ダーク・ファンタジー小説
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- あぐら椅子探偵と寝椅子死体少女【6/11分更新!】
- 日時: 2022/06/10 23:46
- 名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: vWhir.lo)
少女は優しく問いかけた、
「私が殺された真相を見つけてくださる?」
探偵はため息ともに答えた。
「……良いだろう、累計何回目かの君の殺人事件の謎を解くとしよう」
◆◇◆◇◆◇
-目次
OP.1【ねぇ、探偵さん】
>>1
EP.1【9月の花】
>>2,>>3,>>4,>>5
OP.2【故郷の日本人形】
EP.2【なにしかないのに】
EP.3【亡骸の歌】
EP.4【知らんがな】
EP.5【あまのじゃく】
◆◇◆◇◆◇
初めまして、シリアスダーク初挑戦の初心者です。通りすがりの俺略して通俺と申します。
人懐っこいやつなので一言二言の感想をもらえれば泣き叫んで喜びます。
今回は短編ミステリー物ですが、本格的とは呼べないでしょう。
移動の隙間時間にでも読んでもらえれば幸いです。平日の00:00に定期的に投げていけたらなと思っています。
では、よろしくお願いいたします。
- OP.1【ねぇ、探偵さん】 ( No.1 )
- 日時: 2022/06/06 18:00
- 名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: vWhir.lo)
「──ひどく簡単で、悲しい真実をお伝えしなければならない」
雨音響く小さな事務所の中、買ったばかりであろう木の匂い漂うテーブルの上。
客人用のコーヒーカップを置いて、湯気が湿気の一部となって消えていく。
カビ、生乾きに近い異臭をかき消すそれは、この場の二人にとっては清涼剤であった。
「……」
「ボクだってつらいさ。君とは初めて会う仲じゃあない。君の恥ずかしい姿だって見てしまったほどに縁深い。
だから、こうして告げるのも断腸の思いだと理解してくれると助かる」
本意ではないんだよ、たった数文字を回りくどく話すこの男。
季節を感じさせない厚手のコートにワイシャツ、地味の中に埋もれる派手なネクタイ。今度は実用性を重視した、薄い縦じまの入ったスラックス。
ちぐはぐな組み合わせを好む、この部屋の主……探偵はとにかく大げさに語る。
「はぁ、さっさとお伝え願えますかねぇ。迷探偵さん?」
それに見向きもせず、少女は次を促す。
かび臭いエアコンをやたら動かすものだから、部屋が寒くて大げさなのでは? そう彼女は思った。
皺だらけのセーラー服、規則正しいスカートの長さでは厳しいものがある。毛布の一枚でも寄越してくれないものかと念じる。
「……こういった前置きは嫌いですか?」
「好きではないですね」
少女が切り捨てた。思わず咳払いをして探偵は間を図る。
……コーヒーをぶちまければその仮面は剥がれるかもしれない。
一瞬コーヒーカップに手が伸びれば、探偵が口を開くのはほぼ同時だった。
「では単刀直入に。残念ながら貴女は──死んでいます」
「知ってますけど」
何をいまさら、ゴクリと黒い液体が彼女の体内に流れていく。
決して、滴り落ちたりしない。胃という器があるからだ。
「飲む必要あるのかい幽霊さん」
「ノーコメントで」
セーラー服に袖を通すその存在は確かにそこにいる、だが死体だと宣言されるし当の本人は飲食をする。
部屋を冷やす空気は機械から。
彼女が死体らしい要素はどこにもないというのに、2人は確信をもって「少女は死んでいる」を言い切る。
「じゃあ今日はお茶請けはいらないかな?」
「もらいますけど」
なんとも、奇妙な光景だ。
探偵は独り言を聞かせ、棚に足を向ける。
戸棚には探偵が集めた覚えのある菓子がたくさん入っているが、やはりどうしたものかと頭を悩ませる。
「うーん、幽霊の依頼なんてそうそうないから、どうもてなしていいかわからないな」
「お構いなく、せいぜいあなたの1番大事な人と同じように扱ってくれればいいから」
王族か何かか、ツッコミを入れて、さてこんな日のティータイムに似合ったお茶菓子なんてあったかな。
また独り言を聞かせた。
「……ねぇ、まだ?」
暗に帰れと言っている。聞くわけがないけれど。
「さっさとお菓子と真実を出してくださいよ銘探偵さん」
「さらりと格の高いお茶請けを要求する君のずぶとさには恐れ入るしかないね……真実の方はお出してもいいけどさ」
こんなものしかなかった、そう言い訳をして探偵は在庫の中で一番安いクッキーを机の上に置いた。
円の形をした缶の中には素朴な味のクッキーがたくさん入っている。質より量、そんな一品だ。
皿の上に出すことすらしない潔さ。少女は容赦なく手を出す。
とりあえずお目にかないはしたようだ。
「……さて、お菓子も出したところでお待ちかね、推理ショーを始めるとしようか」
「ふぁやくひふぁって(早くしなって)」
「……被害者の態度じゃないなほんと」
ぼりぼりと音を立ててむさぼる淑女を前に、もはやこちらはリズムのかけらもない。格好つける頑張り一つ成り立たないと探偵は弱音を吐きそうになる。
しかし、ここからがようやく本番だ。
探偵は今日一番大きい咳払いをしてのどの調子を確かめた。
「では──この事件、君が望む謎解きのルールを確認しようじゃないか」
「……えぇ、どうぞ」
ゲームを始めるために、道化よりかは人形師のように。己を理想の回答者とするように演じ始める。
左手を挙げ、力強く指を一本一本立てていく。幼児にだってわかるようにそれが彼のポリシー……という訳ではないけれど。
「1つ、推理するための情報源の収集は何でもあり。ただし絶対この事務所から出てはいけない」
「スマホ、テレビ、あるいは窓から呼びかける。椅子に座りながらできそうなことだったらなんだっていい」
「出来れば、ね」
まず親指が立つ。1番太い指を支えるように少女が付け足す。
……今日はあいにくの大雨。窓を開ければ風邪をひくこと間違いなしだろう。更にスマホ、テレビの類は"なぜか"使えない。
砂嵐という今どき珍しい現象で意味をなさなくなっている。
「2つ、時間制限は君がシビレを切らすまで」
「ただし、最後のチャンスがある」
人差し指が立つ。銃の形になった手を顎に当てる。特に意味はない。
そしていつそのシビレがやってくるかもわからない。
「3つ、君は被害者として……嘘はつかない」
「逆に曖昧なことは言うかもしれないけどね」
中指が立てば、少女は当然のことだとまたクッキーを口の中に放り込んだ。幽霊が食べたものはやはり霊界などに行くのだろうか。
そんな疑問を立てながら次へ行く。
「4つ、事件の犯人は1人だけである。仮に疑わしいものが複数いたのなら1番怪しい者を犯人とする」
「どうしたって推論しかできないんだから、全員が犯人なんて言われたらつまらないでしょ?」
「道徳的な推理をする気も毛頭ないけどね」
薬指が立つ。いずれはこの指に指輪をはめるのだろうか。残念ながら探偵は今の今までそれらしい経験はない。
きっとこの先もないだろう。君の役目は別にあると心の中で励ました。
「……5つ、解決したら君はおとなしく帰る。ただし、解けなかったら──」
そうこうしているうちに残りの指は一つ。クッキーはもう半分に差し掛かろうとしている。
これは1枚も食べられなそうだぞ。溜息代わりに最後のルールを吐き出した。
「──君は、幽霊としてボクを呪い殺す。以上5つ、間違いないね?」
「ええ、相違ないわよ」
他愛ないことのように彼女は飲み込んだ。
視線一つこちらに寄越さず、砂糖をたっぷり入れたコーヒーをすする。
脅しではない、おやつの間にだってできることなのだろう。
幽霊というよりかは悪霊の類。
そう思うと探偵は確かな死の恐怖に……怯えることはなかった。
「なら問題ない。ボクに解けない謎は何一つないからね」
真実はいつもこの頭の中で丸裸にされてきた。つまり解けないなんてifは考えるだけ無駄なんだ。
自信にあふれた所作で椅子に座りなおす。
勢いよく座って、ほんの少しかび臭さがでた。思わず顔をしかめる。
「……じゃあ今日の事件をお話ししましょうか」
そんな探偵を見て、少女は楽し気に事件を語り始めたのだった。
--OP.1 【ねぇ、探偵さん】fin
◇◆◇◆◇◆
Next EP.1【9月の花】 >>2
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- EP.1【9月の花】-1 ( No.2 )
- 日時: 2022/06/09 00:02
- 名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: vWhir.lo)
──EP.1【9月の花】-1
◇◆◇◆◇◆
「舞台は何の変哲もない、とある高校の家庭科室で起きました。ええ、この高校は呪いやあるいは創作チックな風習はないことを確証しましょう」
己の身分をいまさら証明するように、少女は自分の首にかかった緩いリボンをいじる。探偵は特に気にすることもなく、頭に図面を描く。
「家庭科室の間取りは」
「説明する必要ありますか?
……はあ、面倒なことを聞くわね」
幽霊の少女に対し、探偵は紙とペンを無言で差し出した。しばし何か言いたげににらまれることとなったが、知らなければ何も始まらない。
やがて少女は根負けして仕方なくボールペンを右手で握った。綺麗な握り方だと探偵は心の内で思ったが、今気にすることではないなとその情報を頭の片隅にしまう。
「……廊下につながる出口は2つ、普通の校舎の3階に位置。教師用と生徒たち用の調理台が合計で7つ」
「生徒たちの机は縦の列が2、横の列は3……サイコロの6の目の形だな」
絵心がるのだろうか。文句をつけながらも少女はある程度把握できる図面を描いていく。
教師からして一番目に付くテーブルは手前の二つ。……そこに赤丸が付けられる。どうやらそこが事件現場らしい。
「教師の目の前で起きたのか?」
「ええ、より正確に言えば……調理が終わって実食した後」
図面の右上に[三・四限目 午前11:40頃]と書かれる。
そして現場の状態がある程度伝わったと思ったらしい、今度は小さい青い丸を図面に増やしていく。
……どうやら、当時その場にいた人間を表しているらしい。生徒と教師を含め三十人。
「……これは君が認識していた全員であって、家庭科室のどこかに誰かが隠れている。なんてオチは?」
推理ゲームにありがちな視点役の見落としを訪ねれば、少女は目に見えて不機嫌そうになった。
もう残り少ないクッキーを二枚重ねで噛み割って、バターの香り漂う溜息で返す。
「ないわ、そんな人いたらとっくに捕まってるでしょ。この日はいつも通り一人を除いて全員出席、部外者が入り込む余地はないわよ」
「一人? いつも休んでいる子がいるのか」
「特例でね、入学当初から学校に来ないやつがいるの。そいつは事件当時よりも前から遠くに行っていた。
だからそいつも残念ながら犯人なりえないでしょう?」
少し気になる話だったから確かに残念だったが、事件に関係ないならノイズになるだけかとまた頭の隅に置く。
探偵は、
・犯人は三十人の内、誰か一人
・その誰もがお互いの顔を知っている存在である
と前提を固めた。
「ちなみに私たちの班だけ4人だったの。生徒29名を6で割ったら足りないから」
そうして赤い大丸が付けられた調理台に記された、4つの青丸が強調された。このうち一人が目の前の少女らしい。
残りの調理台には五人ずつ、今のところ何もおかしいところはないようだ。
「話を戻すわ。その日のメニューは豚のけんちん汁におひたし。11:10、食べ終わって食器の後片付けをしたのが11:30」
最後に家庭科教師のつまらない話を聞いているうちに、事件は起きた」
「……(それで11:40)」
時系列にも不審な点はない。さてどうなると少女の喋りに注目する。
落ち着きながらも話していく様はやはり、自分が殺された事件にしては……そう疑問を持つに足るものだ。
しかし、ここで突如として少女は立ち上がった。あまりの勢いにコーヒーカップが揺れる。
「……どうし──」
「……! ッ、……!!」
聞く暇もなく、彼女は口元を手で押さえようとし、バランスを崩してソファに倒れこむ。顔色は見る見るうちに青くなっていく。
酸素……血液、果てどちらか切れたか、あるいはどちらもか。
右手はいまだに動いて吐き出そうになっているものを抑えようとしているが、左手は石膏で固められたようにピクリとも動かない。
「……シビレ、吐き気、呼吸不全か気道がふさがれたか?」
その様子を見て探偵は慌てふためくこともなく、さっと近づいて観察する。
動かなくなっている左腕を手に取り、手首に自身の指をあてた。
「当たり前だけど、脈もおかしいか」
「……ッ! コュッ! ……!」
今の幽霊少女が苦痛に苦しむ姿には同情するものがあるが、大事な症例の再現だ。
何一つ見逃してはいけない。そうこれは仕方のないことだ。探偵は自分の中の善性を説き伏せてそのまま観察を続けた。
「血の流れも遅くなっている。……腹も変か、体全体の動きがおかしくなっている」
やがて、少女の動きは鈍くなっていく。シビレが広がったのか、或いは酸素が行き届かなかったからか。
鼓動も急速に弱まっていく、幽霊にあるはずのない体のぬくもりすらも。
一分、一秒。見る。
そうして、
「……発症からおよそ2時間か」
その時間だけ、彼女は生きていた。
幽霊の心臓が、本来あるべき無音になるまで、探偵は彼女の死にざまをずっと、忘れることのないように目に焼き付けた。
◆◇◆◇◆◇
「私と、班のもう一人の子。二人ともが痙攣を起こして、そのまま倒れた」
「教室はパニックになっちゃって、救急車を呼ぶのが少し遅れたらしいわ」
「もう一人の子は処置が間に合った、私は……駄目だったらしいわ」
更に皺だらけになったセーラー服を治すこともせず、クッキーを再び彼女は口にする。
コーヒーはすっかり冷めきってしまったからか一瞥しただけで飲もうともしない。
「死因は?」
「心停止、体内からはトリカブトの毒がたくさん出てきたらしいわ……さて、探偵さん」
どうやらようやく謎解きのターンが来るらしい。汚れた床の掃除をしながら、探偵は顔をそちらに向ける。
「──私を毒殺したのは誰? 貴女ならわかるんでしょう?」
先ほどまで死が迫っていた……いやその逆、先ほどまで生に戻されていた少女が期待を込めた目で探偵を見ていた。
彼ははクッキー缶の中にはもう一枚もない、それを視界の端でとらえると、
「……コーヒーとお菓子のおかわりも必要そうだね」
そう笑顔で返した。
◇◆◇◆◇◆
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- EP.1【9月の花】-2 ( No.3 )
- 日時: 2022/06/09 23:05
- 名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: vWhir.lo)
──EP.1【9月の花】-2
「……前も思ったが、情報が足りなすぎる」
こもった湿気蔓延る事務所の中に、爽やな香り。一杯の紅茶がティーカップに注がれる。
金細工、バラの意匠が刻まれたソレは少しばかり探偵と事務所には不釣り合いで、恐らくは誰かのススメか、はたまた貰い物かと想像させる。
少女もそう思ったようで、意外そうにカップを覗き込んだ。
「前も言ったけど、何が大事かなんてわかってたらあなたを頼らないわ」
「頼るだけならマシだが、呪い殺そうとされている状況では文句の一つも言うさ。
……そのカップは事務所の開いた時の祝い品でね。生憎ボクは使わないからさっきまで箱に入ってたけどね」
あら、どおりで木の香りがするはずね。
少女はそう言って注がれたカップを傾け──飲み干し空にすると、探偵からティーポッドを奪い取り、自分で淹れ始めた。急須じゃないんだぞと少し文句を言いたげに席に座る。
背もたれに体重の乗せながら、仕方ないと頭を回す。
「まず、君の班にいた……調理台にいた人間について教えてくれ」
確か彼女の班は四人班、少なくとも三人ばかり怪しい人物がいるということになる。
それを知らないことには何も始まらないだろう。
「……ええ、いいけど」
三杯目の紅茶を半分残して机に置き、彼女は紙の端っこに英字が中心に入れられた青丸を書き始める。
A,B……と来て、急にFとSにアルファベットが飛ぶ。苗字のイニシャルか、それとももっと別の何かか。ふとよぎるがあまり今回の真相に関係はなそうだ。
「まず被害者かしら。私はAちゃん。次に、同じく体調を崩して病院に運ばれた……Bちゃん。
そして特に何ともなかった二人。S君にFくん。まぁ、いつものメンバーかな」
「……二人とは同じものを食べたのか?」
いつものメンバー、というなら顔見知り以上の仲だろうと推測をつけつつ質問を続ける。
仮に調理したものに毒が混ぜられたのなら、班の全員が体調を崩さなければ逆におかしい。
当たり前の疑問をぶつければわざとらしく彼女を手をたたいた。
「うーん……あ、S君はそもそも山菜が苦手だっておひたしは食べなかった。Fくんなんてコッソリ持ち込んだお菓子を食べて、何も手を付けなかった」
「……いろいろ言いたいことはあるけど、共通していることは"山菜のおひたしは食べなかった"っ、だね」
「そうね。せっかく用意したのにもったいない」
ずいぶんと問題児が班に紛れ込んでいたようだ。
しかしそれよりも山菜、そのワードが探偵には気になったようで彼は事務所の棚に向かい、一冊の本を取り出してきた。
『恐怖! ソックリ毒花大図鑑』と書かれたソレを開き、白い花弁の花を指さす。
ニリンソウ、そう書かれている。
詳細には、おすすめの食べ方として炊き込みご飯、天ぷら……おひたしとも記されていた。
「トリカブトとよく似ているということでよく話題に上がる花だ。……ちなみに誰が山菜を──」
素人の山菜の判別は難しいというけれど、逆に言えば故意に頼らずとも毒物が手に入るということだ。
現状怪しいのはどう考えてもこのおひたしだと探偵は考えた。さてその入手先は……そう尋ねれば、待ってましたと言わんばかりに彼女が答えた。
「──私だけど」
「……まさかその辺で摘んできたなんて言わないよね」
いきなり事故による自爆を疑わないといけないのはひどいことだ。思わず探偵は心の内で天を仰いだ。
だがそれが気に食わなかったらしい、残していた紅茶をまた一飲みし、少女はくってかかる。
「まさか、ちゃんと検査されている"らしい"ところのネット販売を使ったわ。……ただ」
最初は語気が強かったが、すぐに収まり声が小さくなっていく。
これはあからさまだと探偵は思った。
「ただ?」
「……S君とFくんが食べなくて、Bちゃんが持ち帰る予定だったおひたしの中から……一本、トリカブトの茎が発見された」
それじゃあ、最初から分かり切っているじゃないか。探偵もわざとらしく答えた。
「……その中に微量にトリカブトが混ざっていて、起きた事故」
生徒がスーパーに行くことを面倒ぐさがらずにちゃんとしたところで買えばこんなことにはならなかったろうに。
きっと事件の全貌が見えた人はこう思ったに違いない。
やれやれそろそろ自分も一息付けそうだ。
そう、探偵はテーブルですっかり冷えてしまった自分のコーヒーを
「──そんな適当が最終的にこの事件のシンジツとして決まってしまった」
「……本当は違うにきまっている。その核心があるから脅しをかけてるの」
もう飲めなそうだと、残念そうに見下ろした。
そっと近くにタオルを添えると、新品だったマグカップが割れて、冷たい液体がタオルを浸した。
「何も壊すことはないだろう、お気に入り……になるかもしれない逸品だったのに」
「え、そうだったの? 値札シールついたままだったけど、220円税込みくん」
安物買いの銭失い……いやこの場合は似合わない。脳内ツッコミをしながら、探偵はマグカップの破片をゴミ箱に投げ捨てる。
今日は本当に何も口にできないのかも、そう思いながら別のコップを探す。
その間、
「……さて、じゃあ推理を詰めようか」
何となく見えた直感、推理と対極に位置するものにたどり着けるかどうか。
確かめることにした。
◇◆◇◆◇◆
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- EP.1【9月の花】-3 ( No.4 )
- 日時: 2022/06/10 23:47
- 名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: vWhir.lo)
──EP.1【9月の花】-3
探偵の推理は見切り発車で行われた。勝算は自信のみ
ある種「こうだったらいいのに」たくさん思いつける人間が一番探偵に向いている。彼は常々そう思っていた。
だから、●●が犯人だったらいいのに。
そんなルートをいくつも頭の中で走らせる。
「推理とは、目的地への行き方を調べる旅行のようのものだ」
現場まで何を使えばたどりつけるのか、或いは乗り換えはどれくらい難しいのか。
多くの目的地へのルートを考え、比較する。
その在り方は……あまりにも危うい。背後から呆れた、或いは呆気にとられたような少女の声が聞こえる。
「……もう分かったの?」
「いや、外れていればまた最初から考え直しの思い付き」
証拠という名の乗り場のヒントもない、仮に現場が都会の街通りであったなら道に迷うしかなかったろう。
だがしかし、どうもこの事件にその気配はない。何なら峠もないかもしれない。一種の不完全燃焼の匂いを感じ取る。
「おひたしの材料、わざわざ山菜を使ったみたいだけど……ほかの班もみんな山菜を?」
「……ほかの班は……ほうれん草とか、大根の葉とか、その辺にありそうなものを持ってきていたわ」
「じゃあほかの班の生徒でも、教師の仕業でもない」
なんということだ、出発の前にみんなやる気をなくして帰ってしまった。探偵は簡単に言い切った。
容疑者リストから二十四人の名無し生徒と一人の教師が消え去る。
これには少女も思わず眉をひそめた。過程をすっ飛ばされ、置いてけぼりにされた気分なのだろうか。
「? なんで」
「まず単純に、時間がない。君、おひたしにする際の茹で時間ぐらいは覚えているかな?」
「……さあ、調理は全部Bに任せてたから」
「──1分もない。仮にくたくたの食感が好きで長くしたとして2分程度」
これぐらい常識だよね、棚から今度は『独り男子の初歩レシピ』とついた本を出し、椅子に座って読み始めた。
……目が泳いでる当たり、薄い知識が間違っていないか確かめようとしているようにしか見えない。
「茹でた後は冷水で一気に絞める……えーとその後は」
そしてどうやら目的のページにすらたどり着いていないようで、すぐに答えに詰まってしまった。
だからだろう、見かねた少女が思わずこぼす。
「水けを絞る」
ページをパらりとめくる前に、少女が答えた。
すぐにハッとして少女は口をつぐんだが、
「……鰹節とか……ごま、調味料に浸して味をしみこませる。……その間に、混ぜられたんじゃない?」
時間が足りないなんて反論は成り立たないだろう。そう言い切るために強く今度は探偵に問いただした。
しかしその指摘を、
「そうだね、意外と時間はあったのかもね」
「……は?」
あっさりと手のひらを返し、受け入れた。むしろ想定内と言わんばかりに笑う。
本はもういらないと閉じて机に置いた。
「……ところで、料理ならBちゃん一人にさせなくてもよかったんじゃ?」
「……別に、出来るからやる。なんていつでも成り立つ訳じゃないでしょ」
そういうもんかなー、そう言って探偵はもう一冊。先ほど出した植物の本と一緒に重ねるとしまうためにまた立ち上げる。
今日だけで棚と椅子を何往復したか。
もう目をつむってもできそうだなんて軽口をたたきながら……それにね、と付け足す。
「第一、班の人以外が料理にトリカブトを仕込むなんて……元から無理が過ぎる」
それはつまり、今さっきの料理のやり取りは全くの無駄足だと言い出したようなものだ。
機嫌が決して良くなかった少女の顔がさらに険しくなるが、探偵はあまり気にしていない。
「山菜、君が用意したらしいけどさ。事前にクラスメイトに伝えたのかい?」
「……それは、してない」
「なら、どうやって他の人が"ニリンソウに似ているトリカブト"を用意できるんだ」
少女は何も答えられずに押し黙る。答えようにも何の確証もない、偶然を叫ぶだけだ。
つまり反論にはならない。
「さて残りは3人。怪しいのはおひたしを食べずに体調を崩さなかったSとF」
残った四人の内、被害者自身であるAを除く。これで残りはBちゃん,S君,Fくんの三人だ。
探偵はもう一度椅子に座りなおして天井を見上げる。少しばかり殺風景でやる気が失せる。
ここから当てずっぽうで言っても33%の確率で当たる。
まあしないけれど、己には投げ出すよりもよっぽど簡単に正解を導き出せる頭がある。探偵は椅子の頭を後頭部でたたく。
「調理中、先生はちょくちょくは様子を見に?」
この凶行を止めるべきであった教師は何をしていたのか。まさかサボっていたわけではないよな疑いをかける。
「いや、巡回自体はしてた。でも危ない、困ってる、そんな班ばっかり見てた」
「少し気になったんだけど、調理はBちゃん一人。なら君たちは?」
「私? 私は盛り付け。SとFは皿並べ。役割分担ってやつね」
単なるパシリだそれは。
言いかけた言葉を飲み込んだ。とにかく先生も一人が頑張っている現状に目をつむり、ほかを回っていたなら三人の内誰かが仕込む瞬間がなかったなんて言いきれない。
これはここから詰めるのは難しそうだ……。
「なんだ、じゃあもう犯人は一人しかいないじゃないか」
何せ、もうほぼ詰んでいるから。
探偵は落胆したように力を抜いた。どっと椅子に体を預け、再度何もない天井を見てやる気を削ぐ。
「……まだ、何もわかってないでしょ」
……そうしているうちに、探偵の視界を彼女の顔が埋めた。
長い髪がカーテンのように彼女以外を隠し、じっと見つめてくる。
もう少し化粧でもすればいいのに、探偵はまた出かかった言葉を飲み込んで投げやった。
「いや、なんなら毒の混ぜ方の想定もついた。
──犯人はBちゃん、彼女が君の二回目の殺害犯だ」
真実への道を探す推理ショーの仕舞い。その言葉と主に。
◇◆◇◆◇◆
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- EP.1【9月の花】-4 ( No.5 )
- 日時: 2022/06/10 23:46
- 名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: vWhir.lo)
──EP.1【9月の花】-4
最後の宣告は辛いものだ、故に人は甘いものを取らなければならない。
真実は大抵、明らかになったときに人を傷つけるくせして癒してくれたりもしないのだから。
なのに、人は真実を知りたがる。
「チョコ菓子は嫌いかな?」
「……普通、お高そうなら好きに傾くかも」
「なら良かった、君の機嫌取りに使えそうだ」
そう言って探偵が差し出したのは、金縁の小瓶。その中にはたっぷりのクリームとかすかに見えるスポンジケーキ、見て濃厚だとわかるほどのクリーム。
その二つが合わさって確かな重さを瓶に合わせ彼女に伝える。
これは重たい、先ほどまでクッキーを山ほど食べていたはずの彼女も一瞬ひるむ。
「……ティラミス、苦手かな」
「……不思議に思っただけよ。何か、足りないって」
探偵からスプーンを受け取ると、そっとクリームに少女は差し込んだ。その感触は通常のクリームよりもやはり重く、混ぜられているクリームチーズの強さが確かにあった。
クリーム、スポンジ、クリーム、スポンジと四層になっている断層を横から眺めながら、それをスプーンでこそぎ取る。
一口、口の中に入れれば、スポンジケーキのしっとりとした口触り、仄かな苦み。それを和らげながらも口の中を埋め尽くそうとするチーズと甘み。
けれどその隙間を縫って苦味が味覚を冴えわたらせる。
なるほど、上等だ。少女は満足げに頷いた。
「言いにくいけど、まだそれ未完成なんだ」
途中で硬く止まったが。
「……」
「視線が冷ややかなのは、熱い紅茶が欲しいからかな」
生憎だけど今日はもう茶葉がない。冷めたもので我慢してくれ。そう言いながら、探偵は"茶色の粉"を取り出した。
ココアパウダー、少女に目配せをして彼をそれをティラミスの上にかけた。
白いクリームの上に、カカオの粉雪が降る。
「チョコの風味が強く、バランスが良くなるらしい」
「……ま、確かに」
かけ終わるとさっさとまたスプーンを突き刺し口に運んでいく。文句の一つも言いたいところだが、今喋れば甘い言葉になってしまいそうなほどの完成度だ。
少女は何も喋れずに、ただデザートを味わい続けた。
「──さて、どうやって毒を混ぜたか。なぜBちゃんを犯人としたのか。説明するとするよ」
「……まだ食べてるんだけど」
「まずこの事件において、Bちゃんの行動をおさらいしよう」
ティラミスの八割方が消えたところでの訴えは微塵も考慮されなかった。
探偵はさっさと椅子に戻り、また天井を見つめる。
「彼女は今回の調理実習において、調理の全工程を担当した。君たちは皿や作ってもらった料理の盛り付けなどをしただけ。
君が家庭科室で山菜を出すまでにトリカブトがどこかで混ぜられでもしない限り……この事件、毒の植物を混ぜ込めたのは彼女一人だ」
ならばこちらも気にせず……とするにはあんまりな暴論が飛んできた。思わず手が止まる。
「……Bちゃんがけんちん汁を作るとき、山菜から目が離れた可能性もあるのに?」
「こっそりと、調理に一切参加しない男子がトリカブトを足すのか。ずいぶんとリスキーだ
……ああいや、仮にBに山菜を渡す前に二人に混ぜられるチャンスがあったなら教えてほしいが」
「……」
仮にも食材を持ってきた君が足すならまだしもね。そう付け足して反論を封じた。
可能性の話をつぶせるのはまた別の大きな可能性のみ。いま彼女の頭の中にはそれは存在しない。
どう考えても無いものは無いのだから仕方がない。
「さて、これでBは君たちの目をかいくぐり毒を混ぜられる唯一の人間となった。
故に、容疑者たちの中で一番怪しいのは彼女だ。……時に君、ゴマは好きかな?」
今のところ一番頼れるルートはBだけだ、と推論で終わらせるにはまだ納得が足りない。
そんな少女の意をくんだのか、探偵は顔をこちらに向ける。つまらなそうな瞳と、楽しそうに不自然に吊り上がった口角が少々気味が悪い。
「ゴマすりならいくらでも受け付けるけど」
「残念だけどもう今日の茶菓子は品切れなんだ。質問を変えよう、おひたしはゴマをかけて食べるタイプだね?」
探偵が断定気味に尋ねれば、少女は今度こそ「は?」と聞き返すほかなかった。
なぜ知っている。そう口にするまでもない。
「君、さっき言ってたじゃないか。冷水の後、"ごま、調味料に浸して味をしみこませる"って
そこでひっかかってね。ボク的にはそれはゴマ和えって呼ぶんだけどさ……」
「……だから、どうしたんですか?」
思えば探偵にとってそれが一番の思い付きの材料だった。
不意に出た発言というのは、にじみ出た出汁。素の顔を推理するのに重要な要素だと彼は考えたらしい。
「いやね、もしそんな君が実食の際だよ。出てきたおひたしにゴマがかかってなかったら?
そしてそんな君を思いやって、目の目にゴマの容器があったら?」
「……」
沈黙は肯定。今まで何度も出てきた流れがまた決まる。
毒は盛られたのではない、自分が盛ったのだ。好みを把握され、行動を読まれ、まんまとはまったのだと。
証拠なんて自分の証言しかないはずなのに、まるで頭を覗かれている気分だった。
「ゴマの容器の中には、細かく砕かれたトリカブト……種が混ぜられていた。なんで二人とも同じおひたしを食べて片方が助かったのかにも説明が付く。
まあ、調味料を誰が用意したのかはまだ聞いてないけど」
「その辺を用意したのは……Bちゃん」
「ならよかった。ついでに言えばおひたしの中に混ざっていたトリカブトの茎は、まあダミー兼、自分も体調を崩すための策かな。知ってるかい、トリカブトの毒ってのは一番根っこや種が毒性が強いんだ」
葉っぱ一枚で死んでしまった例もあるから、一概には言えないんだけど。
葉と根、種を比べれば十数倍近い差があると彼は語る。毒性についてよく調べたことがあるのだろう。
「少しの茎を混ぜてさっと湯通し。そのゆで汁を飲んでもBはトリカブトの毒による中毒なれるけど、
毒の粉を振りかけて食べた君とは段違いだろう」
「……」
「ゆで汁に"特性ゴマ"を溶かしその一部を飲めばちょういいかもね。鍋からも毒の痕跡が出てくる可能性もある」
「……」
今回の事件ではそういった調査は行われなかった。もし行われていたとしても"茹でる段階でトリカブトは混ざっていた"そう誤認させるための手口。犯人のあったかもしれない逃げ道も思いつきでせき止めた。
実際はBは疑われることなく、むしろ雑な食材の入手経路の被害を被った悲劇の人と言われるかもしれない。もしかしたらこれを気にパシリじみた生活がなくなるかもしれない。
知る術があっても使う気はない、探偵は思う。
「という訳でBちゃんは──犯人だと思うか、幽霊少女さん」
しかし、目の前の幽霊にできることなどもうほぼほぼない。
だからこそ、探偵はあえて尋ねた。以前と同じように。自分を殺した人間を定められるかと。
少女は聞かれると少し俯いた。もうほとんど中身のなくなった小瓶を通して、クリームまみれの景色を見た。
十数秒、時間が過ぎ去って。
「……正解。犯人は、毒のゴマで殺したの」
その日、最も彼女らしい。傲慢さが消えた、小さい笑みを見せた。
--EP.1【9月の花】fin
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