ダーク・ファンタジー小説
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- ソウル
- 日時: 2022/06/28 13:45
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/regist.cgi?mode
あらすじ
人を宿主とする、特殊能力をもつ生命体「ソウル」を一人が一体もつ世界には、それらが暴走したことで生まれた、人食いの「独立体ソウル」を排除する政府非公認の組織があった。
組織で活動する、金を稼ぐためにソウルを倒すマリー、戦闘狂のガラン、マリーに傾倒するイズミの三人のもとに新たな仲間エギルが加わる。
異様な雰囲気を放つエギルを嫌厭する三人と突きつけられる残酷な選択肢。
少年少女は葛藤と迷いを超えていくことができるのか。
☆(『狩人』、『エッグマン』と並んで)超長編(の予定)です!本編、ご期待ください!
- Re: ソウル ( No.1 )
- 日時: 2022/06/30 09:56
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/regist.cgi?mode=mente&f=13347
序章
私はあの日を忘れない。
スラム街の、古びた家の軒先にソレはいた。
世界のすべてをかき消すような土砂降りの雨の中で、座り込んだまま微動だにしない、ソレの輪郭だけがひどく、くっきりとして見えた。
ソレは人の形をしていた。
汚れのない真っ白な髪。
透き通るような色の薄い肌。
打ち捨てた持ち主を呪う人形のような、生気のない目。
「人形……。」
常にポーカーフェイスに努める私の心がけとは裏腹に、私の口元は思いのほか、秘めたる思いに従順だった。
ニヤリ、と。
私の口元は歪んだ。
まじまじと見つめていた私をソレが見返してきたとき、命をわしづかみにされたような衝撃と、毒虫が背を這うようなおぞけが私を襲った。
「……。」
無言で私を見つめるソレに、その日の私はひどく惹かれた。
「ボク、家はどこかね。私が送ろうじゃないか。」
おちゃらけた私を、生気のない目がじっと見つめる。
私はそれだけで、満たされることのない何かが満たされるような感覚を味わった。
「……。」
沈黙は何も語らなかった。
当然だ。
それには語るべきものが何もなかったからだ。
「ボク、名前は?」
私は問うた。
「―――。」
小さくつぶやかれたそれを私が聞き逃すことはなかった。
「エギル。」
だから私は、ソレを持ち帰ることに決めたのだ。
序章 おしまい
- Re: ソウル ( No.2 )
- 日時: 2022/07/01 12:32
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/regist.cgi?mode=mente&f=13347
第一章 ガランの場合
第一話
俺はその日を忘れない。
初めてソレを見たのは俺らの隊の集会の時だった。
「んだよ、マリーのやつ。」
今日は「マーシャル・ソウル」の放送日だってのに。
「マーシャル・ソウル」とは、アングラ系の総合格闘技「マーシャル・ソウル」の中継番組だ。それは、ソウルの力の行使を許されたスポーツで、戦闘に特化したソウルを持つ者が一対一でお互いのソウルの力をぶつけ合うことで、半分殺し合いのような戦いを繰り広げる。
たまに、死ぬ奴もいる。
多くの人が嫌厭し、法的規制も受けているそのスポーツの出場者にガランは心の底から尊敬の念を抱いている。
それは、そこで繰り広げられる命と命のぶつかり合いに、この上ない神聖さを感じているからだ。
「自分のタマをかけてる奴ほど、全力で人生、生きてる奴はいねェ。」というのは、ガランの持論である。
早朝、集まったのは、マリーが招集をかけたからだ。
集合場所はこのくたびれた会議室。
こっちの気分まで沈むぜ、こんな部屋……。
「文句言わないで、ガラン。隊長命令だよ。」
「うっせ!いちいち絡んでくるなよな、チビ。」
テーブルのそばにある椅子にちょこんと座っているチビは、同じ隊のイズミ。
隊長に拾われたとか何とかで、マリーのことを尊敬というか、神格化している嫌いがある、一言でいうとやべぇ奴。
いつもの軽い口喧嘩を済ませると、部屋の中央にある、これまた、くたびれた無駄にでかいソファにドカッと座る。
埃が宙を舞う。
そこに会話はない。
だからか、時計の秒針の振れる音だけがさみしげに響く。
「ケッ、人様呼び出しておいて、当の本人は遅刻かよッ。」
暇つぶしに悪態をついてみるガラン。
その後の展開の予想は容易だ。
「ガラン。」
体がピクリと動く。
来た。
殺気だ。
「隊長の悪口、許さない……!」
ガタンッ!
物音に振り向けば、イズミが鬼の形相でガランを睨んだまま、ちっこい図体のわりに様になった仁王立ちしていた。
イズミの「ソウル」は臨戦態勢だ。
カハハッ!
ガランは心の中で大歓笑。
「やる気か?」
腰を上げると、ソファはきしんだ音を立てる。
にんまりと笑ってイズミを見返す。
「いいぜ、遊んでやるよッッ____!」
ガチャリと音がして、部屋の扉が開いた。
部屋に入ってきたマリーと目が合う。
うわ、やっべ!
「ガーラーンー……」
マリーは拳を構えたガランを見て、強く睨んだ。
「また、イズミのこと……」
「ち、違ェ!誤解だ!」
俺だってチームメイトと揉めたいわけじゃねえ。
居心地悪いのは嫌いだ。
だから、叱られるときはちゃんと叱られてやる。
けど、これはイズミが……
「まあいいわ。次は許さないから。」
だーかーらー違ェんだって!
ガランの思いは言葉にならない。
余分なことを言葉にしないのが、彼なりの円滑なコミュニケーションのコツだ。
「みんな、今日はみんなに報告があるわ。」
ほうこく……?
ガラン、イズミの両名は、テーブル横の椅子に座ったマリーに倣って席に着く。
ガランはテーブルの上に足を投げ出し、イズミはマリーと向かい合う席に着く。
定例会のいつもの光景だ。
「んだよ、もったいぶらねぇでとっとと言えよ。」
「ガラン、うるさい。」
二人の言い合いが終わるのを見計らって、マリーは切り出した。
「この部隊に新しい仲間が増える。」
ガタンっと椅子を鳴らし、ガランは身を乗り出した。
「まじか!どんな奴だ、強ェのか!!!強ェんだろうな、きっと。じゃねえと俺が殺しちまうぜ。このチビみてえな腑抜けはいらねえからなッ!」
いいなあ、いいなあ、新しい仲間(戦い相手)!
男がいいなあ、さすがに女を傷つけるのは気が引ける____。
ん、チビは別。あいつはいつでも俺を殺す気でかかってくるから、俺もマジでやる。
じゃねえと失礼だろ?
「真面目な方ですか?ちゃんと仕事してくれるなら、わたしは誰でも歓迎ですけど……。あ、あと、隊長への敬意を忘れない人……」
イズミは弱弱しくも、きっぱりした物言いだ。
マリーはそれに対して
「うーん、どうだろう。」
と、はっきりしない返答を返す。
「とにかく、顔合わせ、しましょう。」
入ってきて、とマリーは扉に向かって声をかける。
……。
音沙汰なし。
「おかしいな、そこにいるはずなんだけど……。」
マリーは扉を開けて、外にいる人にやさしげに声をかける。
「ほら、こっちよ。大丈夫、怖くないから。」
怖くないから?
相手は子供か。
期待した俺が馬鹿だったぜ……。
ガランの熱はすっかり冷めてしまった。
どうでもいいか、と中央テーブルから窓の外へ視線をそらし、頭の中では今日放送される「マーシャル・ソウル」のことを考え始める。
今日の試合は確か……
その時、ガランの隣をスッと何かが通過した。
風か。
直後、ガランはその浅はかな判断に後悔することになった。
「紹介するわ。」
マリーは言った。
馬鹿か、マリー。
紹介って言ったって、まだ誰も……。
そらしていた視線を声の主、マリーの元へ戻す。
「ッッッ!」
ガランは驚愕した。
なんだ!?
マリーのそばに人が立っていた。
その事実にガランは狼狽える。
ガランは自分の気配感覚をとてつもなく信用している。
事実、その能力によって幾度となく死線を超えてきたのだ。
人の発する呼吸音や体温、殺気など、すべてを察知し、戦闘時にはそれらの情報をもとに、相手の攻撃に対応していくというのが、ガランの戦闘スタイルである。
ガランはこの時、部屋に入ってきた気配は一人、マリーのものだけだと知覚していた。
しかし、マリーの隣には確かに人が、白髪の少年が立っていた。
おかしい。
俺の感覚が狂ったか。
再度、神経を研ぎ澄ますガラン。
しかし、どれほど集中してもその少年からは気配を感じ取ることはできなかった。
ガランは総毛立った。
俺は、こいつに勝てない。
というより、不気味すぎる。
同じ部屋にいたくない。
今すぐ逃げ出したい。
これ以上関わりたくない。
しかし、マリーは構わず続けた。
「エギル、新しいチームメイトよ。」
ガランは口の端で笑っていた。
全身をむしばむ恐怖に耐えながら。
第一話 おしまい
- Re: ソウル ( No.3 )
- 日時: 2022/09/09 12:53
- 名前: 長谷川まひる (ID: owBmHTcu)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第二話
「ッだあ!もう!なんでそうなる!」
ガランは絶叫する。
「ッんで、俺がこいつと相部屋なんだッ!」
「同じ男の子同士、仲良くしなさいってことよ」
「ハアッ!?」
仲良しこよし訓練だと!?
ハードル高すぎだろッ!
まして、こんな___
「こーんな、死神みてェな奴と仲良くできるかッ!!!」
そう、こいつは死神だ。
この世のものじゃねェ。
俺にはそう感じる。
きっと、だから気配がねェんだ。
「死神って!
あんた、ひどいこと言うわね!
かわいいじゃない、この子。」
イズミがピクリと反応したのは気のせいか?
「カワイイィだ!?
ッざけんな!
大体こいつ、一っ言もしゃべんねェじゃんかよッ!
ンな奴と相部屋でもされたら___」
「え?
しゃべるわよ、この子。」
マジか。
しゃべる死神なのか。
無言より一層タチ悪ィじゃねェか。
「ほら、エギル。ガランに挨拶。」
ボーっと突っ立っていたエギルは眼だけ動かしてガランを見る。
1秒見つめた後、ふと目をそらす。
口元を隠したままの手は微動だにしない。
あの手の下では笑っているのだろうか?
次の犠牲者を探して笑っているのだろうか?
怖気が、止まらない。
「___。」
突然、口元が動いた。
「え?
もう一度言ってくれる?」
マリーが聞き返すと、エギルが言った。
「ねむい」
中性的な声色。
これが、死神の声なのか。
「そうね、もう夜も遅いから___」
「ちょいと待てよ、エギル」
こいつは、この死神は___
「なあ、俺はまだお前の存在、認めてないぜ…」
「はあ?ガラン、あなた何言って___」
「起きろッ!”ゴッド・ブレイカー(すべてを壊す者)”ッッッ!!!」
そう唱えれば、いつだって力が湧いてくる。
俺は”すべてを壊す者”だから。
俺の恐怖心すら”破壊”する。
ガランの手に鎧が纏う。
「さっきから、好き勝手しやがってよォ…。
俺ァ認めねえぜ、お前のメンバー入りは。」
「ガラン、ちょっと!」
「”ブッ壊せ“!!!」
エギルがとっさによけると、ガランのこぶしはベッドに当たる。
ベッドが粉々に砕ける、否、”破壊”される。
「これが俺の”ゴッド・ブレイカー(すべてを壊す者)”。
さて、次は当てるぜ。
死にたくねえなら、さっさとここから出てくんだなッッッ!!!」
「ガラン、ストップ!」
マリーの静止を無視して次のパンチを繰り出したガランに向かって、エギルは無言で手をかざした。
突然、パンっと乾いた音が響いた。
それはガランの振りかざした右手からしていた。
「は?」
見ると、鎧が消えていた。
「は?」
俺の”ゴッド・ブレイカー(すべてを壊す者)”…。
「エギル、ダメ!」
眠たげな眼でガランを一瞥すると、再び手をかざす。
ガランの手に鎧が戻る。
「はあ…。」
マリーはひどく疲れたようなため息をつく。
「わかった?」
マリーは絶句しているガランを見る。
ガランの特別な力、ソウルが消えたのは一瞬のことで、あまりにも突然で、言葉にするなら、「魂を鷲掴みにされた感覚」だった。
あまりにも、荒唐無稽な出来事。
「彼の力。」
消滅の力。
でたらめな力。
死神はガランのベッドで眠っていた。
第二話 おしまい
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