいアメジストのような輝きを持つ母の瞳と同じ色の眼を、少女は持っていた。
すると、列車が出発する合図の汽笛を鳴らした。慌てて他の子供が乗り込んでくる。少女は邪魔にならないように、と傍に避けた。
母の手を握り、心配するな、と諭す。厳かな顔を母は一瞬見せたが、すぐに柔らかい笑顔へと変わり、娘を送る。
「大丈夫よ、だってあなたは私の子供なのだから。」
母のその言葉を聞いた娘は、緊張して硬かった表情が緩んだ。心なしか、とても心に響いた。
そしてゆっくりと列車は走り出す。
名残惜しい中、母娘は手を振りながら別れを惜しんだ。
- あなたを 第1章 一話 ( No.1 )
- 日時: 2022/02/26 17:19
- 名前: やまら (ID: HSijQ0Up)
Raynium side
母と別れたレイニウムは、空いているコンパートメントを探す。直ぐに空いたコンパートメントが見つかり、荷物を下ろす。一息つこうとしたのもつかの間、ノックが聞こえた。ふだんは性格のせいで怖がってしまうのだが、これだけははっきりとわかる。自分がいるコンパートメントに対してのノックだということを。恐る恐るドアを開く。
すると、可愛らしい綺麗なブロンドの髪をした女の子と、黒髪を短く切った髪の男の子がいた。
「ごめんなさい、近くに空いているコンパートメントがなくて。ご一緒してもいいかしら?」
「僕からも頼むよ。」
成る程、彼女らはコンパートメントが空いていなくて困っていたのか。確かに自分は人見知りだが、自分の正義感が疼く。そうなれば答えは簡単だ。
「ええ、良いわよ。私はレイニウム。レイニウム・アンジョーナよ。よろしくね。」
できるだけ人見知りなことがばれないように、吃らない等に。ゆっくりゆっくり喋った。
「よろしく、アンジョーナ。私はスライネ・ルドヴァン、こっちはノア・ストロング。」
「僕のことはノアって呼んで!」
「私はスラーでいいわ。」
いきなり愛称で呼んでもいいのかしら、と遠慮気味に思ったが、呼んでくれ、と言っているのならばそれに応えるまでだ。
「じゃあノア、スラー。改めてよろしく。私はレイニーって呼んで。雨って意味だけど気に入ってるの。」
私のことも愛称で呼んでもらおうと思った。レイニーは雨の日、という意味だが、静かな空間が好きな私はこの愛称が気に入っていた。
「素敵な愛称ね!私は雨、好きよ。」
「僕もだ。箒が苦手だから雨の日は乗らなくて済むんだ。」
とノアははにかみながら言う。スラーは雨の時の音が気に入っているそうだ。彼らが雨を好きと言ってくれて、少し嬉しくなった。
自己紹介が終わったところで、二人に座って、という。荷物を椅子の下に滑り込ませると、ノアが話し出した。
「君たちはどこの寮に入ろうと思ってるんだい?」
「寮って何?種類があるのかしら?」
すかさずスラーが聞く。どうやら彼女はマグル生まれのようだ。
「ホグワーツには四つの寮があるのよ。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフの四つ。グリフィンドールは勇気のある人たちが入る寮。スリザリンは狡猾な人が入る寮。レイブンクローは勤勉な人が入る寮。ハッフルパフは誠実で忍耐力がある人が入る寮。」
できるだけわかりやすく説明する。聞きながらスラーは自分はどの寮に入るのか考えているようだ。
「ありがとう、レイニー。多分私はハッフルパフかしら、私が誠実で忍耐力があるかどうかはわからないけど、勇気があるわけでもないし、狡猾な方でもないし、それに私、勉強が苦手だもの。」
スラーが饒舌に話す。するとそれに応えるようにノアは、
「僕はレイブンクローかもね、でもハッフルパフかも。知識欲はあるけどそこまで勤勉なわけではないかな。僕は純血主義じゃないし、なんなら半純血だ。けど僕のうちの家庭環境はあんまりよくないから忍耐力は人並みよりはあると自負しているよ。」
「そうなのね、私は…。レイブンクローかしら、毎日のように本を読んでいたから。」
レイニウムも答えた。
「そう言えば、レイニウムってマグル生まれなの?」
「いいえ、純血ではあるけれど、微妙なところね。」
「「微妙なところって?」」
「それはね…」と言おうとした瞬間にドアからノックがした。恐る恐る開けてみると、同い年くらいの男の子が二人立っていた。一人は鳶色の髪の毛にグリーンの瞳の子、もう一人は小柄でアッシュグレーの髪の色の男の子だった。
「突然ごめんね…。彼の、ピーター・ペティグリューの鼠を知らないかい?」
話し出したのは鳶色の髪の子だった。
「いいえ、見なかったわ。ごめんなさい。」
「僕も見ていないよ。」
「わ、私も。力になれなくてごめんなさい。」
「そうか。ごめんね、邪魔しちゃって。」
そう言って二人は去っていった。
ドアが閉められた瞬間、二人の目は一気に私の方を見た。
「「それで?微妙なところって?」」
あまりにもシンクロしたものだから驚いたが、深呼吸して話し出す。
「え、ええ、その事ね、実は私は隣の国のベルギーから来たの。お父さんの仕事の関係で、イギリス魔法省に出入りしないと、い、いけなくなったから、こっちにやってきたの。私たちはベルギー生まれの魔法使いで血をつなげてきたけれど、度々イギリス人の血も入っていたわ。そ、そのイギリス人は迫害を受けてきたらしくて、その人達を私の一族が受け入れたの。い、今となっては彼らの生まれはわからないし、迫害、と言ったから、マグル生まれの可能性も、あって、微妙なところなの。」
「へえ、でもレイニー。君ってすごく英語が得意だね。」
「ありがとう。こっちに来る前、に反吐がでるほど勉強したわ。」
「とっても上手。もう本当にイギリス生まれみたい。」
そんなに褒められると自分の勤勉さもあって良かった、と思う。
「あ、ありがとう。スラー、ノア。けど私、去年イギリスに来たばかりで、あまりイギリスの魔法界について知らないの。ダイアゴン横丁とホグワーツのことしか知らないくらい。」
「それを言うなら私だって同じよ。だって誕生日の日にいきなり手紙がやって来たんだもの。最初は信じなくて何かの悪戯かと思ってその紙を捨てたんだけど、次の日に花の水を変えるために水道の蛇口を捻ったら手紙が出てきて家族みんなで仰天よ。」
スラーが可笑しそうに言う。確かに普通の日常でそんな不可解なことがあったらそんな反応もする。
「それじゃあ一番知っているのは僕なのかな、入学してわからないことがあったら僕に聞いて。頼りになれるかわからないけど。」
「わあ、とっても心強いわ。ねぇ?レイニー。」
「うん!そうね!頼りにしてる!」
「や、やめてくれよ。プレッシャーがかかるから。」
そんな他愛もない話をしながら、時は過ぎていった。
車内販売していたお菓子を買って食べていると、辺りが騒がしくなった。
「ねえ、二人共、そろそろ着替えの時間だよ。制服に着替えなくちゃ。」
「ええ?もうそんな時間?」
スラーが名残惜しそうに言う。
「先に着替えていいよ。僕、通路で待っているから。」
「ありがとう、ノア。レイニー、早く着替えてしまいましょう。」
「ええ。」
そう言うと、ノアはコンパートメントから出て行った。すかさず着替えを取り出すと、サッと着替える。服をたたんでしまうと、ちょうどスラーも着替え終わったらしい。ノアを呼ぶためにコンパートメントから顔を出すと、ちょうどノアがいた。
「ノア、着替えが終わったわ。次どうぞ。」
「わかった。交代だね。」
ノアがコンパートメントに入り、スラーが出る。待つ間に、少し窓から外を覗く。
そこから見えたのは大きな大河がサラサラと流れている光景だった。周りは木々が生い茂り、空気は澄んでいる。深く深く深呼吸をし、窓を閉めた。
すると、あの時の鳶色の髪の男の子とアッシュグレーの髪の男の子を見つけた。
近くに寄るが、なかなか話しかける勇気が出ない。
「ねえ、お友達の鼠は見つかった?」
と声をかけたのはスラーだった。
その二人は振り返ると笑みをこぼす。
「ああ、あの時の。邪魔してごめんね、あのあとすぐに見つかったんだ。ピーターも喜んでいるよ。ね、ピーター?」
そう言うと少年はアッシュグレーの髪の男の子の襟をぐい、と引っ張る。息苦しさで気づいたのか、彼もこちらに振り返る。
「あ、さっきはお邪魔して、ごめんなさい、僕、ピーターっていうんだ。ピーター・ペティグリュー。よければ友達になってくれる?僕学校で友達を作る自信がなくて。寮関係なく仲良くできる友達が欲しかったんだ。」
「勿論よ!私はスライネ・ルドヴァン、こっちはレイニウム・アンジョーナよ。よろしく、ペティグリュー。」
「よ、よろしく、ピーター。私のことはレイニーって呼んでくれると、嬉しいんだけど…。」
「そっか!よろしく!レイニー。僕はピーターでいいよ。ルドヴァンはなんて呼べばいいかな?」
「スラーでいいわ。」
「じゃあ、レイニー、スラー、他に誰か友達がいたらよろしく伝えて!ピーターペティグリューって人が仲良くなりたいって!」
「ああ、それならノアがいるわ。今着替えているのだけれど。」
「僕のこと呼んだ?」
突然コンパートメントから出てきたノアは聞いてきた。ちゃんと着替えているようだ。
驚いて、スラーと顔を見合わせる。一瞬の間見つめ合っていたが、クスリ、と笑い合った。
「紹介するわ、彼がノアよ。」
強引に話を進め始めたスラーに吃驚したが、彼女の声に反応して自分も頷く。
「え?なに?……あ!君さっきの!ああ、鼠は見つかったかい?」
ノアはさっきの男の子だということを認識して質問を投げかける。
「うん、邪魔してしまってごめんね、おかげさまで見つかったよ。僕ピーター・ペティグリューっていうんだ、君はフルネーム、なんていうんだい?」
「僕はノア・ストロング。」
「「僕と友達になってくれない?」」
ぴったりとかぶった声が少し響く。二人は笑いあい、握手した。
ホグワーツはもうすぐそこだ。
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