ダーク・ファンタジー小説
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- その足、あたしにちょうだいよ【ホラー】
- 日時: 2022/03/09 20:38
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: NdcMw1Hu)
こんにちは。シャードです。
今回はラストが見えてるので割と早く走り切るかなぁと思いながら書いております。
微妙な百合、グロ要素が入るかと思われますので、閲覧は自己責任でお願いします。
【目次】
第一話 >>1
第二話 >>2
第三話 >>3
最新話 >>3
- Re: その足、あたしにちょうだいよ【ホラー】 ( No.1 )
- 日時: 2022/03/09 19:59
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: NdcMw1Hu)
第一話【絶望】
とある学園は、陸上部の強豪校である。
そして彼女は、その学園に通い、陸上部のエースとして生活していた。
何よりも愛している陸上の、憧れていた強豪校に入学できた時は、本当に嬉しくて、思わず涙が頬を伝った。
一年生のうちから大会に何度も出場し、その界隈ではそこそこ名が知れた。
―――しかし、名声というのは時に、嫉妬や恨みを引き出してしまう。
「沙羅川メクさんですか?」
部活の練習終わり。校門を抜け、家路をたどっていると、他校の女子数人に声をかけられた。
ライバル校の制服を着ている。もしかしたら、陸上部の人かもしれない。
「はい!」
自慢の元気よさで返事をし、ニコリと微笑む。
「よかった、人違いだったらどうしようかと……あの、私たち、沙羅川さんのファンなんです!」
「えっ?」
「こないだの大会、私たちも出ていたんです。前を走る沙羅川さんの姿が、すごい綺麗で……」
数人、見たことあると思っていたら、やっぱりだ。
褒め言葉は、素直にうれしい。
メクはその気持ちを思いっきり前面に出し、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます! うれしいなぁ」
「あの、よければ一緒に下校してもいいですか?」
「もちろん! よろしくお願いします!」
ニコッと笑い、その後は他愛のない会話をしながら帰り道を歩いた。
途中信号に引っかかり、ついてない、と思いながら立ち止まろうとする。
―――不意に、背中を押される感覚がした。
「え?」
体が道路に押し出され、倒れる。めったにないが、何か躓いたのか、と思う。
膝を擦りむいたのか、少し血が出ている。やってしまったと思いながら、立ち上がった。……そんなことを、確認してる暇は無かったというのに。
大きなクラクションの音と、ブレーキの甲高い音。前を向いた時には、大きなトラックが迫っていた。
目を覚ました時に見たのは、見知らぬ天井と、カーテン。それから、点滴の袋。
ピッ、ピッ、ピッという電子音が耳に聞こえるが、しばらくは思考がボーっとしていた。
病室に入ってきた母親の呼びかける声に、ようやく思考がはっきりしてくる。
医師の人に質問され、それに答えていく途中、メクを酷い焦りの感覚が襲った。―――足の感覚がない。
布団をバッとめくると、包帯に巻かれ、指先が真っ白な足が、そこにあった。病的な程ひどい白色は、メクの健康的な足とは程遠かった。
「……言いづらいですが……恐らく、走ることは二度とできないでしょう」
ひどい耳鳴りがした。
その言葉を噓と、信じたかった。
「あぁ……」
小さなうめき声が出て、その後は―――
「ぁああああぁぁあああぁぁぁあああ!?」
ただただ、泣き叫んだ。
- Re: その足、あたしにちょうだいよ【ホラー】 ( No.2 )
- 日時: 2022/03/09 20:14
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: NdcMw1Hu)
第二話【希望】
メクは事故に遭った後、数週間眠っていたらしい。
短く切っていた髪は、肩まで伸びていた。
病院から退院し、家に帰り自室の鏡を見たとき、自分の髪と同時に、顔を見た。まったくと言っていいほど生気がない。
数日の間、学校に行く気が起きず、一生の相棒となろう車イスで部屋を動き回っていた時、鏡に映る自分と目が合った。
「……ははっ」
ゆるく笑い、腕で体を支えながら車イスから降り、ベッドへ飛び込む。
もう何度泣いたか、分からない。
泣くのも疲れて、笑った。それは己への嘲笑か、残酷な世界への恨みか。
いっそ殺してくれればよかった。陸上が出来ない人生に、メクは生き甲斐を見出せずにいた。
ふと、枕元に投げ捨てたスマホが光る。
親友である、愛鷹山陸の文字。彼女のアイコンは、メクとのツーショットの半分だ。もう半分は、メクが使っている。―――大会の後にトロフィーを掲げて撮った物。前は見るだけで嬉しさがこみあげてきたそれを、見たくなくて、いつもすぐに切っていた。けど、そろそろ……向き合わなきゃな……。
スマホを手に取り、電話に出る。
「陸?」
『もしもし、メク? ほんとにメクだよね?』
「正真正銘の沙羅川メクだよ」
小さく、呆れたような声で言うと、しばらくは沈黙が響いた。
『退院、おめでとう』
沈黙を破り、陸から祝福の声。
「どうかな? もう、陸上はできないのに……」
『……コーチがね、走ることはできないけど、マネージャーとして陸上部に残ってくれないかって』
「……マネージャー……か……」
少しだけ、顔を出す希望。
大好きな陸上は、もう二度とできない。けど、サポートという面だけでも、陸上に関われるのは、いいんじゃないだろうか。
「分かった。やる」
『本当に!?』
「……明日から学校、行くよ」
『うん。……ねぇ、メク。私ね、メクがもう走れないって聞いて、すごくつらかった。……けどね、何よりも、メクが生きてることがうれしかったんだよ』
「……うん」
涙は、これで最後。
神様、もう泣かないから、最後に、許してください。―――嬉しさから来た、この涙を。
- Re: その足、あたしにちょうだいよ【ホラー】 ( No.3 )
- 日時: 2022/03/09 20:37
- 名前: シャード・ナイト☪︎*。꙳ ◆GHap51.yps (ID: NdcMw1Hu)
第三話【陽だまり】
陸と電話越しに会話した翌日。
車イスを動かしながら、学校へと向かう。
その最中、久々に会う顔に何回も声をかけられた。
家を出たときにはたった一人で車イスを動かしていたのに、気付けばメクは友人に囲まれ、車イスを押される形で登校していた。
久しぶりに母以外と対面でした会話は、ちょっと……いや、凄く楽しかった。
十字路に差し掛かると、遠くから走るような足音が聞こえる。―――聞きなれたその音に、メクは思わず笑みをこぼした。
「メクーーー!!!」
元気よく走って来て、近くに来たあたりでスピードを落としてからメクに抱きつく陸。
「陸」
「きたきた」
「陸ちゃん、メクちゃんがいない間ずっと元気なかったんだよ」
「手術中はもう放心状態」
「え、そうなの? それは少し見たかったな」
陸は元気を絵に描いたような人で、ちょっとやそっとでは滅多に落ち込みやしない。だからこそ、少し見たかったという気持ちと、自分のために落ち込んでくれたことの嬉しさがこみあげてきた。
「意識取り戻した報告が来た時の万円の笑みとかほんとにわかりやすかったよな」
「その後すぐメクちゃんの病院に走ったんだよ。授業中なのに」
「えぇ!?」
「あーもう、そんな話いいよぉ! ほら、どいて! 私が押す!」
お見舞いに来なかったということは、気遣った先生や母が止めてくれたのか、それとも引き戻されたのか―――そんな考えを突き破るように陸はそう言い、車イスを押している子と車イスの間に割り込む。
まったくもう、と苦笑しながらも、陽だまりの中のような空気は、凍りかけていた陸の心を段々と溶かしていった。
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