ダーク・ファンタジー小説

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Last Night
日時: 2022/03/30 09:50
名前: ぱもsi (ID: Mj3lSPuT)

窓の外は、土砂降りとも言えるような雨だった。

「寒いね」

亜麻色の長い髪の少女、るりが隣のダークアッシュの短い髪の少女-らいにそう囁いた。

「降ってきたのが夜で良かった」

らいはそう言ったっきり、もう何も喋ろうとはしなかった。
狭く薄暗い部屋の中で、どこか寂しいような、静かで眠たい空気が流れた。

「疲れたね」
「うん」

雨音にかき消されないように、るりはらいの耳元で言った。
今日、何かやり残したことはないだろうか。
したいことはしたし、行きたいところにも行ったはず。
そのせいで、活発なるりはともかく、普段あまり外に出て動かないらいはもう体の限界を感じていた。
でも、未練はないだろう。

外から、小さな子供の元気な声と、幸せそうな母親の声が聞こえてきた。

「元気だね」
「ね、るりみたい」
「えっ?」

るりは一瞬きょとんとして、それからすぐに意味を理解したのか、むう、と頬を膨らませた。

「わたしはもっと大人だもん」
「はいはい」

そういう言葉のせいで、子供っぽく見えるんだろうな...と思い、らいは思わず小さく笑った。

「これで、最後...」

自分に言い聞かせるように、消え入りそうな声でるりが言う。

明日、二人きりで出かけ、そのまま二人は帰らない。
明日の今頃には、鼓動も脈も、もう、無い。
だから、二人にとって、夜はこれで最後だ。


「らいと過ごせて幸せだったよ。ありがとう」
「よくそういう台詞言えるよね、るりは。」
「らいは言ってくれないの?」
「今度ね」
「わたしたちに今度は来ないよ」

淡々と進む会話も、美味しい食事も、綺麗な情景も、いつも通り。
明日居なくなるだなんて、まるで嘘のようだった。


「ねえ、今、幸せ?」

るりがらいに問う。

「明日」
「え?」
「明日、言ってあげる」

悪戯っぽく笑いながら、らいは言った。

「わたしは言ったのにー、ずるい」

もう、答えは判っているというのに。
未練なんて無い。
分かりきったことなのに、どこか寂しい風が二人の心に吹く。


ベッドに入っても、二人は話すのを続けていた。
言っていなかった自分の話とか、過去の話とか、綺麗だった空の話とか...
話題を見つけて話していくうちに、お互いのことを知っていると思いこんでいたけど、本当は全然知らなかったことを知る。
他の人が寝静まった後も、二人だけが絶えず話を続けていた。

二人が瞼を閉じたとき、最後の夜は別れを告げた。

今、この時。
まだ、二人には鼓動も脈も生温かさもあった。
明日の今頃には、無くなってしまうものたち。
それでも、まだ、二人の体には存在していた。
生きていた。