ダーク・ファンタジー小説
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- エッグマン
- 日時: 2022/06/28 13:26
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/regist.cgi?mode=mente&f=13347
あらすじ
エッグと呼ばれる破壊兵器が人々から街を奪った世界。エッグと戦う組織、エッグマンの佐伯は組織最強と名高い少年兵、伊吹とバディを組むことになったが、二人による兵器殲滅活動は順調とは程遠く、コンビ解散の危機や死の危険も。
「伊吹くん、助けて!」
「え?なんで僕があなたを助けなきゃいけないんですか?
あなたが弱いのが悪いじゃないですか。」
そして、エッグを操る謎の男の出現により、二人の活動はさらに苛烈を極める。
破壊兵器とともにある二人の世界、二人の成長。
☆(こちらも——『狩人』とともに)超長編(の予定)です!本編、ご期待ください!
- Re: エッグマン ( No.1 )
- 日時: 2022/07/05 18:19
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/regist.cgi?mode=mente&f=13347
序章
廃墟の街に降り続く豪雨の中、ものも言わず立ち尽くす少女の姿があった。
少女の眼下には、かつて少女を「先輩」と慕っていた同胞の残骸が横たえられていた。
どうしてこうなった。
少女は己の無力を悔やんだ。
悔やんで、悔やんで、悔やんだ。
そして、悔やみきれないと悟ると、叫んだ。
獣のように叫んだ。
今日が雨でよかった。
少女のたった一つの幸運である。
苦しみの悲鳴も、生ぬるい涙もすべて雨が許してくれた。
「__________________!!!」
後悔を抱いた。
悲しみを抱いた。
怒りを抱いた。
苦しみを抱いた。
その時にあふれ出したすべての感情を抱いた。
やがて、涙が枯れた。
枯れると、少女は活力を失ったように力なく膝をつき、そのまま水たまりに額をこすりつけた。
「ごめん、ごめん、ごめん___!」
無力な先輩でごめん。
助けられなくてごめん。
役立たずな先輩でごめん。
雨と後輩の残骸が作った水たまりは、少女の戦闘服を赤黒く染めた。
序章 おしまい
- Re: エッグマン ( No.2 )
- 日時: 2022/09/09 12:04
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第一章
第一話
「やっば!遅刻じゃん!」
少女は悲鳴を上げる。
乱暴にドアを開け、自動二輪車のカギをとる。
最短距離で倉庫に向かうと、倉庫のシャッターが開いている。
パートナーはすでに目的地へ向かったようだ。
残された自動二輪車にまたがり、エンジンをかける。
「___。」
っこの!
エンジンかかんないんだけど!
何度かかけ直すと、5回目にやる気のない音を立てながら動き出す。
ブオオッと大きな音を立てて目的地へ向かう。
もう、彼との初仕事だってのに!
廃ビルの立ち並ぶ市街地に到着すると、ちょうど一体の破壊兵器が塵となって消えるところだった。
「よいしょっと」
のんきな声がした方向を向くと、一人の少年が腰に小刀をしまっていた。
「お疲れさま、伊吹くん」
声をかけると少年は怪訝な表情を見せた。
「…お嬢さん、誰でしたっけ?」
な、なんてこと!
「あなたの新しいバディにして、リーダーの佐伯よっ!」
熟考の末、「ああ!」と合点がいったように佐伯を見た少年、伊吹。
「冴えない佐伯さんね。」
「変なあだ名付けんなっ!」
ってか、私のほうが先輩なんだから。
まあ、初仕事は遅刻していいとこなしだったけど。
かくして、少年少女の兵器殲滅活動が始まった。
第一話 おしまい
- Re: エッグマン ( No.3 )
- 日時: 2022/09/30 10:03
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13347
第二話
「ねえ、聞いてよ。」
夜、自室でつぶやくのは佐伯遥(はるか)。
破壊兵器殲滅組織エッグマンのエリートだが、先日とあるトラブルに見舞われ本調子が取り戻せないでいる。
そんな彼女のことを思ってか、本部は組織の北欧支部から帰った組織最強と名高い伊吹を佐伯のバディとして組ませたのだ。
しかし___
「冴えない佐伯さん、だってさ___」
「ふふ、なんですかそれ。」
「わ、笑わないでよ。本気で悩んでんだから。」
「はいはい。」
佐伯の向かいに座るのは佐伯の信頼する同僚、宮野だ。
「だからさ、もっとこう___尊敬の念というかさ。あるじゃない。」
「先輩の威厳を保ちたいわけですね。」
「そうっ、それよ!なのにアイツときたら、生意気ばっかり」
「それは___遅刻、が原因じゃないですか?」
「ち、違うわよっ!だってあれはたまたま___」
「はいはい、先輩。明日は伊吹君との面談ですよ。今日は早めに休まないと。」
「うーん、でもさ___」
「電気消しますよ___」
「ちょ、待ってっ!」
「消ぉー灯ぉー」
暗転。
静かな夜なのに、胸の内だけが騒がしい。
「ねえ、宮野_____。」
「何ですか、先輩?」
「____。」
いろいろな言葉が頭をめぐる。
「___いや。何でもない。
おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」
「さて、伊吹くん。」
早朝、組織のカフェに伊吹と向かい合わせに座る。
「ん、冴えない佐伯さんじゃないですか。どうしたんですか。」
「呼び方ッッ!それ、禁止ッ!一応、先輩なんだからね、私。」
「そりゃ、わかりますよ。だから、最低限の敬意としてこうして敬語を使っているわけですし。ま、そこに敬意はないんですけど。」
「ないんかい!」
じゃあ、もう何もないじゃん___。
「___じゃなくて、面談よ。」
「はぁ___、嫌いなんですよね、そういうの。」
「好き嫌いじゃないの。」
「じゃあ、どういう理由があって面談なんて無駄な時間を過ごさなきゃいけないんですか?」
「無駄じゃないわ、お互いを知るための大切な時間よ。ほら、バディを組んでることだし、連携って重要でしょ。」
「連携なんていりませんよ。僕は強いですから、仲間なんていなくても一人で十二分に仕事はこなせます。」
佐伯は傍らからメニュー表を取り、コーヒーの注文を取る。
「あなたは?今日は私のおごりでいいわよ。」
「話そらしてます?___まあいいや、じゃあ特製パフェ5つで。」
「はあ?あなたね、遠慮ってものを___」
「ごちそうになりまーす。」
佐伯は深いため息をついてから持参した伊吹の履歴書を取り出した。
「ね、見てこれ。」
「ん、組織最強の履歴書ですね。」
___いちいち、ウザい___。
「君の履歴書ね。これ、ホント?」
佐伯がさしたのは組織の討伐訓練の記録。
エッグ3体。討伐タイム___3.2秒。
「ん___、忘れました。
もう、5年も前のことなので。」
「は?」
5年前___10歳で隊員になったってこと?
そんな___
「緊急招集。佐伯、伊吹両隊員。出動願います。場所は○○地区___」
隊員に支給されているデバイスから招集の合図がかかる。
「仕事、ですね。」
「注文したの、まだ来てないよね。」
「どうでもいいでしょ、前払いした佐伯さんのお駄賃がパーになるだけです。」
「あ。」
召集のかかる地区への移動中、伊吹は何かを思い出したようにいった。
「そうだ、佐伯さん___じゃなかった、冴えない佐伯さん___」
「言い直さなくていいから___」
伊吹は楽しげに言った。
「今回の敵、全部僕に任せてください。」
「へ?」
8体だ。
大小さまざまなエッグと呼ばれる、宙に浮く白い球体。
それが、破壊兵器殲滅組織が目の敵にしている不思議な物体。
その球体からはあらゆる武器が生成され、過去、幾度にもわたって自然発生し、人々から都市を丸ごと奪った。
「ちょっと、これは一人で対処できる数じゃないわ。二人でも危険よ、今応援を___」
「や、大丈夫です。」
「8体か、少な___」
「え?聞こえなかった、何?」
「いや、何でもないっす。じゃ、ちょっと行ってきます。」
慣れた手つきで得物も構えずエッグの集団に突っ込んでいく。
「ほらほら、あそぼーぜッ!」
グイっと踏み込み、加速。そして、飛び上がる。
約2m。パワースーツを着用しているとはいえ、恐ろしい脚力だ。
落下を始めた伊吹はすれ違いざまに居合の要領で腰の小刀を抜き、3体の卵の核を砕く。
「3体撃破___」
着地した伊吹はつぶやいてから駆け出し、卵の人感センサーを逃れる位置に転がり込む。
「っぉら!」
精一杯の蹴りを飛ばすと、1体の卵はひしゃげながら他の3体を巻き添えに吹っ飛ぶ。
すぐに体勢を立て直す卵はライフルやランチャーを生成し、標準を定める。
銃口の先に、もう伊吹はいない。
ピンッ___
軽い金属音を卵のセンサーがキャッチする。
「もっと、楽しませてくださいよ。」
カツン、と卵のスティールボディに何かが当たる。
モノアイカメラが音のするほうへ向く___
__ッドォ__ンッッッ!!!
カメラが自身に落とされた強化手りゅう弾を映すより早い。
4体の卵は塵となって消える。
「ぅあっちっ!」
伊吹は飛んできた火の粉にのけぞる。
「さて、あと1体は___っと!」
背後の気配にとっさに身をかがめる伊吹。
「佐伯さん、頼みますから戦闘中くらいは___」
振り向いた伊吹は固まった。
そこにいたのは取りこぼした卵と佐伯___それに佐伯の首にナイフをかざす、白いローブを着た人だった。
「動くな、少年。
彼女の命が惜しければな。」
「____いえ、別にどうでもいいんですけど。」
「は?」
「はぁ?!」
卵に奪還された人のいない街。
一番響いたのは佐伯の絶叫だった。
第二話 おしまい
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