ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 緋姫物語
- 日時: 2022/06/13 18:02
- 名前: 朝日椿 (ID: cmgt0.v7)
エピローグ
登場人物(エピローグに出てくる)
烙瓔 らくよう
柊姫 しゅうき
緋の姫様。
人々の話題がそれでもちきりになったのは一体いつのことでしょう。
時は昔。烙瓔様という王様がお亡くなりになる直前にこんなことをお告げになりました。
「私が死んだあと、赤毛の娘が生まれるだろう。その子が成人となったら女王にするがよい。さすればこの国に平和をもたらすだろう。」
烙瓔様はその後眠るようにお亡くなりになったと言います。
烙瓔様がただの人ならば、臣下たちはその言葉を聞き入れなかったでしょう。
しかし、烙瓔様は先を読む力を持つお方でした。そのようなお方の言葉を無視できますまい。
烙瓔様の臣下たちは、貴族や役人の娘に赤毛の娘がいないか必死に探しましたが、見つかりませんでした。
広い世界のことです。臣下たちは、平民や奴隷の中からも赤毛の娘を探し始めました。
そんなある日のことです。
王宮からそう遠くないところにある役所から、ある連絡が来ました。
その連絡に臣下たちは驚き、急いで町一番の遊郭に駆けつけました。
そこには、その遊郭で身を売る遊女の腕に玉のようにかわいい赤い髪の赤ん坊がいました。
臣下たちはその赤子を母の手から取り上げ、王宮へ連れていきました。
烙瓔様が亡くなられて約一年のことでございました。
- Re: 緋姫物語 ( No.1 )
- 日時: 2022/06/13 18:12
- 名前: 朝日椿 (ID: cmgt0.v7)
十二年後。
後宮の奥深く、緋の姫様と呼ばれる先王の養女が暮らしていた。赤い髪、細い手足、大きな星のように光る目、ふっくらとした唇、鼻筋の通った鼻。
ひっそりと育てられた、その娘は柊姫という。
- Re: 緋姫物語 ( No.2 )
- 日時: 2022/06/14 16:20
- 名前: 朝日椿 (ID: cmgt0.v7)
柊姫の世話係は1ヶ月前に亡くなった。病死だったとなっているが実際のことはわからない。
侍女もいなかったので、新しい世話係が見つかるまで今は何人かの侍女をつけてもらっている。
「失礼します。新しい世話係を連れてまいりました」
弱々しい声か静かなこの蘭宮に水が染み込むようにすうっと消えていく。
「……、入って」
扉が不愉快な音を立てながらゆっくりと開いた。
ここにくる侍女はみんなそうだ。震えていて、目を伏せている。
どうしてこうもつまらないのだろう、と柊姫はため息をついた。
それは、私が先王の養女であるからだ。
先王の養女と言っても、そもそも柊姫は先王が亡くなったあとに養女になった。
だから先王には会ったことがないし、なぜ自分が養女となったのか柊姫はもう考えるのをやめて
いた。
「初めてお目にかかります。本日から新たな世話係になりました。蕾と申します。どうぞよろしく
お願いします」
だが、この男は違った。やさしさを身にまとい、穏やかな笑顔を浮かべ、柊姫の目を真っ直ぐ捉
えていた。
整った顔に、あまりがっしりとはしていない体、まだ若々しい。二十代後半だろうか。
伸ばしてある黒い髪を紐でくくりつけていて、青い目に白い肌。
そう珍しくない格好だったが、興味が湧いた。
「ご苦労でした。下がってよいです」
侍女にそう声をかけると、侍女はほっと胸をなでおろし小走りに部屋を出た。
「どうぞ自由に腰を掛けて」
自分より頭2つ分大きい蕾を見上げ、それから椅子から飛び降りて、柊姫は蕾の前に立った。
「よろしく」
そう声をかけると、蕾は丁寧にお辞儀をして柊姫の手に口づけを落とした。
「こちらこそ」
柊姫の人生の歯車が回り始めた
- Re: 緋姫物語 ( No.3 )
- 日時: 2022/07/26 14:45
- 名前: 朝日椿 (ID: cmgt0.v7)
蕾は前の世話係とは全く違った。
「柊姫、今日は街に行こう」
まず、言葉遣い。前の世話係はこんな言葉遣いをしなかった。別に気にしてなかったから柊姫も砕けた言葉遣いで喋ることにした。
そして外に行こうなど一回も言わなかった。
前の世話係は、ただおしとやかに、女の子らしくきれいな服を着て座っていることを望んだ。
勉学よりも、楽器や振る舞いを大切にした。
けれど柊姫は勉強のほうが得意で、侍女にお願いして本を持ってきてもらい、隠れて書物を読み漁っていた。
「私ね、街に行くの初めてなのっ」
「そうかい、でも今回はお忍びだ。自分が緋の姫だとばらしてはいけないよ」
わかった、と返事をしておく。
少し地味な服に着替えて、髪はなんの装飾もない簪でまとめた。
早速、宮の外に出ようとする柊姫を蕾が止める。
「だめ、ほら髪の毛をどうにかしなきゃね」
その後、草の根を使って柊姫の髪を黒く染めた。染めたあとは何度も何度も丁寧に櫛でとかす。
少し臭う髪に顔をしかめながら、柊姫は初めて見る自分の黒髪姿を鏡に映す。
「私には黒髪は似合わないね」
「まあ、そんなもんさ。さあ行こうか」
宮の外に出ることさえめったに無い柊姫にとって、街にいくのは大冒険だった。
きらきらと目を輝かせている柊姫を見て蕾は思わず笑った。
「まだ、宮の外に出ただけだよ。柊姫」
「でも、すごい。鳥も人も花もきれいだね」
今は夏。後宮の池には蓮の花が咲き始めている。
『人も』というのは後宮の妃たちのことだろう。
色とりどりの着物や簪に目をキラキラさせている。
「ありがとう蕾、私外に出られるのうれしい!」
12歳の娘とは思えない幼すぎる笑顔に蕾は目を見開いた。
「…そうか。よかったね」
なんとも言えない表情で蕾は柊姫の手を引きながら馬小屋に向かう。
馬小屋は王宮の中でも明るくのびのびとできる場所で柊姫もそこが気に入ったようだった。
「わあ、この草すっごくいい匂いっ」
「柊姫!草の上に寝っ転がらないでっ、立って!」
自由に遊び始めた柊姫を蕾が止め、馬小屋の中へ連れて行く。
白、茶、黒、馬小屋の中にはたくさんの種類の馬がいた。
「どの馬に乗るの?」
「この子だ、ハナ」
ハナは栗毛の雌馬だった。まだ大人になったばっかりの馬だったが、賢い馬で、蕾が名前を呼んでやると、ブルルッと嬉しそうに鼻を鳴らして頭をなすりつけた。
蕾は柊姫を抱き上げ、馬に乗せると柊姫を包み込むようにして乗る。
「うわぁっ、怖い」
あまりの高さに柊姫は驚く。
「大丈夫、前を見てごらん」
手綱を握ると馬がパッカパカッと歩き出し、馬小屋から王宮の外へと続く門に向かう。
「これは蕾様、どちらへ行かれるのですか」
衛兵が門から出てきて柊姫たちを止める。
「少し散歩に。夕暮れ時には帰ってきますよ」
「わかりました」
お昼どき、街は混んでいた。人でごった返した街を馬で歩くのは難しい。
蕾は、くるりと向きを変え別方向に馬を進めた。
「柊姫、今日は紅水に行こう。この人混みだと大変だろう。」
「うん」
正直、柊姫には紅水がどのような場所かわからなかったが、街の景色に見惚れるあまり首を縦に振ってしまった。
「紅水に行って何をするの」
「紅水には、友だちがいるんだ」
友だち…、と柊姫は口の中でつぶやく。
柊姫には友だちというものがよくわからなかった。
「友だちって何?」
「友だちかぁ。うーん、いつも一緒だったりとか、一緒にいて楽しい人かな」
「そっか!じゃあ、蕾も友だちだね」
「俺は、…‥ただの世話係だよ」
しばらく進むと紅水が見えてきた。
紅水は、情報屋や賊などのたまり場でとてもお姫様に良い場所とは言えない。
「ねえ、本当にここであってるの?」
さっきの場所と違ってものすごい強烈に鼻につく酒の匂いに柊姫は思わず鼻を手でおおう。
「ああ、ここだよ。柊姫、私から離れないように。ここでは顔が利くつもりだけど、人さらいはいつになってもいるからね」
蕾はある店で馬を止め、店から出てきた男の人に手綱をわたす。
「おぉっ、蕾!久しぶりだなぁ!!」
蕾につれられ、店に入るとそこには本当に賊がいた。
柊姫は驚き蕾の袖をしっかりと握り、隠れる。
「なんだ、お前しばらく見ないうちに嫁でも娶ったのか。しっかし、まな板な体だなぁ」
まな板、の意味はわからなかったがあまりいい意味ではなさそうだ。
ひょっこりと顔を出して、周りを見てみる。
台の上には本来食事が並べられるのだが、そこには剣やら斧やらが刺さっている。
カビ臭いし汗臭い、と思ったが口に出さないようにする。
「違う、わけあって今世話係になってるんだ。柊姫、挨拶して」
蕾にうながされ、前へと出る。
「私から?」
「ああ、目上の人には自分から挨拶するんだよ」
これにも驚いた。今まで目上の人には会ったことがないので自分から名乗ることもなかった。
外って面白い、と柊姫は思った。
「柊姫でございます。この度は突然のご訪問誠に申し訳ありません」
柊姫の挨拶には、そこにいたすべての人が驚いた。
「柊姫、言葉遣いはそこまで丁寧じゃなくてもいいんだよ。相手の身分と自分より年上かそれを見てうまく考えなきゃね」
「これまた、どこの箱入り娘だ…‥?お前も大変だなぁ」
苦笑いをしながら蕾は柊姫に教える。
蕾に違うと言われた気がして、柊姫はむすっとする。せっかく、上手にできたのにと内心思いつつも柊姫は素直にうなずいた。
柊姫にこういった言葉を教えたのは、前の世話係だった。彼女がこういった大人びた言葉遣いを好んだのでそのとおりに柊姫は従った。
が、これからはやめようとその時心に誓った。
「俺は、珈光だ。よろしくな、柊姫」
珈光、恐らく賊の長だろう。意外と小綺麗なんだな、と柊姫は感心する。柊姫にとって顔よりも清潔さのほうが大事なのだ。
派手な着物に、大きな声。30後半だろうか、髪には少し白髪が混じっている。
「んで、こいつらは俺の仲間。俺らは葉賊っていう家族なんだ」
後ろにいる大勢の仲間を紹介する。
「よろしくなー、なにかあったら金3枚で対応するぜ」
「ばかっ、子供がそんな大金払えるわけないだろう」
わははっ、と笑い声が生まれる。なんて温かいんだろう、柊姫は自分の胸がほっこりするのを感じた。
「嬢ちゃんは、いくつ?酒は飲める?」
早速柊姫は詮索好きなこの店で働く女の人たちに囲まれた。
「いやぁ、蕾がしばらく顔を見せないから何かあったとは思ってたけど、まさかこんなべっぴんさんをつれてくるなんてねぇ」
「あたしは隠し子かとおもいましたけどね」
蕾はここの葉賊の女たちが苦手らしく、苦笑いをしながら酒を一口飲む。
「まさかあ、もう恋愛は懲り懲りですよ」
どうやら蕾の恋愛事情は訳ありらしい。
「蕾って好きな人いるの?」
「うるさい、子供には教えませーん」
「ケチ!」
あははと蕾が笑う。少し酔っているのか、ほんのり頬が赤い。
その後は、蕾は女の人たちに囲まれてしまいつまらなくなった柊姫は珈光のところで遊んでいた。
そろそろ帰ろう、と声をかけられたとき珈光が柊姫と蕾を個室へ呼び出した。
「どうしたの?」
「嬢ちゃんのことですこしな。蕾、嬢ちゃん髪染めてるだろ」
ドックンと心臓が跳ね上がった。知られてしまったという恐怖よりも、もうここには来れないという思いのほうが勝った。
「外套も羽織って顔隠してたし、あんな言葉遣いも、礼儀もそこらのいいとこの娘でもそんなの身につかねぇ。いったいこいつは何者なんだ?」
「…、やっぱ珈光さんには言ったほうがいいかな。この子先王の養女、緋の姫なんだ」
蕾が申し訳無さそうに柊姫の方を見る。
「一度も外に出たことなくて、一人で寂しそうだったからここに連れて行こうと思ってね。葉族のみんなが面倒なことに巻き込まれないように、秘密にしようとしてたのに」
ふう、と珈光がため息をつくとさっきまで吸っていた煙草のにおいがほのかに香る。
「このことは、あいつらにも言わねぇが、なにかあったら頼れよ。俺にはお前も嬢ちゃんも、もう大切な存在になっちまったからよ」
けだるげに部屋から出ていく珈光を見届けて蕾は柊姫に「いこうか」と声をかける。
「じゃあ、また来るね。ばいばい」
珈光以外の葉族のみんなに見送られ、柊姫と蕾は王宮へと帰る。
もう空は切なげな色になり始めていた。
Page:1