ダーク・ファンタジー小説

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誰がために咲くは
日時: 2022/07/08 16:18
名前: 蓮雅 (ID: PWqPGq9p)

昔から運が悪かった。生まれた家は食うにも困るほど貧乏だったし、私の2歳の誕生日には家は強盗に入られ両親は殺された。その時私の故郷は戦争でみんな己のことで精一杯、たくさんの孤児の中の私など誰も見向きもしなかった。腹をすかせては毎日ゴミを漁っていた私に唯一手を差し伸べたのは金にしか目がない狸のような男。そいつは私にあらゆる犯罪を教え込んだ。ひったくり、強盗、脅し、暴力に殺人。成果がないときは殴られ蹴られ、血まみれの体で物乞いを装って道端に一日立たされたこともあった。男曰く、
「血まみれの子供のほうが今は同情を引く」
だそうだ。腹立たしいことにそいつの言い分は正しかったようで物乞いをした日にはいつもの倍のお金が集まった。まぁ、私にはかけらも入らないのだけれど。
しかしいつまでもいい状態なんてのは続かない。戦争がどんどん進み人々もどんどん貧しくなった。通りすがりの人を襲っても手に入るのはほんの少し。血まみれで物乞いをしても投げられるのは金ではなく蔑みか石になっていった。金が集まらなくなり男の怒りはすべて私に向かっていった。
毎日骨がきしむほどの暴力を受けた。いつもどこかの骨が折れていたし、痛みがない日もなかった。食べ物は一切くれなくなった。毎日物乞いをして、殴られ、男が酒に酔って眠った深夜に裏路地のゴミを漁って食べられるものを探した。地獄みたいだと思った。でも一番地獄だったのはあの日。
「おい‼いつまで寝てんだこの役立たず‼‼‼‼」
男は早朝に叩き起こしてきた。それはいつものことだった。
(今日も物乞いか)
いちもの物乞い用のボロボロの服に着替えようと起き上がった。正直着替えなくてももうボロボロだとは思うけど。しかしいつもおいていたところに服がなかった。
(どこにやった!?やばいあれがなきゃ又殴られる‼)
賢明に探しても見つからず、突っ立っていると入ってきた男に引きづられるように引っ張られた。連れて行かれたのは男が女を連れ込む場所にしていた小屋だった。男はいつも違う女を連れていたのを近くの井戸に往くたびに見ていた。殴られると覚悟していると男は桶に入った氷みたいに冷たい水を頭からかけてきた。
「おい、こいつ薄汚えからちったぁマシにしろ」
そう言い放って男は地面に座り込んだ。すると小屋から一人の女が現れた。やっぱり見たことのない人だった。
その人は冷たい水が染み込んだボロ布で私をゴシゴシと洗った。そしてなぜが今まで着たことがないような綺麗な服を着せられ伸び切った髪をナイフで切りそろえられあたかもパット見は一般的な家の出の少女のようになった。
「へー」
呆然としているといつの間にか男が立ってまじまじと見ていた。突然顔を捕まれぐいっと男の顔が間近になった。
「親なしの孤児のくせに顔だけはいっちょ前だな」
「わざわざこんなに金かけてどうするのよ。」
後ろから女が声をかけた。
「何するって、売るに決まってんだろ」
男はさも愚問のように答えた。全身の毛が逆立った気分だった。その当時子供を売ることはそれ相応にあった、しかし大人たちは売った先のことは考えない。いや聞かされない。私はある日泣き叫びながら売られていく子供に興味を持ってついていった事がある。馬車に乗せられずっと森に進んで行った先でその子は殺された。地面に叩きつけられ、痛みで動けない子供の首をかき切った。コポコポと声が聞こえる中大人たちは腹を切り内蔵を取り出すとそれだけ取って死体を燃やした。
逃げろ。その言葉が頭を支配した。でも逃げてどうする、どこに行けばいい。その時思い出したのはまだ戦争が激化する前見つけたチラシだった。
ある程度文字が読めるようにされていたため全部は無理でも多少読むことができた。隣国に新しい教会ができるといった宣伝だった。チラシに乗っていた教会らしき写真は踏まれてよく見えなかったが、なんとなくきれいだと思った。
「どうせ死ぬならそこ行きたかったな…」
そうだと思った。そのままいても殺される、きっと逃げても見つかって殺されるか飢えて死ぬ、ならせめて死ぬ場所くらい選べないだろうか。
そこからは早かった。隣国の方角はなんとなくわかっていたから、男にさとられないように大人しい子を演じ、目を離したすきに逃げ出した。
(走れ、走れ、走れ……)
裸足の足は擦り切れて血がたれたし、綺麗な服も髪もぼろぼろになった。何時間走ったかわからない位走ったあとあまりの痛みと疲労で倒れるように眠ってしまった。
(やばい寝てた‼)
起き上がるとそこは真っ白い部屋の中に並べられた一台のベットだった。
「痛っ…」
あまりの痛みに声を上げてしまった。さっと口をふさぐ。しかしここは驚くほどに静かだった。
足をそっと上げると見覚えのない包帯が巻かれていた。それだけではない。服は綺麗な綿のワンピースになっていたしボロボロの体には処置が施されていた。
(確か昨日どこかの森で寝たはずなのに…)
しかし此処は静かだ。昨日までいたところは戦争の音が耐えなかったのに。
「目覚めたようですね」


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