ダーク・ファンタジー小説

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Desire Game
日時: 2022/09/25 11:43
名前: 緋月セト (ID: XcEXsBGd)

この世界には、一度でも参加すれば最後、常に死と隣り合わせの生活を送る事となる代わりに、どんな願いも叶える事が出来るゲームが存在する。
ゲームのルールは非常に単純かつ明瞭で、その内容は『ゲーム終了まで生き残る事』。

幼い頃に姉と死別した高校生・草薙新は、様々な思惑が交錯する世界へと足を踏み入れ、不審な死を遂げた姉の死の真相を探り続ける。

屍の道の先にある物は、数多の死線を乗り越えた報酬となる希望か、それとも更なる絶望か。

#1:We met again ( No.1 )
日時: 2022/09/25 11:46
名前: 緋月セト (ID: XcEXsBGd)

 静まり返った暗闇に響く、一発の銃声。
 反響した銃声は次第に暗闇へと飲み込まれ、廃墟は再び静寂に包まれる。程なくして、一人の男が片口を押さえながらフロア内に現れる。
 まるで、自分を追う『何か』から逃げるように。
 続いて銃声が響き、逃げ惑う獲物を追跡する猟犬の如く、男の背後から三発の弾丸が飛来する。
 更にその後ろから現れたのは、負傷した男を奥へ奥へと追い詰めるようにズボンのポケットに手を突っ込んで歩く、コートを羽織った長身の青年。
 目深に被ったフードによって見えないが、狐面に描かれた赤い模様が、廃墟に優しく差し込む月光を反射するように、妖しく鮮やかに輝いていた。

 やがて逃げ場を失ったのか、それとも逃げる体力が無くなったのか、男は壁にもたれ掛かるように座り込む。
 追いついた青年が男の眉間に添えたのは、冷たい銃口だった。

 ゴリッと言う固い物を押し付ける鈍い音が鳴り、青年は手慣れた動作で撃鉄を起こす。
 自分の最期を悟った男は、年不相応の涙を流して命乞いを始めた。

「頼む…私を優勝させてくれ……。私は、息子を助けなきゃいけない。その為にも、金がいるんだ…だから…頼む……ッ!」

 年齢不相応な嗚咽を漏らし、まるで大事なものを失くした子供のように啜り哭く男。
 青年は肩をすくめると、そっと銃口を退かせる。
 『助かった』と思ったのか、男の瞳に希望の光が灯り、反射的に感謝の念を伝えようと口を開いた。

「あ、ありが───」

 刹那、三発の銃声が男の顔面を穿った。

「───ぱぇ?」

 間の抜けた声を上げ、前のめりに倒れ込む男。
 青年はさっきまで男だった肉塊を見下ろし、氷点下まで冷え切った口調で言う。「御涙頂戴の話をすれば、見逃して貰えると思ったか?」

 と。

 生憎、そのような優しさは持ち合わせていない。
 今の彼には、他人を同情してやれる程の時間と、精神的余裕はないのだ。
 男が完全に動かなくなったのを確認すると、青年はスマホを開く。すると『木端 貴大』と言う名前に横線が入り、アイコンが消滅。同時に、画面一杯に表示される『Congratulation!!』の文字。
 それは、この"ゲーム"の終了を意味していた。

『おめでとうございます、草薙様。今回のデザイアゲームの優勝者は、貴方様になります』

 インカム越しに聞こえる女性の澄んだ声が、ゲームの終了と優勝者の名前を知らせる。
 青年が踵を返して歩き出すと、何処からともなく現れた黒服が貴大の遺体を担ぎ、その相方が壁や床に飛散した血痕を徹底的に拭き取り、床に散らばった空薬莢を手際よく回収して行く。
 このゲームは見ての通り『デスゲーム』であり、その実態を他者に知られてはならない。
 黒服たちが去る頃には、現場は何もなかったように元通りにされていた。

『今シーズンを生き残った方々には、ランクに応じて報酬を配布いたします。次回の開催は二週間後を予定しておりますので、暫しお待ち下さい

次回も、溢れんばかりの死と祝福を貴方に』

 次回の告知と共に、アナウンスが終了する。
 ゲームが開催される一ヶ月間、プレイヤーは常に死と隣り合わせの生活を送る事になるが、最後まで生き残った者には、相応の報酬が与えられる。
 その中で最も重要かつ価値があるのが、『自分の願いを叶える』権利。願いの内容が現実的だろうと非現実的だろうと、その権利さえ手に入れて仕舞えば、叶える事が出来る。
 全プレイヤーは、それを手に入れる事が目的と言っていい。
 そして、先程死亡した木端貴大に『息子を助けたい』と言う願いがあったように、この青年にも叶えなければならない願いがある。

「俺は、アンタの死因を必ず解き明かしてみせる」

 かつて、姉は謎の死を遂げた。
 その手掛かりを掴み、死の真相に辿り着くための道筋が、この『デザイアゲーム』には存在する。
 目的を果たす為なら、敵対する者は誰であろうと潰す。知り合いだろうが、見ず知らずの人間だろうが関係ない。
 死因の解明と復讐。
 それだけが、今の彼を突き動かす原動力だ。

「(手掛かりは着実に集まって来てる…あと少し、あと少しで……姉さんの死の真相に辿り着ける)」

 デザイアゲームの華々しい優勝を飾った青年・草薙新はフードと仮面を外し、自身の武器であるリボルバー拳銃をコートの内ポケットに隠す。
 プレイヤーは、例えゲーム中に死んでも遺族への報せは行かないし、保険が降りる事もない。
 当然、当人はそれを理解した上で参加している。
 『自身の命』と言う替えの効かないチップを使った、ハイリスクハイリターンのギャンブル。
 負ければ全てを失うが、生き残りさえすれば巨万の富を得る事だって難しくない。
 それ故に、参加券を得た者は参加を辞退しない。
 何故なら、人は『自分なら出来る』と言う根拠のない自尊心が理性を打ち負かし、目先に広がる結果に目が眩み、現実を直視出来なくなるから。

「この世界で生き抜くには、もっと意地汚くならないとな」

 この世界で生き抜くには、人を騙す狡猾さが居る。それがない人間は、ただ狩られるだけだ。

 新はポケットに手を入れ、廃墟を後にする。
 ビルの隙間から差し込む陽光は、まるで優勝者の凱旋を祝福するファンファーレのように、廃墟から出て来る新の姿を照らしていた。
 
 
 
 デザイアゲーム・ルール
 本ゲームは、各地方の政令指定都市にて開催される。プレイヤーは、参加エリア及びそのエリアに隣接する都市を活動圏とする事。
 
 また、開催されているエリア周辺からの離脱や他エリアとの交信を禁止する。

#2:Give and Take ( No.2 )
日時: 2022/09/27 22:26
名前: 緋月セト (ID: XkNk.xNr)

「すんません、天丼一つ」

 カウンターの前に立ち、食券を提出して注文する。昼下がりの学食は、いつにも増して賑やかだった。
 もちろん、教室で弁当を食べる者もいる。
 しかし、人は群れで行動する生き物。
 『陽の者』を自称する者たちは、大人数で食べる事で、マウントを取れると思っているのだろう。
 その証拠に、大きなテーブル派手な髪色の者たちが使っており、眼鏡をかけた冴えない彼らは、個人用の席に座って淑やかに昼食を頂いている。

 ───別に、彼が知った事ではないのだが。

「はいよ、天丼お待ち」
「ども」

 新はカウンターを離れ、720円もする天丼が乗ったお盆を手に座れそうな席を探す。
 何処もかしこも、見渡す限りの席が陽キャを自称するグループやオタクグループによって占拠されていたが、柱近くの個人席に座る。

「いただきます」

 席についた新は、お盆を置いて両手を合わせ、割り箸を割って艶やかに輝く白米をかき込む。
 するとどうだ、目の前には桃源郷が広がるではないか。
 海老天は衣で嵩増しされておらず、肉厚で弾力のあるプリッとした歯応えが、サクサクに仕上げられた衣と口の中でセッションを奏でる。
 甘辛いタレは海老の旨味を吸収し、白米が持つ独特な甘みをさらに際立たせる。
 地味に嬉しいのが、この付け合わせの沢庵だ。
 爽やかな味わいとシャキシャキの食感が、重い物を食べた後の箸休めに丁度いい。

 ……などとまぁ、ノリノリで一人脳内食レポをかました後に味噌汁を口に運ぶ。
 テーブルを挟むように椅子が二つあるが、まさか合席しようなんて者は居ないだろう。
 ……多分。

「邪魔するぞ」

 居た。
 それも、すごく聞き慣れた声だった。
 此方の許可も取らず、声の主は反対側に置かれた椅子に座る。昼食は既に食べ終えていたのか、手ぶらだった。

「まさか、お前が自分から来るなんてな。幸貞」

 だが、新は驚いた様子もなく椀を置く。
 幸貞と呼ばれた青年は、小さく鼻で笑った。

「俺がお前に接触する理由なんて、一つだけだろ」
「……デザイアゲームか?」

 「御明察」と、足を組みながら告げる幸貞。
 彼は東京エリアが誇る"デザイアゲーム"屈指の上位ランカーであり、新の中学校以来の友人。同時に、一位の座を巡ってシノギを削る好敵手だ。
 東京エリアの全プレイヤーがざわついても可笑しくない状況だが、新は目もくれず食事を再開。
 今は、開催期間外だからだ。

 ゲームの開催期間外での戦闘及び暴力行為は、ペナルティとして即リタイアに繋がる。
 下手な行動が、自分の首を絞める事になるのだ。

「まぁ、聞けよ。折角会ったんだし」

 しかし、黙々と食べる新を他所に、悠真は攻撃的な笑みを浮かべながらスマホの画面を見せて来る。

「デザイアゲームの開始告知だ、開始は今日の放課後から」
「おいおい、敵に情報を流して良いのか?」
「関係ねェ、俺がお前に勝つだけだ」
「今の言葉、そっくりそのまま返すぜ」

 悠真と談笑を交わす事一分。
 徐に席を立つと、親指で食堂の外を指差す。

 『続きは向こうで』

 と言う事だろうか。
 あと十分くらいで予鈴が鳴ってしまうが、逆を返せば、あと十分も時間があると言う事だ。
 それに、重要な話である可能性も否めない。

「何か欲しい物は?」
「俺たち二人が持ってる情報の等価交換だ」
「乗った」

 新も席を立ち、悠真の後ろをついて行く。
 デザイアゲームでは、期間中各プレイヤーにのみ情報が配布される時がある。その情報が有益か無益か、嘘か真かは不定だが、『自分の知らない情報』というのは、それだけで価値が跳ね上がる。
 何せ、相手から有益な情報を引き出せれば、実力者ならそれだけで有利になれるからだ。
 一説によると、提供される情報は上位ランカーであればある程、信憑性と有益性が増すと言う。
 根も歯もない噂話に過ぎないが、もしこの噂話が本当なら、上位二位を独占しているこの二人の持つ情報は、ダイヤモンド以上の価値がある。

「ここなら……多分、誰もいないな。立ち話もなんだし、あそこに座って話しでもしようや」

 学食のある総合棟から少し離れた中庭に行くと、悠真はベンチに座り隣を軽く叩く。
 新が隣に座ると、彼は早速本題に切り込んで来た。

「早速だが、今日開催されるデザイアゲームじゃ、高難易度イベントな始まるらしい」
「高難易度イベント?」
「あぁ、何でもクランじゃないと、まともに攻略する事すら出来ないそうだ」
「そりゃあ、とんだクソゲーだな」

 クランとは、デザイアゲームで認可されている最大最低人数共に無制限のチーム機能を言う。
 メンバーには専用のコミュニティが用意され、報酬の山分けも出来るなど、実力の低い一般プレイヤーにとっては夢のようなシステムと言える。
 しかし、その一方で新や幸貞のように、単独で上位をキープ出来る実力者からは敬遠されている。
 理由は単純で、単独で上位を維持出来るなら、態々群れる必要が無いだけの話だ。

 当然、連続優勝記録保持者である新からしても、間接的とは言え悠真の口から『クラン』と言う単語が出て来るのは、実に意外だった。

「俺が話せるのはここまでだ。次はお前が吐け」
「吐けって……映画かなんかかよ……」
「スパイ映画みたいで雰囲気出るだろ?」
「出ねェよ」
「まぁ、それでも情報は聞き出すけどな」
「はぁ…しょうがねぇな……」

 新は言の葉を紡ぐ。
 "デザイアゲーム"の根幹を揺るがしかねない、重大な情報を。
 全てを語る頃には、悠真が訝しげな表情を浮かべていた。

「それは…マジで言ってんのか?」
「俺が言ってるからマジだが、この情報が本当かどうかは分からん」
「そうか……」

 悠真は顎に手を当て、熟考する仕草をとる。

「仮にそれが本当なら、お前はどうするんだ?」
「姉さんの死因をGMに直接聞き出す」
「お前らしいな」
「あぁ…そして、必ず姉さんを殺した相手を俺が───」

 新が言葉を遮るように、予鈴が鳴る。
 スマホのロック画面にある時計を見ると、タイムリミットはあと五分まで迫っていた。

「続きは、放課後だな。首洗って待ってろよ?チャンピオン様」
「……お前こそ、背中から刺されないようにするんだな」

 立ち上がった二人は、教室に向かって歩き出した。

Re: Desire Game ( No.3 )
日時: 2022/10/01 17:13
名前: 緋月セト (ID: xPOeXMj5)

ストーリー案2



 デザイアゲームの終了から、一週間。
 前回のゲームでは、500人中13人と言う非常に少ない勝者達が、優勝者にのみ与えられる景品を除く各々の活躍に見合った報酬を手に入れた。歴代と比較しても多いとされる、数多の屍を踏み越えて。
 今回の結果は、東京エリアで活動するプレイヤーたちに大きな衝撃を走らせた。
 途中乱入が入ったとは言え、500人いたプレイヤーの9割近くがたった一ヶ月で死亡したのだ。
 その衝撃は、非常に大きい物だろう。

 だが、世界は何も変わる事なく回り続けており、亡くなった者の遺族は今も帰りを待ち続けている。
 そして今回のゲームを生き残った者は、死んだ者の分まで生きなければならない。教室の隅っこで小説を読む青年・草薙新もまた、その一人だ。

「…」

 ここ数回、東京エリアで行われたデザイアゲームの優勝者である彼は、その技術から『魔弾の射手』と言う異名で敬われ、畏怖されるようになった。
 もちろん、自分で名乗った訳ではない。
 彼を神聖視する一部の拗らせたプレイヤーがそう名付けたら、瞬く間に広がっただけだ。

 しかし、この手のゲームの上位ランカーは、何か痛々しい渾名を付けられる規則でもあるのだろうか?
 確か二位の人も、変な名前を付けられてた筈だ。
 正直な話、デザイアゲームに参加して街中を探索する度に『魔弾の射手』と羨望の眼差しで呼ばれるのは、ぶっちゃけ屈辱以外の何物でもない。
 それに、この学校にもデザイアゲームのプレイヤーは新を除いても数名居る。
 上位ランカーの悪友が一人と、大して実力もないくせに運だけはある下位ランカーが一人。
 後一人は……この学校の生徒ではあるのだが、来ていない。
 兎に角、全員経緯は違えど、ゲームを生き残った猛者たちだ。

「ね、ねぇ。少し良いかな?」

 その時、新に声をかけて来る者が1人。
 どこか気弱そうな雰囲気で、顔立ちは悪くないがどことなく冴えない感じの青年だった。

「草薙新くん……だよね?」
「そうだけど、何?」
「は、話すのは入学式以来だね!僕は小金井颯太!覚えてる?」

 そう言うと、爽やかな笑顔を浮かべる青年。
 しかし、小金井……颯太?
 ……まずいな、全くと言って良いほど覚えてない。記憶の目を凝らせば、入学初日に話しかけて来た奴がいた気もするが、全く印象に残ってない。
 何とかして追い返したい所だが、颯太と名乗る青年は人懐っこい笑みで話しかけて来る。
 何故そこまでして話したいのか、全く分からない。
 新はため息をつき、小説に目線を戻す。

「それで?何か話があるなら、さっさと話して帰ってくれないかな。暇じゃないんだけど」

 小説に眼を向けたまま、突き放すような口調で言う。
 この言い方をすれば、大体顔や虐め目当てで絡んで来た連中は、何も言わずに去って行くのだが───

「あはは……そうだね。実は僕、この前君に助けられたお礼を言いたかったんだ」
「ッ!」

 次の一言で、新は前言を撤回した。
 お礼を言いたかった?
 全くと言って良い程、接点がないと言うのに?
 いや待て、確かゲームの中盤で他のプレイヤーに襲われていた奴を助けた気がするが、まさか……

「あれお前だったのか?」
「あはは……お恥ずかしながら」

 頬を掻きながら、苦笑いを浮かべる青年。
 対する新は、余りの情報量に呆気に取られていた。

「まさか、ランキング最下位を独占してたのもお前か?」
「う、うん……」
「えっと、戦おうとはしなかったのか?」
「一応したよ?したんだけど……僕、喧嘩はそこまで得意じゃないからさ……」
「はぁ?」
「で、でもさ!ちゃんと他の人を助けたりとか───」
「お、颯太クンじゃーん!こんなとこに居たのかよぉ〜」

 すると、二人の会話に割って入るように、数人の柄の悪い男女がやって来る。
 少なくとも彼の友人……では無さそうだ。
 その証拠に、颯太の方に眼を向けると、彼の手は怯えるように小刻みに震えていた。

「突然居なくなるからさぁ、俺たち探したんだぜ?」
「そうそう、飲み物とか自分たちで買いに行かなくちゃいけなかったし、疲れたなぁ〜」
「どう責任取ってくれんの?」

 リーダー格と思しき男子の発言を皮切りに、好き勝手言い始める不良グループ。
 当の颯太は募る不満を抑え込むように、グッと拳を固く握り締めていた。指の爪が皮膚に食い込み、そこから血が滲み出ている事も承知で。
 新には関係ない話だが、流石に読書の邪魔だ。

「おい、そこら辺にしとけよ」

 小説を閉じ、刃のように鋭い視線と口調で言う。
 だが、取り巻きの一人が臆する事なく、新に向かってメンチを切りながら顔を近付ける。

「何だァー?テメェ、もしかして正義の味方?ミカタっすか?」

 ガムを噛んでいるのか、クチャクチャと汚い咀嚼音を上げながら睨んで来る取り巻き。
 まさかとは思うが、威圧のつもりだろうか?
 当然、新が恐れる理由はなかった。

「別に読書の邪魔になるから、ここじゃない静かな場所でやって欲しいなーってだけだが」
「あぁ!?じゃあテメェがどっか行けや!」
「はぁ……ここ、僕の席なんですけど?」

 ため息混じりにわざとらしく言うと、取り巻きのこめかみから鳴る何かがキレた音。
 何か喚き散らした取り巻きは、力任せに拳を突き出して来るが、遅い上に軌道が分かり切ったテレフォンパンチなど、捌く事は容易い。

 新は拳を掴むと、流れるような動きで関節を捻り上げ、取り巻きを床に組み伏せる。
 一瞬の出来事に、取り巻きは眼を白黒させていた。

「まだ、続けるか?」
「……おい、行くぞ」

 実力の差を悟ったのか、リーダー格の男は顎をしゃくって離れて行く。取り巻きを掴む手を離すと、まるで尻尾を切ったトカゲのように走って行った。

「……これで、漸く読書に専念出来るな」
「あ、あの……ありがとう、草薙君。また、助けられちゃったね……」
「礼なんざいらねェよ、気持ち悪い。感謝の気持ちがあるなら、さっさと消えてくれ」

 まだ何か言いたげだったが、颯太は遂に諦めたのか踵を返して去って行く。
 時計を見ると、約束の時間まであと少しだった。

「……さぁ、ゲームスタートだ」

 次の瞬間、放課後を告げる鐘が鳴る。
 それ即ち、デザイアゲームが始まる合図だった。

Re: Desire Game ( No.4 )
日時: 2022/10/01 17:23
名前: 緋月セト (ID: xPOeXMj5)

 デザイアゲームの開始から数分。
 まだ夏場の四時だと言うのに、空はまるで、赤い絵の具が入ったバケツを逆様にしたように、鮮やかながらも不気味な赤色に染まり上がっていた。
 今回の参加者は、なんと僅か195人。
 前回の犠牲者や開催期間の長さを加味し、今回は一週間と言う超短期間での開催となった。
 運営の配慮かも知れないが、信用は出来ない。
 何故なら、このゲームの最大の敵はトップランカーでもサイコパスでもなく───

 仲間だと思い込み、背中を預けた人物なのだから。

「さて、ボチボチ動き始めますかね」

 地下鉄のホームに降りた新は、目元が赤く縁取られた狐の面と、パーカーのフードを目深に被る。
 公共施設での戦闘は『一部の例外』を除いて認められていないが、用心するに越した事はない。背後から付けられてる可能性もあるからだ。
 現に前のゲームでは、それを利用した者に襲われた事もある。
 その為、開催期間中は普段よりも一層強く、全神経を尖らせなければならない。

「……それはそれとして、何でお前がいるんだよ?」

 新は周囲への警戒を飛ばしながら、自身の背後を歩く拓人に問い掛ける。
 対する彼は、何処か気まずそうに苦笑いした。

「その、偶然草薙くんに会ったっていうか……家の方向が同じだったって言うか……」
「つまり、意図せずして俺と会ったと?」
「結果的にそうなるよね……」

 「えへへ」と、誤魔化すように笑う拓人。
 いや、「えへへ」じゃないんだがと突っ込みを入れたいところだが、我慢して歩き続ける。
 しかしこの小金井拓人と言う男は、実に異質だ。
 お人好しで正直者、しかも超が付く程の平和主義者で非戦的な性格。本来なら、既に退場していてもおかしく無いくらい、プレイヤーとして弱すぎる。
 だが、それ以上に彼を異質な存在たらしめている理由は、やはりその生存能力だろう。

「(ランキング最下位ながらも、奴は毎度生き残っている。ああ言う奴ほど、戦況をひっくり返しかねない途轍もない力を持ってるのが相場だ……)」

 仮にそうなら、今ここで潰しておくのも手か?
 気取られないよう、新は殺意を隠しながら背後に視線を向けるが、当の本人はどこ吹く風。警戒しているのかキョロキョロと辺りを見渡していた。

「おい、そりゃ何のつもりだ?」
「へへっ、襲って来ないか警戒してるんだ!」
「阿呆、寧ろ気付かれるわ」

 前を向いたままツッコむと、小さくため息を吐く。
 まさか、今までこれでやって来たのか?いくら尾行を警戒する為とは言え、こんな事をしたら逆に「気付いて下さい」と教えているような物だ。

「で、でも、誰かに見られてる気がするよ?」
「……それがマジなら、何人くらいだ?聴かれないとは思うが、なるべく小声で話せ」
「えっと……東に一人と、二メートルくらい背後に二人。後は……そのくらいかな」
「オーケー、着いて来い」
「え?ちょっと草薙くん?」

 拓人の腕を掴み、東口に向かって歩き出す。
 側から見れば怪しさ満点だが、追跡している人数が分かっている……と言うか尾行られてるのが分かった以上、動向を隠し通す理由は無い。
 そこで意地を張れば、家にまで招きかねない。
 一人暮らしだから問題ないが、活動拠点がバレれば他の住民に迷惑が掛かってしまう。
 それな、一気に誘い出して叩く方が良い。

「それに他の連中なら多少は疑うが、お前は嘘をつけない性格だって分かるからな」
「それ、褒めてる?」
「さぁ?どっちだと思う?」

 時折周囲に視線を配りながら、駅の東口を出る。
 向かうは、打ち捨てられた廃棄工事現場だ。

「あ、言い忘れてたが、決して後ろは向くなよ?」
「?どうして?」
「気付かないフリさえしとけば、奴らは慢心する。慢心した奴には、『俺なら大丈夫だ』って言う根拠のない自信が生まれ、そこが付け入る隙になる」
「成る程……」

 だが、何か妙だな。
 数秒前までは、拓人の言う通り3人の足音が確かに聞こえていた。なのに今は一人分しか聞こえない。
 他の二人は……まさか撒けたのか?

「(……いや、それは無いな。徐々に聴こえなくなったんじゃあなくて、まるでコードを抜かれたテレビのように、足音がプッツリと途絶えた)」

 3人の刺客、突然消えた二つの足音。
 もっとも有り得る答えは一つ。背後を追っていた二人は、東側の刺客によって消されたと言う事だ。

「今回も、俺と会えて良かったな。下がってろ……いや、この状況じゃあ『俺の前に出ろ』が正しいか?」

 新は珍しく笑みを溢すと、流れるような動作で拳銃を取り出して追跡者に突きつける。
 追跡者の動作は、奇しくも同じ動きだった。

「何者だ、お前」

 新はいつでも撃てるように拳銃の撃鉄を起こし、引き金に指をかけて追跡者に問い掛ける。
 するとそいつは、あろう事かクツクツと笑い始めた。

「何か、笑いのツボに刺さる事でも言ったか?」
「クックックッ……いいや?違うとも、連続優勝記録保持者の草薙新君」

 何で俺の名を?と聞くのは野暮だろう。
 デザイアゲームの優勝連続記録は、目紛しく優勝者が変わるこのゲームに於いて異例中の異例。多少その名が轟いている事は、既に自覚済みだ。
 追跡者の声色には少しばかりの嘲りと、それを隠す殺意が込められているが、新は態度を崩さない。

「で?お前も名乗ってくれなきゃ分からないんだけど?」
「ククッ、名乗る必要は無い。僕は───」

 ───君の生涯のライバルになる男だ。

 刹那、両者は背後に跳びながら発砲。
 向かい合った銃口から同時に打ち出された三発の弾丸が、互いの両頬を掠めながら飛んで行く。
 途中悲鳴が聞こえたが、気にしてる場合じゃない。

 着地時に回転してスムーズに起き上がれば、今度はパルクールのように廃工場を縦横無尽に飛び回りながら、ガンマン同士の撃ち合いが始まる。
 戦いの火蓋は、撃鉄と共に撃って落とされた。

Re: Desire Game ( No.5 )
日時: 2022/10/15 11:20
名前: 緋月セト (ID: XcEXsBGd)

 デザイアゲームに於けるプレイヤー同士の戦闘は、廃墟などで行う事が義務付けられている。
 理由は単純、一般人への攻撃は即リタイアになるから。
 つまり、その逆を返せば一般人さえいなければ何でもありと言う事で、プレイヤー一人一人に与えられた異能をフルに発揮する事が出来る。
 要するに、『本気でぶち殺せる』快感を得られるからだ。



「ハハハッ!逃げてばかりじゃあないか!そんな弱腰で、よくデザイアゲームを優勝出来たねェ!?」
「バーカ、ハンデだよハンデ。そうでもしないと、分不相応ってやつだろうが」

 追跡者と交戦を開始してから約五分。
 追跡者の煽りを軽く受け流しながら、新は淡々と撃ち返す。小金井拓人と言うハンデを背負って戦っているにも関わらず、彼は余裕に満ちた笑みを浮かべる。

「随分と当てずっぽうじゃあねェか。下手な鉄砲は数撃ったところで、擦りしないぜ?」

 新は弾丸を空中に投げ、シリンダーに吸い込まれるような曲芸じみた装填を披露し、流水のように澱みない動きで更に二発発砲する。
 当然、追跡者は弾き飛ばそうと発砲。
 発砲のタイミングは新の方が早かったが、奴が使用する弾丸の性質か、速度は同等だった。
 そして、両者の弾丸が重なろうとした瞬間───

 新の弾丸が軌道を変え、二発の内の一発が面食らった追跡者の左手脚をぶち抜いた。

 デザイアゲームでは、参加者特典として一人につき一つ『異能力』が授けられる。
 その能力は人によって異なり、能力の相性が勝敗を分つ時もある。そして、草薙新に与えられた異能は弾丸を操ると言うシンプルな物。
 しかし、これこそが新の最強の武器であり、彼が『魔弾の射手と呼ばれる』所以である。

「人はこの力を『魔弾』と呼ぶ。もっとも、そんな名前を付けたのは俺じゃあねーけどな……だが、それはそれとしてだぜェ〜〜〜〜ッ」

 ゆっくりと近寄りながら撃鉄を起こし、追跡者の眉間に銃口を突き付けて問いかける。
 質問の内容は、つい数分前に起きた出来事の真実だ。

「お前、もう二人の追跡者を殺したな?」

 ぱったりと止んだ足音に、一人しか現れなかった追跡者、奴に疑いの目がいくのは当然だろう。

「言っておくが、俺は不殺を貫く訳じゃあ無いんでな。お前が俺にとって『有害』だと判断した瞬間、否応なく始末させて貰うぜ」

 この台詞は、脅しでも何でもない。事実、引き金にかけた指を少し後ろに引くだけで、宣告した通りいつでも始末出来る状況にある。
 ここで命を捨てるか真実を話すは、相手次第だ。
 やがて追跡者が鎧の様に閉ざしていた口を開こうとした次の瞬間、新は口内に銃口を突っ込んだ。

「うごッ!?」
「そうそう言い忘れてたけどよォ〜〜〜ッ、"俺が"『お前は嘘を付いている』と判断しても鉛玉をぶち込むから、よぉ〜〜〜〜く考えて話せよ?」
「……ッ!」

 流石に、咥えたままでは喋れるものも喋れないだろうから、口から銃口を抜く。
 数回咳き込んだ追跡者は、新ではなく拓人を殺意を隠そうともしない目で睨みつけながら、小さく息を吸って話し始めた。

「……さっきも言った通り、君は僕のライバルだ。お前も含め、僕のライバルに近づく奴は、誰であろうと許されるべきじゃあ無い。だから殺したんだッ」

 この男が殺したのは想定内だったが、想定外の返答に二人は面食らってしまう。
 この男、正気か?
 倫理観がぶっ飛んだ参加者は今までにも何人か見て来たが、ここまで盲信的で執着に満ちた奴に付き纏われていたと考えると悪寒が走る。

 新と追跡者の間に少しばかりの静寂が訪れるが、正義感の強い彼は黙っている事が出来なかった。

「そんな自分勝手な理由で殺したのか……!?何の関係もない人をッ……二人も!?」

 拓人は二人の間に割って入ると、拘束された追跡者の胸ぐらを掴み上げる。
 対する追跡者は、ため息混じりに言った。

「君は黙ってくれないか?僕は新君と話しているんだ、君は及びじゃあない。それに、デザイアゲームはデスゲームだ。弱いから死んだ、それだけだろう」
「この……ッ!」
「落ち着け、キレたら奴の思うツボだ」

 拓人が新の銃を奪って追跡者に向け、新が諫めると彼は舌打ちして引き下がる。
 まだ彼に人を殺させる訳にはいかない。
 正義感が強い者ほど、その場その場の感情で動いてしまい易く、同時にその時の自分の行いに生じるリスクや責任を考える事が出来ない。

 銃を撃つ、ナイフで刺す、鈍器で殴る、崖から突き落とす、車で撥ねる、首を絞め落とす。

 人を殺める手段は幾つもあるし、それらを考えなしに行った者ほど、後悔と自責の念に囚われる。
 しかし、それはそれとして拓人から銃を奪い返した新は、銃口を追跡者の方に向ける。
 この男は危険だ。
 この男は、今ここで始末しなければならない。
 コイツを野放しにすれば、自分と関わりを持った人間は例外なく死に、コイツは倒錯的な思想を広めながらこれからも人を殺し続ける。
 勝てもしないライバルに、敵対心を燃やして。

「お前はここで死ぬ、クランの仲間も道連れにしてな」

 新は冷徹な視線を向け、引き金を引こうとする。
 瞬間、奴の口は歪な三日月を描いた。

「バカだなァ、君は。あの時に僕を殺せば良かったのに」
「……何が言いたい」
「まだ分からないのかい?君は、僕に尋問仕掛けた時点で敗北しているんだよ」
「……?草薙君ッ、危ァァァい!」

 拓人の悲鳴が上がった刹那、凄まじい横殴りの衝撃と共に襲い掛かる発砲音。
 咄嗟の出来事に対応出来ず吹き飛ばされるが、地面に倒れ込むと共に前転して起き上がり、衝撃の走った方向に銃を向ける。
 彼の視線の先には、脇腹から血を流す拓人の姿があった。

「は……?」

 なんで、アイツが撃たれてる?

「君のせいで、また知り合いが一人死んだぞ?はははっ……キヒヒヒッ、クキッ、クキャキャキャキャ!」
「あっ…あぁ……!あぁぁぁあぁぁあああああ!!」

 追跡者はナイフで拘束を解くと、地面に降り立った黒装束の男と共に工事現場を去って行く。
 赤色に染まる工事現場には、一人の青年の悲痛な叫びが響き渡った。


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