ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

獣の女
日時: 2022/06/30 22:20
名前: 蒼穹シオ (ID: 7uNrmmbD)

はじめまして。蒼穹あおぞらシオです。精神年齢がほぼ14歳男子、いわゆる厨二病の女です。たまに厨二語が入ることがありますが笑っていただいて結構です。気楽に読んでいただけるとありがたいです。この物語は2部構成になっています。それではお楽しみください。


私は生まれつき雷獣らいじゅうの力を持っている。今まで抑えられたのに、2週間前に左腕が獣に変わり、人に襲い掛かってしまった。手当はしたが、周りの人々も騒ぎ始めた。それ以来周囲から「獣の女・エレア」として恐れられている。両親は私のような力を持っていないのに「獣の血統は危険だ」という理由で処刑された。

「獣の力」はかつて神々に討たれた獣たちの亡霊によるものである。神々は獣たちを討ち、その魂を気まぐれで人に与えるようになった。獣の魂を与えられた人々はみな差別され、狂わされ、不老の獣となった。私もまた、神の気まぐれに狂わされた人だ。きっと私も彼らのように獣になってしまうのだろう。

私は両親とは全く似ていない、目立った薄紫色の髪と金眼。街から逃げようと思っても、すぐに気付かれてしまう。私には友達もいない。孤独でつらい日々を送っていた。私に生きる意味なんてないのかもしれない。

黄昏時の街には友に別れを告げる人の姿が多くみられる。姿を隠すために着ている黒コート。薄紫の髪が見えないようにフードを被りながら街を歩いている。
「あの獣の女がどこかに紛れ込んでいるかもしれないのよ!?」
「早く逃げないと!」
街中は既に混乱していた。

人の目を避け続けていたが、とうとう見つかってしまった。
「いたぞ、エレアだ!」
間もなくナイフを持った男が私に駆け寄ってきた。男は私に掴み掛かった。
「何ですか、いきなり!」
「うるせえ! お前さえいなければこの街は平和なんだよ!」
男は私の心臓を刺そうとした。

その時、身体の奥から熱い感覚が襲ってきた。周りに稲妻が走り、気が付けば人が小さくなっていた。獣となり、巨大な翼で空を飛んでいたのである。
「あんたなんか許さない…!」
獣は私の意識を無視して目の前の敵に襲い掛かった。その頃にはもはや人間全員を敵視していた。人々は逃げ惑い、いつしか街からは誰もいなくなっていた。
もう人間に戻れない。夜空に浮かぶ真珠が、孤独な獣となった私を冷たい視線で見守っていた。
飛ぶ気力もなく、ただそこに倒れてしまった。

夜明けに一人の若者が街に戻ってきた。彼はさわやかな顔立ちで細身で背が高く、私が人間だった時の理想の恋愛相手に近い。
「あの…大丈夫、かな?」
「誰よ、あんたは。」
人間に対する不信感は治まらない。

「僕はカイゼル。君は確か…エレア、だよね? 君を傷つける人は今ここにいない。心配は要らないよ。」
そこに人間がいることに不安を覚えている。
「そうやって優しくしておいてあたしを殺すつもりでしょ!」
「落ち着いて、深呼吸するんだ。」
私は深呼吸を試みたが、そう簡単にはできなかった。
「はぁ、はぁ…」
「無理はしなくていいからね。」
「…うん。」
彼に対する不信感は次第に消えていった。彼の声には、誰かを落ち着かせる魔力が込められている。

その日の昼、私とカイゼルで襲撃に遭わないよう街を離れることにした。
「その立派な翼…本当に飛べるのか?」
「ええ。」
「いいな、僕も飛んでみたい。」
「分かったわ。」
私は彼を背中に乗せ、風に揺られながら飛び立った。
「すごい…飛べるなんて、羨ましいよ。」
私が恐れていた力を「羨ましい」と言う彼は不思議だ。彼以外の人は「恐ろしい」「妬ましい」等と言って快くは思わないだろう。

街の外れの森の奥に着いた。葉の隙間から見える青空がいつよりも美しい。
「ここにいれば安全だから。」
「何であんた、あたしを…」
彼には不思議なことに好感を持てる。
「毎日昼にここに来ると約束するよ。」
「本当にいいの…? ありがとう…」
私にも笑顔が戻ってきた。

カイゼル以外の人間には会わなくなり、平和な日々が戻ってきた。あの日から差別され続けていたが、彼のおかげで解放された。
ある日、彼は満面の笑みで私に会いに来た。
「花冠、君のために作ったんだ。どうぞ。」
彼は小さな鏡で私の姿を見せてくれた。
「どう、かな…?」
「大丈夫、似合ってるよ。」
静かな森には楽しい笑い声が響いた。

またある日は、彼は大きな花束を持って私の前に来た。
「好きだ。君のことが好きなんだ。どうか僕と、永遠の愛を誓ってくれないか?」
「はい…!」
私たちは結ばれた。「獣」と「人間」という、分かり合えないはずだった種族の関係を超えて。
彼は全く街のことを話そうとしない。おかげで私はずっと笑顔でいられる。彼以外の人間のことなど、正直どうでもよかったから。向こうは私たちを害しない限りは勝手にやっていればいい。彼がいるおかげで、平和な日々が続いている。

そうして何十年も経ち、とうとうカイゼルは尽きた。彼以外の人間と接触することもなく、私は永遠に孤独なのだと悟った。真珠を奪われた灰色の夜空が、孤独な獣となった私の頭をそっと撫でた。望んでもいなかったのに。

誰もいない森で私は嘆いた。嘆きの雷と雨が森を支配した。街の人たちがそれを聞いたのだろうか、街の方から声が聞こえた。気付いた頃には足音がすぐそこに迫ってきていた。
「ここにいたか、人間と関わった忌々しい雷獣め!」
「よっしゃ、獣狩りだ!」
人々は私に銃口を向けた。
「撃て!!」
逃げようと思った瞬間、一斉に撃たれ傷だらけになった。翼も破れ、脚も動かない。カイゼルがいたら、こんなことにはならなかったのに…

神よ、何故引き離す。神よ、何故私に力を与えた。自分が自分でいることが恐ろしい。嫌だ、怖い、タス…ケテ…。


2部に続きます。

獣の女 2部 ( No.1 )
日時: 2022/07/01 22:11
名前: 蒼穹シオ (ID: 7uNrmmbD)

今日は2部をアップします。


僕は人波と雷の音を追いかけて森に来ていた。心当たりがある、と思ったからである。夜の豪雨の中、僕は走り続けた。

既に人はいなくなっていて、そこには雷獣が力なく倒れていたのだ。
「大丈夫!?」
前に「かつて獣の女が街を蹂躙した」という話を聞いたことがあるが、その話が心に引っ掛かっている。
「まさか、君は…」
存在しないはずの記憶が僕の頭の中を駆け巡った。
「僕だよ、カリグラ…いや、カイゼルか。」
カイゼルなど、知らないはずの人の名前だ。僕はカリグラだというのに。

彼女は答えてくれなかった。
「エレア、しっかりして…!」
なぜその名前を知っているのか、自分でも理解できない。
彼女の身体を揺すったが、全く反応がない。
「死ん…でる…!?」
ようやく僕は彼女があの人波に狩られたのだと気付いた。
「そんな…なんで…」
死んだ彼女の頭をそっと撫でた。

数年後、例の場所に行ってみた。昼下がりの森、葉の隙間がきらきらと輝いている。彼女のいた場所には綺麗な薄紫色の花が所狭しと咲いていた。
「この花は…エレア、まだ生きてるのかな。」
僕は花に優しく触れた。彼女は今でもここにいるような気がする。
「今日は君と一緒に昼寝したいな。」
僕は花畑の上に寝転がった。

彼女が姿を変えても、僕が生まれ変わっても、彼女は僕を優しく包み込んだ。
「遅れてごめん、エレア。」
涙で晴れ間が滲んだ。そうして僕は、彼女と一つになった。


いかがでしたか? 初投稿なので不慣れなところはありますが、楽しんでいただけたら幸いです。私の作品は基本ドラフトを作ってから投稿するという形になるので、次の作品投稿には時間がかかると思われます。
それではまた別の作品でお会いしましょう!


Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。