ダーク・ファンタジー小説
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- 不死身の術師はとある忌み子に夢をみる
- 日時: 2022/09/17 20:37
- 名前: ぐれ (ID: 220Hj9Rg)
気の遠くなるような昔のこと。
“術師”と名乗る、一人の女がいたという。
彼女は、指先ひとつで物を浮遊させ、影を操った。
村人たちは彼女を讃え、数々の“魔術”を楽しんだ。
しかし、彼女は明らかに異常であった。あまりに老いなかった。
くそ餓鬼だった男が孫の顔を見て死んだ。
出産に立ち会った女がひ孫の出産を見守った。
彼女の姿は、どこ一つ変わっていなかった。
さすがの村人たちも、彼女を恐れた。
忌み、嫌い、村を追い出した。
彼女は世界を歩きまわった。
どこにも、彼女を受け入れるものは無かった。
故に彼女はいつしか、《家亡き仔》と呼ばれ始めた。
***
そんなおとぎ話が世界中に広まる時代。
ある町では、月に何度かの市が行われていた。
「兄ちゃん、パンをひとつ売ってくれ」
パンの屋台を構えた男は、頬杖をつく。
「ボウズ、こんなオッサン捕まえて“兄ちゃん”はねえだろ」
呆れたような顔をした男は、外套のフードを目深く被った少年に半目を向けた。
少年は不思議そうな顔をして、首をかしげる。
「うん?今いくつだい?」
「もうすぐ50だ」
「なんだ!まだ若いじゃないか!」
「馬鹿にしてんのかッ‼︎」
けらけらと笑う少年に怒声を浴びせるものの、パンを手渡す男に、少年は礼を言う。
と、鈍い音が聞こえた。
見れば、そこには人だかりがあり、何かを囲んで罵倒し攻撃している。
少年は「なぁ兄ちゃん」と性懲りも無く男に問う。
「あれは何だい?」
男は溜息をつきながら答える。
「あぁ、あれは《不幸を呼ぶ家系》の生き残りさ」
「へえ!旅をはじめて随分と経つけれど、初めて聞く話だ。最近の人血には、そんな能力が宿るのかい?」
「馬鹿言え!アイツのとこだけだ!あの家族がここに住み着いてから、干害やら蝗害やら嵐やら流行病やら!いったい何人が死んだと思ってンだ!」
この男は、頭が悪いらしい。少年は思った。
そして代金をカウンターに投げる。
「ごっそさん」
「おいボウズ、これじゃ多すぎるぞ」
丁寧にも呼び止める男を振り向き、少年は笑う。
「情報代だ、受け取ってくれ」
それだけ言って、例の人だかりへ向かう。迷いのない足だ。
「……変なボウズだなぁ」
男はそう呟いた。
***
「こんにちは」
少年が話しかけたのは、一人の婦人であった。
彼女は微笑んで、こんにちは、と返す。
「見ない顔ね、旅のお方?」
「そんなとこ。一つお伺いしても?」
「なあに」
「あのひと、何か罪を犯したのですか?」
少年はそう言いながら、人だかりの中心を示す。
すぅ、と婦人の顔から笑みが消えた。
「……さぁ。強いて言うなら、生きていることが罪なんじゃないの」
「……そうですか、どうもありがとう」
少年は笑顔で婦人と別れる。
その足で人だかりの中心へ向かう。
150と少しの身長は、大人の男をかき分けるのに便利であった。
中心に蹲って集中攻撃を受けていたのは、外套で見えなくとも図体のでかさが目立っていた。
少年はその者の目の前に立つ。
そいつが顔を上げた。バイオレットの瞳であった。
少年はエメラルドの瞳をくっと曲げた。
「はじめまして。君、私の弟子にならないかい?」
ここに、ひとつの伝説が始まる。