ダーク・ファンタジー小説

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幸者
日時: 2022/12/04 08:05
名前: バインダー (ID: SyV4.Cvk)

ごく普通の男子中学生である島崎 健斗が住むのは平和な国『日本』ここでは人々が常に笑い、適度に苦しみ、そしてまた笑う。そんな平和な国に住んでいた健斗は突如自分の背中から何かが生えていることに気づいた。それはごく小さな羽の束だった。研究対象として連行された健斗はそこで同じようなどこか違和感のある者たちと出会い——

Re: 幸者 ( No.1 )
日時: 2022/12/04 09:22
名前: バインダー (ID: SyV4.Cvk)

 思い返せばその日はどこかおかしかった。改札口をくぐるといつもなら人口密度100%を誇る駅のホームがとても静かで驚いたんだった。365日中の1日ぐらいそんな日があってもおかしくないよな。なんてお気楽な考えがあったのをよく覚えている。背中に生えた羽のような何かもちくちくと刺すような痛みから、ずきずきと何かを抉るような痛みに変わっていったような気がする。喧嘩のせいでちょっとの痛みじゃ気づかなかったのかもしれない。でもこんなことになるなんて誰が予想できたのか。羽が俺の背中を突き破って生えてくるだなんて。

 周りが騒がしいおかげで逆に冷静になった頭で考える。なろう系の主人公もまずは現状確認からやっていたはずだ。俺は島崎しまざき 健斗けんと。ごく普通の学校である第四中学に通っている一般的な中学3年男子。普通ではないのは一ヶ月ほど前から生えていた消しゴムぐらいの羽。原因は分からず、2週間経った頃にはこの小さな羽と一生付き合っていくのではないかと思い始めていた。そしてその羽はというとこの前とは何も変わらぬそぶりでいた。その大きさは小学校の算数で先生が使っていたでかい三角定規ぐらいになっていて、それは俺の肌と制服のシャツを突き破っているから、今では誰でも見える状態な訳で。クラスの奴らはそれで騒いでいるらしい。今は掃除中で、机を後ろへ集めて箒で掃いているところだった。
 ふと左前に目を向けると座り込んでいる女子が1人。彼女は鬼久保おにくぼ れいメガネをかけ、成績はいつも上位。部活はよく知らないけど、この前夏休みの課題がめちゃくちゃ評価されていたからきっと美術部だろう。そんなザ・真面目な彼女の周りには青ざめた女子と木と鉄のかけらがあった。鬼久保さんの手は赤黒く染まっていて、爪もクラスのギャルよりも伸びている。
「おい健斗!おま、なんだよそれ!」
「いや俺よりも鬼久保さんさ、やばくね」
「はぁ!?俺からみたらどっちもやべーよ!なんでそんな冷静なんだよ!」
そんなこと言われたって冷静になっちまったもんはどうしようもない。それとうるさい。頭に響いて馬鹿になりそうな音量だった。コイツのせいでおれのIQは今20ぐらい下がった。そうこうしているうちに1人の女子が鬼久保さんに話しかけながら近づいて——
「やめてっ」
鬼久保さんはそれを拒んだ。自分の右手をその女子にばっと突き出して、これが見えないのかと言わんばかりの拒絶っぷりを発揮した。それを受けた女子はしっかり3歩後ずさって小さな声でごめんなさいと言った。そこからは誰もどうしたらいいのか分からずに、10分という長い間教室は朝の駅のように静かだった。掃除はもちろん進むことはなかった。

Re: 幸者 ( No.2 )
日時: 2022/12/25 20:05
名前: バインダー (ID: FD56xM3z)

 10分ほど経った後、いち早く冷静になったかパニックになったかのどちらかはわからないがクラスの誰かが先生を呼んだらしく、そこには腰を抜かした担任の山崎が間抜けにも尻もちをついていた。そいつはこちらを指差して目を見開いて口を開きっぱなしにしていた。
「ばっ……バケモノ…」
やっと声を出したと思ったら化け物かよ。おおよそ教師が生徒に向けて言って良い言葉ではないとは思うが。実際俺の現状はそんなものだろう。いまだに背中の羽はゆらゆら揺れていて俺の意思を完全に無視しているようだった。

 それから俺らは一階の会議室に移され、完全に放置されていた。先生たちもあんな化け物には近寄りたくないというように時々遠くからこちらを見てきた。鬼久保さんはというと、俺の席から5席ほど間隔をあけて、自分の手を組みながらずっと床を見ていた。
「ねぇ鬼久保さん…」
「っ…!な、なんですか……」
「俺らさ、いつまで」
バン!と大きな音がしたと思ったら白いシャツに黒いジャケット、ピチッとした髪の毛に目が見えないぐらいの真っ黒なサングラスをした大男が4人、部屋の中に入ってきた。そして俺の肩をガッと掴んで話しかけてきた。
「君が島崎健斗君だね。担任の先生から話は聞いている。奥の彼女は鬼久保怜さんかな。早速だが、私たちに着いてきてくれるね。言っておくけれど拒否権は死にたがりのすることだと僕は思っている。」
漫画やドラマで見たような姿に、この事件が始まってから嫌に冷静な俺は、国のお偉いさんか何かなのだろうと思った。だからこそ、これから俺は今からこいつらに連行されるということも予想がついた。そうなってしまうのはまっぴらごめんだったが、拒否権がないことをあらかじめ言われていたので、俺も鬼久保さんも男の言う通りに、俯くように頷いた。

 その後大男に挟まれて俺たちは男たちと同じくらい真っ黒な車へと連れて行かれた。話しかけてきた男は俺たちが車の中に入っていったのをみた後、助手席に腰掛けた。
「いやー、それにしても君たちが話のわかる子供でよかったよ。危うく彼らの手を借りてしまうところだったからね。」
サングラスを外しながら男は言った。彼らというのは先ほどの大男たちだろうか。会議室で話した時はしっかりモードだったのか、今はさっきより話し方が軽い気がする。
「そういえば君たちに事情を話さずに来てしまったね。ごめんごめん。僕らは国の研究機関の一つで、君たちみたいな、いわゆる化物バケモノの研究をしてるんだ。ちなみに僕はその研究員のうちの1人でね。主に研究対象と機関の間に挟まって、1日の予定とか対象からの要望とかを伝えるやくわりをしてる人だよ。」ちなみに名前はオクヤマね。と教えてくれた。所々分かりにくいところがあるのは、あまり専門の用語を使わないようにした、彼——オクヤマさんなりの優しさなのかもしれない。いきなりついてこいと言われた時は驚いたが、案外良い人なのかもしれないと思った。


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